表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/82

04 氷の大蛇が居なくなった氷結湖

 冒険者ギルドから借りた荷車、本来は大人二人で、もしくは牛や馬などで引く大きな物であるが、今はカレン一人で動かしている。

 

 フォーゲンが提案した仕事、「地底湖から千年氷を取ってこい」との事であった。千年氷は溶けにくく、小さくする事により各家庭に売られる。売られた氷はどうするかというと砕いても良し、食べてもよし、箱に入れることで冷蔵庫としても使える万能氷だ。

 

 中央噴水広場を抜け、東の住宅エリアを通る。ガラガラガラと音の鳴る荷車、カレンは一度振り返り確認した。

 左右に二つ大きな車輪がついており、荷台の上には氷を粉砕するツルハシが数本、荷台に積んだ氷を縛る為の対令の布にロープである。

 その後ろを歩くロキと目線があった。



「なに、疲れた?」

「いえ、これぐらいで疲れはしないんですけど、先ほどから注目を浴びていると言うか……」

「そりゃまぁ、一人で動かしているからね」



 実は先ほどロキが動かそうとしたが、僅か数歩歩いて力尽きた、荷車が重すぎたのだ。腹を抱えて笑うフォーゲン。「直ぐに馬の手配をしてくる」と、言ったフォーゲンを手で断るカレン。

 二人の見ている前で軽々と荷車を動かし始めたのだ。あっけに取られる二人に「思ったよりも軽いですね」と、喋るカレン。そしてそのまま動き出したのだ。


 女性一人で動かして居るので、道行く人々がカレンに注目する。それが少し気恥ずかしいのかソワソワする。カレンがほっと息を付いたのか東門を抜け山道に入ってからだった。



「なんか恥ずかしいですね」

「帰りはもっとだよ……。氷積んで行くんだからね」

「うう。今から気が重いというか。まっ、帰りの事は帰りに考えましょうっ!」



 ロキ達は山道を登り、二股に分かれた場所を左に向かう。「さっきは右でしたね」と喋るカレンに適当に相槌をうち地底湖の道へと進む。

 鉄の柵で囲まれた場所が見える、その奥にはかなり大きな出入り口を持った洞窟が見えた。奥のほうは暗く、その先までは日の光が届かなかった。


 ロキは腰から鍵を取り出すと錠を外し、次に荷車についていたランタンに火をつける。

 その光景をみて、口を開きかけたカレンは、黙りランタンを見つめている。



「ふむ。カレンの思っている事を当てようか」

「わかるんですか、師匠」

「ランタンの火に、魔法をって事じゃないかな?」

「すごっ。良くわかりましたね」 

「一番は面倒」

「なんていうか魔法使いとして堕落してません?」



 ロキは相変わらず苦笑すると「堕落で結構」と喋り先に歩く、「それじゃ、魔法使いって意味無いじゃないですか」と小さな声で喋るカレン。ロキは後ろを振り替えずに先に歩く。


 徐々に暗くなると洞窟内がランプで明るくなる。

 空気が変わっていきカレンの吐く息が白くなってきた。洞窟内も周りの壁が薄っすらと凍っていた。



「師匠っ! 寒いです……」

「そりゃ、千年氷のある地底湖だからね。暑かったら困る」

「そんな理屈を聞いてるんじゃないですけどー」



 文句を言いつつ冒険者のローブを胸元をきっちと締め始める。それでも寒いのか少し震えている。



「そんなに寒いかな……」

「寒いですよっ!」



 ロキは立ち止まると、ランタンをカレンに手渡す、荷車の後ろに積んである袋から一枚の毛皮を引っ張り出す。人間用ではなく馬用であるがロキは黙ってカレンに手渡した。



「はいこれ」

「えっ」

「もふもふですね」

「そりゃ毛皮だからね、防寒対策で積んであるんだ」

「え、師匠の分ないですけど」



 カレンは鼻水を出しながら質問する。「元から一着しかないし、僕は寒くないからね」と伝えると、カレンはロキに抱きつく。身長さがありロキの顔がカレンの胸部分に当り慌てて飛びのく。



「抱きつかない事……」

「ご、ごめんなさい、つい嬉しくて、でも師匠ちょっと顔赤いですね」

「君はもう少し貞操概念を勉強したほうがいい……」

「ごめんなさいー」



 ロキはさっさと前を向く、カレンは謝りながらも軽く舌を出していた。

 洞窟内は暗いはずなのに段々と、明るくなっていく。キョロキョロと辺りを見回し不思議に思うカレン。 



「もう直ぐつくよ。もうランプは要らないかな」

「師匠、明るくなるのは、なんでなんですか」

「それも、直ぐにわかるよ」



 ロキの言葉の通り、直ぐにわかる事になったカレン。

 突然開けた場所に出ると、大きな湖が広がる。千年氷と言われるだけあれ全てが凍っている。天井から小さな光が差し込んでおり、あちこちの氷に反射して洞窟内は昼間のように明るい。



「すごい……」



 カレンは、その光景を見て感動の言葉を口に出す。ロキは、カレンを邪魔する事もなく、黙ってその背中を見ている。

   


「師匠凄いです。一面が氷ですっ」

「氷結湖だからね。手前には凍っていない水汲み場もあるから、僕の家の飲料は基本此処から」

「師匠、師匠っ。今は春だし、この辺は雪も降らないのになんで氷があるんですかっ」



 ロキの両肩を掴み前後に揺らしながら説明を求めるカレンに、ロキは両手を上げて降参する。「説明するから」と、カレンから離れた。

 積んできたツルハシで、近くの湖の氷を砕いていく。カレンも、それに習うと自らもツルハシを振っていく。


 

「此処には昔、年老いた、氷の大蛇がいてね。この湖を凍らせて居たんだ。その効果は残っていて、ちょっと特殊な氷なんだ。まず第一に氷には魔力が含まれ溶けにくい」

「第二、第三はなんなんですか」

「特に無い」

「ああ、そうですか……」

 


 ロキの寒い、ボケを聞きつつツルハシを一度置くカレン。白く凍った湖全体を眺める。



「へぇ……その魔物って、大きかったんです?」

「そうだね。天井に届くぐらいは」



 カレンは天井を見上げる。大人が縦に十人は居ないと、手が届かなさそうな天井。白い息を出しながら、此処に居たと言われる氷の大蛇を思い浮かべた。討伐するといってもかなりの人数は居るだろうし洞窟内での大型戦闘は落盤などの危険をともなう。

 


「で、その大蛇は何処に行ったんです、寿命ですか?」

「何処に……か。僕が殺したよ」



 短く言うロキ。氷を採掘する手は止まっておらす、次々に大きめの塊を作っていた。カレンはロキの言葉が冗談に聞こえたが、ロキの横顔を見て背筋が寒くなる。

 冗談ですよね。その言葉が出なく、次にかける言葉も中々でないカレン。

 鼻の裏がむずむずしたのだろう。大きく口を開くと――。



「クッシュンっ」



 洞窟内に反響するカレンのクシャミ。ロキも驚いてカレンを見ると、寒いのだろう少し震えていた。着ている毛皮をさらに羽織ると、布を取り出しチーン、と鼻をかみ始める。

 


「師匠、風邪ひきそうです」

「っと。急ごう。カレン、僕が砕いた氷を適当に乗せて荷車に縛って」

「クッシュン。はーい……」

 


 二人は急いで氷を詰め込むと最後に耐熱の布を被せて紐で結ぶ。終わる頃にはカレンの身長よりも高い氷が荷車の上に載っていた。

 ロキは途中で止めるも、カレンがどんどん積み込みこの大きさになったのだ。大の大人でも、三人は居ないと運べないような氷を積んだ荷車を、カレンは気合を入れて運び出した。



 洞窟を出る頃には気温も高くなっており、カレンは着ていた毛皮を豪快に脱ぐ。荷車に積んである布とロープの間にねじ込むと、隣で歩いているロキに尋ねる。



「所で師匠。師匠って氷の魔法はえいしょうてるんですよね、それなのに何で氷運ぶんですか」

「ああ、それね……。別にまぁ、実戦で見たほうが早いか」



 ロキは、一言呟くと右手の先から氷で出来た蛇を空中に作り出す、直ぐに形を変え一本のツララになった。

 始めてみるロキの魔法に持っていた荷車を手放し拍手する。



「はい、どうぞ」

「えーと、どうすれば?」

「その氷を食べれる?」

「やですよ。良くわからない所から出た氷なんて……。あっ」

「そういうこと、魔法で氷や水を作ってもいいけど使う人は居ないって事、さて役目は終えたからその氷は消しちゃおう」



 カレンの手の中で細かくなり消えていく氷のツララ。「もったいない……」と呟くろロキに催促する。

 


「師匠。直ぐ消えても良いですから、先ほどの私に氷をぶつけて下さい。暑いですっ」

「面倒、そして、僕は暑くない。これも修行だと思って我慢」

「いーやーでーすー」

 


 カレンは文句を言いながらも荷車を運ぶ。ロキは可哀想と思ったのか結局荷台に積んである千年氷を少し砕くと口の中へ入れる事を許可した。

 その冷たさを堪能しながらカレンは荷車を動かしていく。帰り道は下りなので、より一層気を付けながらギルドに戻った。気付けば日が落ちかけている。

 採掘してきた氷の量をみて、あんぐりと口を開けるフォーゲン。気を取り直して二人に向き合う。



「此処までとはな……。ゆうに四回分の量だ。っと、こっちも報告をしないとな。年式は古いが郊外に一件の家がある、それぐらいが手一杯だ。せめてあと数日あればなぁ」

「いや。ありがとう。フォーゲン」

「なに。ああ、あとこれ」


 

 二枚のカードをロキとカレンに手渡す。ロキはそのカードを見て難色を示した。銀色に輝く手の平サイズのカードにはロキの名前が彫られてある。一方カレンの手には色のが茶色のカードを手渡した。



「師匠、これって……」

「冒険者カードだね」

「なんだ知っていたのか。冒険者ギルドが発行する。正式なギルドカード、嬢ちゃんはランクF。こいつはランクA」



 ロキを親指で差し喋るフォーゲン。冒険者ギルドの役割や特典を説明していく。

 このカードを見せる事によって高ランクの依頼が受ける事が出きる。他にも特典として、ランクが上がるほど冒険者グッズが安く買える、他の町にいった時にも証明に使えるなど、色々特典を言い出した。



「一応、私両親がギルト関係者なので、Eランクの既に持ってます」

「僕も今更説明されなくても、知ってるし」



 二人の反応に、テンションがガタ落ちするフォーゲン。しかも、良い所だけを紹介するだけで悪い場所は言わない。

 特典を受けるには冒険者のカードが必要、その冒険者のカード登録をするのにはランクによってお金が掛かる。Aランクの再発行は六百ゴールド。Eランクの初回だけでも二十ゴールドは下らない。しかも、一年に一回は更新しないと剥奪され特典は受けれなくなる。こうして冒険者ギルドは成り立っている分もあった。



「なんだ、つまらん。ほれ、頼まれたいた荷物」



 ロキは出発前にフォーゲンに、ロキの家から新しい家へと必要な荷物を運んでくれと頼んでおいた。

 白い布に巻かれた杖をロキに手渡した。ロキは、そのままカレンへと手渡す。 



「はい?」

「昼間言っていた、贈呈用の杖。僕から君にって事」

「師匠、嬉しいですっ!」

「そんな嬉しそうな嬢ちゃんに俺からも、ほれ地図だ」



 フォーゲンもカレンへと新居までの道を書いた地図を手渡した。

 カレンは大きくフォーゲンへ礼をする、ロキは片腕を上げて挨拶するとその場を離れた。

 背後では、ギルド関係者だろう、カレンの持って来た千年氷を急いで運んでいる姿があった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ