新たな仲間~後編~
「良いでしょう。許可いたします。」
「ありがとうございます。ついでに四日後に第一演習場の使用許可もいただきたいのですが?」
「解りました。そちらも軍の上層部に話を通しておきましょう。」
「重ね重ね私のわがままを聞いてくださりありがとうございます陛下。」
「こちらも期待していますよカインサー少佐、ラツィオ公がこちらの陣営につけばかなりの戦力増加が見込めます。四日後の決闘には私も立会人として参加しますのでそのつもりで。」
「はい、全力をかけてラツィオ公を負かします!」
ユーリはラツィオとの決闘の許可、及び会場の使用許可を求めてナタリアに会いに王宮に来ていた。ついでに決闘も四日後に決まった。そして用事を終えて王宮を後にすると門の前でアリアが待っていた。
「先に戻ってて良いって言ったのに、待っててくれたんだ。」
「はい!私はユーリ殿の副官ですので私だけ先に戻ることはユーリ殿が許しても私が許しません。」
「ありがとう…って言っておくよ。とりあえず思っていたより早く用事が終わってしまったけど…今何時か解る?」
「はい、え~っと…ちょうど午後一時ですね。」
「じゃあちょうど良いや、二人で昼飯を食べに行こうか?」
「えっ!?」
「どうしたの?行かないの?」
「あっ、いえ行きます!」
二人は小さな喫茶店に入り、互いにランチを注文すると食事が来るまで少々話をして待つことにした。
「…なんだか顔が赤いけどどうしたんだいアリア?」
「えっ!そ、そんな事ありませんよ!」
「そう…かい?ならいいんだけど。」
(こ、これってデートなんでしょうか? い、いいえ、多分そう思っているのは私だけ!現にユーリ殿は普段通りでいらっしゃるじゃない。…それはそれで少し悔しいですが。)
「アリア、ちょっと良いかい?」
「は、はい!なんでしょうか?」
「今度の決闘…僕は勝てると思う?」
ユーリの質問にアリアは表情を引き締めて真剣に考え始める。
そして答えを出した。
「失礼を承知で申し上げるなら、勝つことは難しいと思われます。現在のユーリ殿の技量では尚更…。」
「やっぱりそう思うかい?僕もそれをずっと考えていたんだ。
この前はラツィオさんがべリアルの能力を知らなかったから勝てたようなものだし…正直に言えばどうやれば勝てるのかわからないんだよ。」
「例えべリアル様に私が乗れても勝てる気がしません。」
「そうだよなぁ…でも彼を倒せないとこの先の戦闘で生き残れないだろうから何がなんでも勝たないとね。」
そうこうしているうちに料理が運ばれて来たので、ひとまず会話を中断して食事に集中することにした。だが二人共まだまだ話すことがたくさんあるので、料理を完食するのに時間はかからなかった。
「まぁ、このことはべリアルも交えて全員で考えましょう。」
「そうですね。では私達の整備ハンガーに行きましょうか?」
「そうだね。じゃあ行こうか?」
僕らはお金を払って店を出るとそのまま第一独立ガイスト小隊専用の整備ハンガーに向かった。
「あれ?おかしいな。いつもは聞こえる作業音が全く聞こえない。中で何かあったのかな?」
「まさか何者かの襲撃でしょうか?」
「わからない、ただ警戒は怠らないようにしよう。」
ユーリとアリアは足音を忍ばせながらハンガーの入り口を開けて中に入ると、ハンガー内には衝撃的な光景が広がっていた。
「み、皆死にかけてるー!!」
ハンガー内に入ると第一独立ガイスト小隊のガイスト整備士達がまさに死屍累々という言葉が似合うほどの有り様だった。
具体的にいうと誰一人の例外なく白目をむいて倒れていた。
そんな中で二つの人影だけが立っていた。
「グヘヘヘ…もっと…もっと新しい物を作るぞ~!」
「あんたも飽きないわね~。他の人達はもうとっくに休んでるけど…あんたの体力はどうなっているのかしら?」
「僕の辞書に飽きるという言葉はない!なぜならガイストを弄ったり、新技術の開発は楽しすぎて止められないからだ!さぁまだまだやるぞー!グフ、グヘヘヘ。」
「もう勝手にしなさい。私は手伝わないわ。」
そう、ガイスト故に人間形態になっても眠りを必要としないべリアルともとから七日徹夜は当たり前のライナーだった。
「ねぇアリア、なんだかライナーがどんどんマッドサイエンティストに近づいてない?」
「もう慣れました。おーいライナー君!ユーリ殿を連れてきよ!一端作業中止!」
「あれ?姉さんとユーリさん?丁度良かった!
もうべリアルさんの修理終わっていますよ!」
「それよりライナー、この惨状は一体どうしたんだい?」
「マスター、それについては私から話すわ。」
べリアルから話された事によれば、彼らはべリアルの装甲の金属『ミスリル』の精練をしていたらしい。
《三日前》ガイスト整備ハンガー
「まずミスリルを精練するにあたって必要な素材を言うわよ。一度しか言わないからちゃんと聞きなさい。」
ゴクリッ!
「まずは何でもいいから金属の塊を用意する。以上。」
「「はい?」」
「そのままの意味よ。ミスリルの精練には特別な素材はいらない。ただ金属があれば良いのよ。」
「え、ええぇぇ…。」
「あなた達は魔法剣の刀身がどうなっているのか解るかしら?」
「確か先に剣を作ってその刀身に魔力を込めることで魔力的な属性を付けたり、魔法を放つ際のブースターにしたりするんですよね?それがどうしたのでしょうか?」
「ミスリルの精練はそれを更に難しくしただけよ。」
「具体的には?」
「魔法剣ではどのくらい魔力を込めるのかしら?」
「今ある最高の物でも金属の質量の半分以下ですね。半分を超えると密度が高まり過ぎて膨張もしくは爆発します。」
「そう、物質には込められる魔力量の限界というものがあるわ。
でもミスリルの精練はその限界を超えても素材に魔力を込めるのよ。」
「「えぇぇっ!?」」
「む、無茶ですよ!」
「まぁそれが普通の反応ね。ライナー、あなたはどう思う?」
その時べリアルや整備士班の全員の視線が班長であるライナーに集まる。するとライナーは不敵に笑って応えた。
「面白そうですね、無論やるに決まっています。」
「…だそうよ、それであなた達はどうするのかしら?」
「ライナーさんがやるなら私達もやりますよ。それに…彼が今さら何をしようと私達は驚きません。」
「…良い部下に恵まれたわねあなた。」
「はい!」
「じゃあ早速私が実際にやりながら説明するからよく見てなさい。」
そう言うとべリアルはその辺にある鉄板を手に持つと、魔力を込め始める。べリアルが魔力を込め始めると鉄板が淡い青色を放ち始める。
しばらくすると鉄板がブルブルと震え始める。すると誰かが悲鳴っぽい声をあげた。
「そ、それ以上は無理ですよ!爆発しますよ!」
するとその声が届いたのかは解らないが、パタンとべリアルが魔力を込めるのを止めた。
「良いかしら、ここからが一番危険な工程よ。そしてここからは一人ではできないわ。ライナー、手伝って頂戴。」
「わっかりましたー!」
「さて、これからこの限界を迎えた鉄板に更に魔力を加えていくわ。でもただ加えるだけじゃあすぐに爆発するだけよ。
そこでライナーはさっきの私のように魔力を込め続けて頂戴。但し少しずつよ。そして私はこの鉄板が爆発しないようにある特殊な方法で魔力を込めるわ。」
「特殊な方法ってどういうことですか?」
「簡単に言えば私がミキサーの代わりを務めるのよ。」
「ミキサー?」
「つまり鉄板内の魔力と鉄板の構成物質を混ぜ合わせるのよ。そしてこれがミスリル精練の肝よ。
さぁライナー、始めるわよ!」
「はい!」
べリアルの合図を尻目にライナーが鉄板に魔力を込め始める。
それと同時にべリアルが周囲からも見て解るほど大量の魔力を込め始める。そのおかげか、さっきまで震えていて今にも爆発しそうな鉄板が再び淡い青色を放ち始める。
そして次第にキンキンという金属音が鳴り出す。
すると次の瞬間、鉄板が白銀色の強い光を放つ。
「今よライナー!全力で魔力を込めなさい!」
「こんのおぉぉ!」
そして鉄板の放つ光が一際強く瞬き、ハンガー内が光で溢れる。
光がおさまった頃、整備士班の全員がべリアルとライナーの方を見る。するとそこには息を荒らげながら立っている二人の姿があった。そしてその手には白銀色に輝くミスリルの板があった。
「はぁ…はぁ、これがミスリルの精練よ。そしてこれは私が知る中で最も頑丈で最も優れた金属よ。」
「やった、僕は全く未知の物質を作り上げたぞー!」
「さて、ライナーは浮かれているけれど、あなた達はさっき私が地獄を見るって言った意味がわかるかしら?」
べリアルが問いかけると整備士班の全員が頷く。
「そう、こんなに薄い鉄板からミスリルを精練するだけでも大変なのに、ガイストの右腕の外装全てを賄うほどのミスリルを精練しようとしているのよ。」
「「ゴクリッ!」」
「さぁ、あなた達に地獄を見せてあげるわ。」
そして整備士班はこの三日間でべリアルの右腕分のミスリルを精練して、右腕の修理まで完了させて力尽きた。
そして今に至る。
「さぁユーリさん!べリアルの修理は完了しましたよ!次は何をしましょ…う…」
「ライナー!?」
突然ライナーが膝から崩れ落ちる。それをべリアルが受け止める。ライナーの顔を覗き込むと、静かな寝息を立てて気絶していた。ひとまずユーリとアリアは胸を撫で下ろす。
「それでマスター、何かあったのかしら?」
「べリアル…右腕はもう大丈夫かい?」
「もちろんよ、で、何があったのかしら?」
「あぁ実は……ということになったんだ。いけるかい?」
「…無論よ。実はこの右腕の試運転がしたくてたまらないの。願ってもない話だわ。」
「良かった。じゃあアリア、べリアルも入れて戦法を考えようか?」
「はい!」
そして僕ら三人は整備士班の頑張りを無駄にしないためにも、ラツィオさんに勝つための戦法を考案したり、模擬戦をして決闘に備える。そして四日後、ついに決闘の日を迎えた。
《シーマリン王国軍第一演習場》
前代未聞の七聖諸侯と王国騎士の決闘を見届けようと、演習場の観客席には五千を超える観客がつめかけた。
そして演習場のど真ん中には二機のガイストがそびえ立っていた。そしてその足元にはこれまた二人のガイストパイロットが向かい合って立っていた。
「…成長したようだな…。」
「はい?」
「以前戦った時とは表情が違う。まだまだ至らない部分はあるだろうが、もうすっかり一人前の戦士の顔だ。」
「…ありがとうございます。そちらこそ最近の監獄暮らしで腕は鈍っていないでしょうね?」
「無論だ。私を誰だと思っている?」
『さぁ~いよいよ決戦の時が近づいてきました!ここでナタリア女王陛下よりルールの説明をしていただきます!」
『皆様ごきげんよう、シーマリン王国第四十五代女王のナタリアです。ではルールを説明いたします。
まず一つ目、決闘者達のガイストは通常のガイストとは遥かに性能が違います。そこで互いのダメージ判定は通常ガイストに合わせて行うものとする。
二つ目、使用する武器は事前に申告した二種類とする。尚、武器はあらかじめ刃引きしたものを使う。
三つ目、互いに固有武装の使用は禁止とする。
そして最後、勝敗はダメージの蓄積、パイロットの気絶・降参のみとする。
両者は以上のルールを遵守して決闘を行うように、では両者はガイストに乗り込んでください。」
ナタリアの指示でユーリ達は互いのガイストに乗り込む。
「べリアル、調子はどうだい?」
「絶好調よ。右腕も問題ないわ。それよりどう?勝てる自信はあるかしら?」
「勝つよ、絶対。」
「…良い心持ちね。なら大丈夫、私もマスターを信じてみることにするわ。」
「ありがとう。僕も君を信じるよ。」
『両者が配置に着いたことを確認致しました。それでは両者決闘を始めてください!』
審判の合図と同時にべリアルとベヘモスは互いに武器を構える。べリアルは使い慣れた直剣を背部から引き抜き、ベヘモスは前回戦った時と同様に大型のランスを構えて向き合う。
観客は最初は互いに様子を見るために積極的には仕掛けないだろうと予想していたが、戦局は予想をすぐに裏切った。
なんと開始早々べリアルが仕掛けた。
「べリアルにあってベヘモスに無い物はスピード!勝機があるとしたらそこしかない!」
「来るなら来い!」
べリアルはジグザグに前進しながらベヘモスに接近し、横薙ぎに直剣をくりだす。それをベヘモスは難なくランスで受け止める。
そしてそのまま滑らせるようにべリアルにランスの穂先を突き出す。それをべリアルの顔を傾かせてかわしてそのまま走り抜けて両者、距離を取る。
「…良い一撃だ。受け止められた後の反応も申し分ない。相手が普通なら今の攻防でアウトだな。」
「涼しい顔で乗りきっておいて言う言葉じゃないでしょう。」
「ふっ、それもそうだな。今ので互いに目も覚めただろう。今度はこちらから行くぞ!」
(来る!)
ベヘモスは目一杯反動をつけてべリアルに突っ込んで来る、そして進みながらランスを高速で、しかも休まずに突き出してくる。
そのランスをコックピット内のユーリはべリアルによって強化された視覚で見切り、べリアルを動かして受け流し、かわしながら後退する。
だがやはりラツィオの腕の方が一枚上手であった。その証拠に徐々にユーリの反応が遅れ始め、べリアルにランスがかすり始める、そしてラツィオが狙い済ました一撃がべリアルの肩に直撃し、べリアルの肩の装甲が飛び、その衝撃でべリアルが大きくのけ反る。
「もらった!」
「なんのっ!」
ベヘモスは渾身の一撃を突き出すが、べリアルはしゃがみこんで足元に一撃を入れようとする。
「ぬおっ!?」
結果べリアルの一撃がベヘモスの脛を直撃する。そしてベヘモスの突進の勢いも利用してベヘモスをこかした。
べリアルはそれ以上の追撃を避けて距離を取る。ベヘモスもこけた勢いで素早く前転して立ち上がり、再び二機は向かい合う。
この一連の攻防を見ていた観客からは物凄い歓声があがる。
「すっげえぇぇ!何だ今の動き!?」
「俺なら最初の一撃でもう終わっていたぜ!」
「これが強者同士の戦いか…。」
「姉さんならこの戦いどう見る?僕には互いに良い勝負をしているように見えるけど…大丈夫かい姉さん?」
「えっ?あ、うん。私は大丈夫だよライナー君。でも…不利なのはユーリ殿の方だよ。」
「理由は?」
「多分…ユーリ殿にはもう有効な攻め手が無いのよ。対してラツィオ殿は豊富な経験から来る無数の攻撃方がある。この差を何とかして補わないとユーリ殿は勝てないと思う。」
「女王陛下、そんなに身を乗り出しては危ないですよ。」
「す、すみません。つい見入ってしまいました。しかし…状況は厳しいようですね。」
「はい、カインサー少佐は苦戦しております。」
(ユーリさん、どうか勝ってください。ナタリアはあなたの勝利を心から祈っております。)
状況は膠着していた。両者互いに向かい合って攻めようとはしない。今は互いに気持ちを整えていた。
「マスター、恐らく相手は次の攻防で勝負に来るわ。気持ちを入れなさい。今まで通りに構えていたら負けるわよ。」
「……」
「マスター、聞いてるの?マスター!」
「聞いているよ。」
「そう?それなら良いけど…。何かあったのかしら?」
「…ねぇべリアル、今日ってこんなに空気が澄んでたっけ?」
「何を言ってるの?いつもと同じよ。」
「そう…だよね。」
「まさかここまで反応できるとは思ってなかったぞ。だがもう終わりだ、これから私がくりだすのは、私の必殺の一撃だ。避けることも敵わない、受けることもできぬ一撃を見るが良い!」
「来るわよマスター!」
ベヘモスは先程よりも大きな反動をつけてべリアルに向けて突進する。その速さは音速にも迫る物だった。その速さに加えてベヘモスは全力でランスを突き出す。音速を超えるような突きがべリアルに迫る。
「成程、さっきのような複数の刺突よりも、狙い済ました一撃の方が避けられないわね。腹括りなさいマスター!」
「…ねぇべリアル…」
「何っ!?マスター!」
「ベヘモスの突進って…あんなに遅かったっけ?」
「…はい?」
この時、ユーリの視界にはランスを突き出しながら迫るベヘモスが見えていた。べリアルによって強化されてやっと目で追えた先程の連撃よりも遥かに速い一撃だったが、今のユーリにはベヘモスの一撃がはっきり見えていた。
(なんだろう…凄く周りがゆっくりと見える。)
ユーリはべリアルの操縦桿を操作する。それにべリアルが呼応して動く。べリアルは背中に装備していたもう一本の直剣を引き抜き、二刀になる。
(早く来ないかな…まだあんなに遠くにいる……今だ!)
「!!」
べリアルはベヘモスのランスに対して直剣の一撃を叩き込んだ。それも一撃ではない。二撃目、三撃目と連続して叩き込んでいく。端から見ればべリアルの腕が複数あるように見えただろう。
だが尚もべリアルは止まらない。ランスの穂先が迫る中でも、べリアルは次々と剣を叩き込み続ける。そのうち、ピシッとランスに亀裂が入った。そしてそれをユーリは見逃さなかった。
そこからは亀裂目掛けて剣撃を叩き込んでいく。そしてべリアルの剣を振るうスピードは音速を超えた。
バギイィィッ!!
何の音だったのか?それを観客、ラツィオさえも理解するのに少々の時間を要した。流石にラツィオは比較的早く理解したが、そのタイムラグが命取りだった。
「ぜえぇりゃあぁぁ!!」
そして音速を超えるべリアルの一撃がベヘモスの胸部に叩き込まれる。べリアルの剣は衝撃に耐えられず砕け散ったが、その衝撃はベヘモスの突進の勢いを相殺し、ベヘモスは止まった。
「…何が…起こった…!?私は…負けたのか?」
「ハァハァ…ちょっとマスター、何よ今の操縦…私を殺す気?
身体中の配線が何ヵ所も切れてるわよ。」
「…終わったの?」
「…はい?見てなかったの?私達がちゃんとベヘモスの胸に剣を叩き込んだじゃない。」
「あ~そうだった。何か実感がわかないなぁ。」
「ちょっと、しっかりしなさいよ。」
「ゴメンゴメン。」
べリアルはユーリの様子に少し疑問を感じたが、受け答えがしっかりしていたので気にしなくなった。
そして観客席に目を向けると…
「…今の見えた?姉さん?」
「ゴメン、最初の一撃だけしか見えなかった。あとの全部は目で追えなかった…でも、ユーリ殿…ユーリ殿が勝ったんだよ!」
「あっ、ちょっと姉さん!急に立たないでよ!」
「ユーリ殿ー!おめでとうございます!」
アリアは力一杯叫んだ。その声が今まで何が起きたか解らなかった観客にユーリとべリアルの勝利を伝える物だった。
すると審判がユーリの勝利をコールする。とたんに観客席から大歓声が巻き起こる。
「か、勝ったのですか?カインサー少佐が勝ったのですか!?
やっ…たー!!勝った、勝ったー!」
「陛下、落ち着いてください。民衆がいるのですよ。」
「うっ、す…すみません。はしゃぎすぎましたね。」
「はい、ですが無理もありません。私もこのような公の場ではなく、観客席にいたのならば…両手を天にかざして叫んでいることでしょう。」
「そうですよね。こんな勝負見せられて興奮しない人はいないでしょう。…ですが…」
『すげぇぇー!まばたきしてる間に決着ついちまったぞ!?』
『今の映像に残ってねぇかな!?もう一度見てみたい!』
『ば~か、俺達じゃ何度見ても見えねぇよ。』
『うおおおぉぉっ凄えぇ!何かよくわからんが凄えぇぇっ!』
『『ユーリっ!ユーリっ!ユーリっ!』』
「…この喧騒、どうやって静かにしましょうか?」
「それを考えるのも陛下の役目です。」
「はぁ、社交界で挨拶周りをした時よりもつらいですね。」
この日、ユーリはラツィオから二回目の勝利をもぎ取った。そしてこの勝利は戦局を変えるための大きな要因になることはまだ誰も知らない。
ーーーーーー《続くーーーーーー