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32 サブロウの一人事

 ロキがカレンの魔法で倒れる少し前。

 サブロウは長老宅への道を一人で歩く。


 あの密談でロキは暫くは殺人は起きないと予想し、明日から里の中を自由に歩ける許可がほしいと言ってきた。

 答えは判っているが、あえて尋ねるサブロウ。

 案の定、「外部の人間を里に招きいれた事により、一時的に犯人も様子見るだろう」と返って来た。「現に、魔法使いを里に招き入れると決定してから被害収まってるよね」と、も言われた。


 まったくの馬鹿ではない。魔法使いなら誰でも良かった。カーメルにいる潜伏者がロキを見つけ、この里の近くを通る事を知った。直ぐに会議が開かれ事件解決のために魔法使いを呼ぶ事にしたのだ。


 次に、殺された人達は、どんな性格。人間を受け入れる派閥か、そうでない派閥かと聞いてきたのだ。

 その言葉に心臓が早くなる。

 

 なぜでござると尋ねようとしたら、口に手を当て黙っていた。

 一見平和そうに見える里であるが、人間を受けいれるのに賛成派と反対派が生存している里。この男は、其処も既に考えていた。


 今回殺されたのは人間と一緒に暮らす事に賛成している派閥と反対派も同じぐらいだ。

 次に、殺された人たちは、どんな性格だったのかを聞かれ、羊皮紙に書いていく、確認しては最後に燃やして証拠を消し去った。

 最後に、出きる限り穏便に済ますように努力するよ、と手を差し出された。

 握手をして別れる。

 

 サブロウは、煮え切らない頭で、歩きながら考える。

 何を考えいるか判らない魔法使いに苛立ちを少し覚える、次に殺されるとなると義妹であるモミジも危ないからである。


 小さな里だ。共存派と反対派が別れて暮らす事は出来ない。もし別れると生活が出来なくなる。

 最初に殺されたのは共存派、直ぐに反対派が犯人だと会議ででると、次の日に反対派が殺された。

 お互いに疑心暗鬼になりつつ、長老は打開策として魔法使いを呼ぶ事にしたのだ。

 あの魔法使いには伝えてないが、この里は魔法使いに救われたという昔話がある、それならと双方納得したのである。

 

 長老の家へ着くと、玄関先でモミジが出迎えてくれた。

 カエデと双子だった姉妹、モミジは長老の所に嫁いだ。

 


「あら、サブロウさんいらっしゃい。タオルだすわね」

「かたじけないでござる」

「あら、青い顔がさらに青くなってますわよ」


 

 小さく笑うと、サブロウに微笑むモミジ。

 


「長老は居るでござるか」

「はい、何時もの寝室に」



 サブロウは、長老の寝室へと行くと、咳をしている長が居た。最近は体調が優れないのだろう何時も咳をしては寝室にいる。

 ベッドの上で上半身だけを起して瞳を閉じている。サブロウを見ると、目だけを動かして用件を聞いてくる。



「長老。モミジ殿の安全のため家から出さない方がいいでござる」

「むろん、アレは家から出さないつもりだ、お主が心配する事ではない。して、魔法使いの様子は」

「犯人を捜すのには協力的でござるが、見つかるのでござるか……」

「どっちでもいいのだ。これだけ騒ぎに鳴ればもう殺人はしにくいだろう。犯人をあの魔法使いに仕立ててもいいのだ」

「まことでござるがっ!」



 魔法使いを里に縛り付けておくのは聞いている、しかし犯人にすると聞いてサブロウの眼が見開く。



「なに、犯人が見つからなかった時はだな……。用件はそれだけか?」



 鋭い眼光に睨まれ、頷くしかなかったサブロウ。

 長の寝室を出ると、モミジに呼ばれた。



「ごめんなさい。あの人最近カリカリしちゃって。妻である私にも外に出るなって」

「仕方が無いでござる」

「サブロウさん、早く犯人を見つけてくださいね」



 サブロウは頷くと、長老の家を出た。

 ロキに会っておこう、家を訪ねるサブロウ。半壊した家を見て足が止まった。

 家の半分が、そこだけ最初から何も無かったように穴が開いている。


 呆然とするサブロウ、直ぐに壊れた玄関から、飛び出るナナリー。直ぐにサブロウとぶつかった。

 

「ごめんなさい。急いで居たものですからっ」



 ナナリーは、サブロウの顔も見ずに走っていく。建物の中にはいると、カレンが泣きながらロキを抱きかかえていた。

 その服は血で染まっており、サブロウの脳内に殺された妻と何故か被った。



「おい、何をしてるでござるかっ!」

「師匠が、師匠がっ」

「退くでござるっ!」



 サブロウは、倒れているロキの体を確認した。背中全体の皮膚が剥がれており、その血を見て泣いているカレン。

 サブロウは、溜息を着くと、その牙をむき出して喋る。



「背中の皮が破れているだけでござる。薬でも塗って安静にすれば大丈夫でござる」

「ほ、本当っ!」

「して、あのエルフは……」


 サブロウが口を開くと、ナナリーが玄関先に戻ってきた。



「カレンさんっ! 包帯と傷薬、あと、そこに居た人狼もつれて来ましたわっ!」



 ナナリーは。薬の入った袋に、そこの店主でる老人狼の手を引っ張り帰ってきた。

 走ってきたのだろう、小さい体を震わせてる。


 結局、老人狼とサブロウが手を貸し、ロキを治療した。

 老人狼は帰り、鎮痛薬が効いたのだろう、今は静かに寝ている。その横では、ナナリーがロキの手を握り小さな椅子に座っていた。


 新しい家は明日までに探すでござる。と、言って家を出ようとするサブロウ。暗い顔のカレンが玄関まで見送りに来た。



「あの。ありがとうございます」

「里の問題を解決する前に死んでは困るでござる」

「そう、ですよね……」



 一気に暗い表情になるカレン。サブロウは、何かを、言うか迷い言葉にしないで立ち去る事にした。


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