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27 某は侍でござる

 馬車に乗る三人。馬車と言ってもホロ付きの豪華な物ではなく、サイズは大きいが簡単な作りの荷車と、馬が二頭繋いでいるだけどの品物だ。

 荷車には、隣町まで運ぶ荷物と共に、ロキ達三人が座っていた。歩くより、およそ三倍ぐらいの速さで進み、日暮れ前には次の街へいける計算である。


 ロキは荷台に座ると静かに目を閉じていた。寝ては居ないが、する事も無いので体力を温存しているだけである。

 荷物を挟んで横にいるカレン。ぐったりしながらもロキに声をかけた。



「師匠。そうは言っても、暇ですね」

「暇で結構、次から次に問題事が起きても僕が困る」

「ナナリーさんも、寝ちゃってるし……。それにしても良かった。ナディ君と最後に会えて……」



 ロキはカレンの言葉に否定も肯定もせず、ナナリーを見る。

 買って来たお土産に埋もれて、静かな寝息を立てている。

 道は整備されている物の、土や砂利が多い。馬車と言えども振動が激しく時折、荷台が中に浮く。 



「この振動の中、凄い」

「彼女も冒険者だったからね。僕よりも数十倍以上色んな経験を積んでいる。寝れる時には寝て置くという習性かな」

「ファルマさんとも、お友達でしたもんね……」



 先ほど別れたファルマ、その年齢は八百歳。その人と友達であるナナリーも、少なくても八百歳以上である。

 二人の間に静かな間が生まれる。ちなみに、馬車を動かしている運転手には後ろの声は聞こえない。



「師匠。何か、お話してくださいっ」

「……。唐突だな君は」

「いやー。暇で」

「所で、カレン、君は魔法の一つでも出来るようになった? 僕が留守中に打てるようにと、ミナトに頼んで来たんだけど……」

「えっ。いやー……。あっ。そうだ! 魔法球の練習してたんですよ。師匠の時と違って外から内側に球を作る練習で」

「で。出来た?」

「ナディ君に手伝って貰ったんですけど、ナディ君の魔法球を潰しちゃいました」

「それは、凄いな。落ち着いたら確認しよう」



 暫くはロキと魔法の事で話し暇を潰すカレン、段々と眠くなってきたのだろう、何度も欠伸をし始めた。

 ロキは、その様子を見て少し体を休めたほうがいいと提案し、カレンを横に寝かす。


 一人になったロキは景色を眺めた。

 木々が増え森にはいる。

 視界が悪くなり、日の光も木々に邪魔されて馬車に影を落とした。

 ロキの視界に、青い影がチラチラと見えるようになった。念には念を入れて周りを素早く見始める。


 道は一本道で、周りには木々しかない。次の町までも、まだまだある。

 この辺には山賊情報も無く、比較的安全なはずだ。と認識していた。

 

 ロキの思いと一致したように、馬車のスピードが落ちていく。

 そしてゆっくりと止まった。

 馬車を操縦している男性が、後ろに座っているロキに小さく話しかけた。

 黙って聞いていたロキは頷くと、たぬき寝入りしているカレンに声をかける。



「カレン。問題が起きた」

「お早うございます師匠。問題ってなんです」

「あれ」



 ロキは黙って、道の先を指差す。狼の顔を持つ人型の獣人、人狼、別名ワーウルフ。

 魔物と呼ばれないのは明白、彼らは人語を理解するからである。

 この国では人狼は珍しく隠れ里にひっそりと暮らしていた。


 今目の前にいるのは、青い髪に青い体毛を備えた人狼。上半身は何も着ていないが下半身はズボンをはいていた。腰の部分に細長い刀を鞘にいれていた。


 刀。剣に似て非なる物。刀身は薄く、剣による叩き割る性質よりは、斬るに特化した物であり扱いも難しい。


 ロキ達を見ると、片膝を付いて敵意が無い事を示す。

 カレンが慌てていると、僕が話を聞こう。と、ロキが前に出た。



「我の名は人狼、サブロウでござる。偉大なる魔法使い。その力を借りたく、この場に来たでござる」

「ロキ様、そんなの無視して帰りましょうに」



 ロキの背後から、いつの間にか起きていたナナリー。欠伸をしながらロキとサブロウを見ていた。

 サブロウは、一度ナナリーを見ると。狼のように飛びでている口を開き喋る。



「忌まわしき蛮族には話していない。我は今、偉大なる魔法使いと話しているでござる」

「何が、蛮族ですか。人間と共同する事を拒み、人間が育てた物を奪い、時には人を攫う。言葉が通じるだけの畜生とは、まさに人狼ですわ」


 

 牙をむき出して威嚇するサブロウ。腰にある刀に手を伸ばす。



「ナナリーっ! 僕は別に喧嘩をしたいわけじゃない」

「これは。ロキ様を思っての発言です」

「で、話とは……。受ける受けないかは聞いた後で決める」



 サブロウは、ナナリーから視線を外してロキをみる。立ち上がるサブロウの背は高く、ロキを見下ろす形となった。

 馬車の荷車の部分からカレンが飛び降りると、ロキとサブロウの間に割って入った。


 カレンの身長はサブロウよりも少し大きく、その大きさからサブロウが一歩後ろに引いた。



「師匠、良く解りませんが。師匠を担いで逃げるぐらいは出来ますっ!」



 自信いっぱいに言うカレン。直ぐにナナリーの声が聞こえた。



「あら、私は残されるんですかね」

「え、いや。あの……。ああ、馬車を運転するおじさんもそんな顔で見ないでっ」



 困った顔をし始めるカレン。サブロウが苦い顔になると口を開く。



「訳は此処では話せないでござる」

「ふむ、断ったら?」

「いたしがた内、全員を殺してでも、偉大なる魔法使いを里に連れて行くでござる」



 サブロウが、刀の柄に手をかける。ロキ自身は戦えても、魔法が使えない魔法使いと、一般人である馬車の運転者。それに、少女の姿のナナリー。全員が無傷とはいかない。

 ロキは溜息を着くと、わかったよと短く伝えた。


 

「二人とも、先に帰ってく――」


 

 ロキが、サブロウに承諾し、後ろを振り向いた時には。カレンもナナリーも付いてくるマンマンで身支度を終えていた。



「何してるの……?」

「何って、ロキ様一人で危険の巣窟に行かせる気はないですわ」

「わたし一人帰っても。帰りぐらい皆一緒で帰りたいです」

「二人とも居ない方が僕としては……。いや何でもない」



 途中で止めたのは、ナナリーとカレンが白い眼で見ているからである。

 それに、反対した所で、帰るつもりの無い二人を見て、溜息を着くとサブロウに向き直るロキ。



「と、いうわけで。僕を連れて行くなら二人ほどオマケが居るけどどうする?」

「ぐぬぬ……」



 両腕を組んで考えるサブロウ。答えが出るまで暫くは掛かりそうだった。

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