◆3話「ブラックベア討伐~ユウキ視点~」
~ユウキ視点~
この猪どうしよう・・・・。
見た感じ、僕たちを逃がしてくれる気は無さそうだ。
皮膚は堅そうだし、素手でなんとかなる相手じゃない。
しかし、やりようはある。人間は動物を苦しまないように、より速やかに、より効率的に、屠殺する手段を確立している。
それは、炭酸ガスによる酸素欠乏、あるいは頭部への打撃や感電による、(建前の上では)脳震盪を起こし麻痺させた後に首の動脈を切断することによる失血死、あるいは麻痺させた後に脳組織を物理的に損傷させることで生命活動を停止させる方法などが挙げられる。
消去法で行けば今可能な手段は、首の頸動脈を切断することによる失血死だ。
打撃や感電による麻痺状態にすることはできない。だが、さっきの時間静止を意図的に引き起こせるなら・・・・
「・・・さっきと同じことができるなら、ブツブツ。ねぇ、君。君の持ってるナイフを借りていい?」
「え?これ?ええけど、これ採取用のナイフやよ?」
「大丈夫。それで猪を仕留める。」
ナイフを受け取り、雄たけびをあげる。
「よし。行くぞおおおおおお!」
怖い。怖いからこそ声を出してごまかす。立ち止まったらもう体は動かないと思った。
「ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
僕は、ブラックベアへ向かって駆け出す。
(とまれええええええええええええええええええ)
世界が止まる
僕は右方向へダッシュしながら猪へ接近していく。
すると、さきほどより短い時間で世界が動き出す。
(ぐっ・・・結構体に負担かかるな・・・・。息を止めながら長距離走っているみたいだ・・・。)
僕が右方向からダッシュしたことで、猪は左方向へ意識が向く。既に時間の流れは平時の状態になっている。
(頼む!フェイントにかかってくれ!・・・・とまれええええ!)
再び世界が止まる
僕は右方向からダッシュしていた軌道を時間停止中に変え、左方向から接近を図る。
猪やまわりから見れば、突如消えたように見えるだろう。
意識の逸れた猪に、左方向から喉元の頸動脈に向けてナイフを突き刺す。
不意打ちに急所を突かれた猪は、失血死により絶命した。
(やばい・・・。フラフラする。酸欠や貧血に近い感じだ。けど、なんとか倒せたな・・・)
その後、アンナと(なぜか手をつなぎながら)村へ案内してもらう。村への道中、あまり会話がなく、突発的な出会いだったことから、今更ながら横目でアンナのことを観察してみる。
髪は燃えるように赤く、肩下くらいまで伸ばしたストレート。顔はやはり西洋風な感じで、くりくりした目に柔らかそうなピンクの唇。体は成長期に入ったばかりなのか、慎ましい双丘が見て取れる。客観的にみても美少女と判断されるだろう。
(この世界は、美形の平均値が前世より高いのか?美的センスそのものが違う可能性もあるが・・・)
そんなことを考えながら村に戻った後、ブラックトベア討伐に村の大人たちを驚かせつつも、獲物の解体と肉の回収を行ってもらった。
ブラックベアは食用として大変重宝されているらしい・・・
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