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24 バジリスクの毒

 夕暮れとはいえ砂丘はまだ暑い、その場に崩れ落ちるように倒れたナディ。

 今は荒い息をしながら、汗を大量に噴出している。

 直ぐにロキはナディをその場に寝かしつける。顔や喉の奥、時には瞳を覗き込むようにしてナディの体を診察していく。



「師匠、わかるんですかっ!」

「医者ではないからね、はっきりとはわからない。魔力の欠乏に似てるかな。そういうのは休息をすれば落ち着くんだけど、それとも違う」

「せん、せい……。ご、ごめんなさ」

「ああ、喋らなくていい。何ポケットに何が入っている?」



 ナディはポケットから石の欠片を取り出し三人に見せた。それはカレンが粉砕したバジリスクの眼の欠片で。本来は全部薬になっていないと行けない筈だった。



「なるほど……」

「コレがあれば、ボクも、もっと魔力が高くなると……」

「もしかしてナディ。出来上がった薬も味見した?」



 小さく頷くナディに、ロキは深い溜息を付く。直ぐにナナリーに指示をした。



「ナナリー、ごめん。丸薬を飲ませるからアレお願いできるかな?」

「いたし方ありませんね」



 ナナリーは小さなナイフを出すと、自らの手首に当てて真横に引く。付けられた傷からは血が流れ落ちていく。



「え、えっ!?」

「カレン、驚いてなくていいからナディを押さえつけて欲しい。僕は間に合わせだけど薬を飲ませる」

「うわ、師匠変な色してますけど、なんですかそれ」

「僕特性の薬」

「何と言いましょうか、ロキ様のその薬は。生臭い魚を三日三晩漬け込んだ後に、チーズと塗って、最後に油で揚げたような味がします」

「うわ……」

「別に口の中に残るわけじゃないし、効果はあるんだ。それとナナリーの、ハイエルフの血をナディに飲ませる。吐きだすと困るからナディを押さえて欲しいってわけ」



 カレンが解りましたというと、ナディを押さえる。ナディは苦しいのか抵抗はしない。半端うつろな眼で辺りを見ている。

 ロキがその丸薬を口にいれナナリーが自らの手から血を口の中に入れる。直ぐにカレンは顎を抑えた。

 先ほどまでぐったりしていたナディの体が痙攣し、吐き出そうとしている。

 無理やりに飲ませると、とたんにぐったりとし始めた。



「さて……。困ったな」

「はーい。師匠」

「なに?」

「う、そんな怖い眼で見ないで下さい。もう一度ファルマさんの町へ行くとか」

「ああ、歴史が変わったはずだし。もう一度同じ時間軸につけるとは限らない。それにあれ実は狙った過去にはいけないんだ。今回うまく行ったのは、ナナリーがいた事と、前に飛んだ時に下準備がして合ったことなどから。二度とあの場所につけない様に僕は目印を壊してきた」

「そんな……」

「よし、町に帰ろう。僕は荷物を持つからカレン。悪いけどナディを背負ってくれるかな」

「了解しましたっ!」



 断言すると、ナディの体を簡単に持ち上げるカレン。

 足場の悪い砂場を三人は小走りに歩く。

 不安な顔のカレン。先ほどの薬の事を尋ね始めた。


にロキは、走りながらカレンへと説明し始めた。


 

「師匠、一応聞いてみていいですか、さっきの薬の材料はなんですか? ナディ君寝てるみたいなんですけど」

「薬草とレッドスライムの粒にゴブリンの爪、それに野ウサギのふ……。まぁそんな所」

「わかりましたっ。でも、師匠っ。私にはソレ絶対飲ませないで下さいね!」



 断言すると、ナディの体を簡単に持ち上げるカレン。

 足場の悪い砂場を三人で必死に走る。

 不安な顔のカレンにロキは、走りながらカレンへと説明し始めた。



「その、直るんですか……?」

「バジリスクの毒。本当に直るんだったら、薬をもって過去に飛べば解決したよね」

「あっ」



 ロキは、事実を言う。

 現在でバジリスクの毒が治療できていれば、バジリスクの眼、それも神祖の眼を過去にもって行かなくても出来上がった特効薬を持っていけば解決したのだ。

 それをしなかったという事は、ロキの知る限り薬は無い事になる。

 ロキは今は氷で固めたバジリスクの眼の欠片を見て溜息を付く。



「過去に持って行く分にはよかったんだ。でも、向こうで新しく出来た物体を持って帰ってくる事はリスクが大きい……」

「そうですわね。恐らく、毒が直ぐに発症したのはそのせいかと思います。可能性は低いですが、先ずは魔法ギルドに急ぎましょう。もしかすれば治療できるはずです」

「現代でも直せない毒を直せるんですかっ!」

「ええ、わたくしの親友が、まだ町に居れば何とかなると思いますわ」



 門兵へと身分証を見せ、直ぐに魔法ギルドへと向かう。場所はナナリーが知っていた。

 ルーカスの町では珍しく窓が付いており、外からは室内がわからないようになっている。

 ナナリーは直ぐに扉を開け中へ入る。



「急患ですわっ。誰かいませんのっ」



 直ぐに返事が返ってきた。



「おや、懐かしい声ね。いらっしゃい」



 腰まである黒髪を束ねた、見覚えの在る女性が笑顔でロキ達をみた。

 カレンは見知った顔に驚き、ナディを落しそうになる。



「ファ、ファルマさんっ……」

「久しぶりっ! 八百年ぐらいかしら」

「お、お久しぶりです。えーっと……」



 何でここに? いやそれとも。元気に答えるファルマに、どう接していいかわからないカレン。ロキが横から出てくると、当たり前のように話を進める。



「ナディが倒れた。魔力が零れ落ちる症状。現代に戻ってきて着てすぐ。恐らくバジリスクの毒。かけらも、ここにある」

「あらあら。直ぐにこっちの台に」



 相変わらず、眼の部分を布で隠したファルマは、見えているかのように指示をだす。

 直ぐにナナリーに、本日の営業を終える看板を出すように命令すると、駆け足で奥へと進んでいった。

 

 奥の部屋には、棚が置いてあり、様々な物が無造作に並んでいた。ファルマの家で見た研究室に似た作りである。

 ベッドの上にナディを寝かすと、直ぐに診察を始めるファルマ。

 目の確認、舌をさわり、胸に手を当て鼓動などを聴いている。

 ズボンを下ろそうとした所で、ナナリーは咳払いをする。



「あら、怖いナナお婆さんがいるから、ズボンはそのままにしましょうか」

「ファルマ、貴方ねぇ」



 軽く言うファルマ。

 ポケットから、ナイフを取り出すと自らの指を切り出した。赤い血がファルマの指からポタポタと零れ落ちる。



「辛いのだろうね、わたしの血。飲めば少しは良くなるよ」



 開いている口に人差し指を突っ込むファルマ。

 暴れだすナディの体をカレンが必死に抑える。

 必死に逃れようとするナディであったが、段々と抵抗は無くなり、ゆっくりと寝息を立てていく。

 治療を終えたファルマが、溜息を吐くと、改めて、お久しぶり。と挨拶した。



「はいはーいっ。ナディ君の症状と、ファルマさん、なんでここに……。八百年前に別れたんじゃ……」

「答えは、貴方達がもってきた、バジリスクの眼。あれで出来る物は何でしょう?」



 人差し指を立てて笑顔を見せるファルマ。行き成り質問されたカレンが、戸惑うも答えを言う。



「何でしょうって。薬ですよね。それでバジリスクの毒を治したわけですし」

「半分って所」

「わたくしから説明しましょう」



 ナナリーが寝ているナディの頭を優しく撫でながら喋りだす。



「バジリスクの中でも。祖の眼、それが二つも使った薬は、人間を超える力を得た。そうですわね」

「えーっと、師匠……」



 話を振られたロキは、簡単に答えを出す。



「ようは不老不死だよ」

「ええっ!」

「私の体液は、ちょっとした万能薬って所。実際この血で町を助けたし、あっコレは今の時代じゃ内緒ね。ばれたら殺されちゃう」

「えっ、不老不死じゃないんすか?」

「実際には、ゆっくりと老化してるし不老って部分だけね。首を落とされたり、重要な器官が潰れさりしたら、死ぬ時は死ぬわよ。ナナリー達には感謝してるわ、助けたい人々を助けられた」



 話が一息つくと、今度は飲めるお茶でもご馳走するわ。と、棚からポットとカップを出す。カップには血のように赤い液体が入れられて、近くのテーブルへと並べられた。



「なんとも、飲みにくい色ですわね」

「あっはっは。血ではないよ。葡萄酒の一種。そんなに強くないから、可愛い魔女、いえ魔法使いさんでも飲めるわよ」



 カレンは一口飲むと、言葉の通り、葡萄の甘みが口の中へ広がっていくのが解った。

 ナナリーとロキもカップに口を付けていく。

 


「で、ナディは治るのか?」



 ロキはカップを置いて静かに聴いた。

 カレンは、ナディは治る者と思っていただけに、ロキとファルマを交互に見る。

 そうさねぇ。とファルマが答えを口に出した。

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