38 仕事が無いっ
メニュー一覧を見て悩むカレン。
二人とも今は飲食店の中である。好きなのを頼んで良いよと言われたカレンは、先ほどから唸っている。
ロキは既に頼むのを決まっているらしく、手元にあるメニュー一覧を閉じて水を飲んでいる。
ちらちらとロキを見るカレン。何事かと思いロキは、何? と、尋ねた。
「えーと、決まらないなら複数頼んでもいいよ」
「あっ、そうですね。その手がありました」
手を挙げ、ウエイトレスを呼ぶカレン。メニューを見せると、上から下までを頼み込む。
その光景に思わず飲んでいた水を噴出しむせるロキ。
「あ、師匠。大丈夫ですか? 一気に飲むだなんて。子供みたいに」
「き、君ね……。それよりも」
「あ、もしかしてお金ですか。大丈夫です、此間の残りがまだ残ってますので食べる分ぐらいは自分で払いますし、師匠の分も出せますよ」
カレンはポーチから皮袋をテーブルに出すと、ジャラジャラと音がなる。
ロキは出された皮袋を手で押し返す。
「弟子に奢られるほど貧乏ではないよ……。僕はこの冷麺を一つ」
「えーっ、師匠それだけですかっ」
「元々少食だからね……」
「最近お腹がよく減るんですよねー……。成長期なんでしょうか」
ロキはカレンの頭からテーブルに隠れた足元までを眺める。これ以上成長したら天井まで届くんじゃと、呟くと水を飲む。
幸いカレンはウエイトレスに注文をしているので聞いていない。
「頼み終わりました。で、師匠結局どうするんです」
「したくないけど仕事だろうね」
テーブルに手を組んで溜息を出すロキ。カレンは提案の一つとして解決案をだす。
「何処かから借りるとかは、どうなんです」
「出来なくはないが、余りしたくないなぁ。借りる場所にもよるけど、借りた金額の三倍から五倍返す事になる」
ロキは、続けて借りる場所を説明した。
王国、魔法ギルド、冒険者ギルド、それぞれ。ロキほどの人物ならお金は借りれる事は出来ると断言するが、毎月の金利だけでも大変である。
「高いですね……」
「さて、料理が来たみたいだし取りあえず食べようか、帰りにギルドで仕事でも探そう」
「はいっ」
冷麺と、暖かいパスタを皮切りに様々な料理がテーブルに並んでいく。
カレンは黙々と食べ始める、消して早食いではないが止まる事なく手や口を動かし出てくる料理を胃の中へ納めていく。
時には、その手をロキ口元へもっていき、師匠これどうぞと、いっては料理を勧めていく。
口元に食べさせられるように出されたパン。
一瞬ちゅうちょするロキは、パンを手で受け取ると、口に運んで行く。
かなりの時間店に居た二人、あまりに良い食べっぷりだと、店主がお土産まで渡してくれた。
「しかし……。よく食べきったね」
「自分でもびっくりです」
「さて。此処からだと冒険者ギルドのほうが近いかな……」
二人は冒険者ギルドに顔をだす。暇そうな顔のギルドマスター、フォーゲンがカウンターに肘を立てて挨拶をしてきた。
「よう。ご両人」
「単刀直入だけど仕事を探しに」
「あー……。今はねえ」
フォーゲンが欠伸をしながら返事をすると、カレンが大声を上げる。
「ないって。此間まで買い出しや道案内、探し物などあったじゃないっ!」
「そりゃあある。しかし、おめえさん方の探している仕事ってのは大口だろ? こちらとしてもランクAの冒険者に道案内を斡旋するわけにはいかねえし、精々二ゴールドだぞ、いや、そこまで困っているなら紹介するが、パン二個買ったらおわるぞ?」
カレンは押し黙る。先ほどの食事でさえ十ゴールドであった。時間の割りに金額が合わない仕事であるし、たしかにロキとカレン。一日がんばっても精々いけても八ゴールド、しかも沢山あるわけではない。
カレンが唸っている間に、ロキはフォーゲンに尋ねる。
「魔物退治とかは?」
「この付近は、どっかの魔法使いが活躍下お掛けで安全だからなぁ」
「悪かったね」
「冗談だ。実際いまは紹介できる仕事はねえ。氷もこないだの分がまだ残っているし……」
「わかった。何か見入りが良い仕事があったら連絡をしてくれ、さて、カレンいくよ」
「はーい」
二人は次に魔法ギルドまで歩く。
ナナリーは仕事に出ているらしく今はおらず、ミナトに挨拶をする二人。
「やぁ、居ない間に家の管理とかありがとう」
「気にしません。それよりナディさんの事も聞きました。少し寂しいですね」
ミナトは。笑みを浮かべた後に悲しい顔に切り替えた。
ロキも悲しげな顔をして答える。
「ああ、でも。彼ならきっと克服すると思うよ」
「魔法使いとしての確信ですか?」
「いや。魔法使いとしての観測的希望って所、所で何か仕事ないかな」
「仕事ですか……。そうですね、魔法使いのいる仕事は今の所ないですかね……。あ、そうだ。預かっていた杖の修理が終わりましたのでお返ししますね」
ミナトは席を立つと、奥の部屋へ消えていく。直ぐに布に包まった杖を持ってくるとロキへ手渡した。ロキは直ぐにカレンへと手渡す。
「お金にお困りでしたら、個人的にお貸ししましょうか? 魔法ギルドを通すと金利も高いでしょうし。母もそうするでしょう」
「いや。まだ其処までは困ってないんだけど……。宅配サービスが止まっちゃって」
「なるほど、先月から物価があがってますし。わかりました、何か仕事があれば直ぐにお知らせしましょう。しばしお待ちを」
ミナトは、置くから袋に入った野菜を持ってくる。余りですからと、言うと一人では持ちきれない量の食材をロキに手渡す。
懸命に断るロキであるが、矛先をカレンに変えると食料を押し付けた。
カレンはロキに助けを求めるが、ロキは苦笑した。
最終的にはお礼を言ってカレンの両腕に持ちきれないほどの食料を譲って貰った。




