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28 人狼の隠れ里

 サブロウは長い時間をかけて考え、頷いた。

 結局はロキを連れて行かないとダメらしく、カレンとナナリーの同行を許可した。

 なお、馬車を運転する人に頼み、ルーカスで買ったお土産は、次の町の冒険者ギルドから宅配という形になった。


 人狼である、サブロウを先頭に山道を歩く三人。

 ロキの後ろにいるカレンがサブロウの尻を、凝視していた。

 ズボンに穴が開いているのだろう、青い毛がフサフサの尻尾が歩くたびに左右に揺れている。

 カレンはその動きと一緒に首を振っている。



「えーっと、サブロウさん」



 腰に刀をつけたサブロウが止まり、振り返る。



「なんでござる、人間の女」

「尻尾触っても良いですかっ?」

「…………断るでござる」



 信じられない物を見るという眼をカレンに向けると拒否を示す。

 再び前を向き歩くサブロウ、やはりカレンは、サブロウの尻尾をみて首を左右に振っていた。

 このままでは、こっそり触りそうなカレンの気分を変えるために、ロキはサブロウに話しかける。


「で、隠れ里はまだ遠いのかい」

「辺りは、まだ山の中ですよね」

「もう直ぐ……」

「っても、家がありそうな気配は全然ないんですけど」



 カレンが疑問を言うと、最後尾のナナリーがカラクリを説明する。



「カレンさん。隠れ里というのは、現代と場所が違うのです。そうですわね……。ファルマ砂丘で入った空間。あそこと似た感じでしょうか。外からじゃ解りませんし、入るのにも手順がありますわ」

「そうなんですねー」

「わたくしの生まれた場所も、結界によって守られていますし案内者が居ないと入れないようになってますわよ」



 関心しながら歩くカレン。先頭にいるサブロウが、付いたでござる。と、言うと視界が急に変わった。

 人狼の集落。

 行き成り現れた盆地、その中に木造の家が数十件。家畜を飼っている家などが見えた。

 

 集落の外には人が居なく、空気が重く感じた。

 ロキは警戒しながらサブロウの後に付いていく、時折、家の中から此方を伺う、人狼の眼が光っている。


 一番大きな、家に着くと中へ案内された。

 人間の女性が、サブロウやロキ、そして驚きながらもカレンとナナリーに濡れたタオルを手渡してくれた。


 外からの汚れを拭くと、奥の一室へ通された。

 部屋の中には、豪華な天幕付きのベッドに一人の老人、いや全身が黒い体毛におおわれたヨボヨボの人狼が、体半分を出してこちらを見ていた。

 赤い目を大きく見開き、ロキよりも先に、ナナリーを見て喉を鳴らし威嚇し始める。



「貴方が、人狼の長老ですね。わたくしのロキ様を呼び立てし、何のようですかっ」



 フガフガと口を鳴らし、ナナリーに直接言うのではなく、サブロウに鋭い声で話す。



「ワシは魔法使いを連れて来いと言ったはずだが」



 部屋に入った時から片膝を付いているサブロウ。長老に対して言葉を伝える。



「長老。一緒じゃないと来ないと言う条件で、ござる」

「まぁいい。魔法使いをつれて来たんだ。不問に居たそう」

「で、僕らが連れてこられた理由は?」

「サブロウから説明させる」



 短く言うと、ナナリーが叫ぶ。



「人を呼び出しておいてっ!?」

「エルフに話す事はない。下がれ」

「ナナリー。ほら、暴れない。サブロウ、詳しく話を」



 付いて来いでござる。短く言うと部屋を出て行く。三人が後に続きカレンが最後に人狼の長を見る。

 長は、赤い目を輝かせカレンを見ていた。背中をぞくりとさせたカレンは足早に扉を閉めロキ達の後に付いていった。


 別室に連れて行かれた三人は、またも、先ほどの人間の女性からお茶を振舞う。



「遠い所ようこそ」

「あの、人間……ですよね」


 

 カレンが女性に問うと、笑顔で答えてくれた。



「はい。長の妻でモミジと言います」

「妻ああああっ!?」 



 思わず立ち上がるカレン。ロキが咳払いをすると、恥ずかしくなり席へ静かに座った。



「どうせ、さらわれて来たのですよね。お可哀想に……」

「さわわれたというか、私達姉妹は助けて貰ったのです」

「我々、人狼は昔と違い人間をさらう事はないでござる」

「はい。私達は、サブロウさんと長に助けて貰ったのです。私達姉妹はマルクの国に居ました」



 部屋の中が無言になる、一人だけわからないカレンは、きょろきょろと辺りを見回した。



「えーっと、師匠。話が見えないんですけど」

「わたくしが説明――」

「いや、僕が話そう。王国が滅ぼした国の一つ、多くの死者が出た戦争だよ。戦争孤児とも言うのかな。僕がまだ駆け出しの冒険者だった時だね」



 部屋の中がさらに重い空気になった。

 ナナリーが咳払いをして空気を変えようとする。



「で。保護されたのは解りましたけど。魔法使いがいる理由はなんですの」

「殺人者を探して欲しいでござる」

「そんなの身内で解決しなさいな……」

「相手は魔法使いでござる」



 暫く前から、里の人間、この場合は人狼を含むが殺され始めた。被害者は子供、女性、時には、力の強い人狼も殺された。

 里で解決しようと探っていたが、相手は、見つからず。最後の殺人現場にあったのは、壊れた魔法使いの杖だけ、と説明してくれた。


 サブロウは壊れた杖を三人に見せる。

 折られた杖を確認し始めるロキ、ナナリーに手渡し、ナナリーは確認した後にカレンへと手渡す。


 

「確かに、ドルイドの加護を受けていた杖ですわね」

「殺された、我の妻が持っていたでござる。その手がかりを探して欲しいでござる。人狼は魔法使いには弱いのでござる」



 どんよりとした空気にロキは頷くしかなかった。

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