37 食料が無いっ!
朝の鐘が鳴るとカレンは、薄っすらと目を明ける。
外は既に明るくなってきており部屋の中を照らしていた。
「ああ。昨夜は師匠と一緒に外食したんだっけ……」
カレンはロキと一緒に、さほど高級ではない酒場で色々食べた。ロキが出すと聞いて財布の心配をするわけじゃないから食べた、非常に食べた。
欠伸をしながらベッドから出ると、着ている寝巻きを脱ぎ、普段着へと着替える。
程よくお腹が減っているカレンは、お腹を押さえて起き上がる。
「さてとっとっ! 美味しい物を作らなきゃっ!」
一声出して気合を入れるカレン。
屋敷は冒険者ギルドからの宅配サービスを使っており、夜のうちに、外にある木箱食料品が配達されている。
値段は少し高いが、屋敷に初めて来た時にロキが頼んでいたし、カレンも確認していた。直ぐに、音を立てないように扉を開け部屋からでると真っ直ぐに厨房へ向かった。
さすがに昨日は宅配されていないが、昨夜のうちにギルドに声をかけておいた。今日も新鮮な食材が配達っされているはずである。
部屋を出て直ぐに食堂、さらに奥にある厨房へと向かう、そのまま裏口へと一歩外でると、少し霧のかかった朝が気持ちいい。
つい一ヶ月前はナディと此処で会話をしたなと、物思いにふける。
頭を左右に揺らすと気持ちを切り替えて、箱の前へと仁王立ちになった。
既にカレンの頭の中には朝食の献立が出来上がりつつある。
勢いをつけてあけたカレンの手が止まった。思わず沈黙する、中身が空っぽなのだ。
「えーっと……」
一度、木のフタを閉じてもう一度開けるカレン。しかし先ほどと代わらず中身が無いのだ。
野犬や低級な魔物、それこそ前回みた一角ネズミなどの被害も考えカレンは箱の周りをくまなく調べる。
何所も異常は無く立派な箱だ。
念のため持ち上げても確認する。底の部分には氷を入れる空洞があり、以前カレンとロキが取ってきた氷を入れる場所が付いていた。しかし、その他には穴は一切開いていなく頑丈な箱のままであった。
「はぁ、朝から何をしてるの……」
欠伸をしながらロキがカレンへと声をかける、ロキから見るとカレンが食料箱を手に持ち三百六十度から見ている不思議な光景だったからだ。
ロキのほうは、手には何時もの飲み物が握られており、グイっと一気に飲み干す。
「あ、師匠、おはようございます」
「おはよう。で。箱を振り回して何か見つかった?」
「何も……。そうなんですっ、師匠っ! 食材が一個も入ってませんっ!」
そんな事はないでしょ。前にギルドに頼んだんだからと、言うロキはカレンが置いた箱の中身を見る。やはり、ロキが見ても空の物は空である。
「ないね」
「そうなんです。朝食どうしましょう……」
「配達忘れか……。取りあえず、何か適当な物ないかな」
「調べてみますー」
カレンは厨房の棚を順番に探す。出てくるのは、ロキが使った香辛料と葉っぱだけ。
それでもなおカレンは引き出しを開けていく。疲れたのだろう、近くにある丸椅子に座るとロキのほうを見た。
「師匠……。何にもありません……」
腕を組んで、考え込む形から目を開けたロキ。
「うーん。ギルドが連絡ミスってのも考えにくいし。可能性としては……」
「可能性としは?」
カレンが、ロキの言葉をなぞり喋る。
ロキはというと、手を拍手のように一回だけ叩くと大きな声カレンへと答えた。
「お金不足だ」
「はい?」
カレンの問いに頷き返事を返すロキ。
「アレ、実は月額制でね。よくよく考えたら帰ってきて頼んだけど、更新するお金まで払ってない。朝食の後に詳しく話そう」
「だから、その朝食が作る材料がないんですってばっ!」
カレンが怒鳴り声を出すと、何処からか低音の音が聞こえた。二人はその音の場所を見る。
ロキはカレンのお腹を、カレンも自身のお腹を見ている。
力が抜けたように、その場に座り込むカレン、膝を抱え込むと顔を隠す。
その小さな隙間からは、お腹が減ったよー、お腹が減ったよーと、恨めしそうに喋りだす。
「とは、いってもなぁ。健康ドリングしかないけど、飲む?」
ロキの提案に、鬼のような顔で睨みつける。
「いりませんっ! 師匠。普通な物が食べたいですっ!」
あまりの気迫に、ロキが一歩さがる。
「わ、わかったから。町で何か食べよう」
「お金がないのにですかっ」
「君ね……。そこまで無いわけじゃないし。餓死されても困る。昨夜の場所は夜しか開いてないから。まぁいいか適当に外に出よう」
ロキはカレンを立たせた。用意しておきなさいと、言い残し自室へと向かっていった。
「美味しい物が食べれるっ!」
カレンは立ち上がり、自室へと急いで走っていった。
直ぐに外出用の厚めのズボンを履き替える、腰にはポーチ付きのベルトをして中身を確認した。
ハンカチと、幾つかのお金。後は短剣をさして部屋の中を見回す。練習用の魔法の杖も手にもつと急いでロビーへと向かった。
ロビーにはロキが待っており、夏が近いというのに厚いローブを着込んでいる。
「暑くないんですか?」
「動き回らなければ普通だよ」
「じゃぁ、師匠っ! 早く行きましょうっ、お腹ぺこぺこですっ」
「はいはい」
二人で屋敷を出て町へと向かう。小走り気味なカレンであるが、ロキが普通に歩くので二人の間が広がっていく。立ち止まると、ロキが来るのをまってからカレンが話しかけた。
「所で師匠。何でそんなにお金が無いんですか?」
今度は逆にロキの肩ががっくりと落ちた。
「ストレートに聞いてくるね君。まぁいいや、カレンの持ち味としよう。僕は元々自給自足に近い形で生活をしていて、多少の蓄えはあったけど屋敷を借りたし。昨日までの旅費はナナリー持ちだったからね」
「えっ! それじゃ、これからどうやって生活するんですかっ。って、言いましたけど、普通に考えたら働くんですよね」
さも当然の事を言うカレン。ロキは露骨に嫌な顔をする。
「出来れば働きたくない」
しっかりと聞き取れる声でロキは発言すると、カレンが大きな声を上げた。
「うわ、酷くないですか」
カレンの言葉に、ロキはいい訳を始める。
「いや、まず聞いてほしい。働きたくないと言っても自給自足で働く分には苦じゃないんだ。どうせ僕一人だけだし。ただ、なんというかだ。そう、魔法使いはそもそも汗水たらして働くような職じゃないんだよっ! 自然界の魔力を調べたりしてだね。そこっ、白い目で師を見ない事」
「はいはい、でも、師匠? 私が弟子になるのに、国からお金が出たんじゃないんですか?」
ロキがカレンを育成するに居たって国から支給されるお金である。
「それね。僕も充てにしてたんだ。直ぐにギルドを通して請求したさ、所がだ。金貨三千ゴールド分の報酬は、四年後。君が宮廷魔術師になったら支払うと返事が返ってきたよ」
「うわ……。えげつないですね。それに宮廷魔術師には成りたくないんですけど。普通の魔法使いにさえ成れれば……。そして魔法を使って世界を旅し、困っている人を助けながら自由に暮らすんですっ」
究極の理想を熱心に熱弁する。
ロキが横から注意をし始めた。
「君、ギルド出身よね。世の中そう旨く行くと思うかい?」
「うっ。嫌な現実を……」
「そもそも、闇魔法でさえロクに扱えないのに」
「其処まで言う事ないんじゃないですー。師匠だって若い時そうだったんじゃないですかー」
口を尖らせて言うのでロキは立ち止まり考える。
夢ねぇ。と一言呟いた後押し黙る。
彼のもう少し若い時の夢は、ほぼほぼカレンと一緒であり。違うのは困っている人を助けたいという気持ちが、あまり無いぐらいである。
自由に旅をし、適当に暮らしたい。
しかし、ロキが活躍すればするほど自由が無くなり、責任が増えた。
「……まっ、未来はどうなるかはおいて置いて、今は現実の事を考えよう。店が見えたし、なんだったら先に行っても」
「それがですね師匠っ。ご飯の事ばかり考えると、お腹が減って走る力もなくなりそうですっ」
「はいはい」
 




