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15 此処で野営をする事にする

 日差しはまだ薄暗く、東の空がやっと明るくなってきた。

 街に朝を告げる鐘が鳴ると、カレンはベッドから飛び起きた。

 直ぐに着替えをし、大きめのリュックサックを手に持ち部屋を出た。ロキが寝泊りしていた部屋の隣、ナディの部屋、その扉を眺めるとナディも部屋から出てきた。彼の背中にも小さなカバンがある。

 玄関ホールで合流すると、朝の挨拶をする。



「おはよっ」

「ん」



 カレンの挨拶に短い返事をして返すナディ。



「よく起きれたね……」

「寝てないからな」

「そなの?」

「興奮してねれなかった。お前は寝れたのか?」

「そりゃ、まぁ寝付きは悪かったけど。寝れる時は寝とくわよ。さて行きましょうか」



 屋敷に鍵をかけ外に出る二人。カレンを先頭に、魔法ギルドまで歩く。

 朝も早い事から魔法ギルドは閉まっていた。

 カレンがどうしようか考えていると、内側から扉が開く。



「お早うございます、カレンさん。ナディさん」

「お、おはようございます。ミナトさんっ!



 三人は魔法ギルドへと、入る。途中でカレンがナディに「挨拶ぐらいしなさいよっ」と、小声で言うと。ナディは無言で不機嫌になる。

 ミナトが振り返ると「気にしてませんよ」と、何時もの笑みで答えてくれた。


 何時ものカウンターではなく、奥に通される二人。綺麗に整頓された居住部屋、ミナトの性格が出ている。


 椅子に勧められて座るカレンに、椅子に座らないナディ。



「おい、先生達は何所に行ったっ!」

「ちょっと。椅子ぐらい座ったら」

「お前、こうしている間にも先生達は遠くに行くんだぞっ! 早く行き先を教えろっ」

「そうですか。ハチミツに付けたりんごをパイにした朝食があるのですが……。わたし一人では食べきれないので、残った分は捨てる事にしましょうか……」



 その言葉を聞いて、ナディのお腹が鳴る。憮然とした態度で椅子に座ると「早く出せっ」と吐き捨てる。

 ミナトが「そうですね。もってきます」と言うと一度席を立った。カレンがちいさく、「ちょろっ」と喋ったのはナディには聞こえていない。


 熱々のアップルパイを食べながら話を進める。

 ミナトが伝えた言葉をカレンがもう一度呟いた。



「ファルマ砂丘ですか……?」

「はい。この町から東にある場所です」



 ミナトの説明にナディが、そんな事も知らないのか、と声をだす。



「知ってるわよっ……砂があるところよね」

「馬鹿か……、いいか――」



 ナディはファルマ砂丘を説明し始める。

 元は名も知られていない砂漠の町であった場所。一人の魔法使いが毒を巻き町を滅ぼしたと言う伝説があり、その後、数百年誰も住めない場所になった。



「それぐらい、私でも知ってるしー」

「どうだか」



 ナディの突っ込みを不機嫌な顔で答えると、ミナトに向き直るカレン。



「で、ミナトさん。師匠達は何しにいったんでしょうか?」

「それは、わたしの口からは言える事ではありません」



 教えてくれない事に不思議そうな顔をするカレンであったが、ミナトは何時もと同じ笑みを浮かべた。

 二人は、特にカレンは、ミナトに丁寧にお礼を言うと魔法ギルドを後にした。

 

 町にある馬車屋に向かう二人。

 少し大きめの都市であれば備わっている店だ。このカーメルでも貴族が多い東門の近くと、南門近くに二件ある。二人は庶民的な馬車があるほうの南門へと馬車屋で向かった。

 カレンが、馬のマークが付いている店へと入った。中には、数人の人間が椅子に座っており何かを飲んでいる。

 奥にあるカウンターでは、髭面の男性が入ってきた二人を見て歯の抜けた笑顔を見せた。



「いらっしゃい。馬車屋へ用こそって事だ」

「あのー……。ファルマまでの便を欲しいですけど」



 カレンの言葉に、驚いた顔を見せた店主。それは無理だと答えると、カレンの後ろにいたナディが怒り出す。



「無理とはなんだ。定期便ぐらいあるだろう」

「だから、その定期便が無いんだよ。いくつか町を通り過ぎないとダメだし、昨日も定期便を探しにした奴が居たが。どうする? 遠回りになるが――」



 カレンは店主の話を遮って首を振る。



「その人って、どうするって言ってました?」

「ん。ああ、その冒険者か、特に聞いてないが、ファルマまでとなると東から徒歩だろうな、村までの便はあるが五日に一度ぐらいだし。どうする、村までの便ならあと四日ほどで来るが、予約してくか。乗れば半日程度で付くぞ」



 人や荷物を乗せた馬車で半日ほどで着く。裏を返せば徒歩でも二日ほどだ、カレンは指を出して計算し始めた。

 やがて納得したのか店主の方を向くと正式に断る事にした。



「ごめんなさい。急いでいるので」

「あいよ。また来てくれや」



 二人は東門から外にでた。

 途中で一応はもう一つの馬車屋で話を聞くも答えは同じであった。

 違ったのは、外に並べてある馬車の豪華さと値段。南で見た値段の数倍以上高くカレンの頬を引きつらせた。


 東側の街道を歩く二人、途中で山へと登る別れ道がある場所でカレンは一度止まった。

 この山の途中にロキの前の家があった。

 止まっているカレンへと、怒鳴りつける声が聞こえる。



「おそい。先に行くぞっ!」



 カレンは前を向くと、ナディが先に歩き、止まっていたカレンとの距離が開いていた。



「今行くってばっ。それにそんなに走るとって……、ああっもう先に行くしっ!」


 

 カレンは文句を言いながら走り出す。

 暫くすると、最初は元気よく走っていたナディであるが、段々と歩くスピードが遅くなり、「疲れた」と、言って立ち止まって座り込んだ。



「だから言ったのに……」

「なんだ、ボクが悪いって言うのかっ」

「うん」



 ナディはカレンの容赦の無い一言に、一瞬ひるんだが顔を上げて反論する。



「普通の冒険者なら、当たり前だどれだけ歩いていると思っているんだっ!」

「えーっと、お日様が傾いているから。多分夕方ぐらい?」

「ぐらいって……。朝から歩き続けているんだぞっ! お前は疲れないのかっ!」

「ぜんぜんっ」



 逆にどうして疲れるの? と顔をしているカレン。ナディはがっくりと肩を落とす。



「なんか、私が悪者みたいになっているけど、休憩地点で休憩しようって言ったのに、断ったのはナディ君よね」

「そりゃ、早く行ったほうが先生に追いつけるし……」

「声が小さいなー。私は、ナディ君の体力も考慮して提案したんですけどー」



 仁王立ちで迫ると、ナディは地面を見て目線を合わせようとしない。

 一息「ふう」と、喋ったカレンは、ナディの足と体をを持ち上げた。



「名、なんだっ! おいっこらっ! 降ろせっ」

「はいはい、暴れない。私が次の休憩所まで背負うから。こうやってっと……。リュックを前にすればっと、ほら。背中に背負える」



 言葉通りにナディを背負うと自身のリュックは前に背負い歩き出す。

 最初は色々と文句も言っていたナディであったが、途中から諦めてカレンの好意に甘えた。



「なぁ。なんでボク達を置いていったんだと思う」

「んー。子供だから?」

「悔しくないのかっ」

「悔しいっていっても、師匠の考える事だからなー。私はそうでもないけど」

「じゃぁ、なんで追いかけるんだ……?」



 ナディの言葉に、立ち止まるカレン。

 本気で解らない顔をする。



「ごめん、わからない……」

「そうか……。ボクは少し悔しい、ボクだって魔法は使える。勉強だって旅をしながら教える事は出来るはずだ」

「あっでも、師匠にナナリーさん、ナディ君に私と、四人分の旅費となると大変じゃない?」

「お前は、全部先生にたかるつもりか……」

「ば、馬鹿ねー。そんなわけ無いじゃないー」



 カレンは声が少しうわずっている返事をすると、前を向く。

 街道の横に固められた平たい土が見える。たき火のする場所は石で固められており、近くには薪が無造作に積んであり、人工的に作られた川も見える。



「あ、休憩所付いたよっ。とりあえず休もう。いくら私でも、もう疲れたし」

「その……、なんだ」

「ん? 何はっきり言って貰えると助かるけど」

「悪かったよっ。ここまで背負ってくれてありがと」

「…………。どういたしましてっ」



 テレながらも感謝を述べるナディに、驚きも返事をした。

 休憩所に着くと直ぐに焚火の用意をした。整備された街道と言っても安全ではない、スライムや野犬などはまだ可愛い方で、ゾンビドッグなど対処に困る魔物も居たりする。


 

「はい、これで火を付けておいて」


 カレンはナディに火打石を手渡すと食料を取り出すのに自分のカバンを開けていた。ナディは手渡された火打石を見て固まっている。



「おい。何だこれは」

「あれ。使い方解らなかった。その長方形の石にナイフを滑らせると火花が出るのよ」

「違う、なぜ魔法使いが、こんなものに頼らないといけない」

「私は魔法使えないし……。師匠も道具の方がいいって」

「ボクが見せてやるっ!」


 ロキの名前を出した事で一瞬ひるんだナディであるが。短く鼻を鳴らすと、杖を持つ先端に小さな小さな火の球が現れ、枯れ木を積んだ場所へと一直線へと進んだ、直ぐに燃え移り焚火となり辺りを暖かくしていった。



「便利ねー。でも少し小さいというか」

「あのなぁ、ボクの得意は風だ、火を操るだけで凄いんだぞっ! それに魔法使いは選ばれた人間にしか出来な――」

「はいはい。それはそうとはいこれ」



 力説するナディを簡単にあしらうとカレンは携帯食料をナディへと手渡す。

 パンや干し果物、野草や干し肉などを粉にし、少々の水分で固め、さらに乾燥させる事数ヶ月。味はしないが、保存も効くし、それなりに胃の中で膨れ、尚且つ安い食べ物として冒険者に好まれている携帯食料。



「不味いから嫌いなんだ」

「我慢、我慢。それに焼くとそれなりに美味しいよ」

「美味いか?」

「本当、本当。慣れると美味しいわよ、所でナディ君って旅はした事ないの?」

「旅、在るに決まってるだろ。王城がある、都ミディアム。大魔法使いが眠った、終わりの地ミリアの丘とか」


 有名な場所を次々に言うナディ。三分の一ほど食べ終わったカレンが続け聞いた。



「その時は、野宿とかしなかった。この食べ物も出ると思うんだけど」

「当たり前だ。馬車で行くに決まってる。カーメルにだって馬車で来た」



 持っていた、食料を落としそうになるカレン。それは旅ではなく、ただの旅行である。

 しかし、納得した部分もあった。旅に出たロキを、直ぐに追いかけると、簡単に言った事。歩くペース配分も関係なしに、走ってバテた事。


 今も、肉が食べたいと愚痴を言いながら、携帯食料をかじっている。十二才と言えば当たり前と言えば当たり前なのだろうが、世の中には十歳で冒険者もいる事はいる。カレンは旅の知識もないナディと一緒に出た事を少し後悔し始めた。


 カレン自信も、冒険者としては日は浅い。ランクもEであるが、両親と共に旅はしているし、その体の大きさを使って大人に混じって仕事もしていた。まいったな、と呟くと、鞄から携帯用の枕を取り出して火の側で横になり始める。

 従来は火の番を決めて交代でするのが一般的であるが、カレンはそれを伝えず、ナディに声をかける。



「さて、体力温存。ナディ君も少し寝て、朝早くから動かないと次の町付かないわよ」

「おい。もう寝るのかっ。まだ薄暗くなったばっかりだぞ……」



 ナディの質問には答えない。

 今のうちに仮眠をしておくと、本当に危ない夜半は一人で見張りをするつもりだからだ。

 カレンが反応しないと、ナディの声も静かになる。ごそごそと物音が響くと辺りは焚火の音だけが大きく響いた。


 カレンが再び目を開けたときには、焚火がくすぶっており、ナディが寒いのか体を縮め小さくなって寝ている。近くに積んである枯れ木を火にいれると再び燃え出し辺りの空気を暖めはじめた。

 その時に街道の反対側、整地されていない草むらの中に、何か光った気がした。

 その光は赤く、カレンの見ている前で段々と数が多くなっていく。

 あまりの以上な光景に鳥肌が立ちはじめると、その正体の名前を大きく叫ぶ。



「一角。一角ネズミっ!」

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