嵐の前
第十三話
シーマリン王国の突然の宣戦布告の翌日、話は変わってここはレイスト帝国西方大森林にある国立第一士官学校の食堂。今ここには二人の女子生徒が集まっていた。
「元気だしなよジェシカ。アイツのことなんか早く忘れたほうがいいって。」
すると食堂のテーブルに突っ伏していた生徒が顔を上げて応える。
「大丈夫だよ委員長。少し疲れてるだけだから。ありがとう。」
「それならいいけど…。それにしても最近あなたは食欲もないし、彼に別れを告げられてずっとこの調子だからさ、心配なのよ。」
そう言って委員長はため息をつく。
(それにしてもユーリ君はどうしてジェシカにあんなこと言って別れたのかしら。
彼の性格からして何の理由も無しにあんなことはしないと思うけど…。)
その時突然食堂の扉が勢い良く開き、一人の男子生徒が入って来た。
「ちょっとカール!突然何なの?びっくりするじゃないの。」
「わりぃわりぃ委員長。そんな事よりも大変なことが起こったんだよ!
委員長は今日の新聞はもう見たか?」
「新聞?今日のはまだ見てないわ。新聞がどうかしたの?」
するとカールは手にしていた新聞を委員長達の前のテーブルに広げる。
「え~っとどれどれ…ええっ!」
そこに書かれていた記事はこうだ。
『シーマリン王国新女王ナタリア女王がアヴァロンに事実上の宣戦布告!』
「どうゆうことなのよ。訳が解らないわ。」
「いや問題はそこじゃないんだ!その後を読んでくれ!」
「何よこれ以上のスクープがあるって言うの?」
委員長は更に新聞を読み進める。
すると彼女の顔は驚愕に染まる。
「ちょっとジェシカ!これ見てよ!」
「えっ、何?」
ジェシカは状況がよく解らないままに新聞を読んだが、間もなく彼女の顔も驚愕に染まる。
「うそ…何でユー君が…。」
そこにはナタリアが新たに新設した軍の新部隊の目的や、隊長にユーリが就任したこと等が詳細に書かれていた。
ジェシカはすぐに扉に向かって走り出した。だが委員長がとっさにジェシカの腕を掴む。
「ちょっと何処に行くのよジェシカ!?」
「離して!ユー君を連れ戻さないと!」
「ここからシーマリン王国までどれだけ離れていると思っているのよ?
いいから落ち着きなさい。」
「…解った。もう放して。」
委員長はジェシカの腕から手を放す。
「カール、他に何か情報はある?」
「いや、残念ながらもうない。」
「そう…解ったわ。」
三人の間に微妙な空気が流れる。
その時だった、食堂のスピーカーから放送が聞こえてきた。
[全校生徒に告ぐ、速やかに講堂に集合せよ、緊急集会を開きます。]
「…仕方ないわね、この話は集会の後にしましょう。さぁ行くわよ。」
「うん…。」
「あっ、待ってくれよ!」
三人は足早に食堂を後にする。
三人が講堂に着いて間もなく全校生徒が集まって、緊急集会が始まった。
校長が登壇して生徒達の前で喋り出す。
「まずは皆に急に集まってもらうことになったことを謝罪しよう。
さて、今回皆に集まってもらった理由は他でもない。先日のシーマリン王国のことについてだ。」
「校長せんせーい!それって本当なんですか?」
生徒の一人が校長に問いかける。
「これはアヴァロンの七聖諸侯ガルシア公の証言からの情報だ。恐らく本当だろう。」
生徒達の間に動揺が広がる。
恐らくまだ皆はガセネタだと信じていたのだろう。
「それについて君達に伝えなければならないことがある。
それを四年生の教務主任のマリオン先生に話してもらう。」
すると校長は左にずれて代わりにマリオン先生が登壇する。
「え~今から重大なことを話します。特に四年生の皆はよく聞いておくように。」
生徒達の視線がマリオンに集まる。
「まず四年生の皆は必修単位を全て習得済みなので来月から卒業式の前日まで実地訓練に入る予定でしたが、これを変更します。」
「実地訓練を中止するのですか?」
「いえ、皆は来月からちゃんと実地訓練先へ行ってもらいます。
でも皆は帰ってくる必要はありません。」
生徒達の間に再び動揺が広がる。
当然だろう、実地訓練を終えても帰ってくるなと言われたのだ。
「正確には四年生は来月から卒業したと見なして実地訓練先で直接正規兵として配属されます。
そして恐らく来月から始まるであろう戦争に参加してもらうことになる。」
「そんな!私は卒業したら進学するつもりだったんだぞ!」
「僕だって就職先が決まっているのに!」
「落ち着きなさい。進路が軍人以外の四年生についてはこのまま学校に残ってもらう。
一~三年生についても同様だ。私が伝えなければならないことは以上だ。
本当に急ですまないがこれはもう軍の上層部で決まったことなんだ。」
するとマリオンを押し退けて再び校長が壇上に立つ。そして叫んだ。
「今こそ君達がこの学校で学んだことを活かす時である!経験不足は否めないが君達ならやり遂げられると信じている!そして勝ってもう一度ここへ戻って来い!その時には出来なかった卒業式をやろう!」
「「了解!」」
四年生達は敬礼する。その表情は人それぞれだが皆良い表情をしていた。
「ではこれにて集会を終了する。解散!」
そうして生徒達は講堂を後にした。
「で、ジェシカはどうしたいの?」
三人は講堂から食堂に戻って来ていた。
「もちろんユー君を連れ戻したい!多分ユー君は何かに巻き込まれているよ!」
「でもどうやってシーマリン王国に行くのよ?
とてもじゃないけどここから私達だけで行ける距離じゃないわよ。それにこれから人の出入りも厳しくなるし。」
「そ、それは…。どうしよう。」
ジェシカは半ば助けを求めるような眼差しを委員長にむける。
「なぁ一ついいか?」
カールが突然喋りだした。
「何よカール?」
「いやな、あいつとは中学校の頃から親友だけどさ、あいつは例えどんなことに巻き込まれても自分を見失わずに自分が決めたことしかしないと思うけど…。
それは俺よりもジェシカさんのほうがよく知っていると思うけど…どうなんですか?」
ジェシカは押し黙って考え込む。そして口を開いた。
「解らない…。でも会ってちゃんと話さないと解らないから会いに行くべきだよ!」
「それは言えてるわね。問題はその手段ね。」
するとまたスピーカーから放送が聞こえてきた。
[四年生に告ぐ。昇降口前の掲示板に君達の配属先が書いてある紙を貼り出した。ちゃんと見ておくように。以上。」
「…取り敢えず行きましょう。話はまた後でゆっくりしましょう。」
「そうだな。」
「うん…。」
再び三人は食堂を後にする。
三人が昇降口に着くとそこには人だかりができていた。
「凄い人ごみね。ここからじゃ用紙が見えないけど近づけそうにないわよ。」
「字が小豆のように見えるぜ。何書いてるかさっぱり解らん。」
「私解るよ~。」
「「マジで!?」」
「パイロット候補生は視力は鍛えられるからね。どれどれ…あっ、委員長は帝都の帝国軍器材管理事務所に勤務らしいよ。」
「まぁ私はデスクワークなら誰にも負けないけど実戦能力はからきしだから妥当な人事ね。貴方やカールの配属先は解る?」
「え~っとどれどれ…あれ、私とカール君は同じ配属先だよ。」
「えっ、何処なんですか?」
「カール君がオズボーン砦の兵器整備班で、私がガイスト部隊らしいよ。」
「オズボーン砦!?そこってシーマリン王国とレイスト帝国の国境沿いにある言ってみれば最前線になる場所じゃないの!?」
「マジで!さっそく俺死ぬかも!?」
「ばかね、あなたよりジェシカのほうが戦場に立つんだからジェシカのほうが危険よ。」
「どうしよう。ユー君に会うまで私死にたくないよ。」
一人考え込むジェシカを他所に委員長にはある考えがひらめいていた。
「ねぇジェシカ、オズボーン砦は帝国でも最初に攻撃を受ける可能性が高いけど…もしかしたらユーリ君が戦場に出て来ていればそこで再会できるかもしれないよ。」
「本当!?できるの?」
ジェシカは目を見開いて委員長に詰め寄る。
「ちょっと落ち着いてよ。あくまでも可能性の話よ。でも不可能じゃないと思うわ。」
「そっか…もしかしたらユー君に会えるかも…いや、きっと会えるわ!」
「はぁ、やっぱりこの子って思い込んだら止まらないわね。
カール、ジェシカを頼むわよ。私はこれからは着いて行けないからね。」
「おう!任せとけ。ジェシカさんがユーリと会えるように努力するぜ。」
カールは委員長に対して笑顔でそう応えたが、内心では違う想いを抱いていた。
(これといった理由はないが何故だかジェシカさんを今ユーリに会わせては行けない気がする…。
何で…そう思ったんだろう。)
だがカールすぐにその感情を押し殺して委員長に笑いかける。
「何よ、笑顔が気持ち悪いわよ。」
「そりゃないぜ…。」
そして委員長の何気無い一言に密かに傷つくのだった。
そして約一ヶ月後、国立第一士官学校の四年生達は各々の配属先へと旅立って行った。
それぞれの胸に異なる想いを抱きながら。
話は変わってここはナタリア王女が宣戦布告をした翌日のシーマリン王国王都マリンピア。
今ここは先日のナタリアの宣戦布告により普段よりも賑わっていた。
「ヨッシャ!見てろよアヴァロンの連中。
先祖様達の恨みを晴らしてやるぜ!」
「しかしアヴァロンだけならまだしもレイスト帝国やノーランス皇国、更にイーストファリア共和国の四国と事を構えることになるんだろ?
大丈夫かな…?」
「いや、儂らならきっと勝てるわい!」
「そんな事よりも子供達を田舎の両親に預けようかしら。それだけが心配だわ。」
このように道行く人はこの話題について話しているが、少なくとも戦争に反対する意見はまだ少ない。」
そしてシーマリン王国の王城の一室でベットに横になる青年がいた。
「あ~疲れた。
昨日から今までずっと貴族様達への挨拶回り。
べリアルに乗って戦場にいるほうがよっぽど楽な気がする…。」
昨日から各貴族への一等騎士就任の挨拶回りに疲れはてたユーリだった。
「あっ、ここにいたんですねユーリ殿。」
部屋の扉が開いて一人の女性が入ってきた。
「あぁアリアか。一体何の用だい?」
「はい。ナタリア女王陛下よりユーリ殿ならここだろうと言われて来ました。。」
するとユーリは深く頷いて言葉を返す。
「そうだアリア、ナタリア女王は僕の部隊編成に関して何か言っていたかい?」
「新しいパイロットについては只今協議中だそうです。それも明後日には決まるらしいです。」
「そう…ところで用事はそれだけかい?」
するとアリアはもじもじしだす。
「あの…その…もし良かったら街に出てみませんか?」
「街に?
そういえば王都に来たのに全く街を歩いてなかったかもしれないな。
よし!気分転換に街を散策しよう。」
するとアリアは笑顔が応える。
「では案内役は私に任せてください!
ユーリ殿が会議等で忙しかった間に色々とリサーチしておきました!」
ユーリ達は素早く身支度を整えると王宮を後にした。
「げふっ、も…もう食べられない。」
「まだまだありますよ!
ほらこの焼き鳥なんかタレが絶品ですよ!」
「ちょ、ちょっと待ってよアリア。何で君はそんなに食べられるの?」
今ユーリはアリアの見つけたオススメの店に来て昼食を食べていた。
「私達人類開放同盟の人は食べられる時に食べておくことが重要だと教えられてますからこれくらいはいけますよ。」
「そ、それにしても徳大ステーキ三枚食べた後に更にまだ食べるとは思わなかったよ。」
すると店の奥から店員が出てきた。
「おうおう嬢ちゃん良い食べっぷりだなぁ。
それだけ気持ちよく食べられるとこっちもうれしいぜ。」
「はい!ここのお料理は全部おいしいです!」
「うれしいこと言ってくれるじゃねぇか!
気に入ったぜ嬢ちゃん。ほらこいつはサービスだ。今度出す予定の新メニューの試作品だ。」
店員は更にテーブルの上に料理をのせる。
「うわ~美味しそう。ありがとうございます。」
「ま…まだ食べるの?」
「私なんてまだまだですよ。ライナー君なんてこの倍以上食べるんですよ。」
そう言ってアリアは再び料理を食べ始める。
(お金足りるかな…?)
結局二人が店を出たのはユーリの財布のお金が無くなった時だった。
「すみません!すみません!
ついつい食べすぎてしまいました!」
「いやいいんだよ。それよりこれから何処に行こうか?」
「では次は体を動かしましょう!」
そうして二人がやって来たのは街角のとあるレジャー施設だった。
「ここでは様々な障害物をクリアしてゴールを目指すアスレチック走ができますよ。」
「ふ~ん…中々おもしろそうだね。」
「一人用と二人用のコースがありますよ。どっちにしますか?」
「せっかくだから二人用にしよう。いいかい?」
「もちろんです!」
二人が二人用のコースの入り口をくぐるとそこには係員が立っていた。
「ようこそ我がアスレチックセンターへ。
さっそくですがコースの説明をさせて頂きます。」
係員の簡単な説明を聞き終えると二人はスタート地点に着く。
「尚このコースを二分三十秒以内にクリアされますとささやかな商品を差し上げます。
それでは準備はよろしいですか?」
「もちろんです!(だ)」
「それでは位置に着いて!よーい…スタート!」
係員の合図と共に二人はほぼ同時にスタートダッシュを切る。
最初の障害物までの数十ルートを二人は駆け抜ける。
(さすがアリアだな。僕も手加減して走ってるけどこのスピードには着いてこれるのか。)
今ユーリは手加減しているとは言え短距離走の選手の軽く二倍はある速度で走っていた。
(さすがユーリ殿です。私の全速力でも着いて行くのが精一杯です。)
二人は少しも速度を落とさずに次々と障害物をクリアして進んで行く。
「速い速い!なんて速さだー!このまま行けば新記録は確実だー!」
順調に進んだ二人はとうとう最後の障害物、高さは三ルートはある小さな崖にたどり着いた。
「成程、どちらか一人を上にあげて、上にあがった人が下の人を引きあげるというわけか。」
「どちらが先に上に上がりますか?」
「お願いするよアリア。」
そうしてユーリはしゃがみこんでからアリアを肩車して壁の上に登らせた。
「ではユーリ殿、手を伸ばしてください。」
ユーリは崖をよじ登り、伸ばされたアリアの手を掴んだ。
その時だった、アリアの手元の崖が崩れてバランスを崩す。そして下に落ちる。
「えっ?」
必然的にユーリはアリアの下敷きになった。
《ムニュッ》
(あれ?何か柔らかい物が当たった?)
「うう…すみませんユーリ殿、私が不注意でした…ってうわぁぁ!すみません!直ぐにどきますので動かないでください!」
ユーリの上にはアリアがうつ伏せの状態で密着していた。
そしてアリアの標準的ではあるが形の良い胸がユーリの体に押し付けられていた。
(ううぅ…滅茶苦茶恥ずかしいよ~。)
「え~っとアリア?大丈夫かい?
取り敢えずゴールを目指そうよ。」
「そ、そうですね。い、行きましょう。」
ユーリとアリアはそのまま壁を登り、ゴールまでたどり着いた。
「ゴール!お疲れ様でした!
凄いですね。新記録とはいきませんでしたが二分三十秒以内にクリアなされたのでささやかですがこちらをどうぞ。」
ユーリとアリアはアスレチックセンター特製限定ピンバッチを手にいれた。
「な、なかなか面白かったねアリア。」
「そ、そうですね。喜んでもらえて何よりです。」
(そ、それにしてもユーリ殿は先程密着していた時に少しも動揺してなかったけど…。
はぁ、ひょっとして私って魅力無いのかな~?)
その頃アリアより先にアスレチックセンターの外に出たユーリは。
(あっぶなかったー!
危うく男性特有の生理的現象が起こるところだった。)
滅茶苦茶動揺していた。
(あっ、でもアリアの胸って柔らかかったな…じゃなくて!これからアリアにどう声をかけたら良いんだろう?)
色々考えているうちにアリアがアスレチックセンターから出てきた。
「あの…その…先程はすみませんでした。
私の不注意でゴールが送れてしまって。」
「い、いやいいんだよ!全然気にしてないから、それよりもう夕方だし王宮に戻ろうか?」
「あっ、はい。」
二人は互いに口を開かぬまま王宮への帰路に着いた。
(うう…雰囲気が気まずいです。何か話の話題があれば…。)
「ねぇアリア。」
「ひゃい!な、何でしょう?」
(はわわ、いきなりで声が裏返ってしまいました。不覚。)
「今日はありがとう。」
(え?)
予想外なことを言われてアリアは戸惑いながらもユーリの方を見る。
「最近は忙しくてあまり休めてなかったからだろうけど凄く疲れてたんだ。
でも今日君と一緒に食事したり体を動かしたりすることで随分気が楽になったよ。だからありがとうって言わせてよ。」
「い、いえ私の方こそ自分ばかり楽しんでしまいました。すみません。」
「良いじゃないか。僕も楽しかったし。
あっ、ほらアリア見てみなよ、夕陽がきれいだよ。」
ユーリが指差す先には淡いオレンジ色の太陽が広大な水平線に沈んでいく景色が広がっていた。
「きれい…。」
「アリア、僕達はもうすぐ戦争に行く。
君達は積年の願いである神を倒すために戦うんだろうけど…僕は少し違うんだ。」
「お聞きしてもよろしいですか?」
「僕はこの国を守りたい。僕達を受け入れてくれたこの国を。そしてこの美しい夕陽を。」
「ユーリ殿…。」
アリアはその言葉にどう返事をすれば良いのか解らなかった。いや、夕陽に照らされたユーリの輝く瞳に見とれていたと言うほうが適切だろう。
「そこでアリア、君に頼みたいことがあるんだ。」
「な、何でしょう?」
ユーリは深く深呼吸するとアリアに言う。
「これから僕の隣で一緒に戦ってくれないか?
もし良かったらこれを受け取ってくれ。」
ユーリが差し出したのはシーマリン王国軍中尉の階級章だった。
「立場的には僕の副官ということになるだろうし、場合によっては僕の代わりに部隊を指揮しなければならないかもしれない。それでも僕と戦ってくれるならこれを受け取ってほしい。」
アリアは動かない。代わりにため息をついた。
「今更ですよユーリ殿。貴方を戦いに巻き込んだのは私達なんですから、断れるわけないじゃないですか。
それに…貴方に助けてもらった時から私は貴方を…何でもないです。」
「えっと…それじゃあこれは受け取ってもらえるのかい?」
「もちろんです!こんな私でよければ貴方の隣で戦わせてください。」
そう言ってアリアはユーリから階級章を受けとる。
「良かった…断られたらどうしようか不安だったんだ。」
ユーリがホッと一息ついているとアリアが笑いながら言った。
「でもユーリ殿、さっきみたいな頼み方は控えたほうがよろしいですよ。」
「え?どうして?」
「ふふふっ、まるでプロポーズみたいでしたよ。」
「ぷっプロポーズ!?そ、そんな風に聞こえたの?」
「やっぱり気にしてなかったんですね。」
「えっと…これからは気をつけます。」
「もしプロポーズでも嬉しかったんですけどね。」
「あれっ?何か言った?」
「い、いえ、何でもありません。
さぁ早く帰らないとバルト宰相に小言を言われますよ。」
「…そうだね。帰ろう。」
また二人は王宮に向かって歩き出す。
(絶対にこの国を守ってみせる。
この半不死の体とアリア達と力を合わせることができるなら僕はいつでも戦える。
こう思わせてくれたのはアリア、君のおかげなんだよ。ありがとう。)
ユーリとアリアは二人並んで王宮へと帰って行った。
そして数日後、ついに戦争が始まる。
その頃アヴァロンの首都ヴァルハラ。
この街のほぼ中心にそびえ立つ塔の一室である会議が開かれていた。
「以上が私がシーマリン王国で見聞きした全てでございます。」
「ウム、まずは来賓としての任務ご苦労だったガルシア・ドローイングよ。」
シーマリン王国から帰還したガルシアが神であるアンブロシウスに先日のナタリアの戴冠式で起こった事を詳細に報告した。
「ケッ、何を考えてやがるんだあいつらは。
俺達に逆らうなんて頭イカれてんじゃねぇか?」
「その割りには嬉しそうだなデミオ公。」
「バレちまったか、やっぱルシアス公にはわかっちまうな。」
「貴公のすぐ顔に出る癖は相変わらずだな。少しは年齢を考えよ。」
「あん?まだまだ俺も貴公も五十代だろ?」
「もう五十代なのだ!普通ならとっくに家督を譲って隠居をしている年頃だ!」
「へっ、俺は生涯現役なんだよ!貴公こそ女性恐怖症は治ったのか?未だに跡継ぎが居ねぇんじゃないのか?」
「う、うるさいわ!昔に比べればだいぶマシになったぞ!」
「二人共、神様の御前です。」
二人の罵りあいを同じ七聖諸侯であるカーチス・カルストが諌める。
「失礼致しました。陛下。」
「すみませんでした。」
「気にしなくてよい、それよりも奴らをどう叩き伏せるかを考えよ。」
「既にイーストファリア共和国、ノーランス皇国、レイスト帝国と四国同盟を組んで戦う準備ができております。あとは神様の命令一つで開戦できます。」
「さっすが手回しの早いこって。」
「さすがはカルスト公だな、その若さでこれだけのことができるのは貴方しかいませんな。」
「お褒めにあずかり光栄です。」
「私からも褒めて遣わすぞカーチス。此度の反乱についてはお前に一任する。存分に能力を発揮してみせよ。他の者もカーチスの指示には従うようにな。」
「「は!仰せのままに!」」
「会議はこれにて終了だ。全員解散。」
七聖諸侯全員はアンブロシウスに一礼して会議室を後にする。
そしてアンブロシウスしか居なくなった部屋で彼は静かに笑う。
「四千年ぶりにこの私に逆らう者が現れたか。
何処までやれるかあの計画が成功するまでせいぜい楽しむとするか。」
アンブロシウスの笑顔は狂喜に染まっていた。