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ロボットで神は倒せますか?  作者: 一膳1日
戦争(へだたり)
17/29

第二回オズボーン攻防戦

第十七話


「ばかな!何故砦内部で反乱や暴動が起こっていないのだ!?」

サバレタは驚いて目を見開く、それもそのはず、彼の視線の先では西門の応急修理を終えて城壁の上に整列してこちらの様子を伺うシーマリン王国軍の姿が見える。

二日前の会議でサバレタの作戦案が採用され、レイスト帝国軍は作戦通りに西門と東門の両方に兵を布陣していた。

「そう気に病むなサバレタ大尉、作戦通りに事が運ぶ戦いは無いに等しいのだ。この短期間で住民を味方につけた連中のほうが上手だっただけだ。

だから気にするな。」

「カルタス少佐…すみません!」

サバレタはカルタスに叱咤されて改めて城壁上の王国軍を見つめる。

「カルタス少佐…勝てそうですか?」

「…西門を破れば何とかな。だが奴等もそれは承知だろう。恐らく失敗の確率のほうが高い。」

カルタスがひいき目に見なくても王国軍の士気と錬度の高さが見てとれた。

「だが退くわけにもいかない。なら戦うしか無いだろうな。」

それを聞いてサバレタは唇を噛みしめ、悔しそうな顔をした。

「だが負けてやるつもりは無い!あとは私の仕事だ、任せてもらおう。」

「お願い…いたします。」

そしてカルタスは自分のガイストに乗り込んで西門攻略部隊全体の通信回線を開いた。

「全部隊に告げる。これより指示を出す。」

内部スピーカーからは沈黙が返ってきた。それを合図と受け取ったカルタスは淡々と指示を飛ばしていく。

「第一~第三ガイスト中隊及び魔法兵士大隊はこの場から魔法による援護射撃、第四~第七ガイスト中隊及び歩兵大隊は破城槌を運びながら西門に接近、西門を破壊した後内部に侵入、敵を撃破せよ。以上、何か質問は?」

「「「ありません!」」」

そしてカルタスは一度深呼吸をして再び口を開いた。

「我々は神に仕える兵士である!愚劣な反逆者共に裁きの鉄槌をくれてやれ!」

「「「応!」」」

「作戦開始!」

カルタスの命令で一斉に帝国軍は動き出す。

午前8時25分、第二回オズボーン攻防戦の火蓋が切って落とされた。


「始まったか。」

城壁内部で帝国軍の怒号と魔法の砲撃音でユーリは目を覚ました。

「総員攻撃開始ィィィ!連中をぶち殺せェェ!」

いきなりユーリの通信イヤホンマイクからもの凄い音量の叫び声?が聞こえてユーリはうずくまる。ユーリの五感はべリアルによって研ぎ澄まされており、例えるなら耳元で銃を発射された様なものだ。

ユーリはキーンとする耳を押さえながら身を起こした。

「い、今の声はタラコ少佐だな…人って四日間徹夜したらああなるのか、へぇ~。」

ユーリがまた一つ知識が増えたなと思っているとまたイヤホンから音声が聞こえてきた。

「ユーリ殿、私達も動き始めましょう。」

「アリア、じゃあ皆に回線を繋いで。」

今回ユーリ達第一独立ガイスト小隊、通称マリンスネイクは他のガイスト小隊と連携して一つの部隊として行動することになっていた。

「しかし僕の小隊だけでも手一杯な気がするのに僕が中隊長か。不安だなぁ。」

「中隊長殿!本日はよろしくお願いします!」

「先の戦いの英雄であるユーリ・カインサー少佐殿と戦えるなど、恐悦至極であります!」

(うぅ、なまじこの前の戦いで活躍したから評判が上がっているし…下手な失敗もできない。)

「あまり思い詰める必要はありませんよ隊長。いつも通りにやってください。」

「そうっすよ隊長。俺達もフォローします。」

アズール中尉とドストエフスキー少尉の励ましにユーリは泣きそうになった。

「うぅ、ありがとう二人とも。頑張るよ。」

「ユーリ殿、回線繋ぎました。」

「うん、解った。

え~それでは皆さんおはようございます。この度この中隊を指揮することになりましたユーリ・カインサーです。よろしくお願いします。」

「「よろしくお願いします!」」

ユーリは先程の態度とは裏腹に指示を出す。

「僕達のやることはそれほど多くありません。しかし一番危険な役目です。城壁上の部隊からの合図で各小隊は順番に水路を通って城壁の外に出て敵部隊に対してミサイルによる攻撃、後に水路から浮上して可能な限り敵を攪乱して撤収。以上です。」

「ユーリ殿!タラコ少佐から合図来ました!」

ユーリが指示を出し終わるのとアリアが合図を確認するのはほぼ同時だった。

「ええっ!早くない!?予定ではあと三十分後のはずだけど。」

そんな時ユーリに通信が入ってきた。べリアルのモニターに表示されたのはタラコ少佐の名前だった。ユーリは咄嗟にイヤホンを外した。

「よろしくやってるかぁぁ野郎共!とっとと敵に突っ込んでこいや!ヒーハー!」

やけにテンションの高いタラコ少佐はそれだけ言うと一方的に通信を切った。

(何だったんだ今の?)

ユーリの中隊全員がそう思ったという。

「え~気を取り直して皆さんなるべく生きて帰りましょう。そして帰って来たら僕が一杯おごりますよ。」

「「おおぉぉ!!」」

「いいんですかそんな事言って?」

アリアが心配そうに聞いてきた。

「大丈夫、おごるって言っても一杯だけだからそれほどダメージは無いよ。」

つまりユーリはおごるのは最初の一杯だけでそれ以降は自己負担と言うのだ。

「それって詐欺では…。」

「さ、さぁ皆さん、あらかじめ決めた順番通りに水路に入水してください。作戦開始です。」

「「了解!」」

ユーリが促すと各小隊は順番に水路に入水していく。

「それではユーリ殿、城壁の向こうで合流しましょう。」

「先に行きます隊長。」

「行くっすよー!」

「うん、また後で会おう。」

ユーリを除くマリンスネイクの各員は水陸両用ガイスト《アクアマリン》に乗り込んで水路に入水して行った。

「さて、僕も行きますか。」

「さっきの会話は聞いてたけどあなたって予想以上にセコいわね。」

「君にまで言われたか…。」

「そんなことより良かったの?」

不意にべリアルがユーリに問いかけてきた。

「良かったって…何が?」

「私の内部レコーダーにあったあの映像を公開したことよ。」

あの映像とはべリアルの前パイロットが残したメッセージのことだ。

ロッキー中将の要請でそれをユーリはこの砦に住む住民全員に公開したのだ。

それによって住民は神を信じるべきか王国に従うか、と困惑した。だから今現在住民による反乱も暴動も起こっていない。

「確かに早すぎる気もしたけど…住民を抑えながら戦うのは無謀過ぎるからね。背に腹は代えられないよ。」

「まぁマスターがいいなら私は別にどうでもいいわ。さぁ行くわよ。」

「またこの壁を飛び越えるのか、緊張するよ。」

「今さらね、前の戦いで既に一度やってるじゃない。気負うだけ無駄よ。」

「…解った、行こう!」

そしてユーリはべリアルを走らせる。徐々に速さを増していき、城壁まであと僅かのところでべリアルを跳躍させた。

「行ってこいユーリ・カインサー少佐ぁ!援護は任せろぉぉ!」

タラコ少佐の激励?を無視してべリアルは機体の二倍はある壁を一気に飛び越える。

そして帝国軍の目と鼻の先に降り立った。


それは突然だった。カルタスのガイストのコックピット内部モニターに表示されている自軍マーカーが急に二つ消えたのだ。

「どうした第六小隊、何かあったのか?」

カルタスは消えた二つのガイストパイロットのいる小隊の隊長に通信で問いかけた。

「少佐殿…奴です。」

「!」

カルタスは驚愕した。まさかこんなに早く出てくるとは想定していなかった。

「なるべく交戦は避けろ!今すぐ私の小隊が向かう。戦うにしても時間稼ぎに専念しろ!」

「は、速すぎる!うぅうわぁぁ!」

悲鳴と共に小隊長のマーカーまでが消える。

「あいつも決して弱くはなかった…だが敵が強すぎる。どうしたものか。」

その時カルタスの機体に通信が入った。

「隊長!私を行かせてください!私なら彼を止められます!」

「ライトソー少尉…やむを得ん、貴官に奴の足止めを命じる!ただしこちらの指示には従え!」

「ありがとうございます!」

そう言い残すと一機のガイストがカルタスをもの凄い速さで駆け抜けた。

「やはりライトソー少尉も充分に化物じみているな、機体のリミッターをほぼ解除せねば彼女の操縦に機体がついていかんのだからな。」

もう彼女の機体はカルタスからは見えなくなった。モニターを覗くと間もなく例の奴と接触するだろう。

「奴の対処はライトソー少尉に一任する!他は作戦通りに破城槌を運ぶぞ!」

「「「了解!」」」

「死ぬなよ少尉。」

カルタスの小さな呟きは喧騒に紛れて誰にも聞こえなかった。


「まさかいきなり敵と出くわすとは、敵もなかなか攻撃をかわすのがうまいわね。」

「それよりべリアル、やっぱり右腕の動作は重いね。」

べリアルは前の戦いでジェシカの機体に右腕に一撃を与えられていた。

腕を両断されることはなかったが、ダメージはフレーム内部の配線にまで伝わっており、修理を担当するライナーによると、

「動かすことはできますが、べリアルさんの構造は不明な点が多く、ちゃんとした整備は王国に戻ってからでないとできません。」らしい。

だからユーリは今べリアルの左腕に長剣、動きの鈍い右腕にはショットガンを持っていた。

「マスター!急速にこちらに接近する機影があるわ、恐らくあなたの幼馴染で間違いないわ。」

べリアルの声が聞こえたのと同時に懐かしい幼馴染が姿を現した。

「ユー君!」

「ジェシカ!」

ジェシカは機体の速度を落とさずに長剣をべリアルに振るう。

ユーリは咄嗟に左腕の長剣で受けとめた。

「さすがユー君だね、私のこの攻撃が受けとめられるなんてね。ちょっと自信無くしちゃう。」

「ジェシカ…やっぱり出てきたんだね。」

ユーリはジェシカ機と少し距離を取った。

「ねぇユー君、今度こそ教えてくれない?ユー君がやらなきゃいけないこと。」

ふとジェシカはユーリに聞いてきた。

「…何度も言うけど君に言うわけには…」

「何でそんなこと言うの!?言ってくれないと何もわかんないよ!何で私に教えてくれないの!私達幼馴染でしょ!」

「…。」

ユーリは返答に詰まった。ジェシカの声音から彼女の感情が伝わってきたからだ。

(君には言いたくない…このことに君を関わらせたくない。でも話さないと君に対して僕の良心が痛む、辛い。でも…)

「ああっもうっ!悩むくらいならもう言いなさい!うじうじするのは嫌いよ!」

べリアルが悩んでいたユーリを一喝する。

「…解ったよジェシカ。君に伝えるよ…僕の使命ってものを。」

内部スピーカーから彼女が息を飲む音が聞こえた。彼女が僕が話すのを今か今かと待っている様子がユーリには容易に想像できた。

「僕の…僕の使命は神を倒すこと。神を倒してこの世界を人間の手で統治することだよ。」

「……?」

今頃ジェシカは言葉の意味を理解できていないのだろう。沈黙が場を支配した。

そして三十秒が経過したくらいに彼女はおもむろに口を開いた。

「え~っと…よく解らなかったけど…とりあえずそれってとんでもなく危険なことなんでしょ?」

「…命賭けであることは間違いないわ。」

「駄目だよ!」

ジェシカはこれまでユーリが聞いたことのないような剣幕で叫ぶ、その勢いにユーリは驚いた。

「それに神様を倒すなんて冗談でも言っちゃ駄目だよ!」

「冗談で言ってない。僕は本気だよ。」

ジェシカの言葉にユーリは今できる限り誠実に答えていく。

「ユー君がやらなきゃいけないの?今ならまだ間に合うから私と一緒に帰ろうよ!」

数ヶ月前のユーリならジェシカの言葉に心を揺さぶられただろう。だがユーリはもうあの頃のユーリではない。

「ジェシカ、僕はあの学校を退学してシーマリン王国に行って色々な角度から世界を見てみて結論を出したんだ。もう揺らがないよ。」

ユーリははっきりと厳かに言った。

「そんな…ユー君が死んじゃうよ!」

ジェシカは尚ユーリを説得しようとする。

「ジェシカ、僕は君とは戦いたくないんだ!だから…一緒に来ない?」

「…えっ?」

「僕と一緒に神を倒そうよジェシカ、そして人間による新しい世界を一緒に作ろうよ!」

これはユーリの本心から出た言葉だった。

「でも神様を裏切るなんて絶対駄目だよ!だからユー君がこっちに戻ってきてよ!」

「いや、戻らない。僕はもうやりきると決めたんだ!」

そして二人の間を沈黙が流れていく。

「解ったよユー君…。」

最初に口を開いたのはジェシカだった。

「解ってくれたかいジェシカ!さぁ一緒に僕の仲間の元に行こう!」

「いや、私は行かない。」

ジェシカはきっぱりと言い、今度はユーリが面を喰らう。

「言って解らないなら私が力づくでも連れ戻す!ユー君は私が正気に戻す!」

「ジェシカ!」

「武器を構えてユー君、丸腰じゃさすがに気の毒だから。」

「くっ。」

(こうなることは予感していた。だけど…!)

ユーリは葛藤する。ジェシカと戦いたくない気持ちと作戦を成功させるために彼女と戦うか、やがてユーリは結論を出した。

ユーリはべリアルの左腕に長剣を構えさせてジェシカに切っ先を向ける。

「…ねぇユー君、私達が喧嘩するのって何時以来だっけ?」

不意にジェシカが懐かしむように尋ねてきた。

「…多分これが初めてだと思うよ。」

「うん、私も記憶にないよ。」

そして二機のガイストは互いに接近していき、長剣を振るう。

ガギィィ!と甲高い金属音を上げて長剣がぶつかる。そしてそのまま鍔迫り合いになる。

(くっ、やはり左腕だけだと不利かっ!)

べリアルは基本的な性能では汎用機の約数十倍の力を有している。だがジェシカの機体も彼女の操縦技術に合わせるために数々のリミッターを外している、そのためいくらべリアルでも片腕VS両腕では苦戦を禁じ得ない。

「さすがだねユー君、まだガイストの操縦を始めて数ヶ月しか経ってないのにこんな動きができるなんて…でも右腕を使わないのは何で?」

「…訳を話したら手を抜いてくれる?」

「まさかっ!どんどんいくよ!」

「くっ、」

ジェシカは好機と見るやここぞとばかりに剣撃のラッシュを繰り出す。

ユーリは必死に受けて流して直撃を避けるが、戦いというのは受ける方が攻める方より神経をすり減らす。

だからすぐにジェシカ機が一瞬の隙をついてべリアルの長剣を巻き込んで弾き飛ばす。

「もらったぁぁ!」

「遣られるっ!?」

ジェシカ機はべリアルに向けて渾身の一撃を大上段から振りおろす。だがその一撃はべリアルに当たることは無かった。

「ユーリ殿!避けてください!」

「「!?」」

ユーリは咄嗟にべリアルを横に飛ばせた。ジェシカも本能的に回避行動をとる。

するとさっきまでユーリ達が居た所に魔法で作られた氷弾が着弾した。

そしてべリアルを庇うように一機のガイストが立った。

「大丈夫ですかユーリ殿!」

「アリアかい?ありがとう助かったよ!」

水路を通って城壁外に出たアリア達が合流したのだ。

「何よあのガイスト、邪魔よ…!?」

ジェシカ機は再び回避行動をとる。するとジェシカ機のいた場所をガイスト二機のアクアマリンのアイアンクローがすり抜ける。

「今のをかわすのかよ!」

「凄まじいな…隊長は今までコイツを一人で。」

ジェシカ機の左右から挟撃したドストエフスキー少尉とアズール中尉だが、難なくかわされた。

「ユーリ殿、この敵の相手は私達に任せてください。ユーリ殿は当初の作戦通りに。」

「…くっ、解った。ここは任せる!」

そう言い残してべリアルはその場を後にする。

「待ってユー君!逃げるの!」

「おっと待ちな!てめぇの相手は俺達だぜ。」

ユーリを追おうとしたジェシカをアリアをはじめとするマリンスネイクの三人が道を塞ぐ。

「邪魔!退いてよ!」

「来ますよ皆さん!倒せなくていいんです、できるだけ足止めします。」

「「了解!」」

ジェシカVSアリア達三人の異色な対戦が幕を開けた。


一方ユーリは真っ先にカルタス達の運んでいる破城槌のもとへ向かっていた。

だがあと少しの所で何かがべリアルの前に立ち塞がった。

「少尉は貴様を止められなかったようだが…私にも意地がある!貴様は私の命にかけて止める!」

カルタスはべリアルの前に立つ。

「べリアル!内蔵魔力を魔術に変換!

我は大地に住まう民、大地よ我が願いに応えて大地を揺らせ!」

ユーリが詠唱を終えるとべリアルの左腕を青いオーラが包み込む。

「うおぉぉっ!」

カルタス機は渾身の力で戦斧を横凪ぎに一閃する。

べリアルは城壁を越える要領で飛んでその一撃をかわす。

「まずいっ!」

べリアルは降下しながら左腕を構える。

「アース・ウェイブ!」

べリアルは破城壁を左腕で殴った。

するとべリアルの左腕を起点に波紋状に激しい振動の波が破城槌を襲う。

震度7以上に相当する程の振動に晒された破城槌は間もなく接合部から崩壊を破壊する。

帝国軍の計画が完全に瓦解した瞬間だった。

「くっ、またしても奴に…やむを得ん、全軍撤収だ!早くしろ!」

作戦の失敗を悟ったカルタスは全軍に撤退命令を出した。だがそこに、

「ユー君!」

「すみませんユーリ殿!抜かれました!」

「くっ、ジェシカ!」

アリア達の包囲を抜けたジェシカ機がべリアルに向けて真っ直ぐ長剣を突き出してきていた。

内蔵魔力を全て消耗したべリアルは直ぐには動けなかった。そこにジェシカ機の長剣が迫る。

(今度こそ避けられない!)

直撃を悟ったユーリ、迫る長剣。だがまたしてもそれはべリアルに当たらなかった。

「ぐわぁぁっ!」

「「!!」」

べリアルに当たる直前に一機のアクアマリンが間に割って入り、直にジェシカ機の突きを受けたのだ。その一撃はアクアマリンのコックピット付近を直撃していた。

「あ、アズール中尉!?」

ユーリは一瞬何が起こったのか解らなかったが、直ぐに全てを理解すると崩れ落ちるアズール機を受け止める。

「しっかりしてくださいアズール中尉!返事を、返事をしてください!」

「う、うぅ…無事ですか…隊長?」

返ってきたアズールの声はあまりにも弱々しかった。

「気をしっかり持ってください!」

だがアズールの声は益々弱々しくなっていく。

「私は…もう長く持ちません…。最後に一つ…頼んでも…よろしい…ですか…?」

「…言ってください…!」

ユーリはアズールの死を悟ると最後の言葉を聞き逃さないように耳を澄ませる。

「自分には…四歳の…娘と嫁さんがいます。彼女達に…愛しているって…伝えてください…。」

「…解りました!必ず…必ず伝えます!」

「…あり…がとう…ございま…す。」

そしてアズール中尉は息を引き取った。

「ちくしょう!こんなのってねぇよ!」

「…ご冥福を…お祈りします。」

アリアは静かに、ドストエフスキーは激しく彼の死を嘆く。

そしてアズールを殺した当の本人は。

「そ、そんな…殺すつもりじゃ…だってユー君の機体の駆動系を狙ったのに…違う…違うのに!い、嫌ぁぁ!」

思いもよらない出来事に混乱していた。

「ライトソー少尉、撤退だ!行くぞ!」

カルタスはそんなジェシカを半ば強制的に連れていく。

「ジェシカ!」

ユーリは追おうとしたがべリアルが満足に動かなかった。

そして間もなくジェシカ達帝国軍はレイスト西方大森林に消えて行った。

城壁の上では王国軍が勝鬨をあげている。(中に裸で踊るタラコがいた。)

「僕達は…勝ったのかな…?」

不意にユーリが呟いた。だがその声は勝鬨の喧騒の中に消えて行った。

かくして第二回オズボーン攻防戦は幕を閉じた。

多くの人々に深い傷を残して。

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