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17 ランクC,岩を動かせ

 小さな村で強制的に依頼を受けた二人は、徒歩で洞窟の前に来た。

 意外なのは、カレンが決めた事に対してナディは文句の一つもいわず付いてきた。

 貴族でもないので時計を持っていないカレンには正確な時間は判らないが大体二時間ほどだろうと読み取っていた。



「結構あるくわね」

「二時間ほどだろう」

「私もそう思う」



 自分の読みと同じ事に感動して振り返るカレン。ナディの手元を見て固まった。

 ナディは懐中時計の蓋を閉めると、どうした? と、言う顔をして来ていた。



「時計」

「ああ、時計か。冒険者やボクみたいな上級貴族なら持っていて当たり前だ」

「私もってないっ」

「ボクに言われてもな。まぁ稼ぐ事だな魔法使いに成れば時計の一つや二つ簡単に買えるだろう」

「でも、師匠が時計持ってるの見たことない……」



 カレンは溜息を吐くとロキも不思議そうな顔をする。



「あのロキ……先生だぞっ。屋敷を買う財力もあれば、聞いた所によると家畜小屋みたいな場所に住んで居たんだろ? それよりさっさと仕事を終わらせ後を追うぞ」

「あ、ちょっとまってよ」



 二人が中に入っていくと直ぐに問題の場所が解った。

 人間と同じ大きさの岩が突然置いてあるからだ。地面には岩をひきずった後、回りにはツルハシや空になった桶などが散乱している。



「なるほど。コレを壊せばいいんだな」



 ナディが喋ると、杖を取り出し魔力を込め出す。四つの魔石が下から順番に光っていく。



「まったっ! まったっ! すとーっぷっ!」

「なんだ?」

「あの。岩を退かせって言われたけど。壊せとは言われなかったんだけど……」

「ボクよりも大きい岩だぞ。退かすのにどんだけ力を、それに退かすなら壊しても同じだろう」

「いや、まぁそうなんだけど……」

「だったら。お前がやればいい。ボクはこんな大岩を動かす事はしないぞ」

「ああ、うん。それでいいなら」



 大の大人でも数人居ないと動かす事が出来ない大岩。

 カレンはあっさり返事をすると、岩の側面に立つ、手を複数回叩くと一気に岩を動かした。

 洞窟内から腐った匂いが噴出してくる。思わず鼻を押さえる二人。



「なんだ。腐った臭いがする。おい、あれって……」

「ふえ?」



 ナディの指差す方をみると、洞窟の奥が光っているようにもみえる。

 赤、青、緑に黄色に茶色。大きさは拳位の大きさからちょっとした椅子ぐらいの大きさまで様々だ。



「ス、スライムっ!」

「ちっ、切り裂け風よっ!」



 カレンとナディが同時に叫ぶ。

 ナディは風の魔法で出てくるスライムを切り裂いていく、いそいで分裂するスライムを踏み潰していくカレン。


 スライム。低級魔物の一つでゼリー状の魔物。意思があるのかないのか獲物を体内に取り込み酸で溶かして大きくなる。弱点と言う弱点は特に無いぐらいである。潰してもいいし燃やしてもいい。一定の大きさになると体が維持できないのか地面に消えていく。一部の間では加工して薬にもなったりする初心者冒険者にとってはあり難い魔物だ。


 第一陣を魔法で薙ぎ払うと、直ぐに第二陣が奥から外に出ようとする。

 


 直ぐに岩の影から、ペッタンペッタンとリズムの良い音が聞こえるとナディの足に、ゼリー状の魔物がくっ付いた。

 ナディは再び魔法を唱えると今度は風の力で洞窟の奥へと弾き飛ばす。

 ベチャベチャと壁に当っては潰れる音を聞きながら穴をみる。先ほどよりも数が多いスライムが出口へ殺到しようとしていた。



「おいっ!」

「判ってるっ!」



 ナディの言葉に返事をするカレンは、急いで大岩で穴を塞ぐ。隙間からスライムが滲みでては地面へと吸い込まれていった。



「うわ。なんだこれっ」

「あっ、スライム。ナディ君直ぐに踏み潰して」

「言われなくてもっ!」



 二人が息を整えたのは、数分後である。

 辺りはスライムを潰した跡と、スライムから放たれる甘く濃い匂い。お互い無言で顔を見合わせる。



「どうする?」

「どうするってお前、あの量だぞ……」

「だよねぇ。断りに行こうか」



 カレンが、もっともだ。と言う顔した後に洞窟から出ようとする。直ぐに残っていたナディが大きな声を上げた。



「おい、まてっ! キャンセルするのかっ!?」

「え? だって、どうしようもないじゃない。運んで貰う私たちの荷物は交渉して買い取るしかないわね」

「だめだっ!」

「ダメだって……」

「ホーソン家が、スライムで逃げ出したって噂になったらどうするっ! お前だってギルドで言われるんだぞ。スライム数匹で逃げ出した魔法使いだっ。って」

「でも、この場合は不可抗力というか……。スライムというよりは、もうスライムキングと言うか。そもそも依頼がおかしいのよっ! あのギルドマスターこの事知ってたはずよっ」



 話しながら怒り出すカレン。ナディは溜息を着くと落ち着いた声で話す。



「怒るな」

「でもっ」

「何だったら、お前が岩を退けてボク達は逃げよう」

「あのねー……。それこそギルドでの評判下がるわよ」

「知ってる。だったら倒せばいい」

「それが出来るなら一番よね。じゃっナディ君任せたっ!」

「お前……。いくら天才魔法使いだから、ボクの残った魔力でってあの量は多いぞ」

「じゃぁどうするのよ」



 カレンは眉間に皺を寄せてナディの隣に仁王立ちする。

 鼻を鳴らすナディは、やれやれとポーズを決めた。



「その前に実験だ。ボクの杖を持て」

「はい? あの知ってると思うけど私魔法打てないわよ」

「知ってる。魔法球を作れ、その魔法球にボクの魔法を重ねる」

「えーっと……、どうなるの?」



 ナディは白い目でカレンを見ると大きく溜息を付く。



「威力の底上げだ。ボクの魔力は先ほどの魔法で少ない。お前の魔力ならボクの魔法を重ねたらソコソコの魔法が打てる」

「へー……」

「へーってお前な、常識だぞ」

「すみませんねー知らなくて」

「お、おこるな……。お前の魔力にボクの魔法を足せば、そこそこの数はいけるはず。まずは練習だ」



 ナディが杖を持つと、岩の前に立つ。

 カレンは迷った後にナディの後ろから杖を握った。ナディの頭の上にカレンの胸が乗っかる。



「重い……」

「悪かったわね」

「いくぞ。魔法球をイメージ」



 杖の先に光の魔法球が現れる。

 その大きさは段々と大きくなりナディの顔近くまであふれて来る。



「おい、もっと小さくしろっ」

「言われても出来ないんですけどっ!」



 ナディは舌打ちすると、必死に魔法球を小さくしようと自らの魔力を杖に流し込む。

 半透明な緑色の光がカレンの魔法球を包みこんでいく。強制的に小さくしようとしていた。

 


「えーっと、辞めようか?」

「このままっ」

「でも、ナディ君結構辛そうなんだけど……」



 カレンの言うとおり、ナディの顔から汗が噴出しており、杖を持つ手も少し震えている。



「いい。天才であるボクが大丈夫って言うんだっ。もっと魔力を込めろ」

「そ、そう? 行くよ?」



 カレンは瞳を閉じると杖を握り締める手に力を込める。

 ナディが何か言っている気がするが、カレンの耳には既に聞こえていなかった。

 四つの魔石が光輝いてく。

 魔法球が緑から白に戻っていき、さらに螺旋状に黒が混ざっていく。

 さらにナディの意思とは裏腹に、魔法球が小さく凝縮されていった。

 一声かけ、辞めさせようとした瞬間、魔法球は内部で黒い風がグルグルと回っている。

 気が一瞬緩んだその時、魔法が岩へと向かって飛んでいった。


 風圧でカレンはナディを抱えたまま後方へ吹き飛ぶ。

 大きな音が洞窟内に響いた。



「痛ったあああああ」

「お、おい。大丈夫かっ」

「ちょっと、大きな魔法使うなら一言いってよっ! いたたた……」

「ご、ごめん」

「たくっもう……」



 ナディがカレンから離れると、カレンも立ち上がり体を見回す。大きな怪我はしていなく、屈伸運動をしながら辺りを見回す。

 先ほどカレンが押していた岩は無残に壊れており、そこから見える洞窟内もスライムは見当たらなかった。



「うわ。壁一面潰れたスライムだらけね……。さすがナディ君の魔法」

「お、おう。天才のボクに掛かればこんなもんだ、それよりも平気か?」

「何が?」

「いや。魔力を消費して体がだるくなったり……。最悪昏睡の場合もあるんだが」

「全然? で、一応は中を確認しないとなんだけど、ナディ君はどうする?」

「行くに決まっているだろ」


 

 二人は洞窟の奥へと入っていく。壁や天井、床まで元スライムの死骸で溢れている。

 簡単な布を頭に被り先に進む。歩くたびにベチャベチャと音を立て始めた。



「ひゃっ」

「なんだっ!」



 カレンの悲鳴にナディが杖を握り締め振り向く。



「あ、ごめん。天井からスライムの液体が背中に……」

「脅かすな」

「だから、謝ってるじゃないの。にしても、何も無いわね」

「あったぞ……」

「うわっ……」



 ナディが指差すと、思わず嫌悪感満載の声を出すカレン。

 それもそのはずおわん上の穴がありその中央には七色に小さな水溜りがあった。その内部が全てスライムである。

 水溜りの端からゆっくりと這い上がるスライム達。

 ナディは杖を掲げると小さな風で吹き飛ばす。壁に当たり鈍い音を立てて潰れていくスライム達。



「恐らくもっといたんだろう、お前の魔法で全部吹き飛んだらしい」

「え? 私の魔法?」

「いや、ボクの魔法にお前の魔力だな」



 ナディはいい直すと、スライムがうごめいている中央へと歩き出す。



「だから、魔法使いが必要だったのね」

「村人だけじゃ、あの量は処理できないだろう」

「それにしても、数多すぎよ。普通に高ランク冒険者の依頼よこれ」

「高ランクがスライム退治すると思うか?」

「うーん……、しないわね」



 残ったスラムムを二人で処理していく。ナディは杖を振り回し潰し。カレンは足と近くにあった棍棒で叩いて行く。直ぐに洞窟内にいるスライムは一層された。

 何処からか一角ネズミの泣き声が聞こえる。

 カレンが辺りを見合すと、キューと声を出して洞窟内を走り回っていった。



「帰るか……」

「そうね。もう体中ベドベトよ」



 帰ろうとするカレンが、立ち止まった。

 地面に何か光っているからだ。

 ナディが先に外に出ようとする間。カレンは先ほどまでスライムがいた場所に落ちていた黒い石をポケットに入れた。

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