13 初めてのお留守番
三人で刈り取った草を集め、一箇所に穴を掘り掃除を完了させた。
次はカレンの魔法の練習である。
カレンとナディで魔法球を作るように命令するロキは、椅子に座って、その行動を見る。
ナディは簡単に杖の先に手の平サイズの魔法球を作り出す、球の色は薄緑。
一方カレンは杖を握って唸っていた。
「師匠……」
「あー、はいはい」
昨日と同じくロキが先に杖を握り、カレンが後ろから抱くような形になる。
カレンが眼を閉じると杖の先に光が集まってきた。
その魔法球の大きさはナディの数倍以上の大きさだ、ロキはその魔法球を維持するのに、自らの魔力を重ねていく。
「先生っ! 先生が作った魔法球なんですよねっ。インチキだっ!」
ナディの声に、カレンのまぶたがぴくっとなる、その拍子に魔法球が一瞬ぐにゃりと大きく歪んだ。
「カレンっ! 球のイメージを強くっ!」
「は、はいっ」
再び球の形になると、カレンは深呼吸をし始めた。
ロキはナディに微笑みかける。
「そう思うのは仕方が無いと思う。けど、残念ながら僕が手を貸しているのは,
彼女の魔力を外にだす作業と球の維持。そもそも僕の魔法球はこれ」
片手を杖から外すと、空いた右手で手の平サイズの魔法球を作る、その色は青白く、カレンの作る魔法球と色が違っていた。
「でも、大きすぎるっ!」
「それが彼女の凄い所。もっともその先の魔法はまだ打てない」
「師匠、褒めてるんですよねそれ」
「どうだろうね」
ロキの軽口に、カレンの魔法球がグニャグニャと変形して空中に消えた。
「あーっ!」
「はい、やり直し。集中して」
「うう、これ結構疲れるのに……」
「先生っ! ボクもっと凄いの作るので見てくださいっ!」
ナディの眼に誰かが屋敷を訪ねてくるのが見えた。魔法球を消してロキに尋ねた。
「先生、誰か来ますけど」
「ん?」
カレンの魔法球製作から手を休めるロキ。魔法球は直ぐに消えてカレンは魔力を消費し、疲れたのか尻餅を付く。
裏庭に現れたのはミナトである。
春が終わりに近いの肌寒い日中であるが、肩を出した服をきて歩いてくる。
ロキを見つけると真っ直ぐに裏庭へと来る。
「ごきげんよう、ロキさん」
「ああ、こんにちは。珍しいね、どうせ僕に用事だろうけど、遠い所お疲れ様」
「はい。母がロキさんに伝言を、と。恐らく神祖で間違いないので手伝ってほしいと」
「なるほど。着替えたら、そっちに向かう」
「所でカレンさん達と何を?」
「魔法球の練習、なんだったらお手本を見せて欲しいけど」
「ご冗談を」
「師匠、私着替えてきますっ!」
カレンは自らの匂いをかくと慌てて立ち上がり屋敷へ戻った。
「なに急に」
「ロキ様は、もうすこし乙女の考えを持ったほうがいいかと」
あんに、汗臭く、下着も透けているような格好で人前に出たくない気持ちを察しろと言っているが、ロキには伝わってない。
「着替えね、別に見られても。そうだっ。あまり変な服を着せないでくれ……」
「あら。見られたんですか?」
喜ぶ顔のミナトに、げんなりするロキ。
「見ては居ない。でも僕が着せたんじゃないかと服の詳細を言われ疑われたよ」
「残念です、母に言われて凄いのを着せたんですけど」
「君達は僕にどうさせたいんだ……」
微笑むだけで喋らないミナト「それではギルドでお待ちしています」と、帰って行った。
「先生っ! 今のエルフって何の用だったんですっ!」
「個人的な事だよ。着替えたら少し出かけるから」
ロキの素っ気無い返事に、少し不機嫌な顔になるナディ。ロキは笑うとナディの頭をポンポンと二回叩いた。
「子供扱いは辞めてください……」
「ナディもカレンと同じような事を言うんだね、さて。僕も着替えてくる。練習は……、一先ず中止って事でナディも着替えてくるといい」
「わかりました先生」
二人で屋敷へと戻る。
ロキが着替えて部屋を出た所、カレンも着替え終わっており、これから出かける事と今日の練習は終わりと、告げた。
「あ、師匠それだったら洗濯するので、汚れ物を、外のタルに入れといてもらえます?」
「了解した」
短く言うとローブを着込んだロキは屋敷を出て行った。
ナディの部屋から大きな物音が聞こえると、ナディが飛び出してくる。
玄関ホールでロキを見送ったカレンは驚きのあまり、そちらを見ると、ナディはがっくりとした顔をする。
「もう、いったのか……」
「行ったわよ? あ、ナディ君。洗濯物を外のタルにいれておいて」
「誰が洗うんだ……」
「誰って、私だけど。こう見えても家事は得意なのよ」
「魔法は出来ないのにな」
ナディの一言に、カレンは無言で握りこぶしをナディの頭に叩きつけた。
余りの痛さに、その場にうずくまるとカレンへと文句を言う。
「暴力女っ! 先生に言いつけるからなっ!」
「どうぞ、どうぞ。軽いスキンシップよ」
カレンは手の平をパタパタとさせながら裏庭へと、歩いていった。
ナディは汚れた衣類をカレンへに渡すべく裏庭へと向かった。
そこでは、大きなタライに洗濯板を使い汚れ物を洗うカレンが居た。エプロンをし、鼻歌を歌いながら洗濯板を使い洗っている。
カレンは、一度手を止めてナディを見ると、洗濯物はそこにおいて置いてと指示を出した。
ナディは帰らず、近くの椅子に座ってその様子を見る。
「えーっと、さっきから見つめられるとやり難いんだけど」
「み、見つめてなんかいないっ!」
「そう?」
「お前は……。何で魔法使いになりたいんだ?」
「私? んー。良い魔法使いになって、沢山の人の助けになりたい? ナディ君は家の繁栄だっけ?」
「魔法球も作れないのに、慣れると思っているのかっ?」
カレンは、手の動きを止めてナディを見る。その顔は暗く何かを思いつめているような感じである。
「ボクは、小さい頃から魔法が出来た。父はボクが魔法を使う事を最初は喜んでいた。ボクは父の魔法を馬鹿にする奴らを魔法で見返すんだ、父は……。だからっ!」
椅子の上に三角すわりになる。暗くなるナディに対して明るいカレン。
「私は、ナディ君みたいに魔法は旨くないし、魔法球も一人じゃ無理なんだけど……。成れなかったら成れなかったで、また別の道を探すし。あっ勿論努力はするわよ」
さてと、と言いうと、立ち上がるカレン。そのまま椅子の上で小さくなっているナディの前へ行くと笑顔を向ける。
「洗濯物洗い終わったから干すの手伝ってっ」
「な、なんで、ボクがっ!」
「いいからいいからっ」
強引に手伝いをさせる。一通り干し終わった頃、屋敷への道に誰かか歩いてくる。
最初はロキが帰ってきたのかと思った二人であったが、シルエットは長身で細い。
直ぐにエルフのミナトと、わかった。気づいたカレンは小走りに走る。
「あれ。ミナトさんっ!」
「ごぎげんよう、カレンさん」
「師匠ならさっき向かいましたけど?」
入れ違いなったかと思い、心配する、ミナトは微笑み「大丈夫ですよ」と、言ってから続きを語る。
「ええ。伝言を頼まれまして」
「晩御飯は入らないとかですか?」
「ええ、母の依頼で一月ほど留守にするだろうです」
後ろまで付いてきたナディが話を聞いて怒り出す。
「何も教えて貰ってないのにっ!」
「そうもされても」
「エルフがたぶらかしたに違いないっ!」
「こらっ! えーっと、その間私達はどうしたらいいでしょうか……」
「それをお伝えに来ました」
カレンは、ふてくされているナディと、ミナトを食堂へと招きいれた。




