面白い発明品
ある日、トム氏のもとへ旧友の博士が訪ねてきた。
「面白い発明品を持ってきたぞ。」
と、博士はいたずらっぽく笑っている。トム氏は、その発明品は何だと博士に尋ねると
「おっと、その前に、数年前に結婚したと聞いたが、奥さんは今家にいるのか?」
と、博士は声を落として聞き返してきた。妻は、学生時代の友達に会いに行っていると答えると、博士は安心したようなので、トム氏は博士を応接室に招き入れた。博士は箱から発明品を出すと、テーブルの上において見せた。見た目は古風な印刷機といった感じだろうか。
怪訝そうな顔をするトム氏に対して、博士は説明した。
「これはな、いわば簡単な浮気調査機だ。こちらの挿入口から、人間の顔写真を入れるだけで、浮気調査が出来てしまうというわけだ。今は、ネットワーク社会だから写真一枚でその人の情報なんてすぐにわかるんだよ。」
博士は得意げに続けた。
「誰でもいいから、写真を持ってきてここに入れてみてくれ。」
トム氏は、ここで博士をからかってやろうと思い、引き出しの奥から一枚の写真を持ってきた。
「妻だ。」
確かに、女性が写っている。機械に入れた。しばらくすると、機械の反対側から写真が出てきて、機械の上部についている赤いランプが点灯しブザーが鳴った。トム氏は尋ねた。
「これは、シロかい?クロかい?」
トム氏が訪ねると、博士は答えた。
「これはクロだな。」
すると突然、トム氏は笑い出した。
「残念だが、この機械は不完全だよ。その写真をよく見てみてくれ。写っているのは、大学時代に罰ゲームで女装させられた僕だよ。」
博士は、そういわれると、写真を手に取って、確かめた。いつの間にか博士の顔から笑みが消えていた。
「確かに君のようだな。」
トム氏は笑いながら続けた。
「この僕が、浮気をするような人間じゃないことくらい知っているだろう?ほら、こっちが妻の写真だ。」
といって、トム氏は別の写真を機械に入れた。
「確かに私は、君が浮気をするような人間ではないことをよく知っているよ。」
博士は大きく息を吸い込んで吐き出した。そして静かに言った。
「この機械は、浮気をしているかどうかを判定するんじゃない。されているかどうかを判定するんだ。」
機械から写真が出てくると、上部の青いランプが点灯した。