◆7話「物価と変態領主」
「お母さん、この村に僕でもできそうな働き口とかってありますか?」
「そうね。この村の仕事は、麦や野菜を育てたり、家畜の世話だったりがほとんどね。基本的にルガルド村は、自給自足で物々交換が主流になっているから、採れたものをお互いに交換しあって生活しているの。もちろん、村では調達できないものもあるから、3ヶ月に1回、王都から税徴収のために来る役人に帯同してる商人とも物々交換したりするわ。あと、収穫期が過ぎた時期に狩りや裁縫、鍛冶を行う人もいるわね。アンナみたいに16歳未満の未成年の子供たちは、親の手伝いが仕事よ。」
無一文でこの世界に来てしまったとはいえ、このまま働かずにアンナの家に居座るつもりはない。
「なるほど。例えば昨日みたいにブラックベアを狩れば、結構な収入になりますか?」
「それはそうよ!あれは、このあたりの主みたいなモンスターで、1頭で村1週間分の食料になるわ。革はなめして、防具や手袋になるし。たぶんこの村で一番の稼ぎになるわね。あっ!!だめよ!!確かにユウキ君は昨日倒してみせたけど、とっても危険なモンスターなんだから。狩りに行こうとか考えちゃだめ!」
先に釘を刺されてしまった・・・。
"ブラックベアを狩りには行かない"(偶然出会ってしまった場合、狩らないとは言っていない)と約束し、当面は森の入り口付近で採取や野兎などの弱いモンスターを狩ることにした。
また、イリシャさんにこのあたりの物価や納税について聞いてみた。主なものをまとめると以下の通り。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
[通貨]
白金貨1枚=1,000万円
金貨1枚=10万円
銀貨1枚=1万円
銅貨1枚=1千円
鉄貨1枚=100円
屑貨1枚=10円
(※1章 4話にて既出)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
[ルガルト村周辺物価指標]
■1ヶ月あたり税引後収入(世帯主平均)=銅貨45枚
■ドードー鳥の卵=鉄貨1枚
■兎肉=鉄貨1枚~3枚
■薪300m=鉄貨1枚~3枚
■塩453g=銅貨1枚
■麦1kg(1人前10食分)=銅貨3枚
■砂糖453g=銅貨7枚~15枚
■羊皮紙240枚=銅貨45枚
■ブラックベア1頭=銀貨3枚
■馬1頭=銀貨6枚~10枚
■母の愛=プライスレス
例.
世帯主の月収=¥45,000
-)麦を1ヶ月分(4人世帯)=¥36,000
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残り¥9,000
(まぁ、最後のはいいとして、これではあまりにも家計がつらすぎる・・・)
今年は不作により各家庭の家計が危機的な状況であり、僕のブラックベア討伐はかなり助かったと村長が言っていたが、あながち嘘じゃなかったのか・・・。偶然の産物とはいえ、ブラックベア討伐で不作が乗り切れるのなら嬉しい限りだな。
しかし、イリシャさんは突如暗い顔になると、次のように述べた。
「3ヶ月に1回、役人が村に税の徴収に来て、収穫量の25%を納めなければならないの。今年は不作で収穫量が少ないから納める量も減るんだけど・・・。このあたりに施行されてる法令では、納める量が前年の18%を下回る場合、村人の中から誰か1人を領主へ献上することになっているの。これはブリューナク伯爵様が決めた法令でね。村の人たちは、今年は誰か領主様のもとへ連れていかれるんじゃないかって不安がってるわ。」
イリシャさんは暗い顔のまま、アンナとウィーネと頭をそっと撫でる。
「もし私たちの家族から献上されることになったら、私が行くわ。でも、この子たちを残して行くわけにはいかない。だからといって・・・。」
そう呟いてイリシャさんは言葉につまってしまう。
「いつですか?」
「え?」
「納税の期日はいつですか?」
僕は聞くに堪えなくなり、たまらず聞いていた。
「次の納税日は、翌月の20日だけど・・・。」
たった1月ではどうしようもないといった顔でイリシャさんがそう言うと、僕は高らかに宣言してみせた。
「僕が納期までに前年度比で18%以上の納税を成功させます!絶対にお母さんやアンナ、ウィーネを領主のもとに行かせません!」
イリシャさんは瞳を潤ませ、慈愛の籠った顔で笑ってくれた。
「そうね。ありがとう、ユウキ君。私も頼もしい息子を持ったわ。あと10年若かったら、プロポーズしてたわよ。」
イリシャさんは、アンナとウィーネを撫でていた手を止め、僕を手招きし、両手で僕を力強く抱きしめた。豊満な胸に顔が埋まり、イリシャさんのいい匂いがする。
「無茶はしちゃだめよ?まだ、領主様に村人から1人献上されるって決まったわけじゃないんだから。」
「はい、わかってます。無茶はしません。とりあえず、離してもらえると・・・。」
僕は、顔を赤らめながら、そろそろ離してほしいと懇願しようとする。
「絶対よ?あなたを失ったら、私だけじゃなくて、アンナだって悲しむんだからね?」
「はい、だから、あの、そろそろ・・・。」
「まず、門限は、酉の刻(17:00)よ。それから・・・。」
すると今まで黙っていたが、我慢の限界といった感じでアンナが吠える。
「うがああああ!ええから、お母さん、ユウキを離して!!お母さんばっかずるい!!」
そう頬を膨らませたアンナが言うと、大事にしていたぬいぐるみを取り返すように僕をイリシャさんから奪う。すると、あろうことかイリシャさんと同じようにアンナも抱きしめてきた。
(っ!?どうしてイリシャさんと同じように胸を顔に押し付けてくるんだ!!)
アンナは顔を赤くしながら僕を抱きしめた後、ようやく満足したのか僕を解放してくれた。
現時刻は、牛の刻(11:00)。イリシャさんから仰せつかった門限まであと6時間。とりあえず、今日は門限まで狩りに行こう。
ーーーーールガルト村より南方ブリューナク領の伯爵邸にてーーーーー
「ぁんっ。ぃやっ、あぁんっ!」
ブリューナク伯爵の寝室へ家臣のドーブルはためらいなくノックをする。
「・・・入れ。」
「失礼します。ブリューナク様。」
ドーブルは、中からの返事を待って、ブリューナク伯爵の寝室へ入る。
「お楽しみ中、失礼致します。ルガルド村への税の徴収の件でご報告に参りました。」
「・・・よかろう。お前はもう下がれ。」
ブリューナクは、さきほどまでベットの上にいた女に冷めたように言う。
女は薄手の服で前を隠すと、足早に部屋を出て行った。
「あの娘は、確かローラン村の・・・。前回の献上品でしたかな。もう飽きたので?」
ドーブルは、下卑た顔で女を目で追い、厭らしい笑いを浮かべつつ尋ねる。
「ふんっ、初めての夜はあらん限りの抵抗をしておったものだが、最近は諦めたようにわしの言いなりになりよる。興が冷めたわ。ああなってしまっては、ただの人形だ。わしは、嫌がる顔を見ながら、抵抗する女を無理やり犯すのが好きだというのに。」
「では、今夜あたりあの女をお借りしても?」
「好きにしろ。それより、ルガルト村か。確かあそこには、イリシャとその娘がおったな。グヒュヒュヒュ・・・。まずは泣き叫んで助けを乞う娘を頂き、絶望に染まった親を・・・。キヒヒヒヒ。」
「ルガルドのその女は上玉と聞きますね。飽きたら是非私もご相伴預かりたいですな。」
ドーブルとブリューナクは、献上品をどう扱うか妄想に興じながら、ルガルトへの税の徴収について話し合った。
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