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43 闇に潜む魔物共

 薄暗い山道を歩くカレン。先頭は相変わらず無口なマキシムである。

 ルナはカレンの背中で軽い寝息を立てていた。



「あのー。いい加減休みませんか」



 カレンの言葉に、一度は立ち止まるマキシム。

 返事をしなく再び歩き出す。

 その行動に溜息を出すと、カレンもマキシムの背中を追い歩いていく。

 

 日は完全に落ち、ランプを手にしているカレン。

 山道は暗くマキシムとカレンだけがランプを手にしている。風が吹き木々が揺れるたびに不穏な音を立てていた。

 時折野生動物の泣き声に体を止めるマキシムであるが、それでも先に進もうとする。


 あれからも休む事をしないマキシム、山道に設けられた休憩所も既に三箇所通り過ぎている。ルナも途中で眼が覚め、今はカレンの後ろを歩いていた。


 カレンは何度目かの溜息を吐く。

 それもそのはず、三人とも無言であり、重苦しい雰囲気だからだ。

 先頭にいるマキシムが立ち止まった、カレンがその背後から前方を見ると、目玉の無い四本足の魔物が道の真ん中に居た。


 ゾンビドッグ、いわゆる腐った犬である。形状は様々であるが生に固執した動物がなると言われていたり、魔法使いの実験失敗した物を捨てたなど、色々な噂がある。

 解っているのは、その凶暴性。

 耐えず空腹なのか生きている物を食べようと夜に徘徊する魔物である。



「退いてっ!」



 カレンは叫ぶと、腰につけている剣を引き抜く。ゾンビデットはマキシムに牙をみせ襲いかかってきた。

 空中に飛ぶ魔物へカレンは下から切り上げた一撃を放つと、遠くに飛ぶゾンビデット、地面に鈍い音を立て墜落した。



「倒した……っ!」



 背後から呟くルナに直ぐにカレンが大声を上げた。



「まだっ!」



 カレンの言葉通りに、墜落し頭が勝ち割れたリビングドッグは変な音をたてながら起き上がる。頭の部分から変な汁が漏れ出していた。

 カレンの背後でマキシムの嘔吐し始めた。カレンは振り返らずに魔物を見ている。

 最悪な事に、茂みから二匹目、三匹目と現れている。



「参ったな……。倒し方知らないのよね」

「斬るだけじゃダメなんですか」



 そう聴いてくるのは冷静な声のルナである。



「足だけを、いや、頭を切り落とせば……何とかなると思うんだけど……」

「私が囮になります」

「えっ!?」



 カレンが振り向くと、ルナが既に走り出していた。

 ルナ目掛けて、三匹のリビングドッグが襲い掛かる。亀のように地面に頭を伏せるルナ。

 カレンは魔物の群れに向かって走り出した。


 ルナの背負っている鞄に牙を立てるリビングドッグ、頭を振り回し奪いとろうとしていた。直ぐに一匹目の頭を切り落としにかかるカレン。

 襲ってくる他の二体の魔物に力任せの剣をぶつける。胴体が半分になるリビングドッグと、前足が切り取られた物体が出来た。

 カレンは急いで、ルナの肩を揺さぶる。



「だ、大丈夫!?」

「終わりました?」



 頭をあげ笑顔を見せ始めた。



「終わりましたって……、そりゃ終わったけどさ……」

「あれ、何か怒ってます?」



 ルナは不思議そうな顔でカレンを見ている、カレンは息を吐きルナに喋りかけようとすると背後で大きく吐く音が聞こえる。



「怒ると言うか飽きれてるというか、私の以来は二人を守る事なんだけど」

「守られましたね」

「えっ、まぁ……。えーっと、もう一人はっと」



 カレンが振り向くと、マキシムがリビングドッグの残骸を見ては吐いている。

 まだ死んでいなく、頭が無くなった胴体は目的も無く歩いており、頭の方は舌を出して周りの様子を伺っている。

 胴体が半分になった奴も前だけになりながら逃げようとしている、地面には腐敗した体液がこびり付いている。



「えーっと、マキシムさんのほうは大丈夫?」

「なんだあれは……」

「なんだって言われても魔物だけど。見た事ない?」

「あるわけが無いっ!」

「そんなに怒鳴らなくても……」



 一人青い顔をしているマキシム。カレンはルナのほうを振り返ると鞄から飛び出た荷物を整理している。宝石が付いた箱が見えた。



「ルナさん、そっちは大丈夫? 荷物で壊れた物とかは……」

「はい。此方は大丈夫です」

「了解。さて、マキシムさん、本当に大丈夫……?」



 命の危機があった事に震えるマキシム、先ほどまでの威勢はなくなっていた。

 カレンは強制的にマキシムを立たせようとする、しかし腕だけが上がり立つ事はない。



「な、何をするんだっ!」

「何って、此処にいるのは危険だから移動しないと……。ほら」



 カレンは強引にマキシムの腕を引っ張ると自らの背中に背負う。周りを見るとマキシムが持っていた小さい鞄はルナが背負い始めていた。



「少し動くよ、せめて次の休憩場所までは行かないと……」



 文句も言いつつ首元にしがみ付くマキシム。ルナはカレンの後ろからランプを一つ持ちついてきた。

 先ほどとは違い、ルナが話しかけてくる。



「カレンさんって冒険者長いんですか?」

「私、全然よ。ランクもEだし登録も此間したばっかり」

「ええっ、そんなに強そうなのに」

「ほら、私って背がこんなんだし他に仕事がなかったというか……。いまは魔法使いの見習いを」

「仕事ですか……」



 田舎になるほど案外選択肢は少なかったりする、大体の女性は両親の仕事を手伝い、お見合いや交際を経て結婚し、母親になっていく。

 両親が居ない場合は女性で多いのは領主のメイドや飲食店の看板娘など。大きな町になれば体を売る仕事もあるが、カレンの居た町でも、そういう女性は居た。

 体が大きく落ち着きのないカレンは母親の薦めで冒険者になった。


 母親いわく、どこぞに勤めると絶対に口が災いしてヘマをすると、忠告されたからだ。 それからは剣の練習や冒険する最低限知識を教わった。

 カレンが背後を確認すると先ほどの緊張感から、ほっとしたのか背中のマキシムは静かに寝息を立てている。

 昔は母親に背負って貰った事を思い出したカレンは思わず噴出した。



「カレンさん、どうしたんです?」

「いや。私が冒険者になった時に、ママに教わった事を思い出して……」

「気になります。教えてくれませんか?」

「旅で一番注意するのは、暗くなったら寝る、日が昇ったら起きるっ!」

「はい? えーっと……。それだけですか」

「そう」

「ご、豪快なお母様ですね」

「所で、ルナさんは、普段なにを」



 カレンはランタンの光で道を照らしながら、ルナの事が気になりだした。

 カレンよりも小さい背に顔も子顔で可愛い。

 手は白く、剣ダコなんてない、細く白い手だ。

 基本護衛は護衛である、依頼人の素性を確かめたりしたらダメだ。と年季の入った冒険者から教わった事がある。それを知っているが、我慢しきれずに聞いてしまった。



「ルナさんは、ど、どんな仕事を?」

「私はメイドをしてました」

「うわー、可愛いだろうな」



 カレンは思わず口にだした。ルナの頭から足元まで見ると、脳内でメイド服を着せた。

 その姿は愛らしくカレンの顔がにやける。

 ルナは立ち止まり、ローブをスカートのように摘むとゆっくりと微笑む。



「有難うございますお嬢様」

「可愛い……。今回はお休みをもらって?」

「いいえ、実は逃げてきたのです」

「えっ!?」



 思いかげない言葉にカレンは思わず聞き返す。

 ルナは自然と受け流し前方を指差した。



「休憩所ってあれじゃないですか?」

「えっ? ああ、うん」



 休憩所に着くと、マキシムをゆっくりと降ろし、直ぐに火を起すカレン。ルナはその様子をニコニコしながらカレンをみている。

 小麦などを混ぜた粉を水で練った物を金属の棒につけてたき火で焼くカレン。

 焼き目の付いた食べ物が出来ると、ルナとマキシムの分を手渡した。



「はい。えーっと、彼はまだ起きてないみたいだね」

「そうみたいですね。ありがとうございます」



 カレンはソワソワし始める。先ほどの事が気になり何時きこうかと思っていや先にマキシムが起き出した。



「何所だここ……」

「あ。起きた? 第四の休憩所。次の町までは後ひとつを残した所」

「ルナ、行くぞ。おい護衛案内しろ……」

「案内しろ! って言うけど。顔色悪いし、そんなに急いでどうするのよ」

「お前には関係ないっ。そ、それに、あんな魔物がいるとは聞いてないぞっ!」

「そりゃ、私は関係ないけどさ、本来ならさっきみたいな事も置きにくいのよ、休憩所の周りは基本魔物が少ない場所に立てるし、とりあえずはここに居たほうが安全なんだけど。ってか、少しはこっちの事も聞いてほしいというか」



 マキシムが立ち上がろうとすると、体が前のめりになった。今にもたき火に倒れそうで慌ててカレンがその体を止めた。

 顔の赤いマキシム、最初は怒りで赤いのかと思われたが、カレンはヒタイに手を当てると余りの熱さに声を上げる。



「やだっ。熱があるじゃないのっ!」

「いいから行くぞ……」

「行きましょうカレンさん」



 静かにルナが喋りだした。

 

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