33 雨時々曇り空、カレンの心境
ロキは、背中の痛みで眼が覚めた。辺りは暗く、室内は暗い。
ベッドの横にあるランプだけが光っており、椅子の上で背もたれに体重をかけて眠っているナナリー。
その横顔は薄っすらとランプのともし火が照らしていた。
「師匠……」
小さな声を出すカレン。思わず体をビクっとさせ反対側を見るとカレン座っていた。
その顔は暗く、思いつめているのが目に見えて解った。
「なんだ……、カレンか」
「何だじゃないでっ……すよ……。 よかった……。眼が覚めて」
「そりゃ、寝てるだけだからね。何時かは目は覚める」
「なんで、そんなに冷静なんですか」
「さぁ」
涙声になるカレン。ロキは黙って、カレンの頭の上にに手を置くと優しく撫でる。
「心配かけたようかな」
「そ、そうですよ。血がどばーって出るし、倒れるし、意識はないし……ぐすっ」
「君も冒険者なら、これ位の事はあるだろうに」
コレぐらいというのは仲間が死ぬ。いや死なないまでも自分の不注意で大怪我をさせる事である。
「そりゃ。私の失敗で依頼がダメになったり、怪我を負わせたりはありますけど。こんなに酷い傷は、ないですし。師匠、私の冒険者ランクはEですよ。そもそもEランクの依頼はそんなに危険な事はないんですけど……」
「あー。なるほどね。そっか、まだ無いか」
無いか、と言うのは自分の失敗で人を運命を変える事である。
全員を助ける事が出きる人間は居ない、ロキ自身も何度もそういう事をして来た、それも嫌になり王宮魔術師を辞めたのもある。
「僕も逃げた人間だったな……」
「はい? 師匠、何か言いました?」
「いやなにも。冒険者として、いや、魔法使いとしても怪我を負わせたぐらいで落ち込むのは困る」
「それはその……、でも師匠の意識が無くなるし、ナナリーさんも慌てるし……」
「ナディと旅していた時に魔物に襲われた。それは聞いた、もし、そこでナディが死んでいたらどうする気だったんだい」
ロキは優しくもはっきりとした言葉で問いかける。
カレンが下を向く、膝の上に拳を乗せて、その上には水滴が落ちるのが見えた。
「ごめん。僕も少し言い過ぎたみたいだ」
「いいえ、直ぐに答えれない私が悪いんです……。師匠早く元気にっ!?」
カレンの視界には、ランプの灯りで照らされ寝ているロキが見えている。
そこまでは、カレンにもわかっている。
問題はその下半身部分。ロキの股間がある部分の毛布が飛び出ている。テントを張っていた。
しかもそれは大きくて、毛布の中で生き物のように動いているからだ。
不思議に思ったロキが、紅潮し始めたカレンの顔を見てから、目線の先である場所をみる。
ロキの目にも自分の股間の一部分が動いているのがわかる。
まるで何か獲物を探しているように……。
「し、師匠っ。その、あの、元気になって良かったですねっ!」
どこか、何が、とも言わないカレン。椅子から立ち上がると、半回転する。
ロキは、カレンの手首を力任せに掴んだ。
「まてまてまて。勘違いしているようだけど、これは僕じゃないっ。よく見るんだっ」
「見なくても、元気なのはわかりますしっ! 私だってその、お、大人ですからっ」
「違うっ。そもそも。動くはずは無いっ!」
ロキの言葉を聞いて、カレンの体かが止まる。
一歩引いてその顔を真剣に見つめる。
「そ、そうなんですかっ!?」
「カレン、君ね……。それとナナリー。君も、変な悪戯はしない」
「あらばれましたか」
「アレでばれないと思うほうがおかしい」
ロキが片腕で毛布を取ると、ナナリーがロキの股間の部分を触ろうとしている。残った手でそれを必死に遮る姿があった。
「さぁ、カレンさん。誤解も解けたようなので、三人でたのし――。痛いですわロキ様」
「そりゃ、頭を叩いたからね。僕はもう少し寝ていたい。カレン、悪いけど、ナナリーを連れて向こうに。昨日使っていた別の寝室は大丈夫なんでしょ」
「はいっ、そこは大丈夫です」
「仕方がありません。これ以上すると、本気で怒りそうですので、カレンさん行きますわよ」
他の二人が出て行った後、ロキは溜息を付くと一人事を呟く。
話題には出さなかったか、黒い魔法。
属性は闇である、魔法使いの中でも使う人数は少ない。
少ないというか使えないのだ、ロキが知っている中でも一人しか居なかった。
日が高くなると、サブロウも見舞いに来た。
半壊させた事をサブロウにだけ聞こえるように謝ると、小さく、気にするなでござる。と言う。
「で、何かわかったかい?」
「特にでござる」
否定するサブロウであるが、前日までに調べた事を伝え始めた。
殺された人狼と人間は、人との共存派。共存を望まない派も調べても、同属殺しまではする様なのは見当たらない事。ここまでは昨日の内に筆談した事だ。
しかし、反対派に犯人がいるとなると、次に殺されるのは長の妻。モミジである可能性が高い事。
現在は長が外出禁止令を出して守っているが、何時までもそうするわけには行かない事。
「いっそ外部の仕業ならよかったでござる」
サブロウが呟くと、ロキはサブロウを見つめる。
「サブロウ、君は犯人は内部の人間と?」
「長老会議では外部の仕業と唱えているでござるか……」
「そのために僕らが呼ばれた」
「何がでござる?」
ロキは自分達が犯人役になる事を、サブロウに確認しているが、サブロウはさらりとかわした。
「さて、今後の予定を決めよう。カレンとナナリーを呼んできて貰えるかな。僕がこうなった以上二人にも動いて貰わないといけない」
ロキはサブロウに頼むと、ロキの寝室に全員を呼び寄せる。
揃った所でロキは三人にこれからの事を説明した。




