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26 出発日

 ベッド上で、眼が覚めるカレン。

 天井を見て、何処にいるのか一瞬迷った。

 粗末な棚に使い込まれた机。しかし、どれも丁寧に掃除されていて、ホコリ一つ無いのが見て解った。



「ああ、そうか。ルーカスの町にいるんだっけ……」


 

 昨夜は、若い夫婦が経営している宿に泊まると、食事を取り、直ぐに寝た。

 部屋は二つ、男女に別れ、取ったのを思い出すカレン。

 自然に出る独り言。隣をみると、薄い毛布を跳ね除け、イビキをかいているナナリーが寝ていた。



「ナナリーさーん。朝ですよー」



 ナナリーのほっぺをプニプニと突くカレン。柔らかい感触が指先に伝わると、自身のと比べ始める。

 私のは硬い。そう一言呟くと、ナナリーのほっぺを連打し始めた。ナナリーの眉間にシワが出来はじめ、パッチリとした目が大きく見開く。



「痛い、痛いですわっカレンさん」

「ご、ごめんなさい。あまりにも柔らかくて……」

「まぁ、そうでしたの」

「私には持ってなかったので、つい、羨ましいというか」



 ナナリーは、欠伸をすると着替えを始めた。薄いレースの肌着を脱ぎ、厚手のワンピースを着込み始める。



「あら、わたくしに取っては、カレンさんもその大きな胸が羨ましいですわよ」

「これ、うーん……。肩は凝るし、男性は変な目でみてくるし。あっ」



 何かを思いつくカレン。着替えの終わったナナリーが、不思議そうに尋ねる。



「どうしましたか」

「いや、師匠はあんまり変な目で見てこないなーって」

「そうですね。最近、思い始めてますの。もしかしたらロキ様は……」



 悲痛な顔になるナナリー。続きが気になり少し前のめりになるカレン。



「もしかしたら?」

「ええ、不能なんじゃないかと」


 ナナリーがが言う不能。いわゆる男性としての生殖器が機能しなく、性的に興奮する事は無いという意味である。

 最初は言葉の意味が解らなく固まるカレンであったが、小さく不能、不能と呟くと通じたのだろう。顔を赤くし始める。

 


「考えても御覧なさい。以前から、わたくしが毎夜、毎夜アプローチをかけるのに袖にして。尚且つ、わたくしとは正反対な体を持つカレンさんっ。貴方の胸や身長でも、ときめいた様子は無い。不能、ザ――」



 ナナリーが最後まで言い切る前に、部屋の扉が強打される。

 直ぐにロキの声が聞こえてたきた。



「うちの弟子におかしな事をいわないでくれ」

「あらロキ様。今開けますわ」


 ナナリーが、パタパタと走ると扉を開ける。

 ロキの顔が現れ、諦めに似た顔をして溜息を付く。



「朝食の準備が出来たから起しにきたんだけど。外まで聞こえた。それと……。ナナリー、君。知ってて開けたよね?」

「何の事がわかりませんわー」



 棒読みのナナリー。カレンは、師匠であるロキに、お早うございます。と元気いっぱいに言う。

 ロキは目線を合わせないように、おはよう。と短く挨拶すると、次の言葉を口から出した。



「人前に出る時は、もう少し厚い服を着たほうがいい。じゃぁ僕は下に行くよ。食事出来てるらしいから」



 ロキは扉を閉めると、直ぐに去って行った。

 廊下を歩く音が室内に響くと、カレンは自分の姿を見る。

 昨夜、ナナリーに無理やり着せられた。大人用のレースのネグリジェを着ていた。ナナリーが着ていたのと同様、スケスケであり。胸の部分も丸見えである。



「あら。どうされましたカレンさん」

「ナっ……ナナリーさんっ!」

「ほら、早く着替えませんと」

「知っていて開けましたねっ!」

「ロキ様の反応を見る限り、不能ではなさそうですね。では、お先に着替え終わりましたので食堂にいきますわよ」



 カレンが赤い顔をしている時から着替えていたナナリー、直ぐに部屋から出て行いった。

 赤い顔のカレンは急いで着替えをし始める。

 カレンが一階に降りると賑わっており店内は狭く感じた。辺りを見回しロキとナナリーを探す。外にあるテラスに、二人は座っていた。


 カレンが席に着くと若い女将が次々に料理を運んでくる。

 野菜や炙った肉を挟んだパンに、野菜がふんだんに使われたスープ。デザートに柑橘系フルーツを三角に切った物まで並んでいた。

 覗かれたロキに文句の一つでも言おうかと思っている所、ロキが何かを取り出して居るので興味本位で聞いてみた。




「うわー、美味しそうって。師匠なにやってるんです」

「ああ、これ。日課というか……」



 ロキは、腰のポーチから丸い弾薬を出すと一口でそれを飲む。臭ったのか隣にいるナナリーが、鼻を摘む。



「ああ。ナディ君に飲ませた奴……に似てますよね」

「そう。健康には良いんだ。そこ、別に匂いはないはず」



 カレン達は、食事をしながらロキから今後の予定を聞く。



「さて、一日たった訳だけど、やはり僕達に出来る事はないし帰るべきと思う」

「わたくしは元々ファルマを助ける為に来たわけですから。ロキ様に意見に従いますわ。この町でナディさんが回復するまでまってもいいですし、その場合、三人の愛の巣である家を購入しませんといけませんわね」

「とりあえず、カレンの意見を聞こう」

「あら、ロキ様。わたくしの突っ込みは無しですか」



 カレンは、昨夜思っていた事を口に出す。



「やっぱり、ナディ君は置いて行くしかないんですか……」



 食後に出された紅茶を飲みながら、ロキは静かに喋る。



「それしか無いかな。彼の家へは手紙を出してきた。冷酷かもしれないけど僕らが此処に居てもどうしようもない。魔法使いを諦めるかもしれないし、ナディにはまだ先がある、僕らが近くにいる事で彼の精神が落ち着くとも思えない」

「それじゃ、あの、最後に会ってから帰りませんか?」



 首を振るロキ。



「やめておいた方がいい。ファルマにも先ほど後を任せておいた」

「何時の間に……」

「少しだけ早起き出来たんでね。特に用事が無ければ……」



 今にでも出発しようとする案を出すロキ。ナナリーが反対意見を述べた。



「ロキ様。折角ですしお土産が欲しいですっ」

「お土産……?」

「ええ。師たるもの、旅行に来たらお土産ぐらい買うべきと思います」

「そういうものかな……」

「ええ。カレンさんだって、何か欲しいですよね」



 二人の視線を受けたカレン。別に欲しい物はないと思ったが、テーブルの下でナナリーの手がカレンの太ももを叩いていた。



「えっ。まぁ、そうですね……」

「わかった。それじゃ昼まで買い物して、そこから馬車で移動しよう。定期便があるはず」



 ロキは、ナナリーに引っ張られ。町の中心部で賑わう雑貨屋へと連れてこられた。

 では、いってまいります。そう言い残すと、ナナリーはカレンを引っ張って消えていく。


 余ったロキは近くの店へぶらりと入った。カーメル町特有のお土産などが売っている店で皮袋が大量に並べてある。

 ロキはその一つを手に取り商品を見ると、ファルマ砂丘の砂とかかれて居た。棚に戻し外に出ようとすると、スキンヘッドの店主に肩を捕まれる。以下に凄い砂なのかを説明し始めた。


 ロキが時間を潰している間に、ナナリーは、大きなカレンの手を引っ張り、あっちこっちに回る。

 元々豪遊する気も無かったカレン。何も買わないで見ていると、とうとうナナリーが、買ってあげます、いえ、無理やりにでも買いますわっ。と共にカレンへのお土産を買いまくる。


 結局予定時間が来た時には、ロキは砂の入った皮袋が三つ。ナナリーは小さなリュックが一つ増えていて、カレンは大きなリュックが三つほど担いでいた。



「随分買ったね……」

「私は何一つ買ってないんですけど……、ナナリーさんが」

「良いですのよ。聞けば服も余り無いと言ってましたし、ドーンとわたくしにお任せください」

 

 三人で、馬車乗り場まで行くと、突然。遅いっ! と、行き成り声をかけられた。

 振り向くカレン。小さく口を開けると、次の言葉が出るのに暫くかかった。



「ナディ君……」

「なんだなんだ、その顔は。天才であるボクに挨拶も無く帰るのかっ!」

「いや、でも……」


 

 顔が少し腫れているのは、ずっと泣いていたのだろう。今は怒った顔をしながらカレンへ、話すナディ。

 直ぐに、ロキのほうへ向いて、深くお辞儀をした。



「先生。勝手な事してすみませんでした。でも、ボク、もう一度頑張ります、先生が置いていってくれた杖に似合うような魔法使いになりますっ、だから……。もう一度チャンスを下さいっ」

「わかった。待ってるよ」



 弟子は取りたくないと散々言っているロキが、何も拒絶する事なくナディの思いを真正面から受け取り返す。

 ナディの後ろでは黒いワンピースを着て眼を布で隠したファルマが微笑んでいる。その手には、装飾が付いた杖が握られていた。

 ナナリーが、その杖を見て関心した声を出す。



「上級者用の杖ですわね……。お値段も上級者と思いましたけど」

「先生達が何時出るか解らないから、朝から待ってたっ」

「それはそれは……」

「だからっ。カ……」



 ファルマが上級者用の杖で、ナディの頭を叩く。頭を抑えてもう一度喋るナディ。



「カレンっ。お前より先に、今までよりも大魔法使いになるから、その、なんだっ。気にするなっ」



 ナディが宣言すると、カレンはナディの体を包み込むように力一杯抱く。



「うん。待ってるよ。一緒に魔法使いになろうねっ」

「あの……カレンさん。感動中に申しわけないのですが、ナディさんが」



 カレンは抱いているナディを開放すると顔を見る。青い顔をして焦点が合っていなかった。力一杯抱く物だから、窒息状態になり意識が飛んでいた。



「うわ。ちょっとっ。師匠っ! ナディ君がっ」

「あらあら。大丈夫、わたしの血を飲ませれば直ぐに」



 ファルマが自らの指をナディの口に突っ込むと、青い顔に生気が戻ってきた。


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