23 魔女の秘薬
血清、毒を治す薬の事だ。
カレンから見ると、ロキが作ると断言してから、ファルマの回りの部屋の空気が変ったきがした。
ファルマは口を開きかけ閉じ、もう一度開けた。
「それは、わたしが、この時代のナナリーに頼んでいた物に間違いは無いのかな?」
「ええ、間違いありません。見つけるまで八百年ほど掛かりましたけど、約束通り。届けに来ましたわ」
小さいナナリーが、はっきりとした口調で喋る。
感動する場面であるが、ナディが指を折り何かを数えている、一本指を折る事に百歳と数えている事からナナリーの年齢と思われる。
無言でナディ腹を辺りを叩くナナリー。ミゾに入ったのだろう、小さい悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちた。
「ナディさん。レディーの年齢は数える物ではありませんよ」
ファルマは、クスクスと小さく笑うと、ナナリーに向き合う。
「少年。こっちにおいで。ナナお婆ちゃんは怖いからね」
「ナディさんの話を混ぜないでくれますか? エルフは長寿なんで、まだ、わたくしは、まだピチピチなんですっ」
ファルマはベジリスクの眼を一つ、ナディに持たせる。
ナディはその眼を探るように見ていた。
「ボクが持って来たとはいえそんな珍しい石だったんですね」
「そうよ。誇っていいわよ。では研究室に行きましょう」
奥の扉をあけると、地下へと続く階段が現れる。
ファルマを先頭にして地下へと進む五人。壁には魔石が埋め込まれており歩く場所を先回りして照らしている。
小部屋に着くと、驚きの声を上げるカレンとナディ。
研究室の中には様々は道具や、紐で結ばれている羊皮紙。小分けにされた氷や小瓶などが陳列されていた。
カレンは、その氷を眺めると小さい悲鳴を上げる。
「師匠っ! この氷の中、何か動いてますっ」
ロキは、その中身を確認する。
「ゴブリンの……内臓だねこれ」
「生命力が強いので、こちらにはハイエルフの生き血もありまよ。本当は腕の一本でも貰いたかったのですけど、拒否されちゃって」
クスクスと笑うファルマにナナリーが反論する。
「当たり前ですわっ」
「うわー。これナナリーさんの血なの」
「ええ。人の血を何だと思っていたんでしょうか」
「んー。薬」
「はいはい。では作りますわよ。何をして言いかわからないので指示してくださいませ」
ロキ達は、ファルマの支持通りに動く。
ナナリーは自らの血を抜いたり、ナディは氷付けにされている素材を接せと運ぶ、ロキが素材をの分量を計り、ファルマが魔法で出した黒い炎で溶かしたりしている。
その間にカレンは、巨大なハンマーでバジリスクの眼を力技で粉々にしていた。
「なんで、私だけっ。力仕事っ!」
「そうおもうなら、魔法の一つでも使ってみるんだな」
「うわー、ナディ君酷いっー」
「酷いも何も。かけら吹き飛ばすなよっ、それ一つで凄い魔力あるらしいから」
「そんな事しませんよーっだ」
ナディが来てかけらをもって移動し始める。ファルマは受け取った欠片を今度は粉にして、先ほどまで作っていた液体へと流し込む。
最後に煮詰めて完成であった。
出来上がった液体は銀色に光っている。
「出来た」
「出来たって。ファルマさん、こんな簡単に作れて良いんでしょうか。それに師匠、これで解決するんですか。余りにも少ないですけど」
カレンの言うとおり、簡単に出来たし、出来上がった液体はコップ一杯分しかない。
大きな町全体に使うには余りにも量が少ないのだ。
「お前な。材料に見て物言ってるのか。どれもこれも物凄く凄い物なんだぞ。ユニコーンの角やゴブリンの内臓、あと珍しい葉も何か使ってますよね」
「お、少年はわかるのね。そうね、世界樹と呼ばれてる葉も使っているわよ」
「なっ、世界樹って! 枯れたんじゃ……」
「ナディ、それは僕らの時代の話。この時代では枯れては居ないよ」
「枯れそうだけどね」
ロキはちらっとナナリーを見て話をかえた。
「さて、うちのカレンが疑問に思うのもわかる。量はこれで大丈夫なのかな。井戸に入れるとしても量が少なすぎる」
「心配してくれてありがとう、可愛い魔女さんにロキ。でも安心して、数日後に、わたしがこの薬を飲んで。こっそりと血を井戸に垂らせば、効果は広まり毒も中和されると思うわ」
「そうなんですか……。それ以外は方法ないんですか?」
「血以外でも、私の体液ならなんでもいいのよ。よだれや、おしっこでも良いんだけど、井戸に入れるのは気が引けるし」
思っていも居なかった答えを聞いて、驚き、顔を赤くするカレン。
「僕の弟子をからかわないでくれ」
「本当の事なのに……。血液が一番効率がいいってわけよ。原液を流すには強力すぎるし、わたしの体の合うように作ったからね」
小さく、わかりました。と頷くカレン。ロキは座っていた腰を上げて全員を見回す。
「そうだろうね、さて。僕らはもうそろそろ帰ったほうがいいだろう」
「ふええ、もう帰るんですかっ。来たばっかりですけど、ついでですから観光とかも……」
「可愛い魔女さん。手伝って貰って追い返す訳じゃないけど。時間の流れが違うのよ。此処にいる時間と貴方の時間。貴方た達はいま通常の十倍で老化してると思うわ」
「ファルマさん。お邪魔しました。早く帰りましょうっ!」
カレンの変わり身の早さに、ファルマがクスクスと笑う。
「そんな直ぐ直ぐお婆さんにはならないわよ」
「そうなんでしょうけど……」
「でも、皆本当にありがとう、もうこの場所では会うことは無いけど感謝するわ」
「こ、こちらこそ。貴重な体験ありがとうございます」
「ボクは着いてきただけだ」
「わたしくし貴方との約束を守りに着ただけですわ」
「まぁ、僕は門を開けたぐらいしか役に立ってないけどね」
「ロキ様、それが一番大事なんですけど……」
ナナリーの突っ込みに、ロキ以外の人物が笑い会う。
カレンとナディは別れ際に握手をしようとしたら手がすりぬた。
ロキとナナリーは普通にファルマと握手をし、その家を後にした。
ナナリーの案内で、元の場所まで戻ると。ロキが地面に魔方陣を書き始めた。
来た時と同じように半透明の門が現れる。
扉を開けると、夕暮れのファルマ砂丘が切り取ったように扉の先にある。
ナナリーが、お先に。と言い消えていく。
「師匠は行かないんですか?」
「僕は全員が戻った後に、戻るよ」
「ではっ」
カレンが、扉を抜けると、ナディが続けて砂丘にもどる。最後にロキが扉からでると扉は消えて行った。
ナディの体が震え始める。ナナリーが心配し声をかけようとしたその時。
「ナディさん、どうがしまし――」
ナナリーが全て喋る前に、ナディは砂の上へと倒れ、意識を失った。




