ヒロインゲットだぜ!
サリューがようやく帰ってきた。申し訳なさそうに頭を下げるサリューをリズレルは慰める。
「淫乱ピンクが八十人もいるとは普通思わないよ。落ち込まないで」
「本当に申し訳ございませんでした……。
ですが、ヒロインと思われる少女を連れて参りました。御覧下さい」
サリューが一人の少女をリズレルの前に突き出す。
桃色の艶やかな髪が腰まで伸びた可愛らしい絶世の美少女が目の前に居た。
彼女の名前は『マリア・セレヌ』。既に両親は亡くしており、叔母の下で世話になっていたらしい。
怯えた目付きでこちらの様子を窺うマリア。
そんな彼女を訝しげに眼を細め、見つめるとサリューが素早く耳打ちしてきた。
「この娘は叔母の下で日々虐待をされていたようです。彼女を10ロギロで快く売って下さいました」
10ロギロは、日本円で約十万円くらいか。
しっかし、ヒロインに虐待されていたって、そんな過去あったっけなぁ?
そもそも、デフォルトネームすらなく、過去設定も明かされていないヒロインだ。
まぁ、いいや。このマリアちゃんも骨の髄まで私の物になったのだ!
もう処刑エンドなんて逃れたも同然!
思わず笑みが漏れ、マリアの目の前まで歩いて行く。マリアの瞳が不安げに揺れる。
彼女の顎を掴み、無理やり顔をこちらに向けさせて、目と鼻の先で獰猛に笑う。
「マリア、お前はもう私のものだ。私の命令は何でも聞いてもらうから」
「は、はい……リズ、レル様」
おずおずと頷いて見せたマリア。
彼女をサリューに預け、私のメイドらしく躾けるように命令をした。
ジェイ先生が居たら、淑女として立派な教育もしてやれるのだけど。
先生は隣国のテトラを支配下に置くためダンジョン経営と、破壊活動に勤しんで貰っている。
ジェイ先生とは、リズレルの幼い頃からの良き師である。
学生時代は首席で卒業、それも歴代首席の中でも特に優秀らしい。
そんな先生にダンジョン経営を手伝って貰っているのだ。
え? 私のダンジョン経営sugeee?
得意な人にやって貰うのが一番だと思うよ!
リズレルがダンジョン経営をサボっていても、ジェイ先生が勝手に頑張ってくれるので、
がんがんダンジョンポイントが貯まってウハウハなのだ。
先生は最初の頃とても地味な印象だった。
それが思い出せないほどジェイ先生は気づいたらイケメンになっていた。
萎びたサラリーマンが、スーパーエリートになったような劇的ビフォアーアフターである。
ダンジョン経営について、唯一真面目に一緒に考えてくれた先生だから、感謝の気持ちを込めて、ダンジョンポイントで交換した異世界のご飯を上げてたら、人間卒業してたのにはビックリしたものだ。
日本食には、異世界の人をモンスターに変える要素があったのかもしれない。
それから積極的にダンジョン経営に乗り気になってくれたおかげで、
間接的にリズレルのダンジョン経営sugeeeが実現しているのだ。やったぜ。
問題はジェイ先生がゲイってことだ。
普通だったら、私に惚れちゃって逆ハーの一員になるはずなのに、なんでだろうね!?
さてヒロインを確保した今、私がやることは世界征服に向けて世界中の地下にダンジョン地下帝国を作ることである。マリアには立派な淑女として育って貰い、クソ王子を惚れさせて、婚約破棄された後にマリアにボロクソに捨てて貰えばいい。最終的に王国は滅ぼす予定だが、現在は保留中。
だって、パパとママに王国滅ぼしてもいい? なんて言えないよ……。
そんな事言ったら、きっと、リズちゃん! そんなワガママはいけないよ! って怒られるんだ。
この世で一番嫌な事は肉親に怒られることである。多分三日くらい寝込みそう。
パパとママが機嫌良さそうな時に頑張って言わなきゃ。その事を考えると心臓の音がすごくうるさい。
一人で悶々と考えていると、ドアを叩く音が聞こえた。
入ってきたのは、私のパパとママであった。二人の事を考えていたので、心臓がドキリと跳ねた。
二人は相変わらず美形な両親だ。
何時もように優しい表情を浮かべているが、今日は何となくその表情に陰りが見えた。
「どうしたのですか? お父様、お母様」
「リズ、昨日は突然の婚約者の話に驚かせてすまなかったね。
もう一つ君に話しておかないといけないことがあるんだ」
二人は何とも言えない珍妙な表情で語りだした。なんでも私に義弟が出来るらしい!
突然の事に驚いて目を丸くさせるリズ。少し考えれば理由はわかる。
私が王子に嫁入りする事になったら、ラル家の跡取りが居なくなるのだ。
でも、ゲームのリズレルに義弟なんていたかなぁ?
嫌な奴だったら、いやだなぁ。パパとママもあんまり乗り気じゃなさそう。
現王、パパの兄上のお願いという名の命令らしいから仕方ないそうだ。
なんだか陰謀な臭いがしてきたぞ。