18 湯船の中
二時間かけて村へと戻り冒険者ギルド前まで戻る二人。
スライムの液体が衣服や肌について乾いており異臭を放っている。
「おー。ご苦労さまだべ」
「ジョンさん……。知ってましたよね?」
「オラ、何のことがさっぱりわからねえだ。で、岩を退けた先に何があったべかさ」
「あのねー……。スライムの大群でしたよ、一応全部倒したので、後で確認してください。あと依頼である大岩は、壊しちゃったので」
「まぢか……。いやーさすが、魔法使いだべ。あのスライムを全部倒すとは、いやーたまげたたまげた」
「もう一度聞きますけど、ジョンさん。洞窟奥にスライムの大群いるの知ってましたよね?」
「オラ、まったくしらねえだ」
カレンは、深い溜息を着くと、もういいです。と、短く喋る。
「所でボク達の荷物は回収してあるんだろうな」
「ああ、んたら事か。携帯食料など食い荒らされているがあるっちゃあるべ。テーブルの上にあるべ、確認してべさ。その間に、湯わかしてやんべさ」
ジョンの言葉にカレンが聞きなおす。
「湯?」
「んだべさ。あんたら、ちょっと。いや、かなり臭いべ。なーに、別に湯代を取ろうって事はねえべさ。いやーまさか全部倒してくれるとは儲けもんだべ……」
最後は一人事になりながら離れていくジョン。残った二人はお互いに溜息を付いて冒険者ギルドの小屋へと入った。
説明された通りにテーブルの上には荷物が並べられていた。
一つ一つ確認する二人。多少の道具と携帯食料だけが被害としってほっと息を吐くと、鼻を摘んだジョンが小屋へと入ってくる。
「おったおった。湯沸いたべ。わりいが他のもんが農作業から帰ってくる前に入ってくれっべか」
「えーっと、あとどれぐらい?」
「そうさなー。二十分って所べさ」
カレンの質問に、時計を取り出し答えるジョン。
「ちょっとっ! 二十分って直ぐじゃないっ」
「わりいべさ。でも、あんさんら入った後に湯を抜いて洗わんと、次の湯張れないべ。我慢してくれべさ。湯は此処をでて川沿いの三つとなりの小屋だべ、煙突があるから直ぐ判るべさ。わしはその間に此処を掃除するべ」
「たっくもう。しょうがないわね。えーっと着替えはコレとコレ、あ、コレもいるか。ほら行くよ。ナディ君」
「は? おい、ちょっと……。ひっぱるな」
カレンは説明を受けた場所へナディの手を引っ張り歩く。
直ぐに建物は見えてナディの背中を建物に入れると自らも入り鍵をかけた。
「おいっ!」
「何?」
「な、なんで、その……。一緒なんだ」
「いや、だって後何分?」
「えーっと十八分ほどだな」
「だったら、二人で入らないと時間ないじゃないの」
「ボクはいい。お前一人で入れ」
「私はいやよ。隣が臭いとか」
会話の間にもカレンは服を脱ぎ始める。既に下着姿になっており、ナディはそれを見ないように下を向いている。
「馬鹿、お前。男と女が一緒にだな……」
「あーっ。なんだ、そういう事か。師匠なら兎も角。実家でも弟と一緒に入っていたら平気よ。ほら早くしないと時間がないんだってばっ」
「こら、ひっぱるな。やめっ」
直ぐに全裸にされるナディ。カレンも最後の下着を脱ぐと浴室へと入った。
大人が六人ほど入れる広さで、床や湯船は石で出来ていた。近くにある桶を掴むと直ぐにお湯をすくう。
お湯の温度を確かめると頭から被る、今だ浴室に入ってこないナディの手を引っ張り強引に浴室へ連れ込むと、ナディの頭にもお湯をかけて行った。
「あっついっ!」
「そんな、熱く無かったわよ。ほら。えーっと、石鹸はこれね。そこの体洗う奴とって。目つぶっていたら、取れる物も取れないわよ……。もう」
数分後、湯船に入るカレンと、湯船に入れられたナディ。
相変わらず固まっているナディを先に脱衣所に戻すと、慌てて着替えをし始めた。
カレンはその後にゆっくりと着替えをして外にでる。
ギルドに戻り、ジョンへお礼を言うカレン。
「ありがとう、ジョンさんいいお湯だったわ」
「んたべ、それはええが。あんたら二人ではいったんか……」
「ええ、時間もなかったし」
「はー……。そっちの魔法使いは川で洗うもんかとおもっていたべ」
ジョンの話でいくと、女性であるカレンが小屋のお湯を使い。男性、正確には男の子のナディは川で体を洗うものと思っていたらしい。戻ってくると二人とも体から湯気が出ていたので質問したと。
「あー。そんな手もあったわね」
「お前なー……、それだったらボクも気兼ねなく」
「いやーえかったなぁー坊ちゃん。そったら綺麗な女性と一緒に湯浴みとか、普通はお金とられるべさ」
「もう、綺麗で美人だなんてっ!」
カレンは近くにいたジョンへ突っ込みを入れる、その一撃に崩れ落ちるジョン。
「な、ナイスファイト……」
意味不明は言葉を吐いて倒れるジョンを介抱する。
結局ジョンが意識を戻るまでは数十分を用いた。
「いやー。鍛えてるつもりべさ、若い子の一撃に倒れるとは面目ねえべ」
「ご、ごめんなさい。まさか一撃とは思わなくて」
「いいっべさ。眼が覚めた時に見えた二つの山でお釣くるっべ」
二つの山とは、カレンの乳である。介抱するのにジョンの頭を膝に乗せて濡れた布で顔を冷やして居たからだ。眼が覚めた時にジョンはどさくさに紛れて触ると、膝から頭を落とされた。
なのでジョンの高頭部には今はコブがある。
「あの、もう一度突っ込みましょうか?」
「冗談だべ。ちょっと顔が怖いべさ」
「で、話を戻しますけど。携帯食料の追加、冒険用の道具。四割引で購入って事で」
四割引きと聞いて、急に咳き込むジョン。カレンの隣にいるナディも驚いた顔をしている。
「嬢ちゃん。わしに死ねといってるべさ」
「携帯食料の単価は一つ五ゴールドです。それを冒険者に二十ゴールドで捌くんですから、まだ儲けはでますよ」
「んったらでも。それは大きな町だけの話だべ」
「これでも、違う町のギルド関係者の娘ですからある程度の仕入れ値は知ってます」
「うちは、十ゴールドで仕入れて二十五ゴールドだべ」
「それに、スライム。知ってましたよね……。最近一角ネズミが暴れだしたのも……」
笑顔で答えるカレンに、ジョンは慌てて口を開く。
「わかったべ。四割で手を打つべさ」
「さすが、ギルドマスターっ」
「今、もってくるべ。油と食料と、ああ。そうそう呼びの水袋に……」
ブツブツといいながら小屋を出て行くジョン。
ナディはカレンへと尋ねる。
「おい。一角ネズミってどういう事だ」
「いや、思ったのよ。あの洞窟って一角ネズミの巣もあったんじゃないかなって。それを封じた物だから食料も無く群れで行動し始めたのかなって、半分以上推測で確信はなかったんだけど」
「なるほどな。合ってたみたいだな」
少しするとジョンが戻って来て、必要な荷物をテーブルに置きだした。カレンは約束通り四割引で購入すると、思い出したかのように声を出す。
「あ、そうだ。ジョンさんっ」
「なんだべ。もうこれ以上は値引かないべさ」
「それはいいんですけど、これ。あの洞窟で拾ったんですけど」
カレンはポケットから黒い球を取り出しテーブルに載せる。大きさは親指ほどの大きさで綺麗な球体をしていた。
「宝石……。いや、違うべか」
ジョンは手に取り眺める、光にかざしたり。ポケットからルーペを取り出すと熱心に見ている。
「嬢ちゃん、どこにあったべ?」
「スライムの水溜りの中央」
「うーん。魔石とはおもうべ、見たとおりウチは小さい冒険者ギルドだべさ。嬢ちゃんにやるべ」
「えっ! いいの?」
「んだべ、あの池の中央にあったんじゃ、呪われた奴かもしれんし、どうすっべ?」
「うっ……」
呪いと聞いて、喜んでいた顔が半減する。
「私が貰わないと、これどうするの?」
「木箱に入れて川へ流すべ。ワシはそんな石最初からしらなかったべ」
つまりはどっちに転んでも、魔石なんて知らないで通すと言っている。
「じゃぁ、貰っとこうかな」
「んだべ。それがええべさ、序に、馬も貸し出すべ」
「本当っ!?」
ルーカスの町までは徒歩で六日ほど、大荷物のまま動くにしても馬が在ると無いとじゃ大違いである。
「その代わり、ルーカスのギルドに届けて欲しい物があるっべ」
「…………。お金取るわよ」
「もちつもたれずだべ。こんな小さなギルドからむさぼり取ろうとするっべさか」
「はいはい。で、何を届けて欲しいのよ」
「半年分の書類だべ、中々面倒で、気付いたら溜まっていたべ」
午後になり、準備の終えた二人は、ジョンに見送られて出発する事となった。




