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12 懐かしき面影

 カレンは、朝の鐘で眼が覚めた。ぼーっとした眼で辺りをみると、机や小さな暖炉などがある。ドレッサーの前には椅子があり冒険者のローブが二つ折りにされていた。



「自分の部屋……?」



 何時寝たのかも覚えてないカレンは腕を組むと段々と思い出す。昨夜は晩御飯をご馳走されに魔法ギルドに行った。そこで、自称天才少年との騒動に巻き込まれたのを思い出した。

 


「なんで、ここに……」



 カレンは自らの服装を見る。普段着ている厚めの生地の服ではなく、全部が透けている紫のネグリジェを着ていたのだ。



「なっ!? つっ――――!!」



 本当に声にならない叫び声を出す。よく見ると昨夜着ていた服は椅子の上に畳んである。

 暫くベッドの上で悶絶した後に、カレンは上半身を起こしはじめた。



「でも、よく考えれば師匠が、着替えさせた事でも……。でも、この部屋に私が寝ているって事は、やっぱり師匠なのかな、よしっ! 聞いてみよう」



 薄いネグリジェを脱いで、普段着に着替えるカレン。扉を開けるとやはり屋敷に帰ってきているのを実感できた。

 食堂の方から何か焼く匂いがする、階段を小走りに降り部屋に入った。

 ロキが白いエプロンをつけて、料理を並べていた。

 その横ではナディがスープを運んでいる。



「ん。カレンか、おはようっ」

「お……、はようござ……います」

「あ、ごめん、カレン。カマドに入っているパン見てくれるかなっ! 暖めようとしてるんだけど……」



 厨房の方から焦げ臭い匂いがして来た。

 慌てて走る。

 カマドから急いでパンを取り出すと表面が黒くなっている物が何個も出てくる。



「師匠っ! 少し焦げてますーっ!」

「直ぐに出して貰えるかな」

「はーい」



 テーブルの上にはこげを落としたパンにスープ。パスタを茹でたサラダに生野菜。ロキの所には青汁が並べられた。

 カレンは食卓を見る。席に座るロキ、その向えにナディが当然の用にすわり、空いている席がロキの横しかない。「失礼しますー」と小さく言ってから座るととロキが説明し始めた。



「流石に、悪いと思ってナディを預かる事にした。弟子……、見習いかな」

「どうだ、よろしく頼むぞっ!」



 何がどうなのかわからないカレンは曖昧に頷く。



「はぁ、師匠がそれで良いなら。そうだっ! 師匠私部屋で寝ていたんですけどっ!」


 

 カレンが大声で言うと、青汁を飲み終わったロキは当然のような顔で喋る。



「そりゃ。魔法ギルドに五人も泊まれないからね」

「おかしいですよっ! 師匠が私とナディ君を運べるはずがありませんっ!」

「お前は馬鹿だな。先生だったら、魔法の一つでボクらなんか簡単に運べるに決まってるだろっ」



 ナディが口の周りにドレッシングをつけながら喋る。カレンは一度ナディを見てからロキを見た。



「あのね……。二人とも先に言っておくけど、魔法というのは万能じゃないんだよ。そういう魔法も無いとは言えないけど、僕は使えない」

「えーでも、奇跡みたいな物だってママが……」



 カレンの呟きに、ロキはポリポリと頭を掻き、言葉を選ぶ。



「使える人間が限られているだけで、他の物と一緒だよ」

「じゃ私達を担いで来たんですか?」

「男としてどうかと思うけど、体格差で無理、君重そうだし」

「ひっど。そんなに重くないですからっ! って事は……。あっ、此間使った荷車ですねっ! あれなら二人でも三人でも運べますっ」



 ロキは小さく拍手をする。



「えっと……。じゃぁ、私の裸を見たのも師匠なん……です……か?」



 カレンの消え去りそうな声に、食べていたパスタを喉に詰まらせるロキ。胸を叩いて飲み物を探し始める。

 直ぐ近くにある水を飲み胸をさすると、げんなりした声で喋りだす。



「話が飛びすぎて意味がわからないんだけど……。なんで僕が君の裸を見ないといけない」

「だって……。起きたらスッケスケのネグリジェでしたし……」

「あー。それ、ナナリーとミナト。服もミナトのだろう、そもそも僕一人の力で人間が二人のった荷車は動かせない」

「師匠、見た目どおりに、ひ弱なんですね……」

「ひ弱だよ」



 ナディが軽蔑の眼差しでロキを見ている、見られている事に気付いているロキは特に何も言わない。



「それじゃ、軽く自己紹介を、僕は君が探していたロキ。こっちが弟子のカレン、カレンに関してはまだ魔法は使えないけど、その事に関して、何か馬鹿にする事を言うのであれば即帰ってもらう」



 静かに言うロキ。その言葉はハッキリと喋り反論を受け付けない。

 緊張したナディが自己紹介を始めた。



「ボクは、ナディ。ナディ・ホーソンです。先生のような魔法使いになって城に勤める事が目標ですっ!」

「ホーソンか、マイティ・ホーソンの子供だったりする?」

「さすが先生」

「はーい。師匠、だれですか?」

「お前、有名なマイティ・ホーソンを知らないのかっ! 貴族の中でも、屈指の男魔法使い。数々の冒険をし、あの天才魔法使いロキに教えを貰った父だぞ!」



 ロキは話を聞いて、がっくりと肩を落とす。



「僕の名前をあちこちで風潮しないでほしい。彼の言うとおり、マイティとは旅をした仲間だね。魔法の腕はどちらかと言えば悪かった、でも、面白い人でね、随分と楽しい事を教わったよ。なるほどね……、だから見覚えがあったのか」



 どこか遠くを見ながら喋るロキ。

 カレンは、その横顔をみて水を飲む。


「素敵な思い出なんですねー」

「そうだったね。さて、食べ終わったら少し魔法の練習をしてみようか。ナディの実力も見ておきたい」 



 眼を輝かせるナディは急いで食事を食べ始めた。それとは対照的にカレンは普段通りに食べる。先に食べ終えた物だからチラチラとカレンを見てはせかしていた。


 食事も終わり、魔法の訓練をするのに裏庭へと出る三人。

 ロキ意外魔法の杖を持っている。カレンは先日作った杖、見た目はしょぼそうに見えるが、ナナリーとロキの二人の魔力が入った杖。

 一方ナディのほうは見た目がド派手な杖。持ち手の部分は木であるが、魔石が四つも付いていた。

 所々に雑草が生えているのをナディが「先生、草刈はしないんですか」と、指摘する。



「三人が動ければそれでいいから」

「おい、先生が長年住む家だぞ。弟子が綺麗にしなくてどうするんだっ」

「この家に住んでまだ三日だし……」



 カレンが突っ込むと、一度は押し黙るナディであるが再び喋る。



「先生。ボクに任せてくださいっ。得意の魔法で隅まで草を刈ります」

「いや、別にこのままで――」

「すごい、魔法で草を刈るってナディ君できるのっ!?」

「当たり前だろ……。天才なんだぞ」



 ロキの意見を無視されて話が進む二人。「まぁいいか」と。喋るとナディに、ではやってくれと。頼み込む。

 

 昨日と同じ場所に椅子を二つ用意するカレン。ロキとカレンが座ると、少しはなれた場所でナディが手を振っていた。

 カレンが小さく手を振ると、あからさまに無視し、ロキが手を振るまで手を振り続けた。



「もうっ! なんなんですかね、あの子」

「そう怒らない、君に嫉妬してるんだよ」

「別に、怒って無いですけどねー」



 二人の見ている前でナディは杖を握り締める。杖についている魔石四個がそれぞれに光り始めると、ナディの周りに風が巻き起こる。

 それはカレンの眼にも見えていて薄い緑色をまとう姿に見えた。


 ナディの体が風圧で頭一つ分、空中に浮く。

 足を地面に付いた瞬間、まとっていた風がナディを中心に解き放たれた。



「まずいっ! カレンっ。足を上げてっ」

「はいっ!」



 ロキに言われるまでも無く椅子の上に足を上げるカレン。

 風の刃は全てを切り裂き動いているからだ。

 雑草が音を立てて切られていく。全て終わったのだろうナディが笑顔のまま走ってきた。



「先生、見てくれてましたっ」

「えーっと、ナディ。許可無く魔法使うことを禁止」

「なんでですかっ!」

「これ」



 足の短くなった椅子を見せるロキ。あのまま足を上げていなかったら足首から下が切り落とされて居たかも知れない。



「あ、その椅子少し高かったので丁度よかったっ」



 元気な笑顔を見せるナディ。

 ロキは溜息を吐くと、手のひらを拳に変えた。そのままナディの頭を強めに叩く。



「僕はあまり叱る事は得意じゃない。でも、本気で叱られた時は何故叱られたか考えるように」

「ご、ごめんなさい……」

「その言葉も本来は僕に言わなくても言い言葉だし……。ああ、泣かない」

「ないでまぜんっ」



 ナディは明らかに泣いている、ロキは今度は頭をなでながら話を変える。



「でもまぁ、魔法が凄いのはわかった。お掛けで草刈が楽になったのは事実だ。ありがとう。刈り取った草を集めないだめだから、農具を持ってきてくれ、恐らく裏口付近においてある」



 ナディがいなくなった後カレンがロキがを見た。



「師匠、優しいんですねー」

「君も、そんな顔しているけど。同じ事をしたら怒るからね、それが僕なりの考え」

「はーいっ。私もナディ君手伝ってきますねー。あれ結構重いですし」

「ああ、頼んだ」


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