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36 結末

 ガラガラと車輪の音が鳴る馬車が外道を走っている。

 馬を二頭操り馬車を運転する御者。そして荷台部分には荷物と一緒に座る三人。

 サブロウが居た里を出てから既に丸一日は立っていた。

 

 ナナリーは寝ていて、カレンは赤い目を暇そうにしていた。



「本当に出て行っちゃって良かったんですかね」



 カレンは心配そうな顔をロキに向けた。

 振り返るロキは、何が? と聞いた。



「何が? じゃないですよっ。折角犯人も見つけたらしいのに、火事で長老さんの家は燃えるし。モミジさんだって一緒に亡くなるだなんて……」

「僕らは部外者だからね。長老宅に閉じ込めた犯人が火をつけ全焼……。僕としては君達二人が助かったのが嬉しい」

「私は寝ていただけなんですけどね。気付いたら外に居ました。ナナリーさんが外まで引っ張ってくれてたみたいで……」



 ロキはぐったりと寝ているナナリーを見ると、カレンの身長を見て喋る。



「……さぞ重かっただろうに」

「うわー。師匠ひどすきませんっ!」



 体重の事を言われ、カレンの顔が悲しい顔から、少し怒った顔へと変化する。

 ロキは、里の事も考えてサブロウに提案をしていたのだ。もし殺人者が更生できる場合それをすべきだ。という意見。

 サブロウもその意見は、持っていた。

 しかし、里では同属殺しは死刑と決まっていた。

 そこで、サブロウを説き伏せ、長老や周りに内緒で人型にした食料肉と人狼の毛を手配した、仮の犯人を作ればいいと。

 

 ナナリーには、今回の作戦を伝えてないが、長い付き合いで話を合わせてくれた。

 二人は、モミジに招かれた後夕食を食べた。その中に何か違和感を感じたナナリーは、食べる振りをしてこっそり吐き出した。

 直ぐに、眠りに落ちたカレンを見て、自らも眠った振りをすると、長老が入ってきた。

 手には二振りの刀と、粗末な魔法使いの杖。


 杖を二つに折ると、床に捨てた。残った刀の片方をモミジに渡すと、モミジは部屋から出て行った。

 残った長老は、カレンと、寝ている振りをしているナナリーをまとめて担ぐと屋敷の奥へと行く。

 そこは地下室への入り口があり、投げ込まれた。

 ナナリーは薄目で辺りを伺うと、解体された動物の骨や肉などが見えた。

 さらには、つい数日前まで人間だった肉が無造作に転がっている。


 長老は、寝ているカレンへと狙いを定めて刀を振り下ろした。


 サブロウとロキが、モミジの遺体と死体偽造用の肉を持って来たときには長老の屋敷は手が付けられないほど燃えており。雨に濡れているのに口を開けて寝ているカレンと、その巨体を引っ張って付かれきったナナリーが庭に居た。


 そのまま、ロキとサブロウは事件の処理として、犯人は外部から偶然迷い込んだ人間に仕立てた。

 

 内容としてはこうだ。

 迷い込んだ殺人鬼は長老宅の地下貯蔵庫で隠れていた。

 食料や金を調達する為に殺人を犯し、潜伏するも、魔法使いが来たというので動けなくなる。

 偶然、モミジが地下貯蔵庫に行くと犯人と顔を会わせモミジが殺される。

 長老は直ぐに気付き犯人を殺すも、戦闘の時にランプが倒れ屋敷に火の手があがった。

  サブロウはロキが作った犯人発見器を届ける途中に屋敷に到着。火の中へ助けに行くも長老の言葉聞いて屋敷から脱出した。


 かなり強引であるが、無い事は無いと押し通す事になる。

 ロキ達はもう用済みという事で、後は里内で処理する事となり帰る事になったのだ。

 下手に残って何かボロが出たら困る、特にカレンが。

 

 馬車は山を抜け、道が平坦になっていく。

 町を出た時と違うルートなのでカレンは辺りを見回しながら景色を眺めて居た。

 流石のロキも眠くなり欠伸をするが、もう直ぐ目的地の町に付くので寝ていられなかった。

 


「何か久々な感じですねー」

「一月以上……」

「えっ。もうそんなに立つんですか」

「その間に、君が出来る事は魔法球を作る事だけ……」

「うっ。いや、それはその……だって、黒い魔法が怖いというか。ちゃんと火は出せるようになりましたしー」

「君が火を出すのをまっていったら日が暮れる」

「そりゃそうなんですけど。もう少し言い方ってのがー」

「はいはい」



 いい訳をはじめるカレン、口を尖らせていて、大きな体を膝を立てて座っているのを見るとロキが少し笑い出す。



「あっ。そんなに笑う事ないじゃないですかっ」

「ごめん。でも――」



 ロキの顔から笑みが消え真面目な顔になった。



「力と向き合う、克服する。言い方は色々あるけど、それをするのはカレン、君であって僕じゃない。特に君の魔法は……」

「師匠、そこで言葉を止めなくても。私の魔法は何なんですかっ?」

「嘘は言ってもしょうがないか。魔法使いの中では嫌われる魔法だよ」

「えっ」

「町に付いたよ」



 それ以上は何も言わないロキ。

 カレンは町に付いた事と、魔法の事で驚く。

 既にカーメル町の出入り口が見え、近くには幾つかの馬車が停留所に止まっていた。


 寝ているナナリーを起こして、馬車から降りる三人。

 腰や背中を叩くカレン。ナナリーも小さな体を伸ばして運動している。

 ナナリーと魔法ギルド前で別れる事となった。



「それでは、皆様お先に失礼しますわ」

「うん。僕らはあっちだし」



 町から離れた屋敷へ荷物を持って歩く二人。

 両手に荷物を抱えたカレンは足取り軽やかに歩く。ロキは少し遅れてその後に続いていた。


 大きな門が見えてくると、鍵を開けるカレン。

 約一月半ぶりの家である。その割りに庭の雑草は綺麗になっており、ナナリーの娘であるミナトが定期的に掃除してくれているのがわかった。



「いやー、我が家に来ると落ち着きますね」

「我が家っても、カレン。まだ数日しか住んでないんだけど」

「気分ですよ、き、ぶ、ん。本当、師匠は心が狭いというか」



 ロキは苦笑するだけで、特に何も言わずに屋敷の中をみる。

 新しく図書室と書かれた部屋が出来ているほかは、代わりようがなかった。



「さて、本来ならばもう少しで夕食の時間となるわけだ。カレン、どうする?」

「あ、はいっ。それじゃ軽い物でも作りますね」

「いや、そうじゃなくて。君も疲れただろう。僕だって弟子と召使いの違いは知ってるつもりだ。食べに行こうか」

「いいんですかっ!」

「だから、とりあえず荷物を置いて――」



 ロキが最後まで喋る前にカレンは自室へと走っていった。

 ロキもゆっくりと中央階段を登り、部屋へと戻っていった。

 

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