邂逅と会談
第十一話
「本当に運んでもらってよろしいのですか?」
「なに、心配は要らない。君はお仲間の魔動車に乗ればいいだろうけどガイストはガイストでないと運べないからな、大船に乗ったつもりでいてくれ。」
「ユーリ殿!大丈夫ですか!?何処か痛めたりしていませんか!?」
アリアが魔動車から降りて来て目に涙を浮かべながら駆け寄ってくる。
「大丈夫だよ、僕はこんなことくらいじゃ死なないよ。」
「まぁまぁユーリさん、姉さんは本当に心配していたんだ、そんなに無下に扱わないでくれたら僕もうれしいな~。」
何故かライナーは顔に笑みを浮かべていた。
「そう言えばまだ自己紹介をしてなかったな、私はシーマリン王国軍第二ガイスト大隊隊長のバーバリー・ナウだ。改めて女王陛下とマランツ殿の要請によって貴殿達を我が王国まで護送する。
よろしく頼む。」
「ご丁寧にどうも、僕は人類解放同盟のユーリ・カインサーです。こちらは仲間の」
「アリア・レストワールです。よろしくお願いいたします。」
「ライナー・レストワールです。この度はべリアルとベヘモスの護送はありがとうございます。」
「うむ、よろしく。それよりユーリ君、あちらの方が君に話がしたいそうだ。」
「あちら?」
「君が倒したガイストのパイロットだ、驚いたよ、彼はアヴァロンの[七聖諸侯]だぞ。後でどんな風に戦ったか聞かせてくれ。」
ユーリがバーバリーの促した方向に顔を向けるとそこには両腕を拘束されて立っている美中年が立っていた。
「…貴公があのガイストのパイロットか?」
ラツィオは口を開くと確認するようにユーリに問いかけた。
「はい。僕がべリアルのパイロットです。」
ユーリはラツィオの目を見て答える。
「そうか…先程の攻撃…見事だった。久しぶりに心踊るよい戦いだった。もう会うことはないだろうが…貴公と戦えて良かった。ただそれだけを伝えたかった。」
「ありがとうございます。僕もいい経験になりました。もしかしたらまた会うかもしれないのでその時はまた戦うことはできるだけ避けたいです。個人的に。」
「貴公は良いパイロットだな、負けた相手に勝ち誇るでもなく、へたに謙遜して相手のプライドを傷つけることもしないな…もしまた戦う機会があっても私が負けることになるだろうな。」
「隊長、護送の準備が整いました。」
「そうか解った。ユーリ君、早く出発するとしよう、マランツ殿が心配している。」
「わかりました。ではこれで失礼しますラツィオ殿。」
「うむ、私のわがままを聞いてくれてすまないな、礼を言う。」
そう言うとラツィオは側にいた王国軍の兵士に促されて護送用の車に乗せられた。
「さぁユーリ殿!乗ってください!」
ラツィオとの会話を済ませるとアリアが魔動車を待機させていた。
ユーリはすぐに魔動車の座席に腰を落とす。
「全隊国境線の砦まで撤退する、全隊進め!」
大隊長の号令で王国軍とユーリ達は撤退していく、それから国境を越えるまではこれといった障害はなく、ユーリ達は無事に国境を越えてシーマリン王国に入ることができた。
「ユーリ殿!アリア、ライナー!よく無事に帰ったな!良かった…。」
シーマリン王国軍の国境付近のとある砦にユーリ達が到着すると待っていたのはマランツ達だった。
「マランツ様!それに皆!よくご無事で…。本当に…本当に良かったです…。」
「いや、君達だけに戦闘を任せてしまって本当に済まなかった。許してくれ。」
「僕達のことはいいんです。それよりも今回の戦いで散っていった仲間を手厚く葬ってください。お願いします。」
「解っている…、彼らのことは手厚く葬ってやらねばならない。だが済まないが今はそれよりもやらなければならないことがある、ついてきてくれ。後ろの二人もな。」
マランツに促されてユーリ達は歩き出す。
目的地に向かう途中で格納庫の前を通りかかった。
「あらマスターじゃない。」
「あっべリアル。どうだい足の調子は?」
「もう大丈夫よ、人間で言う捻挫みたいなものだからもう歩けるわ。」
それを聞いて一同は安心する。だがユーリはあることに気がついた。べリアルのうしろにべリアルの人型形態よりも一回り小さい男の子?が立っていた。
「あの~べリアルさん?君の後ろにいる男の子?は一体誰なんだい?」
「そうね、ほら自分で挨拶しなさい。」
するとべリアルの後ろにいた男の子?が恐る恐る顔を出して話す。
「さ、先程はも、申し訳ありませんでした。ぼ、僕はベヘモスです。」
その一言に一同は唖然とする。何故ならばあんなに強固で難攻不落の障壁を持ち、超重量を誇るベヘモスのことだ、人型形態もゴツいだろうと自然にイメージしていたからである。
しかし蓋を開けてみれば逆に守ってあげたくなるようなか弱そうな少年だった。身長は1ルート半くらいの低身長、短い金髪と幼さが残るが充分に美少年と言って差し支えないだろう。だが…。
ベヘモスの腹部には大きな穴が空いていた。
「そ…その~大丈夫かい?その傷。」
するとベヘモスは微笑して応える。
「あ、大丈夫です。少し動きにくいだけで何も支障はありません。」
「こら!そんなこと言っても駆動系がズタズタなんだからちゃんと整備を受けなさい!」
あのいつも冷静なべリアルが怒鳴っている所をユーリ達は初めて見た。
「嫌だよ~。だってこの人達には僕達の整備は出来ないんじゃないのかな?」
「それもそうね…あら、ライナーもいるじゃない。ちょうどいいわ、私とベヘモスの整備をしなさい。」
「いいんですか!?マランツ様!僕行ってもいいですか!?」
「ちょっとライナー君!私達は今から大事な話があるのよ!」
「いいよライナー、行って来るといい。君はべリアルの整備をやり遂げた男だ、しっかりと整備して万全の状態にしておけ。」
「ありがとうございます!ほら整備班全員集合!」
「おーう!!」
ライナーが号令を掛けると何処からともなくライナーの部下達が集まって来る。
「ほら君達はベヘモスを運んで!君達は整備ハンガーを借りられるか交渉して来て!」
「りょうか~い!」
「ちょっとお姉ちゃん!この人達恐いよ!」
「「お姉ちゃん!?」」
「それについては今度説明するわ、それよりも貴方達は今から用事があるのでしょう?相手を待たせない方がいいんじゃない?」
「あ、ああそうだな。では行くとしよう。二人共、ついてきてくれ。」
「じゃ、じゃあまた後で来るよ。」
「ライナー君!やるからには半端な仕事はしないこと!いいね?」
「もちろんさ、じゃあまた後で。」
そうしてユーリ達は格納庫を後にする。
そして砦の中でも一際大きな建物に到着した。
中に入り、建物の階段を登ると最上階にこれまた大きな扉の部屋の前でマランツは止まった。
「いいか二人共。これから会う方々にはくれぐれも失礼のないようにな。」
マランツはいつになく真剣な顔をしてユーリ達に話す。
「はぁ…わかりました。」
「はい。気をつけます。」
その返事を聞いてマランツは扉をノックする。
「人類解放同盟のマランツ・サーザーです。どうかお目通り願います。」
「…入りたまえ。」
中から入室を許可されてマランツは扉を開く。
室内に入るとユーリ達を待ち受けていたのは貴族のような格好をした人が数人と軍の偉そうな人が一人、そして彼らに囲まれるようにしてユーリと同い年くらいの女性がソファに座っていた。
「来たか、まずははじめましてかな、私がシーマリン王国宰相のバルト・サガールだ。よろしく頼むよ同盟の皆さん。」
貴族のような人達の中でもとりわけ若い人が挨拶をする。
「これは宰相閣下からご丁寧な挨拶痛み入ります。私は人類解放同盟のリーダーのマランツ・サーザーと申します。」
「同じく同盟のガイスト部隊隊長のアリア・レストワールです。よろしくお願いいたします。」
「私は…最近同盟の同志になりました…。」だがユーリの挨拶を遮ってそれまで沈黙していた女性がが口を開く。
「存じ上げています。べリアルのパイロットのユーリ・カインサーですね?」
「あ、はい。よろしくお願いします。あの、失礼ですがなぜ私の名前を?」
「控えよ!この方を誰と心得る!?」
軍の偉そうな人がユーリに怒声を浴びるが、女性はそれを制して続ける。
「はじめまして同盟の皆さん、私はシーマリン王国第一王女ナタリア・シーマリンと申します。
まずは今回お会い出来たことを嬉しく思います。」
ユーリとアリアは驚愕する。まさか王族の方がこんなところにいるとは思えなかったからである。
「ふふふっ、まるで私がこんなところにいるなんて!って顔をしておられますわね。」
(うっ、顔に出ていたか。)
「ご無礼をどうかお許しください王女殿下、なにせこんな状況に馴れておりませんので。」
「良いのですよ、今は公式な場ではありませんからね、同年代の方にあまりかしこまられても変な気がします。」
「ナタリア殿下、そろそろ本題に。」
バルト宰相が話を進めるように促す。
「そうですね、ではまず何故私達が貴方達人類解放同盟と手を組む気になったことからお話ししましょう。」
そう、実はユーリにはそれが最大の疑問だった。何故神に刃向かうという危険極まりない行為に出たのかが一番聞きたかった。
「まず私達シーマリン王国は三千年前に隣国のレイスト帝国から独立しました。実は私達が神に刃向かうことを決意する大元になる出来事はそれ以前に遡ります。」
「そこから先は国立シーマリン図書館司書長である私ディ・ケイがお話ししましょう。」
ナタリア王女の話を引き継ぎ、司書長は話し始める。
「元々私達の先祖は広大な海や自然に対して信仰心を抱く民族でした。それが四千年前に神が地上に降臨して来てその信仰は消えました。」
「…神による全人類の宗教の統一…。」
「そうです。それは私達も例外無く受け入れざるを得ませんでした。」
「つまり信じたい宗教を奪われたことに対する報復ですか?」
司書長は頷いて続ける。
「それもありますが本当の理由は…虐殺です。」
「虐殺!そんな記録は私達にも恐らく世界中の記録にも残っていませんよ!」
「アリア、控えて。」
「す…すみません…続けてください。」
「では続けます。これは私達の国にのみ残っている記録です。私達の先祖は神によって宗教が統一された時に貴方達ほど激しく抵抗はしていませんでしたが神に対して反抗的でした…ただそれだけだったんです。」
アリアは口を抑えて必死に嗚咽を堪えている。ユーリの表情にも影がさす。
「神は私達の先祖を一部だけ残して他の人達は見せしめとして一人残さず虐殺しました。その後残った先祖達はレイスト帝国の統治下に入り、それから千年後にシーマリン王国として独立しました。しかしその時私達はまだ神に対しての反抗心を持っていました。」
「そして三千年のあいだ私達は密かに神と戦う準備をしてきました。そして今私達は神と戦う決心をしました。全ては過去に散った先祖のため、そして私達の信仰を取り戻して神を天の世界に送り返してこの世界を再び私達人間の手に取り戻すためです。」
最後はナタリア王女が締めた。
一瞬の間室内に静寂がたちこめる。
「つまり我々の利害は一致しているということですよ、同盟の皆さん。」
「成程、今まで気になっていたことがわかりました。ありがとうございます。」
「ではこれからが本当に話したかったことです。」
ユーリ達は気を引き締める。突然王国側の人達の顔色が変わったからだ。
「まず私達と手を組むにあたりこちらから二つ条件を提示します。まず一つは貴方達の兵器と戦闘員は全て王国軍の戦力として扱うこと。」
するとマランツは落ち着いて返答する。
「受け入れましょう。我々は神を倒してこの世界を人が治められるようになることを実現させることができれば何でも構いません。」
「ありがとうございます。では最後の条件です。それは私達を決して裏切らないことです。」
「もちろんです。我々は恩を仇では返しません。今回助けて頂いたご恩は決して忘れません。我々人類解放同盟はシーマリン王国と運命を共に致します。」
マランツの返事を聞いてナタリア王女一同はひとまず表情を緩める。
「それを聞いてひとまずは安心致しました。ではこれからの段取りを説明致しましょう。」
するとアリアがなにやらそわそわしだした。
「アリア、どうしたんだ?王国の方々の御前だぞ。」
「うう…すみません…ちょっとトイレに行きたくて…。」
再び室内に静寂がたちこめる。だが今回は少し静寂の意味合いが違った。
「ふふふっ、あっはっははは!」
耐えかねずにユーリが笑いだす。
「もうユーリ殿!笑わないでください!酷いです!」
「ごめんごめん、君がこういう時にあんなことを言うなんて考えられなかったから。」
「ふふふっ、そうですね、もうかれこれ四十分は話をしていますからね、このあたりで少し休憩に致しましょうか。」
「そうですね、ではお茶を用意させましょう。少しの間失礼します。」
「私達も少し席を外しましょう。では失礼しますナタリア王女殿下。」
そうして各自退室していき、部屋にはユーリとナタリア王女が残された。
「えっと~すみませんでした。先程は少し無礼な質問をしてしまって。」
取りあえずユーリは先程の会話での無礼を詫びておいた。
「いえ、お気になさらず。私達は同年代なのですから人前でない場合は楽にしてください。それよりも先程の質問ですがお答えしましょう。」
「えっとお願いします。」
「そうですね…あれは六年前になります。」
六年前のレイスト帝国首都レイストバッグ。
ナタリアはシーマリン王国の使者としてこの都市を訪れていた。
その頃のナタリアは今程落ち着きのない子供で周りから将来のことを心配されていた。
この時もナタリアは僅かな護衛の隙をついて大使館の屋敷を抜け出して街に繰り出していた。
しかしこれがよく知っているシーマリンの王都ならまだしも、地理もよくわからない初めての街で、しかも一国の首都なので人の数も並々ならないものがあった。そして一瞬で迷子になってしまった。
(どうしよう…こんなことならちゃんと屋敷でお勉強をしておけば良かった。)
「それよりもここは何処だろう?せめて現在地さえわかれば…。」
ナタリアは更に街を歩き回る。だがどう歩いても街の重要施設にはたどり着けなかった。
(うう…なんとか夕御飯までには帰らないと。)
だが焦れば焦るほどナタリアは道に迷っていく、歩き疲れたナタリアは小さな公園のベンチに座り込んだ。
(もうすぐ夕方ですわね…私このまま帰れるのかしら…。)
ナタリアの心が半ば折れかけたその時、
「ねぇあなたどうしたの?どこか痛いの?」
突然ナタリアに同い年くらいの金髪の可愛い少女が話かけて来た。
「えっと…貴女は一体?」
すると少女は元気よく挨拶する。
「私?私はジェシカ・ライトソーよ!あなたは?」
「ナタリア…です。」
「ナタリアちゃんか~、それでナタリアちゃんは何をしているの?」
「えっと…道に迷ってしまいまして…。」
「な~んだ、私と一緒だね!」
「一緒って…どうして貴女はそんなに明るいのですか?」
するとジェシカは自信満々に言う。
「だって私には王子様がいるからね!凄いんだよ、私が道に迷ったらいつも見つけてくれるんだから!」
そう言ってジェシカはナタリアの隣に腰掛ける。
「ジェシカさんはこの街に住んでいるのですか?」
「ううん違うよ、私達はお父さんの仕事で来たの、やっぱり帝都は広いな~。」
「あっ!ジェシカ!こんな所にいた!急に走り出したかと思ったら迷子になって、探すこっちの身にもなってよ!」
向こうから一人の少年が走って来た。
「ユー君!やっぱり見つけてくれた!」
ジェシカは満面の笑みを浮かべながらユーリに相談する。
「ねぇユー君、彼女も迷子らしいんだよ、何か知らない?」
「えっ、え~っと…君、名前は?僕はユーリ・カインサーだよ。」
「ナタリアです。その…実はシーマリン王国の大使館まで行きたいのですが、何せレイスト帝国の帝都は初めてでして道に迷ってしまいました。」
「シーマリン王国の大使館なら知っているよ、とある事情でこの辺りの地理にもかなり詳しくなったし、案内するから着いてきて。」
「凄いな~ユー君は、よく一日でこの街に詳しくなれるね。」
「誰かさんのおかげでね、さぁ行こうか。」
そう言ってユーリはナタリアの手を取って歩き出す。
(初めて男の子の手を握りましたけど、やっぱり大きいですねそして…温かい…。)
すると何の苦労も無く十分程歩くと大使館の前の通りに出た。
「ありがとうございます。おかげで時間に間に合うことができました。本当にありがとうございます。」
「いや良かったよお役にたてて、じゃあ僕達は行くから。」
「バイバ~イ、ナタリアちゃん!」
二人はナタリアの元から離れていく。最後に二人が振り返ってナタリアに笑いかけた笑顔が印象的だった。
「あの時は本当にありがとうございました。おかげで時間通りに大使館に到着しました。」
「…思いだしました…。まさかあの少女が王女殿下だったなんて、知らなかったとは言えとんだ失礼を。」
するとナタリアは微笑みながら
「良いのですよ、そう言えばジェシカさんはお元気ですか?」
ユーリは少し表情を曇らせる。
「はい。元気です…多分。」
「何かあったのですか?」
だがユーリがその質問に答える前に部屋のドアが開いて出ていった人達が戻ってきた。
「殿下、お待たせしました。お茶と御菓子をご用意しました。」
「そうですか…ではお茶をしながらこれからの段取りを説明致しましょうか。」
するとバルト宰相が話を進める。
「まず前国王陛下が逝去なされてあと数日経つと喪が明けます。そしてその日にナタリア王女殿下の戴冠式を執り行います。」
「その式に参加するということですか?」
「そうですね、ですがそこで一つ貴方達にやって貰いたいことがあります。」
マランツ達は怪訝な顔をする。
「やって貰いたいことですか?」
「はい、まずマランツ殿、貴方には式が終わりますと殿下から男爵位が与えられます。」
「私が貴族に?それはどういうことでしょうか?詳しくお聞かせください。」
「我々と同盟の関係をアピールするためです。それともう一つ、貴方達の一人に王国と同盟の混成部隊の隊長を選出してください。その方の叙任式も執り行います。」
「それはアリアで決まりでしょう。そうですよねマランツさん?」
するとマランツは少し考え込み、そして口を開いた。
「…ユーリ・カインサー君、君がやってくれないか?」
「えっ!僕ですか!?」
「お願いしますユーリ殿。私には恐らく荷が重いと思われます。」
「ですが…」だがユーリの話を遮ってナタリアが口を開く。
「私からもお願いします。貴方のべリアルは神を倒す象徴足りうる機体です。貴方が隊長になることで隊の価値が上がるのです。」
ユーリは成程と思った。だが…。
「無理ですよ、僕はそんな器じゃありません。それに部隊の指揮経験なんて学校のミニゲームでしかしたことがありません。」
「何を言っているんですか!ユーリ殿がいたからこそ私達は今ここにいるんです!貴方が撤退の指揮を執ってくれたから生き延びられたんです!」
「私からも頼むよユーリ君、君達の後方支援と後ろ盾として私は政治の面で支えよう。だから引き受けてくれないか?」
「アリア…マランツさんまで…。本当に僕でよろしいのですか?」
「「もちろんだ(です)。」」
ユーリは少し考え込み、そして口を開く。
「わかりました。引き受けましょう。」
「ありがとうございます。以上で私達の話は終わりです。細かいことはまた後日にしましょう。では皆様ごきげんよう。」
ナタリア王女一同は部屋を退室する。こうして思いにもよらない会談は終了した。
恐らくはこの時から同盟とシーマリン王国の運命は決まっていたのだろう。だがそれを知る者はいないだろう。例え神だとしても。