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01 魔法使になるためにっ!

 四方を山に囲まれた盆地、その中央に簡易な石壁に守れた町カーメルがあった。

 その中心部から離れた一軒の古びた酒場、日は既に暮れており集客は七割程度だろう。

 一仕事を終えた農夫や鍛冶師、冒険者や町を守る兵士などが一日の疲れを洗い流すように飲食をする。

 

 壁際にある四人掛けのテーブルで一人の男性が不機嫌な顔をしていた。

 冒険者特有のフード付きのローブ。熱さや寒さ対策にもなり万能であるローブを着込み、今はフードは外している。


 短い黒髪、首に少しシワがあり、無精髭が伸びている男性。ローブからは細い腕が見え隠れしていた。

 テーブルにある皿には無料の炒った豆が置かれている。ロキは無造作に掴むと、口の中へ放り込む。


 彼の正面には、腰まである赤い髪をなびかせた女性が椅子に座っている。

 彼女のほうは、先ほどまで着ていた冒険者のローブと長剣を空いている椅子へとかけている。男性と同じく炒った豆を食べていた。

 

 彼女の服装は布の服の上から、その豊満な胸の部分を守るようにブレードメイルが付けられており、使い込まれてた鎧が彼女が冒険者として実力を物語っていた。



「却下だ、マリオン」

「だめよ。ロキ」



 ロキが却下だと、いうとマリオンが首を振り、否定する。お互いに呼び捨てである事から信頼の証が伺えた。

 ロキにとっては昔と変らない笑みで反対意見を言うマリオン。彼女の口元にもシワがあり、その月日を表している。

 


「二十年近くぶりに呼ばれたと思えば……」

「もう二十年も立つのね、『天才魔法使いロキ』王宮魔術師資格を剥奪されて行方不明」

「それは表向きの話、実際はイヤになって辞めただけだよ。王様の許可は得たし」



 マリオンは「本当かしら?」と、ロキに聞きなおす。ロキは短く「本当」と言うと再び炒り豆を音を立てて食べ始めた。

 マリオンは悪戯を思いついたような笑みでロキを見る。



「魔法使いは、嘘つきが多いから」

「そりゃどうも」



 皮肉をさらりと受け流すロキ。マリオンは、その笑みのままもう一度、ロキが不機嫌になった原因の言葉を喋る。

 


「王宮は本気よロキ。『若き天才魔法使い、ロキ』その後継者は今だ誰も居ない。後継者を作れは国からの命令よ」

「後継する気ないからね。君も冒険者なんだから知っているでしょ。技術の発展、魔法使いなんて、そのうち消える職業さ」

「直接、アリシア王妃に言ってもらえるかなー……」



 マリオンは、口元を歪ませニヤニヤとロキに文句を言う、アリシア王妃、その名前を聞いたとたんに、ロキは押し黙った。

 天才魔法使いロキ。彼が王宮に居たころ、当時王女であるアリシア姫と変な噂が城内を駆け巡った、マリオンはその事をロキに言っている。押し黙るロキにマリオンは続けて重要性を説き始めた。



「城はカリスマが欲しいのよ。国を支えるカリスマよ。冒険者が増え、兵士になる人間も少ない、ロキも城を出て行くし。それならロキの弟子を作ればいいって事、さっきまで内緒にしてたけど発案者は王妃よ」

「理由は解った。でも……」

「でも、なに? 王妃の前で弟子は取りませんし、国なんて関係ないですーって言う?」


 

 ロキは口元を歪ませているマリオンをじっと見つめる。

 ロキが、昔知っていた頃と変わららない髪の色、その髪と同じく燃えるような意思をもった赤い瞳。悪戯好きの性格で、一度言い出したら中々引かないその性格も変わっていなかった。



「何も言い返せないって事は決定ね。それに考えても見なさいよ。国からの依頼よ、お金だってたんまり出るわよ」

「あるに越した事はないけど、発案者がアリシア姫か……」

「だから今は王妃だっていうの、彼女双子産んでるわよ、アベル王子とアリア姫」



 ロキは静かに目を閉じた、彼が知っているアリシア王妃。ロキがまだ城勤めだった頃、男性の魔法使い、それも天才と言われたロキに、ぴょこぴょこと付いて来たイメージがあるからだ。

 本来魔法使いは女性が多い。その理由は説は沢山あるが、結局は確定まで至っていない。同じ修行をしても女性のほうが先に開花する事が多い。



「因みに私も子供いるわよ」

「そっちは、知ってる。マックスと結婚したんでしょ」

「あっそ」



 驚かないロキを見て、少し不機嫌になるマリオン。手を振り給仕をしている女の子を呼ぶと、早口に注文を頼む。

 給仕は直ぐにジョッキに注がれた麦酒を二つ、さらには鳥を丸々と焼いたものや茸を絡めたパスタなどをテーブルに並べていく。「追加があればお気軽に」と、給仕が離れるとマリオンはジョッキを持ち麦酒を一気に飲み干す。口から大きな歓声を上げると、飲まないの? と眼でロキへと訴えていた。



「飲まないなら、飲んであげようか?」



 マリオンが手付かずの麦酒へと手を伸ばす、軽くその手を叩くロキ。



「飲むよ。一応聞いておくと、カリスマを求めるなら僕の弟子じゃなくても、エルフや獣人、それこそ魔物を餌付けしてマスコッ――」

「本気で言ってる?」



 話を遮って喋るマリオン。

 目がすわっている、酒のせいか怒っているのか、ロキは酒のせいと思い込んで少し謝る。

 この世界には多数の国があり生き物がいる。

 人間に似ているが耳が長く魔力に長けたエルフ族、かれらは長寿であるが固体が少ない、古来より人を嫌っていたが彼女らであるが、最近では一部人里に下りており魔法ギルドというギルドを立ち上げると、高額な魔法アイテムを冒険者などに売っている。


 次に獣人と呼ばれる種族は魔物に似ており力は強く、その姿形からこの国では人間に嫌われている。社会的にも不遇な扱いを受けている彼らは里に降りてくる事はあまり無く隠れ里でひっそりと暮らしている。


 最後に魔物である。彼ら? は多種多様である、スライムもいれば蝙蝠、骨、大型になると竜やもいる、知能もあったりなかったりと様々だ。一般的には人間に害を及ぼす生物を魔物と呼ばれる事が多い。

 訓練し軍に使う国や、たまに貴族が、低級魔物をペットとして飼育していたりするのを見かけたりする。

 


「睨まないでくれ……。で、いくら僕でも、そう簡単に魔法使いを育てる事なんて出来ないんだけど」

「素質はあるわよ。卵もちだもん」

「卵ね、魔力の卵でしょ。僕も何人も自称卵持ちを見てきたけど実際にもっている人間は中々見ないんだけど」

「それがね、魔法の種類は解らないけどワイバーンの亜種ね。それを粉砕よ」

「本当ならそれは凄い」



 ワイバーン。竜族の下級魔物、人を乗せるぐらいの大きさがある小型の竜。本家ドラゴンよりは知能は三才児程度、人間の言葉も話せないし。一部の国では飼育し空軍を作っている場所もある。

 それを一撃にした話、ロキは興味を引いてマリオンの顔を見た。


 

「ね。凄いでしょ。期間は四年間、今なら国からお金もでるっ」

「後になったら?」

「そうねぇ。後になると依頼じゃなくて命令になるから無報酬、拒否すれば投獄。ロキは投獄はされたくないだろうから国外逃亡って所かしら」



 ロキは溜息を吐くと、温くなった麦酒を少しだけ飲む。

 弟子を取るか、今のうちに国から出て行くかの二択なのである。無茶苦茶に聞こえるかもしれないが、国があって民がいる。無論反論する事は出来るし、くつがえす事も出来なくは無い、しかし、国からの命令は絶対に近い、それも王妃命令とあれば尚更である。

 ロキとしても、割と自由なこの国を出たくは無い、無言でいるとマリオンの嬉しい声が飛んでくる。



「お、承諾してくれた?」

「後で命令で無報酬になるなら、金はあったほうがいい」

「さすが。計算が速くて助かるわ」

「昔みたいに情熱だけで生きてはいけないからね」



 マリオンは空っぽになった麦酒の追加を頼むと、ロキに羊皮紙を差し出してくる。

 冒険者ギルドのマークと王国のマークが入った上質な羊皮紙だ。



「はい、契約書」

「……。そんなのを出さなくても平気と思うんだ」

「いいから、書きなさいっ! 途中で逃げ出されるとアタシのギルドに迷惑が掛かるのよっ」

「そういえば、冒険者ギルドの支部長になったんだっけ、おめでとう」

「ありがとう。話は変らないから署名してね」



 ロキは文句を言いつつ出された羊皮紙ひ署名をする、最後に拇印を押した所で、給仕が麦酒の追加を持って来た。



「じゃ、改めて乾杯しましょう」

「何に」

「アタシのギルドが、これで王国ご用達になるのよ」

「ああ、そう……」



 マリオンがジョッキを持つと、ロキの飲みかけの麦酒に乾杯をしようとする。ロキは、「それでもいいか」とジョッキを軽くぶつけ合う。

 


「弟子になる子に言っておいてくれ。四年で僕より強い魔法使いに成って貰うって」

「天才魔法使いロキを超える魔法使いか、楽しみね」



 其処からは昔話に花が咲いた。マリオン達組んで冒険してたのは十数年前、そこからロキは一人で旅をして、マリオンは町に帰った事など。

 マリオンが当時ロキの親友だったマックスと結婚したのもその時である。



「で、マックスは今何処に?」

「んー、サンドレアの教会に出張中。今では司祭だから」



 ロキは親友であったマックスを思い出す。十代の頃から神に仕える彼は冒険者の中でも屈指のヒーラーであった。高身長で家柄もよく、よく笑う、しかしマックスは女の子からはもてなかった。彼の頭は禿げており、マリオンがそれをからかいロキが止める、そんな冒険時代を思い出し口元を緩めた。



「出世したんだね……」

「アタシも冒険者ギルドの支部長だし、ロキぐらいな者よ、全部捨てたのは」

「捨てた訳じゃなくて、疲れたというか」

「山奥でひっそりと暮らす方こそ疲れない?」

「健康には良いんだよ」

「うわ、でたっ。健康マニアっ、まだ変な液体飲んでるの?」



 ロキは麦酒をもう一口飲むと「余計なお世話」と、喋る。テーブルに並べられている料理を見てボサボサの髪を手で掻くと提案する。



「今日の食事代ぐらいは持ってくれるんだろうね」

「なんだ、元からその積もりだし、お安い御用よ。なんだったらベッドも一緒にする? あの夜の続きしても良いわよ」



 マリオンの言葉に口をつけた麦酒を噴出す。周りに飛び散り、せき込むとマリオンが背中をさすって来た。息を整えたロキはマリオンの顔をみる。

 歳はとっても綺麗な顔は変わらず、ピンクの唇が悩ましく動いている。



「マリオン、もう一度確認するけど。君、マックスと結婚してるよね」

「ええ。今では二児の母も兼ねてるわよ」

「聞かなかった事にする」

「そんなんだから、王妃に心配されるのよ……。たまには羽目を外さないと」

「だったら、酒で貰うよ」

「ふーん。よし、アタシも付き合うよ」



 酒場を追い出され、宿の前でマリオンと別れるロキ。最後まで宿に連れ込もうと誘いを受けていたが、マリオンを抱いている途中にマックスの顔が思い出してもなぁと断った。

 冬が終わり、春になるというのに夜風はまだ冷たくロキの火照った頬を気持ちよくしていた。

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