宣戦布告
第十二話
ナタリア王女との会談を終えたユーリは他に用事があると言ったマランツと別れてライナーの元に戻ってきた。
「おやユーリさんと姉さんじゃないか、もう話は終わったのかい?」
格納庫に入るなり作業服姿のライナーが声をかけてきた。
「どうだい整備の状況は?」
「べリアルならもう直っているよ。でもベヘモスはそう簡単にはいかないようだね。」
「ふ~ん、ライナー君が手こずるなんて一体何があったの?」
するとライナーは格納庫の端を指さした。その先には恐らくこの砦に配属されているであろうパイロット達が地面に横たわっていた。
「彼らは一体どうしたんだい?」
「いやね、ちょっとベヘモスの駆動系の整備が終わったから起動テストをしたんだけど、少し動かしただけであの有り様です。」
「そんな…何が原因なんだい?」
「恐らく絶対障壁を作り出す装置が原因でしょうね、あれは尋常じゃないほど魔力を消費するからね。」
「べリアル!消費するって一体どれくらいなんだい?」
いきなり口を挟んできたべリアルが何かを知っているようだった。
「そうね…障壁精製装置を一秒作動させる魔力量は通常のガイストを二時間稼働させる魔力量とほぼ同じよ。普通のパイロットじゃあっという間に魔力が枯渇して動けなくなるわ。」
「えええっ!そんなに!?じゃあベヘモスをあんな長時間動かしていたラツィオさんは一体どれくらい魔力を持っているんだ?」
すると今まで沈黙を保っていたベヘモスが人型まで縮小すると、口を開いた。
「それについてですが彼の一族としての特性が関係しています。」
「どういうことかしらベヘモス。詳しく説明なさい。」
「お姉ちゃんは地中で眠っていたから解らないだろうけどね、僕達四千年前の機体のパイロットは[七聖諸侯]という七家の貴族が代々パイロットをしているんだけど、彼らは一家それぞれに神から違う恩恵を授かっているんだ。」
「例えばどんな恩恵があるの?」
「う~ん…僕が解る範囲で言うと…どんなGにも耐えられる肉体だったり、不眠不休で何日も活動できる肉体だったりと身体に関する恩恵が多いいね。」
(成程…神の肉体の劣化版みたいなものか。)
「その中でもさっきまで僕のパイロットだったピーク家の人間は生まれつき体で魔力を無尽蔵に精製できる恩恵を授かっているんだ。だから僕の絶対障壁を展開したままで長時間稼働ができたんだよ。」
「つまり君を動かすにはほぼ無限に魔力を供給できるパイロットが必要ってことかい?」
「その通りですユーリさん。」
「なら適性なパイロットが見つかるまで君は動かせないのか…。」
「ごめんなさい皆さん。」
「いや謝らなくていいよ、その代わりそのパワーを色んな場で発揮してくれれば。それともう一つ聞きたかったことがあるんだけど。」
「なんでしょうか?」
「何で君はべリアルのことをお姉ちゃんって呼ぶんだい?」
「あっ、それは私も気になっていました。」
アリアも身を乗り出して聞こうとする。
「あっその話ですね、理由はごく単純ですよ。四千年前の十機のガイストのうちべリアルお姉ちゃんが一番最初に作られたからです。それからべリアルお姉ちゃんを長姉として兄妹姉妹のように作られたんです。だから僕ら兄妹姉妹はべリアルお姉ちゃんに頭が上がらないんです。」
「因みにベヘモスさんは兄妹姉妹の中で何番目なんですか?」
「一番下の末っ子です。」
なんとも言えない空気になる。恐らくベヘモスがこんなにいい子なのは他の兄妹姉妹が彼を可愛がったからだろう。
「なんかべリアルが少しひねくれてる理由がわかった気がする。長女だからか…。」
「あらひねくれているとは心外ね、まぁ否定はしないけどね。」
「取りあえず今の僕の部隊の戦力は実質べリアル一機と同盟の無事な戦闘員が何十人か。」
ユーリがいきなりそんなことを言い出したからアリアを除く全員がユーリを見る。
「あのユーリさん?どうしたんです?」
ユーリはさっきの会談で自分がシーマリン王国の軍属となり、部隊の指揮を任されることになったことを話した。ついでにマランツが貴族となることも。
「成程その会談を僕はすっぽかした訳か…その話の流れからいくと僕も技術士官として部隊に組み込まれそうですね。」
「嫌かい?」
「とんでもない、僕だって同盟の一員ですから神を倒したいですよ、だから部隊に加わることはいいんですが…姉さんも入るの?」
するとライナーは確かめるようにアリアに視線を向ける。
「と、当然です!私も一緒に戦います。」
「ガイストも無いのに?」
そう言われるとアリアが言葉に詰まった。
「さっき姉さんの機体の状態をみたけどね、あれは到底使える代物じゃあないよ、修理するより新型を買ったほうが安上がりだよ。」
おそるおそるアリアが聞いてみる。
「そんなに酷いの?具体的にはどの辺りが酷いのか教えてくれる?」
「脚の関節は両方全損、駆動系もいくつか切れてるし、旧型だからフレームの老朽化も著しいし、魔力伝達回路の不具合、まだまだあるけど言ったほうがいいかい?」
「いえ、いいです。」
「まぁそんなに心配しなくても部隊が結成したら新品のガイストを配備して貰えないか上に掛け合ってみるよ。」
「お願いします。私は歩兵として戦うこともできますが、ガイストに乗ったほうがユーリ殿の役に立てると思います。」
すると向こうからマランツがユーリ達を呼ぶ声が聞こえた。
「ユーリ・カインサー君!それとアリアとライナー、私達だけこの砦から出ることになったから準備したまえ。」
ライナーがそれに応える。
「これまた急ですね、何かあったのですか?」
「私達が戴冠式に参加することは知っているかね?」
「はい、ユーリさんから聞きました。」
「戴冠式の日にちが決まったから私達も王都へ移動して戴冠式の日まで滞在することになった。だから準備したまえ。」
「それはまた急ですね、僕達は今日ここに着いたばかりなんですよ?少しは休ませてほしいものですね。」
「ライナー君!そんなこと言わないの!」
「取りあえず準備をしよう二人とも。」
「それとユーリ・カインサー君だけはべリアルに搭乗して移動してくれ。ナタリア王女のご要望らしいからな。」
「わかりました。それの意味するところはわかります。」
そしてマランツ以下四名は王都に向けて出発した。道中は特に何も無く、一行は戴冠式の四日前にシーマリン王国王都マリンピアに到着した。
総人口約五百万人、大陸の最西端に位置し、海に面したこの都市は優れた航海術を持ち、海洋貿易によって発展してきた大陸でも屈指の都市であり、更に都市の周りを標高二千ルートはある山々に囲まれ、敵の侵入を防ぐ自然の防壁によって守られている。
そんな人が溢れるようにたくさんいる街に来たことのあるユーリはいいが、ずっと深い森林の奥で生活してきた三人は人混みに威圧されていた。
「うわ~人がいっぱいだよ姉さん。」
「慌てちゃダメだよライナー君!田舎者だとバレてしまうわよ。」
「ふ、二人とも落ち着きたまえ、全員が敵という訳ではないのだからな!」
そう言うマランツの額には冷や汗が見える。
(はぁ、こんな人混みにびびっていて戴冠式とか大丈夫なのかなぁ。)
前途多難なユーリであった。
そうしているうちにべリアルとマランツ達の魔動車は王宮へ到着した。
彼らを出迎えたのは宰相のバルトだった。
「ようこそ王宮へ、お待ちしていましたよ、さぁどうぞこちらへ。」
四人が案内されたのは王宮内の外部の人間が宿泊できる部屋だった。
「本日から戴冠式の日まで皆さんにはこの部屋で生活してもらいます。食事などは侍女に申し付けてください。それとマランツ様とユーリ殿は明日より戴冠式の段取りなどの会議に出席していただきます。他のお二人はその間ご自由にお過ごし下さい。外出する際は外出届を提出してくだされば外出が可能です。それでは私は政務がありますので失礼します。」
バルトが退出すると全員が息をつく。
「なんだかどっと疲れてしまいましたね。」
「僕も姉さんと一緒だよ、べリアルとベヘモスの整備に移動の疲れが一気に来たよ。」
「そうだな、取りあえず皆はゆったり休んでくれたまえ。私も明日に備えて寝るとするよ。」
「僕も休ませてもらいます。」
全員が満場一致で睡眠を選択し、まだ夜の7時だが床についた。
ユーリは夜遅くに目を覚ました。時計を見るとまだ深夜二時頃であったが、体の疲れはきれいに抜けていた。
「寝直す気も起こらないぐらいに疲れがとれたな…少し夜風に当たってくるか。」
ユーリは三人を起こさないように慎重に部屋を抜け出した。
「それにしてもやっぱり王宮は広いな、道に迷わないようにしないと。」
ユーリは夜風に当たろうとして王宮の中庭に出た。そこは宮廷庭師によって整備された花が咲き乱れ、それが月明かりを浴びて一段ときれいに見えていた。
「凄いな…今日が満月だといってもえこんなにきれいに見えるものなのか。」
するとユーリは中庭のテラスの椅子に腰掛けている人影を見かけた。
「あらユーリ様、こんなお時間にどうかなさいましたか?」
近づいてみると人影の主はナタリア王女だとすぐにわかった。
「夜中に目が覚めてしまいまして夜風に当たろうと思いまして、殿下こそこんな時間にお供も付けずに何故この場所に?」
するとナタリアはいたずらっぽく微笑んだ。
「今は二人きりですのでどうか敬語はよしてください。同い年なのですから。」
「ではナタリア、何故この時間に?」
「大方貴方と同じですよ、少し考え事をしていました。私は昔から悩み事があると決まってこの場所を訪れます。」
「もし良かったらその悩みを聞かせてくれないかな。」
「よろしいのですか、私個人の問題ですよ?」
「こんな時間に悩むくらいだから大きな悩みなんでしょ、吐き出したら少しは楽になれるよ。」
ナタリアは少し黙った後口を開いた。
「悩みというのは私がこの国を治めるに足る人なのかということです。」
「どういうことなんだい?」
「元々次の王位を継ぐのは兄の予定だったのです。ですが兄は二年前に流行り病で亡くなりました。」
「二年前というと覚えがあるよ、シーマリン王国で疫病が蔓延した時期があったね。」
「はい、王族の中で兄だけが疫病にかかってしまいましてそのまま亡くなりました。」
「それは残念なことだけど君の悩みとどんな関係があるんだい?」
「実は今回の反乱を発案したのは他でもない兄なんです。私は兄の意志を継いだだけなのです。」
「君のお兄さんはどんな人なんだい?」
「実は兄は私達兄妹の中で一番勉強や武術等ができない人でした。ですが私達には無い物を持っていました。それは人の心を惹き付ける能力と人を率いる能力です。兄は昔から何故か人に好かれる人でした。私達もそんな兄を慕い、この人についていこうと決めていました。」
「お兄さんは立派な人だったんだね。」
「兄が死んで私が意志を継ぎましたが私には兄のように人を率いる能力はありません。王位を継いで戦争を始めても私に力が無いばかりに国民を危険に晒してしまうのではないかと気が気でないのです。」
「…怖いんだね。」
「怖い?…そうですね、多分怖いのだと思います。私のせいでこの国が滅んでしまうことが。」
「ナタリア…まだ戦争は始まってないよ。始める前から弱気になっていたら始まらないよ。」
「それでも私は不安なんです。それに私は他人に弱さを見せてはなりません。」
「ナタリア…。」
ナタリアの目には涙が浮かんできていた。
「笑ってください。人前では毅然としていますが一人になるとこんなに弱い人間なんです。」
ついにナタリアは声を押し殺して泣き出した。
(君はある意味では孤独なんだね、それは僕も同じか…。)
ユーリは意を決して話し始める。
「ナタリア…君は強いよ。君の悩みは自分のことじゃあない。他人の為に悩むことができる人は強いよ。ついでに僕の悩みを聞いてくれないかな。」
「貴方の悩みですか?私で良ければ。」
するとユーリはテラスにあったパン切りナイフを手に取るといきなり自分の手首を切りつけた。途端に鮮血がほどばしる。
「ユーリ様!?一体何をなさるのですか!?早く手当をしないと出血で死んでしまいます!」
医者を呼ぼうとするナタリアをユーリは手で制して手首を見せる。
「ほら、もう塞がったよ。」
衣服で血を拭うともう傷口は塞がっていた。
「こ…これは…?」
ナタリアの顔には驚愕の色が見える。
「これが僕の悩みさ。僕はべリアルに乗るために半不老不死になったんだ。だから僕の周りの人達は必ず僕より先に死ぬ。そうして人の死を見送り続けることに耐えられそうにない。」
「ユーリ様…。」
「だけど今やっと僕がこの体になってしまった意味がわかった気がするよ。」
「どういうことですか?」
ユーリはナタリアの前で膝をついてナタリアの手を取って言った。
「今より私ユーリ・カインサーは貴女の剣や盾となり様々な脅威から貴女と国民を護りましょう。この半不死身の肉体と我が忠誠心にかけてそれを誓います。」
ユーリはそっとナタリアの手に口づけをする。
「君とこの国の国民は僕の目が黒いうちは必ず守ってみせる、だから君は君のやりたいようにこの国を治めればいい。そうでしょ?」
ナタリアは涙を拭いながら応える。
「ありがとうございますユーリ様。おかげで少し楽になりました。私はもう迷いません。兄の意志を継ぎ、そして必ずこの国を良い方向へと導いてみせます。…協力してもらえますか?」
「もちろんさ、僕は君の剣と盾だ。君の好きなように使ってくれ。」
「ありがとうございます。もう夜も遅いですので私はお部屋に戻らせてもらいます。それではまた明日。」
ナタリアは笑顔でテラスから立ち去った。その顔にうっすらと朱がさしていたことにユーリは気がつかなかった。
(どうしよう…全然眠くならない。)
テラスには一人思い悩む少年だけが残された。
四日後シーマリン王国王宮にてナタリア王女の戴冠式が行われた。各国の主要な人物が集まった中でついに主役であるナタリア王女が会場に姿を現した。
「おおっ、美しい。」
「ナタリア様…ご立派になられて…爺やは感無量でございます。」
会場ではナタリアに対して賞賛の声が上がる。それもそのはず、ナタリアはシーマリン王国王族の伝統的な青を基調とした服装に身を包み、顔には元々の美しさを際立たせる化粧をしていた。
「それではこれよりナタリア王女殿下の戴冠式を執り行います。ナタリア王女は前へ。」
宰相バルト・サガールが玉座の前で高らかに式を進行させる。ナタリアは呼び掛けに応えてバルトの前で膝をつく。
「ナタリア王女、貴女は第四十五代シーマリン王国の王として民を護り、民を慈しむことを誓いますか?」
「はい、誓います。」
「その心に嘘偽りはないか?」
「ありません。」
「よろしい、では貴女に王の象徴である冠を与えるものとする。」
バルトは手に持っていた王冠をナタリアの頭に被せた。
「今ここにシーマリン王国第四十五代目国王ナタリア・シーマリンの誕生を宣言する!」
会場は来賓の拍手で埋め尽くされた。その拍手を手でナタリアは制して発言した。
「私のためにお集まりくださった皆様。本日はありがとうございます。この場を借りて私は二つのことを皆様に申し上げたいと思います。」
来賓や参列者は黙ってナタリアの言葉を聞いている。
「まず私はこの場を借りて一人の人物に爵位を与えて政務に携わって貰いたいと思います。紹介します、新たにシーマリン王国男爵に就任するマランツ・ザーザーです。」
ナタリアの紹介の後に儀礼服を着たマランツが会場に姿を現した。マランツはそのままナタリアの前まで歩いて停止し、膝をつく。
「マランツ・ザーザー、貴方に王国男爵位を授けるものとする。」
「はっ!全身全霊をかけて政務に臨みます!」
会場ではナタリアの時よりは少ない拍手が起こるが拍手の音を遮って一人の男性が声をあげる。
「ばかな!何故その男がこの場にいる!?」
「ガルシア殿、王の御前ですぞ。」
声をあげたのは来賓として来ていたアヴァロンの七聖諸侯の一人であるガルシア・ドローイングだった。
「シーマリンの女王よ!何故この男がこの場にいるのかご説明願います!」
だがナタリアはその質問には答えずに続ける。
「更にもう一人の人物に王国軍一等騎士の称号と勲章を授与し、新部隊の隊長に任命することを宣言します。では紹介しますユーリ・カインサーよ、私の前に出でよ。」
すると広間の扉が開き、そこからシーマリン王国軍の儀礼服にビロード付きの漆黒のマントを羽織ったユーリが姿を現した。ユーリはマランツと同じようにナタリアの前まで歩いて停止し膝まづいた、セットされた髪の毛を崩さないように慎重に歩いていることが丸わかりだった。
「ユーリ・カインサー、貴方は王国の剣となりてこの国を脅かす存在からその身を挺して護り抜くことを誓いますか?」
「はい、この身にかけて誓います。」
ナタリアはその返事を聞くとユーリの胸に一等騎士の印である勲章をつけた。
「今ここに騎士ユーリ・カインサーの誕生を宣言いたします!尚、騎士ユーリには此度新設される部隊を率いてもらうことになる。この場を借りてその部隊の名前を発表いたします。」
心なしかシーマリン王国の参列者達は発表を今か今かと待っているように見え、他国の来賓者達は何が何だか解っていない。七聖諸侯ガルシアは黙ってナタリアを睨んでいる。
「新部隊の名前は王国第一独立ガイスト小隊、通称マリン・スネイク。彼らの存在意義は神を相手に戦うことである!」
会場は王国内の参列者の拍手で埋め尽くされれ、来賓の人達は更に混乱していた。だが黙ったまま動かない訳ではなかった。
「シーマリンの女王よ、あのマランツを召し抱えるまでは恩赦として目をつむっていたが…今の発言は我らが神様に対する反逆の言葉ともとれるが、どうなのですか?」
ガルシアは声を荒げず代わりに鋭い眼光と殺気を含んだ声をナタリアに向けた。
だがナタリアは毅然とした態度で言い放った。
「貴方には今の言葉がそれ以外の意味に聞こえたのですか?」
「何だと…。」
「シーマリン王国第四十五代国王ナタリアがここに宣言する!我々シーマリン王国は神に対してたった一つの要求をする!それは人間界の統治を人間自身にさせること。この要求に対する何らかの返事が来月まで無ければ我々シーマリン王国は神及び神の治めるアヴァロンに対して宣戦を布告する!これは私と国民の総意である!」
会場は割れんばかりの歓声に包まれる。「ナタリア女王万歳!」というコールが何処からともなく聞こえてくる。
「…その言葉、一言一句違わずに神様にお伝えしよう…今ならまだ引き返せるぞ。」
「ええ、お願いいたします。」
「…失礼します。」
ガルシアは憤りを隠そうとせずにそそくさと退室する。他国の参列者も彼に続いて退室する。
このナタリアの発言は瞬く間に大陸全土に広がり、全人類に衝撃を与えた。そして神からの返事が無いまま遂に一月が経ってしまった。