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03 家を借りよう

 二人は山道を登り、ロキの住んでいる家へと付く。カレンは、家庭菜園を見て興味を示している。ロキが一つ摘むと、カレンへと手渡す。手で拭くと「ありがとうございます」と小さくお礼を言い一口食べる。その苦さに顔を歪めると、声に鳴らない悲鳴を上げていた。

 ロキは自分の背後でカレンの悲鳴を聞くと、カレンにばれない様に小さく笑う。ちょっとした悪戯だ。気を取り直してカレンを室内に招きいれた。



「何も無い所だけど、とりあえずは入って」

「はひ。お邪魔しますー」



 口の周りを必死に吹いているカレンは室内を見渡しながら家へと入った。

 小さなカマドに木製の家具、奥には扉がない寝室が二部屋あり、片方は使い込まれたベッドに、片方は新し目のベッドが備わっていた。

 カレンが部屋の中を確認し終わると、フードの胸の部分を押さえる。深呼吸して、ロキに進められた椅子へと座った。

 


「適当にフードは壁にかけて貰えれば……」



 そういうとロキは自分の分を壁の出っ張りに引っ掛ける。

 カレンも慌てて立ち上がると、フードを脱いで壁へとかけ始めた。



「取り合えず、お茶でも飲んで、話をしよう」



 ロキは棚から茶葉を取り出す。適当な鍋に入れてカマドに乗せると細い藁をカマドへ詰める込んだ。直ぐに火打石で火を付け、カマドではチリチリと火が大きくなって行く。その様子を椅子に戻ったカレンが覗き込む。



「あれ、師匠。魔法使いなのに魔法で火を付けないんですか!?」

「んー。体力使うからね、魔法よりも簡単な物があれば、それを使うよ。それと、まだ何も教えてないんだロキでいいよ」

「いえ、これから教わるんですもん、師匠って呼びますっ!」



 数秒沈黙した後、ロキは「ああ、そう……」と、だけ喋る。

 二人分のお湯が出来ると茶葉を適当に鍋に入れる。沸騰したお茶をアミでこしながら不揃いのティーカップに注ぎ、お茶を二つ作り出した。



「見た目は悪いけど、遠い所ご苦労様」

「は、はいっ!」


 

 ちびちびと飲むカレン、緊張しているのか口数が少ない。ロキは無精ひげを触りながらカレンを見ていた。



「あの、何でしょう……」

「いや。何でもないよ、今後の事を考えていた」

「今後っ!」



 カレンは何故か大声を上げて、顔を赤くする。少し温くなったお茶を一気に飲むロキ。カレンのカップを見るとまだ半分は入っていた。

 やはり小さな家では男女で生活するには気苦労が耐えない。新しく家を借りないとダメかとロキは考えていた。その為にも今後住む家を手配しなければならない。



「よし、飲んだら行くよ」

「す、直ぐにですかっ!」

「そりゃまぁ、早い方がいい」

「あのっ!」

「はい」



 カレンが大きな声で質問するので、空のカップを持ったロキが立ち止まる。洗っておこうと思って立っただけである。



「師匠が男って解った時に覚悟は決めたんですけど、その、あの、優しくして欲しいかなって……」

「訓練は優しい物ばかりじゃないからね」



 ロキはカレンから目線を外して洗い物をしている、自分で飲んだカップを置き水で洗うと綺麗な布で拭いていた。



「で、でも初めてですよっ!」



 カレンの大声と共に、テーブルを叩く音が聞こえる。ロキは振り返り溜息を付いた。



「あのね、僕も初めてだ」

「えええっ! 師匠って、その年齢でまだだったんですかっ!」

「そりゃ弟子なんて取った事ないからね」

「え。弟子?」

「ん?」



 ロキはカレンの目線を追いかける。ロキを通り越して新しい寝室のベッドを見ていた。もう一度カレンを見ると先ほどよりも顔が赤い、怒っている顔ではなく羞恥している顔である。



「君ね……。どこの世界に、弟子を襲う師匠が……」



 ロキは過去、旅をして来た事を思い出す。師と弟子が関係を持っている話なんて飽きるほど聞いて来たし見て気もした。なんだったら師と弟子数十人全員が関係を持っているなんて人物も見た。

 ロキは咳払いすると話を続ける。



「とにかくっ。僕はそういう事は興味ないし、それに君だって、子供だよね」



 先ほどまで恥ずかしさで頬を染めていたカレン。眉の所がピクピクと動くのが見えた。



「子供、子供って言いますけどね、これでも出る所は出てるんですけどー」



 カレンは立ち上がると胸と尻の部分を強調し始める、がっくりとうな垂れるロキは手をひらひらとさせて、椅子に座れと命令した。



「君ね……。そこで僕が、「お、良い体だね。それじゃ寝室へ行こうか」って言ったらどうするの」

「えーっと……、えーっと……」



 突然の事に困り顔のカレン。ロキの上から下までを眺めると両手を叩く。



「優しくしてください! としか」

「……。ああ、そう。それじゃ、最初と変らないよね。もしかして君そういうの好きなの?」

「違いますっ! 万が一求められても毒蛇に噛まれたと思って我慢しますっ! それで魔法使いになれるなら……」

「君ね……まぁいいか言い争いが目的じゃない。先ほども言ったけど、僕はその積もりもない。しかし、この家で男女で暮らすにはお互い面倒事が多い。よって家を借りる」

「はい……」



 良い答えが見つからなく、気落ちするカレン。そういう所が子供なのだと、小さく呟く。しかし、別に文句ではなくロキの顔は少し笑っていた。 

 カレンがお茶を飲み終えると、ティーカップを洗い始めるロキ、カレンが直ぐに「私がやりますっ!」と叫ぶが、自分の家だからと言って断る。

 洗ったティーカップを布で拭きながらロキは尋ねた。



「しかし、師の性別は聞いてこなかったの?」

「私ですか? 両親は何も、それに魔法使いと言うぐらいなので女性かと思ってました」

「女性が多いからね……。男の魔法使いは高齢が多い、弟子が育つ前にポックリって言う事も無い事は無い」


 

 ロキの冗談に、カレンは大きく笑みを作り笑顔になる。ロキは淡々と喋る癖がありカレンの感情の揺れ幅が大きいのをみて、どこか懐かしさを感じた。



「うわ、師匠ひどいー」

「例えだよ。僕としても、後継者を育てろって来るぐらいだから、僕と同じ男性かと思ったよ」



 笑顔だったカレンの顔が曇り始める。



「あの、男性じゃない、女性だから弟子失格ですか……?」

「そんな事はないから、家を探しに行くんだよ。さて冒険者ギルドに向かおうか」



 ローブを羽織直すと、立ち止まり質問する。



「念のため聞くけど、実は富豪で毎日宿から通えるって事は……」

「無いですっ!」



 カレンの元気な返事が返ってくる。ロキは「そうだよね」と一言もらすと、カレンが着ていた冒険者のローブを手渡した。


 二人で先ほど登ってきた山道を下りる。カレンが前に進むロキに話しかけてきた。



「で、師匠。なんで男性の魔法使いって少ないんですか?」

「魔力の蓄積、何故か男性は少ない事が多いんだ。男性が一人前になるには女性の三十倍は練習を積まないと」

「え、じゃあ師匠も?」



 一瞬だけカレンは立ち止まり、驚いた。ロキは振り返ると無精ひげをポリポリと掻くと話を続ける。



「僕は別、小さい頃から魔力があったからね」

「ほえー。実は凄い人なんですね」



 二つに分かれた道、その道を下ると街道と町を守る石壁が見えた。石壁にそって回り東門へと付いた。

 先ほど出て行った二人を再び会釈する門兵へ別れを告げてカーメルに入った。

 町の東側は立派な建物が多い。

 何箇所がある飲食店もオシャレであり、白をベースにしたテーブルと椅子が外に並べられていた、その建物みてカレンが不思議そうな顔をして質問をする。



「そういえば師匠。こっち側って建物が立派なんですね」

「比較的裕福な人達が住んでいるからね」

「西側は、なんというか師匠みたいに言うと庶民的な感じがしたので」

「ああ。あっちは冒険者ギルドがあるからね、此方と比べると治安が良くないというか……」

「確かに、冒険者は荒くれ者が多いですもんね」



 先ほど昼食を取った中央噴水広場まで戻ると、十字に別れている道を西側へ進む。先ほどの話通り町並みが少しだけ変って行った。例えば扉の無い店、椅子とテーブルは外にある店、東側と違い、その椅子やテーブルはチグハグで統一性が無く、数人の男性が昼間から赤い顔をしていた。彼らの手には酒瓶が握られている。


 そこからさらに奥へ進むと二階建ての冒険者ギルドが見えてきた。少しボロボロになった煉瓦の建物、大きな文字で『白のイルカ亭』と書かれた木造の看板が屋根から吊ってある。

 ロキが、窓ガラスの入っていない窓から店内を覗き込むと誰も人が居なかった。 

 扉を開けると扉上部についている鈴が二人の来客を知らせる。

 奥からは浅黒く日に焼けた男性が顔を出してくる。



「よう、ロキ。それにさっきの嬢ちゃんだな」

「あ、先ほどは有難うございます。無事に会えました」



 うんうんと頷く男。冒険者ギルドカーメルの町支部長のフォーゲン。彼は山の町であるカーメルに居るのに、両肩の筋肉を強調した袖なしの服を着ていた。これから直ぐにでも泳げるんじゃないかと思わせる雰囲気である。

 店内も赤と白に塗られた木製の浮き輪や、樽なぞが置かれており、このギルドの中だけは南国気分である。



「で、今度はなんだ? 子供でも出来たか?」

「やだっ! 何を言うんですかっ!?」



 フォーゲンの最低な挨拶に、顔を赤くしたカレンが素早く動く。手にはいつの間にか外した木製の浮き輪が握られており、フォーゲンへと突っ込みを入れた。

 仮にも支部長であるフォーゲン、普通なら回避できる攻撃をまともに喰らい床へと吹っ飛ぶ。

 慌てたカレンが、直ぐにフォーゲンを心配して駆け寄る。ロキも周りをみてほっとした、空樽がクッションの役割をし大きな怪我は成さそうだったかだ。



「フォーゲン。君も支部長なら、今の攻撃ぐらいかわしてくれないと……。弟子一日目で弟子が捕まるような事態は避けたい」

「わりい……、ついな」



 フォーゲンは、ロキだけ目線で合図を送る。フォーゲンが攻撃をかわせなかった理由はカレンに見とれていたからだ、いや、実際にはカレンの大きな胸に見とれていたからだ。

 ロキはカレンの背後で溜息を吐くと、今日来た用件を伝える。

 カレンはまだ心配そうにフォーゲンの体を調べていた。


 それから暫くしてカウンターに戻ったフォーゲンは、先ほどのにやけた顔と違い難しい顔を二人に見せる。

 


「無いかな?」

「普通の家なら、何件か知っているんだがよ……」



 ロキはフォーゲンに物件探しを頼んでいた、条件は部屋数は多いほうが良い、町の中心から離れてる。井戸も出来れば欲しい。この三つだ。

 話を聞いていたカレンが、小声でロキに質問する。



「師匠ー……。あんまり町の中心部から離れてると不便じゃないです?」

「だからこその井戸、それに魔法使いは街中で暮らさないほうがいい」

「ええっ! なんでなんですか。だってここ国ですよね、土地は王様の物だし王様からの許可が得れば何所に住んだっていい筈じゃ」



 カレンの言葉に、ロキは簡単に説明をする。一般人とは違い得体の知れない力を持った人間。その人間が突如自分を襲ってきたら、自分じゃなくても、突然魔法が暴走し街中で暴れたらどうなるか、親愛する人が怪我や死んだらどうなるか。

 国が許可をしていても住民の気持ちは別である、隣に冒険者が住むだけで嫌がる人間に、さらに得体の知れない魔法使いを許すわけが無い。


 各種ギルドは町に移住したい人間を、そういうトラブルを未然に防ぐ為に居たりもする。冒険者ギルドは永住するような向けの物件が得意であり、魔法ギルドは、魔法使いを囲いたいと言うパトロン向けの物件が得意である。この町にはないが、首都辺りになると職人ギルドなど職人に特化した組織もあったりする。



「はー。世知辛いですねー」

「ま、君も魔法使いを目指すんだ。覚えておいた方がいい」

「はーい」



 引き続きロキとフォーゲンは、これから住む家の事で話し込んでいる。どこか入り込めないカレンは、そっと忍び足でカウンターから離れるとギルドの中を探索する。

 先ほどカレンが壊した木製の浮き輪やタルは隅に片付けられ邪魔にならないようになっている、中央に大きなボードがあり幾つかの羊皮紙が張り付けられていた。


 『家の掃除』『買い物の買出し』『山菜の採取』など、もはや冒険者というより、ただの仕事の張り紙しかなかった。賃金のほうもカレンが思っているよりかなり安い金額が書かれていたる。

 ぐるりと一周すると、フォーゲンが難しい顔をしていた。ロキはカウンターの上に持ってきたお金や宝石を並べている。 



「お金を出しているって事は、話まとまりました?」



 カレンの問いに、フォーゲンが「この金額かぁ」と、難しい声を出す。

 腕を組み考え込むフォーゲン。金額が足りないとわかったカレンは直ぐに腰から皮袋を出しカウンターの上に置いた。



「師匠、良かったら私のも使ってください。これで全部ですけど……」

「流石に弟子となる子からは受け取れない」



 皮袋をそっと戻すロキ。元から身長差がある二人であるが、今はロキが椅子に座っている分、より上から見下ろす形になっている。



「でも足りないんですよねっ」

「まぁ、うん……フォーゲンがまけてくれれば足りるかな」



 腕を組んで目を閉じているフォーゲンをちらっとみるロキ。カレンが大きな声で反対意見を出した。



「絶対無理ですよ。冒険者ギルドはケチですし、さっき掲示板見てきましたけどランクFの仕事。報酬が二ゴールドですよ。たったの二ゴールド。パン三つかったら終わりじゃないですかっ。私、あの小さな家で我慢しますっ!」

「君が良くても僕が困るんだ」

「それって、私が魅力的って事ですかっ!?」

「君ね……。そういう事じゃなく――」


 

 僕が見られたくない。そう言いたいロキであるが、カレンはロキの「僕が困る」その部分を強調して、頬を赤らめる。フォーゲンが咳払いをして「師弟喧嘩なら外でやってくれ」と呟くと咳払いをする。

 


「わかった、少し仕事をしてくれ、その売り上げ予定を組み込めば金だってこんなにもいらねえ」



 フォーゲンはカウンターに出されたお金の半分だけを手元に引き寄せると、もう半分はロキに返した。カレンはフォーゲンの男気に小さく拍手をする。満更でもない顔をして胸を張っていた。そのまま依頼内容を聞き出す。



「草取りですか?」



 カレンの言葉に、「違うっ!」と、盛大に反論するフォーゲン。一度立ち上がると、気を取り直したのか座りなおす。



「此処にある金額は四千ゴールドだぞ、その半額を返したって二千ゴールドだ。山一つ丸坊主にするつもりか……」

「いやだって、ボードにはそんな仕事しかなかったし」



 カレンの言うとおり、ボードには買い物や草取り、薬草探しなど、とてもじゃないが二千ゴールドになるような仕事は一つも無かった。簡単な計算で言うと二十枚で一ゴールドの薬草探し、二千ゴールド分となると四万枚の薬草がいる。確かに山一つ刈り取っても足りないだろう。



「なに、簡単な採掘だ」



 フォーゲンは人差し指を立てると二人に説明した。

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