気分はピノキオ
ヒタヒタヒタ
「おのれ、イシュタムの脳筋め(怒)ここ、あの海坊主の体の中なんだよな、光なんか無いのに昼間みたいに明るく見えるんだが、これもオリジンちゃんの眷属の力か?」
グニグニした感触の洞窟っぽい体内をしばらく歩くと、ガラクタ置き場のような所に辿り着いた、胃袋かここ?
「お、漁船だ、いっぱいある。丸ごと飲み込まれたんだ、伊呂波丸?なんか聞いた事ある船だ、歴史の授業で習ったような、違うな土佐出身の先生が話してたんだ。中は……骨、うん、見なかった事にしよう」
ふむ、このまま海坊主の中にいても溶けたりして死ぬ事は無さそうだがずっと腹の中にいる訳にはいかんよな、どうにかして外に出ないと。
「とりあえず、この手の話では定番の内蔵チクチク攻撃やってみるか、気分は一寸法師だね。うん、この辺でいいか」
グニっとした壁の前に腰を落として立つ。
「え〜っと、アヌビスの奴に胸に穴開けられた時のパンチの打ち方は…」
犬神に打たれたパンチを思い出しながら、拳を構える。
何回も殺されたので身体で覚えた、やはり実体験は覚えやすい。
小指から順に拳を握ってギュッと力を込める、まぁ、ただの正拳突きだけどね。
「とヤァっ!!」
パァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
ん、駄目か。洞窟の中だから音はデカかったが傷一つつかない、これでも特訓の時は板切れ2枚はパカンと割れたんだけどな。
今度は八坂刀売神様直伝の真空飛び膝蹴りでもやってみるか。
壁から5歩くらい離れて腰を落とす、蹴り足の親指にグッと力を込める、この親指が踏み込みの時に大事なのだと言っていた。
ドンッ!と蹴り足を踏み出す。
「とりゃー!」
ドパンッ!!
「あ、穴空いた、ヤッター!」
流石は八坂刀売神様直伝の真空飛び膝蹴りだ、威力が犬神とは違うね。
穴から海岸沿いに並ぶオリジンちゃんや海神様達が見えた、この大きさの穴なら外に出れそうだ。
オォォォーーーーーーーーーーーーン!!
一方海岸沿いでは。
「おいおい、ニイちゃん食われちまったぞ、大丈夫か?」
「アハハハ、バクって、アハハハ、バクって!」
「ジャストミート…………」
「ハハハ、コントみたいなタイミングだったな」
「ガクさん、てるてる坊主さんの中に入っちゃって大丈夫ですの?」
学を飲み込んだ海坊主はまるっきり動かない、その場でキョロキョロとオリジンや神達を見ている。
その時。
パァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
いきなり大きな音がしたかと思えば、海坊主の腹の部分の肉片が飛び散った。
続いて。
ドパンッ!!
先程肉片が飛び散った所から再度肉片が飛び散る、ちょっとしたスプラッターだ、轟音と共に大きな穴が空くのが見えた。
「あ、オリジンちゃん達だ、お〜〜〜い」
ポッカリと空いた穴から見えたオリジンちゃん達に手を振る、お〜い誰でもいいから助けて〜。
このままじゃどうしようもないぞ。
「お〜い、ニイちゃん、止め、止め!」
「ん、海神様が大声で何か言ってる、止めってどうすればいいの?」
海坊主の穴を前に首を傾げて考えていると、せっかく空けた穴が小さくなり始めた。
「やば、再生が始まった、穴が塞がる」
咄嗟に穴を押さえようと断面に手をかけた時だった。
バチバチバチバチバチ、パリリィ
グオォォォーーーーーーーーーーーーン!!
苦しそうな声を上げ身悶える海坊主、俺が触れた穴の断面から紫電が走り、何かとてつもないエネルギーみたいなものが俺の身体に流れ込んで来た。
「うわわわわわわ」
急いで小さくなって行く穴に体をねじ込む、その間もバチバチとエネルギーは俺の体に流れ込んで来る、どうなってんだコレ。
ボチャンと海に落ちて後ろを振り返れば、それは驚愕の光景だった。
バキ、メキ、バキバキ、メキョ!
体内で何か砕ける音を出しながら、海坊主が急激に縮んで行く、この音ってあの中にあった船とかが砕けてるんじゃ。
「あっぶねぇ、あのまま中にいたら船の残骸で押しつぶされてたぞ、流石にそんな状態では動けないから再生するたびに死んじまう」
「ご苦労様ですわ」
プカプカと海の中を浮かびながら小さくなって行く海坊主を眺めていると後ろから声をかけられる、この声は。
水面に立つオリジンちゃんが俺に向かって手を伸ばしてくれる、えっ、海の上歩けるの?でもこの角度からだとパンツ見えちゃってますよ、不可抗力ですからね。あ、今日は白なんですね。
オリジンちゃんに手を引かれ、水面に立つ、あ、立てる。
「まだガクさんはまだ沈んじゃうので、私から手を離してはダメですわ」
あ、オリジンちゃんの力で立ててるのね。
その間も縮みまくっていた海坊主は、見上げるような高層ビルのような大きさから、鯨くらいの大きさにまでなっていた。
しかもしょんぼりして元気がないように見えるが。
「ドレインタッチですわ、ガクさんが海坊主さんの力を吸い取っちゃったんですわ」
「え、俺がやったんですかコレ?」
「狙ってやったんじゃないんですの?」
「全然」
ブンブンと頭を振る、そんな技は教わってないですよ。
「あぁ、ちょうど傷口から力を吸っちゃったんですわね」
オリジンちゃんが小さくなった海坊主のお腹の傷を見ながら呟く、そう言う能力は先に言っといてくださいよ、俺どうやって倒そうかと思ってたんですよ、考える間もなくイシュタムにいきなりぶん投げられましたけど。
けど、相手の力を吸い取れる能力、使い方によってはマジで最強じゃね。
隣に立つオリジンちゃんを見る、まさに神に恐れられる存在だと思った。
「おう、ニイちゃん上手くやったな、これならしばらくは悪戯出来ねえだろう」
いつの間にか海神様まで隣に立って海坊主を見ている、海坊主は目に涙を浮かべて俺達を見てる。
海神様はどうやってこの海坊主を倒そうと思っていたんだろう、やっぱりぶん殴ってかな?
結果的には悪戯を繰り返していた海坊主を懲らしめる事が出来た、ついでに俺の神格が結構上がった気がするから良しとしよう。
しかしこんなに呆気なく終わって良いのだろうか?
パクパク
「ノドグロのお刺身美味しいですわ!!」
オリジンちゃんも嬉しそうだし良いよね。




