29 名探偵ロキっ!真実は何時も不明
ロキは最初の殺人が会った場所へと来ている。
第一の事件。里にある井戸、そこで年老いた人狼が殺されていたらしい。
ロキは井戸の周りを、四つんばいになって調べる。カレンがロキの横でしゃがみ込む。
「師匠、お腹痛くなったんですか」
「何か証拠になりそうな物がないかとね。魔法の使った形跡でもあればいいとおもって。杖を使わないと、魔法が打てないって事しかわからない」
「なるほど、私も探しますね」
サブロウが何かを言いたそうな顔でロキを見ていた。
井戸の周りには四つんばいの人間が二人、ナナリーは辺りを見回して何か無いかを探している。
ロキは顔を挙げ反論する。
「何が言いたいのはわかる。魔法使いってのは万能じゃないんだよ、得意不得意もあるし。特に僕は――」
「何も言っていないでござる。この辺は何も匂いが残っていなかったでござる」
人狼の鼻。人間の数千倍の嗅覚であり、それですらも証拠は何も無いと言っている。
「師匠、怪しいのってコレじゃないですか」
カレンが、地面に落ちている金属片の欠片を指差した。
それは石の様に見え、注意しないとわからないものだった。
ナナリーが、その発見に驚き、褒める。
「すごいですね、カレンさん」
「えっ。だって全体的に光っていたし……」
「何処も光ってませんけど……」
「あれっ。私が見た時には」
ロキは素早く片腕を出して、魔法を使った。手の先が光り輝くと何も無い空間に氷の結晶が一つ出来た。
その中には、カレンが見つけた金属片を封じ込めてある。
氷の中の破片を覗き込むロキ。サブロウに手渡すと、なにかわかるかい? と質問をし始める。
「人狼ジーナは、刀で切り殺されていた。その破片に間違いないでござる」
「そういう事は、早めに言ってほしい。魔法使いが関与されているという確定の話は?」
「杖だけでござる」
はっきりと言うサブロウに、肩を落とすロキ。
不思議そうな顔のカレンが、師匠? と、質問するも、なんでもない。と答えたロキ。
ロキは立ち上がり、次の現場へ行った。第二、第三と周り、第四のの現場で殺されたのは若い夫婦だった。人間の男と人狼の女性。
人狼の里という割には人間が多いのは、今の長老になってからだという。
殆どは戦争孤児であり、里で育った男は他の町に潜入して情報や物資を運んでいるらしい。
それを聞いたカレンが目をうるませている。
「種族の壁を越えた愛って素敵ですねっ」
その言葉にナナリーも大きく頷く。近くにいるロキに聞こえるように大きな声で話し始める。
「人狼と人間のツガイは認めたくありませんが、種族を超える愛、それは同意ですわ」
「まぁ、僕は本人達が良いなら何も言わない。さて次の現場に行こう」
「次が最後でござる」
一軒の家へ招かれると、扉を開けるサブロウ。
外は暗くなってきており、直ぐに室内に灯りをともし始めた。
真新しいベビーベッドが置いてあり、その横にテーブル。夏は使われていない暖炉、食器棚などが見えた。
ナナリーが何かを察したように話、確認する。
「ここって……」
「我の家でござる。嫁のカエデと娘が殺されたでござる」
「そうでしたの……」
ぐるりと調べた終わった後に、ロキは首を振る。特に成果は無かったという合図だ。
ロキはサブロウに確認をし始める。
「今日はもう遅い。僕らは何処に泊まればいい?」
「誰も使っていない家があるでござる」
サブロウは、三人を外に連れ出し一軒の家へ案内した。
灯りをつけると保存食を並べ、明日も頼む出ござる。と、いい部屋を出て行く。
三人しか居なくなった家でロキが溜息を付いた。
「師匠。もう疲れたんですか」
「色々ね。この事件は魔法使いは関係ないよ……」
ロキの言葉を聞いて、ナナリーも、そうですのね。と声を出す。
良く解ってない、カレンが大きな声を上げた。
「声が大きいっ。人狼は耳が良いんだ……静かに」
エルフ同様に、その聴覚は優れていると説明するロキ。
「はぁ。で、なんで、なんです」
「相手も、解決するとは思ってないよ。薬の一種というか、魔法使いが居るって事で犯人が次の殺人をしにくい状況を作ったんだと思う」
「それってつまり……。そういう事でしょうか」
「ロキ様、情報を整理しましょう間違えていたら訂正を」
一、殺人現場に残された、壊れた杖と、刀の破片。
一、杖はわざと置いていった可能性。
一、犯人の謎の動機。
一、犯人は魔法使いのせいにしたい。
一、得たいの知れない魔法使い、可愛いエルフ、見習い魔法使いがいる事で、次の犯行をやり難くする。
全部の説明が終わった所で、カレンが、腕を組み唸る。
「あれ、師匠、そしたら、私達は何時帰れるんです?」
「そこなんだよ……。殺人者が、殺人をしなくなるのはいい。しかし、僕らは事件が解決するまでは帰る事は出来ない」
「わたくしは別にこのままでも、ロキ様とカレンさんで、ロキ様の子供をバンバン作るだけですわ」
小さな体を抱きしめるように両腕を交差させるナナリー。その横ではカレンも少し赤い顔をしていた。
「あのねぇ、カレンも無言で顔を赤くしないっ」
「そういうロキ様も少し赤いですわね……」
「とりあえず、今日はもう遅い。寝る事にしよう。それと各自……。そうだなこれでいいか」
室内をぐるりと見回すロキ。
食器棚から陶器の小皿を数枚取り出すロキ。二人に手渡すと自信も、直ぐ取り出せるポケットに入れた。
「これってアレですよね」
「そう。防犯対策。殺人者が犯行を続行しようと考えた場合、次に狙うとしたら、犯行に邪魔な僕達なんだよね。だから鳴るべく二人は一緒の部屋で。何があったら直ぐに皿を割ること。音を聞きつけた僕が駆けつける。当然勝てるかはわからないけどね」
「それでしたら三人で寝れば宜しいと思います」
「ナナリー……。本気で言っているなら叩くけど」
「本気ですわよ。それに野営の時は男女近くで寝るんです、屋根が付いたからといって部屋を別ける方がおかしいと思いませんか?」
無理やりな説明に、カレンは思わず、なるほどと呟く。直ぐに首を振った。
「僕は静かに寝たいタイプだから、それじゃお休み」
ロキは先に奥の部屋へと消えていった。




