40 それぞれのギルド
ロキはナナリーと共に、魔法ギルドへと入った。
カウンターではミナトが羊皮紙に書き仕事をしており、入ってきたロキへ会釈する。
そのまま奥に二人を通すミナト、散らばった部屋の中で綺麗な椅子を見つけるとロキへと座らせるナナリー。
「少しお待ちください」
「急がなくていいよ」
近くの引き出しを開けては閉めを繰り返すナナリー。ミナトがお茶を持って来た。
「あっミナト、良い所に。昨日のアレの書類どこでしだっけ」
「それでしたら、昨夜、お母様がテーブルの上へ」
「あっ、今朝ゴミと一緒に捨ててしまいましたわ……。少々お待ちを」
暫くすると、生臭い羊皮紙をテーブルに出すナナリー。
ロキは書類を確認した、本当の依頼主は伏せられており、依頼主は魔法ギルドになっている。
「貴族であるレインの依頼ですわ」
「……。あっさり依頼主をばらして」
「もちろん、ロキ様だからこそ教えるんですわ」
「それじゃ、箱とは?」
「恐らく、中身は魔王の球かと……」
名前を聴いて思わず天井を見るロキ。
魔王の球、魔王と呼ばれる王が実際にいた訳じゃない。しかし魔物と呼ばれる生物は徘徊しているのは事実。
今では人間と共に暮らしているが、エルフや人狼も昔は魔物と恐れられていた。精霊使いや強靭な体力、人離れした能力などがそれである。
そこに目をつけたのが一部の人間である。魔物の力を人間に取り込めば彼ら以上の力が得られる。そう思い込んだ研究者達は魔物を捕まえては解体し研究をした。そこで集めた魔力を球に封じ込める事に成功した研究者達。
それを使い魔物以上の力を得る事に成功した。かにみえた。
実験には、落とし穴があったのだ。魔王の球を使う事により自我の崩壊、凶暴性など……。実験は中止になり王国は禁止令を発動した、同時に出来た魔王の球も破棄されているはずだった。
現在ではマニアによって高値で売買されている。
「なんでまた、禁止道具を持っているんだ」
「あら、それはわたくしが売ったからですわ」
「……ごめん、聞き取れなかった」
聞こえているはずのロキはもう一度ナナリーへと聴きなおす。
「だから、わたくしの魔法ギルドが売りましたから」
「ああ、そう……」
「ちょっと、ロキ様そんな露骨に溜息を付かないでください。蛇の道は深いのですよロキ様。それにレインも自分で使うつもりは勿論なくコレクターとしての収集でしたので」
「なるほど、これじゃ冒険者ギルドや王国には報告できないし、依頼出来ないわけだ」
「ええ。魔法アイテムも絡んでますし、こっちの方が適任と思ったのでしょう」
説明を受けた後、ロキはナナリーへと質問する。
「逃走ルートは?」
「既にレインが馬車屋を抑えていますわ。徒歩となると恐らく西の山か北の山、どちらかを抜けると思うんですけど」
馬車を押さえられると、徒歩で移動する場所は限られてくる。
北に抜ける山道は、首都方面へ行く道があり急ぎの旅人は山越えをしたりする。
一方西の山は、幾つかの町を越えると海があり。王国から脱出が出来る。どちらも一番の困難は山賊がいる事である。もちろん必ず合うわけではないが冒険者を雇ったりしたり、金品を渡して抜けたりする。
「北かな……」
「なぜですの?」
ナナリーは断言するロキに、不思議そうな顔で質問する。
それはと、前置きして自身の考えを述べる。
「首都に行けば球も買い手がいるだろうし、人混みに紛れるほど見つからない、海から国を脱出する手もあるけど目立ちすぎる」
ロキは断言すると席を立つ。そっと、ローブを手渡すナナリー。直ぐに羽織ると魔法ギルドを出た。
一方遡る事少し前、カレンは冒険者ギルドへと向かっていた。
昨日は南の盆地へ行き指定されたハーブを取る作業であった。小さめのかごに目いっぱい入れて二ゴールド、本来は一ゴールドの仕事であるがフォーゲンがおまけをしてこの値段である。
通いなれた扉を開けると、上部に付けられた鈴が店内に鳴り響く。
フォーゲンは他の人間と話しており、カレンは邪魔に成らない様に、仕事の紙がはってあるボードのへと向かう。
昨日完了したハーブ取りは無くなっており、綺麗な石探しと、女性限定の裸婦画のモデル受付があった。前者が一ゴールド、後者が二十ゴールドである。
溜息を付くカレンは、前者の依頼書をボードから外し、フォーゲンの接客が終わるまで外を眺めていた。
「よう。嬢ちゃん。今日の仕事は決まったか」
急にフォーゲンが話しかけるので驚きながらも返事をするカレン。
「あっ、はい。石探しに行こうかと……」
「なんだ。裸婦画じゃねーのか」
「叩きますよ」
カレンは持っていた杖でフォーゲンを叩いた後に文句を言う。
「馬鹿、もう叩いてるじゃねーか」
「ごめんなさーい」
悪いとも思っていない口調で喋るカレン、フォーゲンに見えないように小さい舌を出している。
「ごほん、所で、嬢ちゃんは腕のほうは立つか?」
自らの腕をペチペチと二回軽く叩くフォーゲン。
「腕ですか。うーん、魔法はまだ初級の初級で、師匠からも人前では使うなと……」
「剣のほうはどうだ」
「剣ですか……。まぁ短剣程度ならそれなりに……」
「よし、ちょっと庭に出てくれ」
「はぁ……」
間抜けは返事をして、フォーゲンの後に付いていくカレン。
冒険者ギルドに隣接している小さな中庭に着くと無造作に放置されている荷車や木箱、武具などが散乱している。
フォーゲンは近くの剣を二本引き抜くと一本をカレンへと手渡してきた。
カレンが剣を持った瞬間に突然襲ってくるフォーゲン。カレンは鉄の剣を握り締めると、慌ててはじき返す。
「ちょ、フォーゲンさんっ!」
「まだまだあああああぁぁぁっ」
カレンの言葉を無視しながらフォーゲンは二撃三撃と体を回転させ真剣を放ってくる。
迫ってくる剣を右と左で交互に打ち返すカレン。
再度迫ってくるフォーゲンの剣を強引に弾き返すと、体を回転させて長い足で手首の部分を蹴り上げる。
衝撃でフォーゲンの手から剣が飛び離れた木箱へと突き刺さった。
「何するんですかっ!」
怒鳴るカレンに、手首をさすり痛い痛いと、いうフォーゲン。
手首をふーふーと息を吹きかけている。
「思った以上に出来るのな……」
「だから、なんなんですかっ、いきなり襲ってきてっ!」
「いやな。護衛の仕事があるんだが、受けるか?」
「えっ?」
フォーゲンは中庭へ続く扉の方を指差す、フードを被った若い男女がこちらを見ていた。
男女は心配そうな顔をカレンにむけ、会釈をする。
フォーゲンがカレンへと話しかけた。
「首都にいる親父さんが危篤らしくてな、今すぐにでも北の山越えをしたいんだそうな。ただ、ほれ、魔物やら山賊などに出くわしても困るから護衛を頼まれてな。前金で三十ゴールド、戻ってきたら追加で四十ゴールドだ」
「いくっ!」
即答するカレンであった。
フォーゲンは手首をさすりながらカレンを真っ直ぐ見つめる。
「所で、嬢ちゃん。もう一つ確認したいが、こっちはどうだ?」
フォーゲンは首の部分親指を立て、腕を真横に引く。
首を切断した事はあるか? と聞いている、もちろんカレンの首ではなく、カレンが首を切った事、即ち人を殺した事はあるか? と聞いているのだ。
「な、ない……です……」
小さな声で喋るカレンに、フォーゲンは頭をポリポリとかき始める。
「だよなー。ここ最近は平和だからなぁ」
「あのっ。ダメなんでしょうか?」
「魔物はやった事あるんだよな?」
「ええ。魔物なら」
「いやな。護衛の任務はピンきりで出来れば、そっち方面の奴のほうが好まれるのよ。わかるだろ?」
護衛中に人間や魔物に襲われて、護衛が人を殺すのに躊躇したら成功する依頼も失敗する。
だからと言って、人を切る仕事なぞ基本ない。なので年々でる新しい冒険者は魔物しか退治した事のない冒険者が多くなってきている。
依頼するほうも万が一を考えて熟練者のほうがいい。
新人と熟練者それだけで依頼金額が十倍近く変わったりもするのだ。
それほど魔物を切ると人を切る。似ているようで間には大きな壁があった。
「出発できるなら俺達はソレでいいです」
若い男性の声で振り向くと、今の練習を見ていた依頼人、それも若い男のほうがカレンを指差してきた。
フォーゲンは念のために、万が一の説明を始めようとする。手で制すと話し出した。
「どうせ、まってもB級の冒険者は居ないんだったら、ソレでいいです。どの道誰も居なかったら二人だけでも越える気でしたし」
「そ、そうか。わかった。というわけだ嬢ちゃん。後はたのまぁ」
「はいっ!」




