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16 一角ねずみ

 カレンが叫ぶとその姿が、キューと鳴いて威嚇してくる魔物。

 一角ネズミ。手の平サイズの魔物で従来のネズミと違い、頭に人間の指先ほどの角がある。その角には痺れ毒があり、獲物を痺れさせ捕食するタイプである。

 なお食べる事も出来るが、余り美味しくない。


 一般動物ではなく魔物と認識されているのは、人間を死に追いやる場合があるからだ。繁殖時期には性格は凶暴になり、餌を求めて家畜や人間を襲う場合がある。



「こっのっ!」



 カレンは飛んで来た一角ネズミを、近くにある杖で弾き飛ばした。ナディは騒ぎで飛び起きると直ぐに文句を言う。



「馬鹿。それボクの杖だっ!」

「ごめーんっ。って今はそんな事行ってる場合じゃないっ!」



 二匹、三匹と二人に突進してきてはカレン達へと鋭い角で攻撃して来た。

 ナディは落ちた一角ネズミを拾い上げた。絶命はしておらずキュウキュウと鳴いては、ナディから逃げようとしている。



「本で読んだとおり手の平サイズなんだな。食用にも鳴るらしいし、案外可愛い顔してるな」

「それ。周りを見てもう一度いえる?」



 ナディは、捕まえていた一角を離す、手から逃げていく一角ネズミの方向へと視線を移すと、小さな悲鳴を上げる。

 それもそのはず。軽くみても三十匹以上の一角ネズミが二人を睨みつけるように見ていた。



「なんだあれ……」

「一角の群れね。数匹なら対処できるんだけど……」

「コレだから、凡人は困る」



 言い切るナディに、カレンは思わず警戒を解いた。

 杖を返せと言われ、カレンが持っていたナディの杖を返すと、首を左右に曲げる。



「魔法使いであるボクに、視角はない」



 ナディは豪華な杖を回転させると、正眼に構える。瞳を一度閉じ再び開けた時には杖に光が灯りだした。

 下から青、赤と点灯していき魔力が杖に入るのがわかる。

 一角ネズミもその光を見て警戒し始めたのか襲ってこない。



「風よっ切り裂けっ! ウインドウ」



 ナディの得意である風系の魔法。効果は依然も中庭の雑草や木製の椅子なども切り落とした物である。

 緑色の球体が一角ネズミへと向かって行った。



「さっすがっ!」



 カレンが喜んだ声を出した瞬間、緑色の球体は地面に落ち、無残に消える。

 ナディは咳払いをすると、もう一度魔法を放った。しかし、その魔法も先ほどより手前で地面に落ち消えた。



「えっと……。消えたんだけど?」

「昼間の疲れだな……」

「ちょっとっ! 魔法使いなんだから一晩寝れば回復するんじゃないのっ!」

「馬鹿、寝たのツイさっきだぞっ! それに一晩寝たからといって魔力は――」

「まったっ! やばいよね……」



 カレンは周りを見ると、先ほどより一角ネズミの数が多くなっている。それはナディにも伝わったのかゴクリと唾を飲む音が辺りに響く。

 


「逃げるよっ!」



 カレンが自分の杖を手に取る。直ぐにナディの手を引っ張るのと、一角ネズミが再度襲ってくるのは同時だった。

 群れから離れるのではなく、群れの中へ突進していくカレン。右腕にはナディを抱きかかえ走り出す。

 数匹は襲ってくるが、先に突進してきたカレンに驚いて、一角ネズミが一瞬だけチリチリになった。その隙を付いて一気に走り抜ける。

 途中でナディが後ろを振り返ると、焚火と荷物に群がる黒い塊が見えた。

 カレンは、それからも暫く走る。あたりの景色は変って行き見渡し良くなってきている。



「おいっ! おいっってばっ!」

「え、な、なに?」

「何じゃない。もう降ろせ、何度か後ろを振り返ったが追ってこない」

「ああ、そうね……」



 よいしょっ、と声をだしナディを降ろすと、さすがに疲れたのだろう肩で息をし始めた。

 東の空が薄っすらと明るくなっており、はるか先に建物が見えた。


 二人が村の入り口に付く頃には、朝鳥のなき声が鳴いており、農具を持った男性が畑に行く所だった。

 


「んー。なんだ、おめえさん方、こんな朝早くから……」

「お早うございます。えーっと、人を探しながら冒険をしているんですけど」

「そったら、軽装でか? 荷物なんももうとらんべさ」



 男性は、二人の姿をみて怪しい目を向ける。二人の荷物はそれぞれ杖を持っているだけ、少しのお金は腰につけてはいるが、冒険に必要な食料や道具などは全部あの場所に置いてきた。

 


「ここに来る途中に、一角ネズミに襲われたんだっ。それより腹が減った。何か飲食店はないのか」

「こら。そんな言い方しなくても、すみません。私はカレン、こっちがナディって言います」

「はー。ご丁寧にどうもっす。ワシはジョン。一角ネズミというたんなぁ……。どれ少し話を聞くばい」



 ジョンに連れられて、村の中を歩く。

 二人が出あった場所は西の入り口であり、簡単な木の柵しかなかった。村全体も比較的新しかった。



「めずらしいだっか?」

「えっ。はい、随分と新しい村だなーって」

「そっだろ、この辺は平和や、大きな魔物が出るって事もねえだ。ほら、付いただ」



 窓はあるがガラスの入っていない建物、建物の横には鶏のが飼育されていた。

 建物の中に通される二人。一般の家ではなく木造テーブルに椅子しかない、部屋の隅には家畜用の藁が積んである。

 今すぐに食べ物を持ってくるからというジョンは二人を置いて外に出る。どうしようかと思案に暮れるカレン、ナディは既に椅子に座っていた。



「待たせたなぁ」



 ジョンは湯気が立つどんぶりもって小屋へと入ると、二人の前に置いた。

 どんぶりの中身は、細く切った麺が入っており、薄い紺色のスープが湯気を立てていた。



「わー……おいしそう」

「だろ。そこにほったら、これをいれるべ」



 ジョンは、ポケットから卵を取り出すと、どんぶりの中に黄身を入れた。温かい汁に黄色い黄身が薄っすらと固まり始めた。

 ナディが思わず唾を飲むと、カレンが慌てて銀貨を数えだす。



「えーっとっ! おいくらでしょうかっ」

「ええって事よ、それよりも一角ネズミに襲われたんやろ。大事が無くて良かったべ。先ずは腹ごしらえだべ」

「いいんですかっ!?」

「いいべさ」



 頂きます、カレンがそういうとナディも渡されたフォークを使い麺を吸い上げる。温かい濃い目の味のする汁に黄身が溶けるとまろやかさが広がった。

 ナディは直ぐに食べ終わり、猫舌であるカレンも遅れてどんぶりの中の食べ物を食べ終えた。



「ごちそうさまでした」

「いや、良いって事だべさ。しっかし定期便はまだなのに、そんなに急ぐのかえ」

「はい、えーっと。ロキっていう私よりも身長が低い、ちょっと歳がいった男性なんですけど、此処通りませんでした?」

「ここ数日は定期便しかこねえべさ」

「それは、おかしい! ファルマ砂丘に行くのにはこの道が適しているはずだ」

「んったら事いっても、それよりあんた等冒険者なんやろ? ちょっと頼まれてくんねえべか」



 ジョンは二人の前に座ると、空になったどんぶりを横に下げる。



「あの、頼まれるといっても私達急いで居るので……、必要な物を買ったら直ぐに出ようかと……」

「かー、冒険者ってのは、そっだら薄情なやつかねっ!」



 カレンが断ると、直ぐにテーブルを両手で叩くと顔を下げたジョン。



「話ぐらい聞いたらどうだ?」

「ちょ、ナディ君っ!」



 その言葉に、ジョンの顔が再び上がるとナディの両手を握り締めている。



「さすが冒険者だべ。やー、一流の冒険者ってのは話を聞くってのは本当だべさ。お、良くみれば立派な杖やね。きっと名のある魔法使いって所だべ」

「ふっふっふ、ホーソン家の次期当主、ナディ・ホーソンとはボクの事だ」



 二人で盛り上がっているので、カレンも断りにくい、しかも料理をご馳走になった後である。



「わかりました。話だけ、無理そうな話だったら断りますよ?」

「あに、簡単な事だべ。ここから少し行った所に洞窟があるべさ、その中に大岩があるっぺ、退かして欲しいべさ」

「はぁ……、それだけですか?」

「んだべ。簡単な事っちょ」



 余りに簡単な事で、小さく手を上げるカレン。



「あの、それだったらジョンさんが、やれば……」

「あんだってっ。こっちは農作物の準備あっからよ。洞窟まで手がまにあわねえっべ」

「そしたら、冒険者ギルドに頼んだほ――」

「ここがギルドっだっべさ、ワシ、ギルド長のジョンだべ。報酬はだせねえけど、何だったら、襲われた場所にある荷物回収してくっべさ」



 暫くの沈黙の後、とうとうカレンが先に折れた。



「わかりました。その代わり荷物忘れないで下さいよ」

「ああ、わかったべ」



 カレンは溜息を着くとギルド発行の契約書にサインをした。


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