◆5話「アンナの家」
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~村長視点~
なんとも不思議な子じゃ。
15歳にして一人旅という境遇。おまけにブラックベアを1人で討伐する腕っぷし。
教養のある大人びた言葉遣い。
魔法の適正は、基本4元素が全く使えんくせに、希少4種の魔法がすべて使えるとは・・・。
彼がこの村にいるだけでわしらは安泰じゃな!
食糧難にも彼の腕なら狩りに苦労せんじゃろうし、盗賊や山賊、凶悪なモンスターに対して村を守る戦士ともなる。
なんとしても、彼を村に置いておきたいが、こんな田舎の小さな村に収まる器じゃなかろう。
せめてこの村を今後も庇護してくれるだけで助かるのじゃが・・・。
村一番の娘イリシャを嫁にするのはどうじゃろう。夫を亡くしてから随分経つし、寂しい夜もあるじゃろ。確か今年で33・・・
・・・無理じゃな。歳が離れすぎとる。
ぶるっ!・・・む?なんじゃ、悪寒がするぞ?
娘のアンナはどうじゃろう。あの子もまんざらでもなさそうじゃ。母イリシャは村屈指の別嬪じゃし、
きっとアンナもユウキに釣り合うおなごになるじゃろう。はてはて、どうしたもんかのう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
[アンナの家族]
母:イリシャ(33歳)元村商人の娘。現職業:主婦&裁縫の内職
姉:アンナ(15歳)
妹:ウィンネ(5歳)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕は、アンナの家に来ていた。
「無理を言ってすみません。これからお世話になります、ユウキと申します。
住まわせてもらう以上、家事でもなんでも手伝いますので、どうぞよろしくお願いします。」
アンナの家に招かれた後、アンナが一通り母のイリシャに事情を説明してくれたので、僕は、イリシャに挨拶をしていた。
「アンナを助けてくれたんだもの!遠慮しないで、ずっーっとここに居ていいのよ?アンナを助けてくれてありがとう。個人的にもお礼とかしたいし、なんなら私のからd」
「お母さん!」
「ふふっ。うそうそ!お母さんは、アンナから彼をとったりしないわよ。」
別に僕はアンナのものではないのだけど・・・。アンナは、ほんのり赤くなった頬を膨らませてイリシャを睨んでる。
イリシャさんは、アンナと同じ赤い髪色をしており、背が低いわりにスタイルがよく、魅惑のボディーだった。雰囲気は優しそうな感じで、包容力がありそう。
冒険者だった父ロイドが亡くなってからというもの、女手1つで子供2人を養ってきたようだ。いいお母さんだ。
「ユウキ君、今日は疲れたでしょ?寝室の隣が空き部屋になってるから、今日はその部屋を使って?そろそろこの子を寝かせてくるわ。」
イリシャさんが眠そうにしていたアンナの妹ウィーネを抱っこして寝室に向かう。
「ありがとうございます。今日は疲れたので、ゆっくり休ませて頂きます。」
「うち、案内する!」
「ありがとうアンナ。イリシャさん、おやすみなさい。」
するとイリシャさんは妖艶な顔で言う。
「あら?私のことは、お母さんでいいわよ?」
「えっと・・・」
にっこり微笑んだままイリシャさんは視線を動かそうとしない。
「お、お母さん、おやすみなさい・・」
「はい!おやすみ、ユウキ君♡」
(・・・この歳でお母さんができるとは思わなかった。)
アンナが僕の手を強く握り、強引に部屋へ案内しようとする。
「あ、アンナ?ちょっと手が痛い・・・」
「ユウキは、お母さんにデレデレしたらあかん!」
この歳でお母さんと呼ぶことに照れたのをアンナは何やら勘違いしたようだ。
僕は、寝室の隣の空き部屋に案内されると、睡魔に勝てず、すぐにベットに横になって眠りにつく。
(色々ありすぎて、今日は疲れた・・・。また明日から頑張ろう。)
一方、寝室ではーー
「ママ、ご本読んで。」
「ウィーネはご本が好きね。じゃあ眠るまでよ?」
「うん!」
イリシャは、『今昔創生記』をベットに横になる親子の間に置いて読み始める。
「ーーーむかーしむかし、神様は、アダムという人間の男と、実のなる植物を創造されました。そして、アダムはエデンの園に置かれました。」
(『エデンの園』作:コール)
(『エデンへ入るアダム』モンレアーレのモザイク)
「そこにはあらゆる種類の木があり、その中央には命の木と善悪の知識の木と呼ばれる2本の木がありました。」
「それらの木は全て食用に適した実をならしていましたが、主なる神様はアダムに対し善悪の知識の実だけは食べてはならないと命令しました。」
「その後、イヴという人間の女が創造されました。イヴが生まれると、悪い蛇がイヴに近付き、善悪の知識の木の実を食べるよう唆します。」
(『禁断の果実』作:ミケランジェロ)
「誘惑に駆られイヴがその実を食べてしまった後、アダムにもそれを勧めました。実を食べた2人は目が開けて自分達が裸であることに気付き、それを恥じてイチジクの葉で腰を覆いました。」
「主なる神は、蛇に向かって言われました。”このようなことをしたお前は、あらゆる家畜、あらゆる野の獣の中で、呪われるものとなった。お前は、生涯這いまわり、塵を食らう。お前と女、お前の子孫と女の子孫の間に、わたしは敵意を置く。彼はお前の頭を砕き、お前は彼のかかとを砕く”と。」
「神様は女に向かって言われました。”お前のはらみの苦しみを大きなものにする。お前は、苦しんで子を産む。お前は男を求め、彼はお前を支配する”と。」
「神様はアダムに向かって言われました。”お前は女の声に従い、取って食べるなと命じた木から食べた。お前のゆえに、土は呪われるものとなった。お前は、生涯食べ物を得ようと苦しむ。お前に対して、土は茨とあざみを生えいでさせる、野の草を食べようとするお前に。お前は顔に汗を流してパンを得る、土に返るときまで。お前がそこから取られた土に。塵にすぎないお前は塵に返る”と。」
「主なる神様は命の木の実をも食べることを恐れ、彼らに衣を与えると、2人を園から追放しました。」
(『楽園から追放されるアダムとイヴ』作:ナトワール)
「命の木を守るため、主なる神様はエデンの東にケルビムときらめく剣の炎を置かれました。」
「そして地上に降り立ったアダムのイヴの子孫である私たち人間は、絶え間ない戦争と繁栄を繰り返し、犠牲の上で成り立った豊かな生活をしていました。」
「末期には、天まで届くような建造物、馬より速く走るジドウシャ。空を飛ぶヒコウキ。今は失われた夢のような物や道具で溢れていました。」
「けれど、人間は欲張りな生き物だったのです。エデンの園で約束を違えただけでは済まず、神様が与えてくれた地上を貪り、ついには人間が超えてはならない領域へ踏み込んでしまいます。」
「神様は怒りました。」
「神様は人間に光の天罰を下します。それはもう眩い光です。」
「気づいた時には、元の人間の体では住むことのできない世界、モンスターが跋扈し、魔族が巣くう新世界へ渡っていました。私たち人間は、エデンの園、そして地上からも追放されたのです。」
「かつての文明は滅びましたが、私たち人間は新世界で生きていくための体と技術を神様から授かります。」
「それは、過酷な環境でも生きていけるだけの強靭な肉体と、ありとあらゆる魔法技術でした。」
「それからというもの、私たち人間は、屈強な体を鍛えて戦士や冒険者となる者、魔術の理を探求して魔法使いとなる者が現れるようになりました。」
「そして今もなお、私たちは神様に見守られながら、贖罪である研鑽を己に課し続けているのです。めでたし、めでたし。」
イリシャは、うつ伏せのままスヤスヤと眠るウィンネを優しく仰向けに寝かせ、『今昔創生記』をベット脇のテーブルへ置く。
「おやすみ、ウィンネ。」
イリシャはそっと灯りを消すと、ウィンネと共にベットで眠りについた。
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