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35 微笑みの女性

 黒い雲が空に広がり、里には朝から雨が降ってきた。

 ロキが犯人を特定するのに魔道具を作ってから既に二日がたっている。


 壊れた家は既に直っており、朝食を終えた三人はボーっと過ごしていた。

 カレンの特訓のほうは上々で今では魔法球なら一人で作る事が出来ている、問題の黒い魔法は相変わらず出来てはいないが、昨日はついに火の魔法を出せるようになった。


 もっとも、魔力を込め始めて二時間、しかも出た火は爪よりも小さく直ぐに消えたのは魔法といって良いのか謎である。


 ロキの傷も直りかけており今は椅子に座りサブロウから借りた本を読んでいる。

 ナナリーとカレンはボードゲームをして時間を潰していた。


 八×八の六十四マスに白と黒の石を置いて行くリバーシというゲーム。

 戦績のほうは十戦四勝と、ナナリーのほうが勝ち越していた。 

 


「負けましたわ……」

「かっ、かった……」



 盤面をちらりと見るロキ。黒であるカレンが、全てのマス目を埋めていた。

 勝利の余韻を得たまま、カレンは台所へとお茶を入れにいった。残ったナナリーは肩を震わせ盤面を見ていた。



「これで、五分五分って所かな」

「そうですわね、カレンさんは凄いですわ。段々と旨くなっていますわ」

「それはナナリーが弱いんじゃなくて?」

「なっ。ロキ様それは酷いですっ」



 ナナリーが文句を言うと、カレンが戻ってくる。手にはトレイを持っており全員分の飲み物が乗っていた。

 紅茶が二つに、得体の知れない色の飲み物。当然、得体の知れない物はロキの前に並べられる。

 ロキはお礼を言うと、一気に飲み干す。最近は慣れたのだろう、カレンもナナリーも鼻を摘む事は無くなった。


 少しだけ開けられた窓から外を見るナナリー。

 弱い雨が少しだけ強くなって来ている。



「あー、もう。暇ですね……」

「なんだったら、カレンも本を読むかい?」



 ロキは、借りた数冊の本をカレンへと向ける。カレンはその本の表紙を見て首を振った。



「私、字は読め無い事はないですけど。難しい字は読めませんし、ずーっと読むと眠くなるというか、それにその本って医学書ですよね」

「医学書まではいかないけど……、食べれる野草と毒草の効果などだね」

「やっぱり読みませんっ!」

「そう」



 扉にノックの音が聞こえる。

 カレンは素早く立ち上がると、扉を開けた。

 青い影が玄関から室内を見渡した。



「あら、駄犬じゃないですか」



 ナナリーの嫌味に、鼻を鳴らして返事するサブロウ。

 それでも、ナナリーとカレンを見て来た理由を話す。



「モミジ殿が、もう直ぐお別れなのを寂しがっているでござる」

「事件が解決したら、私達は帰るんですもんね」

「それで『ケーキを焼いたのでお茶会とお泊りパーティーしませんか』と言っているでござる」

「あらあら、それはあり難いですわ。と、その前に」



 いつの間にか用意した、大判のタオルをサブロウに手渡すナナリー。 

 全身を拭くと、小さく礼を言い、ナナリーに返した。

 返されたタオルをもって奥の部屋へ消えていった。


 サブロウは、ロキを見ると小さく頷く。



「と、いう事は許可はおりたんだね」

「主の言うとおり、犯人を特定する箱。それが出来た事を長老に話したでござる」

「ん。で、返事は?」

「晴れた日に集会を行うでござる。それより魔法は、まだ使えないでござるか?」



 その言葉にカレンが立ち上がる。



「えっ! 師匠魔法が使えないって」



 ロキは額に手を当てて落ち込むと、サブロウを見た。



「黙っていた方がよかったでござるか」

「いや、別に。二人とも別に魔法が使えないって言ってもまったく使えないわけじゃない。カレンの魔法よりは使える。依然より本調子じゃないって意味」



 ロキは手の平から氷の塊を出して、一瞬で砕く。


「別に君の……。いや、カレンの魔法が原因で……、いや、原因か。しかし困ってないし平気だよ」

「魔法が使えない師匠だなんて、ただのおじさんじゃないですかっ」

「君ね」



 何時ものボケと突っ込みが終わると、ナナリーが肯定しはじめる。



「あら、良いじゃありませんか。魔法が使えようか使えまいかロキ様はロキ様ですし」

「たしかに、師匠は師匠か……」

「それよりも呼ばれているんでしょ? 僕は留守番してるし、なんだったら泊まって行ってもいいよ」

「あれ? 師匠は行かないんですか?」

「女性ばかりのお泊り会に、僕みたいな、おじさんが行くわけにもいかないでしょ」

「あら、わたくしが別に構いませんですよ」



 ナナリーの手が謎の上下運動をしている。

 ロキは溜息を付くと二人に傘を押し付けて外にだした。

 一人になったロキはもう一度溜息を吐くと、棚の上に乗せている箱を見つめた。



「お膳たては揃ったか……」



 結局二人は夕方にも帰ってこず、家にはロキが一人だけだった。

 雨音は激しくなり、窓も完全に閉められた状態である。

 ロキは数個のランプに火を灯し吊るした。部屋全体が薄っすらと明るくなる。


 寝室へ向かうと静かに本を読み、ランプが消える前に目を閉じた。

 ロキが眠り暫くした後に、玄関の扉がゆっくりと開かれる。素早く室内にはいると真っ直ぐに寝室へ向かう人影。


 ふくらみを帯びた毛布、頭から被っているらしく黒髪が毛布から少し出ていた。

 影は膨らみの中心に刀を突き刺した。肉を突く音が小さく聞こえると、影は汗を腕でふき取った。



「なるほど……。残念です」 



 ロキは静かに言うと、ベッドの下から這い出た。

 手にはランプを持ち、影の顔を……。モミジの横顔を照らした。

 毛布を笑顔のまま剥ぎ取るモミジ。人型に置いた食料肉に、頭の部分は黒い毛が丸められておいてあった。



「知ってたんですか?」

「流石に、貴方とは思ってませんでしたけど」

「そうだったんですね」



 モミジが入ってきた扉が閉められる。モミジが振り返ると、サブロウが青い顔をさらに青くして立っていた。



「あら、サブロウさんまで、こんばんわ」

「彼には、誰か来る可能性も伝えて隠れて貰っていた」



 ロキの説明に驚く事もないカエデ、それ所かサブロウのほうが驚いてた。



「な、なぜ……」

「なぜといわれえまして、憎かった。じゃだめでしょうか?」

「なぜだ。ジーナもハクも、それにカエデすら憎くかったのかでござるかっ!」



 殺された人たちの名前を叫ぶサブロウ。

 何時もの笑顔を振り向いて返事をしようとする。



「困りましたわね。どうでしょう、私の家にいる二人を返す代わりに見逃すってのは」

「君が此処にいるって事は、長老も仲間なのかな」

「さすが、魔法使いさんですね。頭が切れるというべきなんでしょう」

「二人なら無事だよ」

「凄い自信ですね……」


 

 透き通る声を響かせるモミジ。手には刀を引き抜いている。



「ナナリーはアレでも精霊使いだから。フィニックス程度なら呼ぶからね」

「ごめんなさい。精霊は詳しくないの。わかるサブロウさん」

「浄化と再生を司る大精霊でござる……。それよりも武器を置くでござるよ」

「ねぇ、サブロウさん。同属殺しは、死刑って決まってるのよね」

「しかしでござる。我が何とかするでござる。長老も知っているなら黙っているでござるっ」

「実の妹と子供を殺したのに?」


 

 言葉に詰まる、サブロウ。どうして言いか解らなく震えている。

 


「来る日も来る日も同じ日。周りをみても化物の人狼ばっかり、だって、貴方達は人じゃないのよっ。そんな中妹が化物の子を宿したですって……。可哀想で可哀想で」

「馬鹿なっ! モミジは長老と結婚したでござるっ!」

「ええ。生きる為に仕方がなくです。私が人狼を殺してしまった時に、あっさりと見破られました。でも、あの化物は私を殺す事なく無かった事にしようとしました。結果犠牲者が増えると知らずに……。だから――」



 言葉をとめるモミジ。

 ロキが言葉を継げた。



「だから、モミジさんを軟禁したわけか……。確かに軟禁している間は殺人は起きない」

「ええ。正解です」



 さてと、と呟くと。抜いた刀をサブロウへと構えるモミジ。

 サブロウは、相変わらずどうして言いか解らず、うろたえている。斬るかどうかを悩んでいるのがロキから見ても解った。



「やめるでござる。斬りたくないでござる」

「妹のお腹から出した子は、直ぐに冷たくなったわ……。サブロウさんも直ぐに会いに生かせて上げる」



 サブロウへと切りかかるモミジ。

 大きな咆哮を上げたサブロウは、刀を抜きモミジの腕を切り落とし、心臓まで刀を突き刺した。

 笑みを絶やさないまま、サブロウを見つめるモミジ。



「知ってるサブロウさん。私、人狼は嫌いだったけど、サブロウさんだけは大好きだったわ、カエデより私を選んでくれればよかったのに……」 



 口から血を吐き喋るモミジ。サブロウの赤い瞳からは、涙が流れている。

 自らを切ったサブロウの体を抱くようにしてモミジは事切れた。

 

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