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39 仕事を請け負います

 小麦粉を水で溶かし、耳たぶぐらいに柔らかくなった生地を丸めてはロキに手渡すカレン。ロキは手渡された生地を鉄板の上へ載せると次から次にカマドへと入れては焼いている。その光景を見てカレンが褒め称えた。

 


「師匠。成れたもんですねー」

「もう六日目だからね……」

「店出せますよっ!」



 カレンの自信たっぷりの言葉にカマドに入れる手が止まる。

 振り向くと頭に布を巻いたカレンの眼が輝いているように見えた。

 


「君、パン職人の前でそれいわないように」

「それぐらい、わかってますよっ。お世辞ですもん」

「ならいい。ともあれ、褒めてくれた事には変わりは無い、夜の分も焼くからどんどん持ってきてくれっ」

「はーいっ」




 仕事も無ければ無収入である。

 いくら冒険者レベルが高くても、いくら強くても、美人でもイケメンでも金が無ければ物は買えない。

 ギルドに立ち寄ってから一週間近く、今後の事を考えて今は節約料理を作っている所である。

 食堂から一人のエルフが入ってきた。

 もちろん、ナナリーである。

 顔が隠れているにも関わらず、器用に歩くと近くの調理台の上に紙袋を置く、紙袋の中身は、干し肉や小麦粉などが入っていた。



「はいはい、ロキ様ー、おはようございます」



 あの日、ロキ達の食料が無くなるのは、もっても後半月だろうと予測したミナト。帰って来た母親事ナナリーへ早速相談をした。

 事情を知ったナナリーは直ぐに商店へと向かい保存食を買うとロキ達が住む屋敷へと向かう。

 最初は、これ以上世話になる訳には行かないと突っぱねていたロキであったが、カレンのお腹が突然鳴った。

 いくらロキ様が我慢してもカレンさんが可哀想ですわっ! と、怒られたロキ。結局は暫くはナナリーが通い、食料を持ってくると約束して帰っていった。

 

 二人っきりになった後、カレンがロキへと謝る。ロキは静かに首を振り、食料は無くなるの眼に見えて居たし、謝るのは僕のほうだと、頭を下げた。

 二人で謝りあい、自然に笑い合う。それが六日前の夜だった。

 

 

「食材を持ってきましたわよ」

「ごめん」

「別に、ロキ様が謝らなくてもいいですわ。わたくしが好きでやっている事なので、それにロキ様の手料理を食べれる日が来るとは……」

「焼いてるだけだけどね。味付けは任せて貰えない」

「そりゃそうですよ、師匠に任せたら『健康に良い』って言うだけで苦い物が出てくるに決まってますっ」

「それは、困りますわね……。さて、わたくしも手伝いますわ。カレンさん指示をお願いします」


 ナナリーが持参したエプロンを身に着けるとカレンへ向き直る。

 直ぐに品数が増えていった。


 暫くすると食堂に並べられる、野菜スープに、パンもどきと、生野菜のサラダ。それにナナリーが作った特製ソースが掛かったミニハンバーグである。

 三人で食事を取り終えると、カレンは洗い物をしに全員の食器を持って外にでた。

 口元のついているソースをハンカチで拭うをナナリーがロキに小さく尋ねる。



「さて。ロキ様、一つ仕事が入りましたけど」

「カレンが居ない時に話すって事は……」

「ええ。裏です、屋敷から逃げた数名の人間、その人間が持っていた箱の回収だそうですわ、普段は厄介な依頼は断るか、ミナトに任せるんですけど」

「いや、僕が行こう……。ちがうな」


 

 咳払いをするとロキはナナリーに言い直す。



「行かせてくれないか。こう毎日世話をされるのも心情的に辛い」

「あら。そこは良いですのに、何時までも世話しますわよ。いっその事結婚しましょうかっ」

「冗談は――」



 ロキは頭を振ってナナリーのほうを向く。

 ナナリーは何時もの笑顔ではなく真剣な目でロキを見ていた、ロキは『冗談はよしてくれ』という言葉を途中で飲み込んだ。

 代わりに別な返事を口に出す。



「好意は嬉しい。しかし……」

「ふぅ……。いいですわ、ロキ様がわたくし達を大事にさえ思っていれば、その代わりカレンさんの事を宜しくお願いしますわよ」

「ちょっとまてっ! 何でココでカレンの名前が出てくるんだっ!」

「あらそうでしょう。以前はマリオン、次はカレンさんがいるから、わたくしは振られたと思いますけど」

「ち、ちがうっ」



 ロキが慌てて立ち上がると、裏庭からカレンが戻ってきた。



「もっどりましたーって、師匠何が違うんですか?」

「え、いや。その」



 カレンは、ロキを見た後にナナリーのほうをみる。



「わたくしが、求婚を申し込んだのですか振られましたのですよ」

「ええっ! ナナリーさんこんなに可愛いのにっ。師匠振ったんですかっ!?」

「あのね。僕は人を外見で判断――」

「と、いう事はわたくしの中身が腹黒いから断りになったと」

「い、いや。ナナリー別に僕はそうは言ってなくて」

「うわー。師匠ひどっ」

「ちょっとまて。この際だから言っておくけど。僕はっ……」



 ロキは、言葉を呑む。二人の女性の目がキラキラと光っているように見えるからだ。



「不毛だ、辞めよう。食べたら訓練。僕からはそれ以上話す事はないっ!」



 きっぱりと言い切ると、黙々と食べ始める。

 カレン、ナナリーは顔を見合わせ小さく笑うと食事を食べ始めた。


 朝食後、午前の魔法練習を見学するナナリー。

 杖を持ったカレンは魔法球を作り出す。

 対するロキはカレンの正面に回ると、自らも魔法球を作り出す。

 ロキの作り出す魔法球は、青白い光を出していた。



「じゃぁ、カレン。魔法球に闇を入れて」

「うう、闇、闇いれわれると私が悪い事してるみたいな……」

「いいから早くイメージをっ!」

「は、はいっ!」



 ロキに叱られ、直ぐに瞳を閉じるカレン。

 光の魔法球が、中心から黒く染まっていく。少し離れた場所で見ていたナナリーが少しだけ身震いをした。

 再び眼をあけると、その場所だけ黒い魔法があらわれた。


 魔法球と違い、同じ球であるが今回は完全な魔法。



「よし、そのままを維持。体の調子は?」

「若干目眩というか、力が無くなりそうです……」

「魔力の消費が激しいんだろう。僕の魔法で消す、カレンはそのままで」



 ロキは素早く魔法を放つ、ロキの魔法球が一瞬で膨れ上がりカレンほどのある青白い氷の蛇へと変化した。蛇はカレンの魔法球を一口で飲み込むとその体を小さくし始め最後には消えて行った。


 全てが終わり、カレンは尻餅を付く。



「ふー……、師匠。なんですかアレ、すごい怖かったんですけど」

「ちょっとしたパフォーマンス。カレンの魔法を一撃で消すには生半可な魔法じゃ危ないと思ってね。立てる?」

「立てますけど、そのお腹が減ったんですけど……」



 尻餅を付いたまま、カレンは自らのお腹を押さえ込む。



「ああ、そう。魔力の消費が激しいのかな……。よしわかった、どうせ他の属性の魔法は出来ないんだし今日は終わりにしよう」

「あの、さり気なく酷い事いってません?」



 ロキも最近はカレンに対して適当に話す事が多くなってきている。



「事実しか言ってないけど。ナナリーを送る序に魔法ギルドの依頼を受けてくるから、午後は自由。あと」

「はーい。師匠の居ない所で魔法は禁止って約束ですよね」

「わかっているならいい。じゃぁ、僕達は出かけるから」




 答えに成っていない答えを言うロキに、おつかれさまと、とタオルを持っていくナナリー。ロキはタオルを手に取ると汗を拭う。

 ロキがナナリーを連れて庭から出ようとすると、大声で叫ぶカレン。



「師匠っ!」



 ロキとナナリーは振り返りカレンを見る。

 


「何?」

「私も冒険者ギルドのほうに行きたいんですけど……」



 簡単に言うと、カレンも仕事をして稼ぎたいという意志の現れである。

 ロキとしては、弟子に仕事をさせるわけにも行かないと思ったが、現状で家計は火の車になりそうである。

 昨日もフォーゲンに無理を言って低ランクの冒険者が行う依頼。薬草集めをロキ自らした所である。



「そうだね……。フォーゲンの事だから変な仕事はないと思うけど、うん。頼んだ、無理はしないように」



 ビシっと手を頭に当てて敬礼をするカレンに、苦笑するロキと、笑顔で手を振るナナリー。

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