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あの世界に未練はないけれど  作者: フクロウ
一章 強くなるまで
6/28

5話 これが命を奪うってことだ

色々軽く説明してます。

分かりにくかったら申し訳ありません。

 夕暮れ時の広場にカンッ!ガッ!と鈍い剣戟の音が響き渡る。訓練用に用意されたスペースで二人の男が木剣を手に打ち合っている。


 一人は黒の短髪の少年で、必死な形相で何とか相手に攻撃を届かせようと試行錯誤しながら剣を振るう。

 もう一人は銀の髪を適当に切り揃えた隻眼の青年で、絶え間なく続く斬撃を危なげなくいなしながら適度に相手の動きの邪魔をする。


 二人の男――シンヤとジュークはほぼ日課となった模擬戦の最中であった。数人の村人が暇潰しがてらギャラリーとして静かに観戦している。


 シンヤは木剣を小さな振りでジュークの脳天を狙う。ジュークは木剣の腹を内側から這うように逸らしていき、自身の軸から外れた瞬間、シンヤの木剣を地面に叩きつけるように押さえつけ、体制が崩れたシンヤの肩口に力を込めた一撃を叩き込む。


「ぐっ……!!」

「ほら、また死んだぞ!無理な体制でもせめて致命傷は避けろ!」

「まだ、まだぁ!」


 シンヤは一旦は膝をついたがまたすぐに距離を取り構え直す。


(左腕は、動く。体力は、あまりない。くっそ、どうにか一撃入れたいな。……一手先じゃあ足りない。ジュークの中の俺がどう動いているかを予測して更にその先を誘導しろ!)


 ジュークは片手で木剣を持ち、軽く半身になって中段に構えている。シンヤは呼吸を整えると木剣を思い切り振りかぶり、一気に踏み込み、ジュークにいわゆる唐竹割りをする。


「―――ふっ!!」


 ジュークは半歩身を引き、ギリギリでシンヤの上段をかわす。シンヤはそのままもう一歩踏み込み、振り抜いた勢いを殺さないようにしてジュークの胸元目掛けて突きを繰り出す。


 ジュークは先程身を引いた分斜めに踏み込み、突きを避けつつシンヤの左側から横凪ぎに木剣を振るう。


  渾身の連撃がかわされ、シンヤはもはや死に体かと思われたが、その攻撃を見計らったかのように突き出した木剣の柄尻でジュークの剣を受ける。


「おっ?」

「おおおぉぉぁ!」


 ガッ!という鈍い音を響かせ木剣の刀身と柄尻がかち合う。シンヤはその勢いを利用し、更に深く沈み込みながらジュークに体当たりするように肘打ちを繰り出す。


(いける!)


「甘い」


 完璧なタイミングかと思われたが、ジュークは至近距離の肘打ちを膝で弾き、脚をそのまま円を描くように振り上げ超至近距離からの踵落としをシンヤの脳天に叩き込む。


「っだぁーーっ!いけたと思ったんだけどな!」

「いや、今のは良かったぞ。上出来上出来。一ヶ月でここまで動けたら大したもんだ。最後の肘は良かった。剣を持ってるからって剣だけで攻撃しなくちゃいけないなんてことはないからな」


 シンヤは大の字で倒れて悔しそうに叫ぶ。そんなシンヤを感心したように誉めるジューク。


「きょーもじゅーにーのかちー!」

「しかし日に日に動きがよくなっとるなー。もう村の若いもんより強いんじゃないか!」

「シンヤー!そろそろジュークに一発かましてやれよー!」


 二人の模擬戦を眺めていた村人達がガヤガヤと感想を述べながら立ち去って行く。意外と暇人が多い。

 そんな人々に倒れたまま手だけで挨拶するシンヤ。


(もう一ヶ月か……最初はどうなるもんかと思ったけど、意外と楽しいな)


 内心苦笑しながら思い返す。


 シンヤがラグーの村で修行を始めて一ヶ月が経っていた。


 ラグーの村では、1日交代で村の仕事の手伝い、ジュークのサバイバル講習や戦闘訓練、夕食後はナターシャによるこの世界の勉強や魔法の練習…というサイクルになっている。


 元々いくつか武道を習っていたシンヤは飲み込みも早く、本人の努力と密度の濃い日常のなかでメキメキと成長していた。


 この世界についても色々と教わった。ナターシャが行商人から色んな書物を仕入れてくれているのである。全く知らない世界の歴史や情勢の勉強をするのは正直楽しかった。


 まず、この世界は二本の牙がある前歯のような形をしたオーグルクと言う大陸が1つと、牙の間にある海には大小様々な島があるらしい。


 このラグーの村は東側の大陸で一番大きな国である『シュテルリード王国』の領地にある村の1つである。


『人魔戦争』以前はどこの国も内部の腐敗が酷く、魔物の襲撃があっても国が動かず自警団のようなもので対処するような有り様だったらしい。

 しかし、戦争により疲弊し、事実上の敗北といつまた気まぐれで戦争を仕掛けられるかわからない恐怖とで、世界中で革命が起きたようである。


 シュテルリード王国もそんな国の一つだった。現国王、戦争終結時はまだ15歳だった王子が驚くべき手腕で次々と国内を整えていったらしい。

  曰く、腐敗した王族貴族を20年程でほぼ全て粛清した。

  曰く、弱体化していた騎士団の再編をし、今では騎士団の名誉は概ね回復している。『フィヨルダーナイト』という選りすぐりの特別階級も設けた。

  曰く、それまでは個々で細々と行われていた『ギルド』を国を挙げて組織化し、冒険者の依頼の受注のシステムの拡大を図った。

  その際、A~Eのランクと、更にその上の『ギルドナイト』という格を設け、フィヨルダーナイトと同等の権限を持たせることにより冒険者の質を劇的に向上させた。ギルドナイトになるには騎士になるより難しいらしいが。

  曰く、国王には人の心が読める。

  曰く、魔女と契約して絶大な力を得た。


 どこまで本当かわからないような噂話もあるが、戦争後僅か一代で国内をほぼ復興させ、魔物に対する戦力を拡大し、被害を急速に落としたのは事実である。


 今や冒険者ギルドはシュテルリードのみならず、世界中で共通の形式が採用されていて、各国のギルド支部はある種の中立地となっている。


 ちなみにジュークも冒険者で、『衛士』という、戦力を持たない村などに常駐する用心棒のようなものらしい。もっとも、ジュークはこの村の出身らしく、ラグーの衛士になるつもりで冒険者になったようだが。もちろん、衛士にはギルドから"給料"が支払われている。


「聞けば聞くほどとんでもねー王様だよなー」


 夕食後、自室で勉強していて何気なく独りごちるシンヤ。シンヤの知る物語の王様はだいたい腐った無能者で語られることが多かったので意外だったのだ。


「王都に行ったら会ってみたら?」

「うおっ、びっくりした!そんな簡単に会えんの?」


いつの間にか横に居たナターシャの声に驚くシンヤ。ジュークもナターシャもいつの間にか近くに居ることが多くてシンヤはよく驚かされる。


「定期的に一般の人の話を王様が直接聞いてくださる日を設けてるみたいよ?」

「そりゃすげえ」

「特にシンヤの問題は難しいから…とりあえず聞いてもらうのも良いんじゃない?」

「こんな荒唐無稽な話も聞いてくれるかね。門前払いにならないことを祈るよ」


 シンヤはその事を記憶しつつ、ふと長らく放置していた疑問を投げ掛ける。


「なあ、そういやなんで俺はここの言葉が分かるんだ?」


 初めて会ったときは何を喋っているのかわからなかった。殴られて気絶して起きたら言葉が通じるようになっていたのである。疑問に思わない方がおかしい。言葉どころか文字まで読めてしまうのだ。


「うーん、何でだろうねぇ。治療したときのマナが変に作用した……とか?」

「だとしたらマナ万能だな……。うーん、そのものを理解してるってよりも勝手に俺が知ってる意味のものに翻訳されてる感じ……かなぁ」

「ん~、まぁまぁ!わからないことは悩んでも仕方ないよ!」


 ナターシャは考えても分からないことは悩まない。シンヤも自分が大雑把な性格なのは自覚しているがナターシャは更にその上を行く。と言うのがこの一ヶ月で分かったことだ。


 ちなみにジュークは意外と面倒見が良く、細かいところにもよく気が付く。よくナターシャがジュークに説教されている場面を見かけるが、お互いそれを楽しんでいる節もある。


二人は恋人同士ではないようだが、村の住人全ての公認カップルのようなものらしい。シンヤが村長と二人で話していたときも「あの二人はよくっつかんかのぉ」などと愚痴を溢されたほどだ。


(お似合いだしなぁ)


外見も美男美女、性格もバッチリ、村の中核、……なぜくっついていないのか。


閑話休題。


「それよりどう?今日は魔法の練習する?」

「もちろん」


 シンヤがこの世界に来て一番感動したのが『魔法』である。よもや自分が魔法を撃てる日が来ようとは!と大いに喜んでいた。


が、


(掌に炎が発生するイメージをもつ……そしてそのイメージに沿ってマナを通す……)


 数十秒、シンヤが集中するが何も起こらない。どうやらMPが足りないようだ。


 ではなく、


「やっぱマナを魔力に"錬成"ってのがよく分からんなあ。あとイメージをどうやったら"表"に出せるのか……」

「うーん、シンヤの世界に色んなお話で色んな魔法があるのは聞いたわ。それを知ってるから"魔法とはこういうもの"っていう理解は早かったけど、どこか心の中で"自分にできるはずがない"って思っちゃってるの。そこがイメージをうまく伝えられてない原因だと思うんだけど…」

「うーん、この世界にもっと慣れて魔法があるのが日常になれば出来るようになるかなぁ?」

「そうねぇ、魔法を"特別なもの"として思わなくなればすんなり出来るとは思うけど…」


 実はシンヤはまだ一度もまともに魔法を発動できていない。自分の身体の強化はなんとなくではあるが出来るのだが、火の玉を打ち出したり氷を発生させたりといった"魔法っぽいもの"はどうにも成功しないのだ。


 この世界の魔法は驚くほど単純である。専用の詠唱も要らず、事前に魔方陣を描く必要もない。


 ただマナに願うだけ。


 有り体にいってしまえばこうなる。

 実際には引き起こす現象をイメージし、体内のマナがその魔法の形に錬成され魔力となり、そのまま自身のマナのみか、もしくは大気に満ちているマナと共鳴させることにより世界に"魔法"という現象を引き起こすことが出来る。


 魔法が発現する際、錬成されたマナはある種の法則によって配列を変える。この為、魔法を使うと勝手に魔方陣が浮かび上がるのである。


 魔方陣は自動的に配列が変わるが、同じ現象が起きる魔法は必ず同じ魔方陣が浮かび上がる。それを利用して魔方陣を暗記し、複写すればマナを通すだけでその魔法が使える、という裏技もある。しかしこれには魔法に必要な"意思"が欠けているためどうしても通常より出力は落ちてしまうようだ。

 その特性を理解している上級者は自分で魔方陣を書き換えて術をアレンジしたりもできるらしい。


 また、魔法自体に詠唱は必要ないが、本人がイメージしやすくするために詠唱のようなものをする者もいる。というか大体はそれぞれの詠唱を行っている。


 何度か試してみるがやはり成功しない。


「適正だとか才能だとかはあんまり存在しないんだよな?」

「そうねぇ、火も水も雷も何でも、全てはマナが起点になってるからどれかができてどれかができない、なんてことはないはずよ。まぁイメージしやすいとかで得手不得手は出てくるだろうけど。理論上は誰でもどんな魔法でも扱えるはずなの」


 かといって思い込みが強いだけでもダメらしいが。

 それに引き起こす現象によってマナの消費量や制御量が変わるため、先天的に持っている体内のマナの貯蔵量やより多くのマナを制御するセンスの差によって扱えない魔法はどうしても出てくる。


 大きな街になどには魔法を教える学校のようなものもあり、それぞれの流派によってのイメージしやすい詠唱であったり魔法名を作っているが、あくまで"術"の伝承だけで魔法の理論そのものの研究は遅々として進んでいないらしい。


「う~ん、難しい…。呪文を唱えて使えば使うほど強くなるって感じなら楽だったんだけどなー」

「私が見せてあげられたら良いんだけど回復魔法以外はからっきしだから…ごめんね」

「いやいや、それはしゃーないよ。俺に回復魔法の才能がないことはわかっただけ良しとしよう」


 適正はない、とは言っても例外がある。『回復魔法』だけは魔法が使えても中々出来る者は少ない。理由はよくわかっていない。

 回復魔法が使える人間は稀少な為、どこに行っても引く手数多でかなりの厚待遇を受けるらしい。


 ナターシャにそういう所に行かないのか、と聞いたシンヤだったが、彼女の答えは「だってこの村好きだし」という至極単純なものだった。


「ま、気長にやるよ」

「うん…がんばって!」


 はふ…、とあくびを噛み殺しながらシンヤを励ますナターシャ。


「最近やたら眠そうだけど何かあった?」


 シンヤが何気なく尋ねるとナターシャはパタパタと手を振りながら答える。


「あ、ううん、ちょっと作業したいことがあったから。んーっ!でも今日はもう寝ようかな!それじゃ、おやすみ!」

「あいよー、ありがとねー」


 露骨にはぐらかされた感じはあったものの、自分が知る必要のないことだろうと思い特に気にせず流す。

 そしてシンヤはナターシャが出ていった後もしばらく魔法書を読んだりしながら練習を続けていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 それから少したった日の昼頃、シンヤはジュークと共に森にいた。


 行商人から十体近いオークがこの村に向かっているとの情報があったため、ジュークが対応しに行き、ついでにシンヤも連れてこられたのだ。村の一番外側で待ち構えている状態である。

 

 恐らくは以前撃退した個体がいる群れだろうとのことだ。


 ジュークは自身の愛刀である直剣に最低限の防具を、シンヤは既製品のショートソードに、動きを阻害しない程度の革の鎧という装いである。最初は鉄の鎧をつけてみたのだが、重すぎるのと、動きがかなりぎこちなくなるのでやめた。


「緊張してるか?」

「そりゃ、な。一ヶ月前にボロ負けした奴らだし」

「大丈夫だ。お前は強くなった。躊躇わなければ勝てる」

「そう、だな。うん」


 実際のところ、シンヤはオークにはそれほど恐怖を感じていなかった。にもかかわらず見てとれるほど緊張しているのは相手が説得に応じなければ(ジュークは言葉が通じる相手には一応説得を試みるスタンスらしい)相手を殺さなければならないからである。


 シンヤは日本にいた頃に動物を殺した経験はなかった。ラグーの村に来てからは狩りなどで野生の動物を殺すことはあったが、それは『生きるため』と割りきることはできた。

 しかし、モンスターとはいえ言葉を話し意思の疎通が出来る者を殺すということに、どうしても忌避感が生まれてしまうのである。


(やるしか、ない。じゃなきゃこっちがやられるだけだ)


 陽気な光が降り注ぐ中、無言で待つこと数分。街道からオークの群れが向かってくるのが視認できた。数は12体。


「こりゃまた、わざわざ真っ正面から道を通ってくるとはな。単細胞で助かる。…シンヤ、戦いが始まったら一番強そうな奴をそっちに向ける。そいつを殺すことだけに集中しろ。それ以外は気にするな」

「…了解」


 ジュークの頼りになる指示を聞きながらも嫌な汗が出てくるのを感じて深呼吸をするシンヤ。


 十メートル程度の間を挟んで対峙する。


「よう!敵わないのを知ってて命を捨てに来たか!頭数を揃えたところで意味ねーぞ!」


(説得?)


 ジュークのあまりと言えばあまりの言い方にシンヤは内心突っ込む。


「グルルルッ、ソコノガキニコケニサレタ礼ガマダダカラナ!」

「ツイデニキサマモ殺シテヤル!」

「あー、あれたぶんお前がぶん殴った奴だな。下手に知性がついたぶんプライドだけ肥大化して俺に勝てんことさえ忘れたか」

「うへぇ、あんなのにモテなくていいのに…中途半端に傷つけて恨まれたか」


 オークの中の一体は常にシンヤを睨み付けている。一月前にシンヤに殴られたのが相当腹立たしかったらしい。


「うん、あれお前の獲物な」

「ですよねー」


 ジュークは説得(?)を早々に諦めて剣を抜き戦闘体制に入る。シンヤもショートソードを正眼に構え集中する。


 ジュークとの模擬戦はもっぱら木剣だったが、色んな種類の真剣の訓練もしている。シンヤはバスターソードなどの大きな剣にも憧れたが、流石にいきなりは無理なので安全性を考えて扱いやすいショートソードを使用している。日本人としては刀に憧れたが残念ながらなかった。


 シンヤ達が戦闘体制に入ったのを見ると、オーク達もそれぞれ獲物を構えてにじりよってくる。

 互いの距離が5メートルくらいになった瞬間、ジュークの姿がかき消える。ジュークは、シンヤを睨み付けていたオークの正面に踏み込み、蹴りを放って群れから離れる位置まで吹き飛ばす。


「グベアァァァ!!」

「シンヤ!いけ!」

「おおおっ!」


 ジュークの鋭い声に従い、色めき立つオークの間を一気に駆け抜けるシンヤ。

 

「シネエェェ!」

「させねーよ!」


  走り抜けようとするシンヤの背後へ凶器が迫るがジュークが回転切りで割り込みオークの腕をはねる。


 背後でジュークが多数のオークを相手に戦い始めた気配を感じながらシンヤは起き上がったオークと対峙する。


「グルルルルッ!ヨクモヨクモ!オ前ハ俺ガ殺ス!」


(躊躇うな、無駄な会話をしてるほど俺は強くない。一気にカタを付ける!)


 バカの一つ覚えのようにこん棒を振り下ろしてくるオーク。シンヤはそれをかわしショートソードで胴を横凪ぎにする。


「ガアアァァァ!」


(いける!ジュークの方が何倍も速ぇ!でも思ったより堅い!)


 苦し紛れに両腕を振り回してくるのを冷静に避けながらオークを切り裂いてゆくシンヤ。

 元々オークなどよりは身のこなしそのものは高かった為、一ヶ月に渡るジュークとの戦闘訓練によりもはや一対一では攻撃をかすらせる事も出来ないくらいにまで成長していた。


 背後ではジュークがオーク達を真っ二つにしたりこん棒を蹴り砕いたりと完全に無双している。


「クゲベエエェェ!」


 打ち合うこと十合。たまらずオークが尻餅をつく。


(勝機っ!)


「ガァァァ!マ、待ッテクレ!降参ダ!!イ、命ダケハ…」

「っ!?」


 命乞いをするオークに止めを刺そうとしたシンヤの刃が止まる。


「グハハハハァ!バァカメエエェ!!」

「っ!しまっ……!」

「ッチ!バカが!」


 オークは動きが止まったシンヤの隙を見逃さず反撃に躍り出る。

 そこへジュークが二人の間に躍り出てこん棒の直撃を受け吹き飛んでしまう。


「ジューク!!」


 しかし反応はない。


「チィ!相変ワラズ邪魔ナ奴ダ!」


 シンヤに攻撃が当たらなかった事への悪態を付きながら再びこん棒を振り回してくる。シンヤはそれを転がりながら避け距離をとる。


(くっ、俺のせいだ!ジュークは無事か!?早くナターシャにみせないと!)


 混乱しているシンヤに畳み掛けるように追撃を仕掛けるオーク。シンヤはどうにか攻撃を回避しながら目の前の敵に集中する。


(まずはこいつだ…。躊躇うな。さっきは無意識に急所をはずしていた。踏み込みも浅かった。躊躇うな、躊躇うな)


 一度大きく距離をとるシンヤ。そこへ馬鹿正直に突っ込んでくるオーク。


 オークがこん棒を振り上げた瞬間に全力で懐まで踏み込みオークの首筋めがけてショートソードを振り抜く。


 白刃が煌めき、互いの影が交差する。

 そして訪れる静寂。


「フゥーーッ」


 シンヤが長い時間をかけて呼吸を整えているとパンッパンッ、と乾いた音が聞こえてくる。キョロキョロと辺りを見渡すシンヤにおどけた声がかかる。


「よくやった、シンヤ。吹き飛ばされた甲斐があったってもんだ」

「ジューク!無事だったのか!」

「俺があんなもんでやられるとでも?」


 思いっきり吹き飛ばされた割には無傷のジュークがホコリを払ってシンヤの元へと近づいてくる。


(本当に同じ人間かよ…)


  そして剣を持つ己の手をじっと見つめているシンヤに神妙な顔で述べる。


「これが、命を奪うってことだ」


 ただ肉と骨を断った感触以上に、とても大事なものを自らの手で刈り取ってしまった感覚。

 ほんの数秒前まで話していたのに物言わぬ骸に成り果てた物体。


「……しばらく夢に出そうだよ」


  シンヤは苦い顔で答えてジュークと共に村へと帰る。


  後には十数体のオークの亡骸と、首を跳ばされ事切れているオークが少し離れた位置に立っていた。




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