易しいダンジョン経営の仕方
ダンジョンマスターってなにするの?
お仕事内容は簡単。屋敷の地下に存在する謎の空間。
ダンジョンを広げるお仕事です。
そう、あれはまだ、私が赤ん坊の頃だった。
気づいたら、赤ん坊だったという事態に襲われたリズレルは人生で一番焦った事件である。
両親の言葉はわからないし、風貌が日本人らしくない白人なのだ。
如何にも中世ヨーロッパ風の家具やら服装に、さすがのリズレルもピンと来たのだ。
異世界転生私MOTEEEE TUEEEEE SUGEEEEEEEEが来てしまったのだ。
気づいてしまったからには早い。
私は異世界で楽しく生きる為に赤ん坊である事を受け入れた。
何もない宙を睨みつけながら、『ステータス……ステータス……いでよステータス……!』と呟き続けること十秒。本当にステータスが出てしまった。
リズレルク・ラル / さんかげつ / だんじょんますたー / れべるいち
思ったよりも簡潔なステータスであったが、『だんじょんますたー』という字を認識した瞬間、リズレルの頭が爆発しそうなほど痛んだ。激しい鈍痛が襲い、目の中で光が飛び散るような衝撃が走る。
ハッと意識が戻れば、頭の中にマニュアル書をぶち込んだかのように、ダンジョンについて、事細かに意味が分かった。
ダンジョンとは、魔物や罠、時には宝箱を配置し、冒険者を誘い入れ、
いかに殺して、ダンジョンのポイントを稼ぐかの、経営物である。
ダンジョンポイントとは、ダンジョン内で生き物の命を奪った場合や、生物が存在する事にって発生するポイントだ。
ポイントがあれば、魔物も勿論、罠や宝箱、ダンジョン内増築だって何でも出来ちゃうのだ! おまけに前世にあった物までもダンジョンポイントで交換できちゃう。
なんて便利なシステムなんだろうか!
デメリットを挙げるとしたら、リズレルが死ぬとダンジョンも消えちゃうということだ。
でも、死ななきゃ大丈夫!
冒険者を上手に引き入れる為にも、私が冒険者として、強くなって、いっぱい情報を入手しなくては!
リズレルは頭がいいので情報がいっぱいあると、凄くこちらに有利に働くことを知っていたのだ。
赤ん坊にして、屋敷中に存在する本を見ては、首を傾げ、ようやく文字の読み書きが出来るようになったのは三歳の頃。屋敷の中では神童と持て囃されていた。この屋敷の住人は一人娘のリズレルが可愛くて仕方がないのだ。
「お嬢様は素晴らしいですね、もう絵本が読めるのですから」
「あたちなら、これくらいよめまちゅわ!」
難しい単語が出てくると、途中の段階で詰まるが、絵がいっぱいあると、とてもわかりやすい!
神童とチヤホヤされていい気になったリズレルはパパの部屋の書斎を調べた。ファンタジー世界ならば、パッパの部屋に魔法書があるものなのだ。
リズレルは沢山の異世界転生物の小説を読んできた。
だから、魔力を枯らして、魔力を伸ばすチートだって試した。
しかし残念な事に、彼女には魔法が使えなかった。
だから最後の望みをかけて、パパの部屋に忍び込んだ結果。
字が難しくて読めなくてメイドに泣きついたのだった。
話を聞いたパパがリズレルを膝の上に載せて、頭を撫でながら魔法の事を教えてくれた。
「リズレル、魔法は誰にも使えないんだよ」
「ほんとなの? パパ。
でも、えるふとかはつかえるんでしょ? あたちしってるわ!
それにまほうがつかえないと、もんちゅたーにころされちゃうのだわ!」
「えるふ? もんすたー? 何だいそれは?
ふふ、さてはメイドに色んな絵本を見せて貰ったのだな。
リズレルは本当にかしこい娘だ」
なんてこった! パパの話を要約すると、この世界には魔法が存在しない。
それよりも、モンスター、所謂人間を見ればなりふり構わず襲ってくる害獣、魔物が存在しないのだった!
つまり冒険者もいない!
にわとりに回転斬りするような金髪エルフ美青年もいない!
オー! ジーザス!
リズレルの頭の中で描いていた、新人がAランク級の獲物の素材をギルドに持ち込み、信用されなく、強面のお兄さん達に囲まれるも、スタイリッシュに撃退。そこから私への畏怖と羨望に満ち、華麗なるSランクへのランクアップ。奴隷をいっぱい買って、逆ハー作って、ウハウハの人生があっという間に砕け散った。儚い人生だった。
でも逆に考えれば天敵がいないんだよね?
やったー! ダンジョン無双じゃないですかー!
イケメン魔人系男子や、獣人美少年を召喚して、逆ハー無双じゃないですかー!
召喚できたのは五センチくらいの綿毛みたいなコウモリだった。かわゆい。
代わりにダンジョンポイントが大分なくなった。じり貧である。
天敵がいないとはいえ、ダンジョン経営を上手にやらなきゃダンジョンポイントが全然貯まらない訳だ。
だから、リズレルは考えたね。ダンジョン経営sugeeeeしちゃうしかないってね。最終目標はダンジョンマスターらしく、世界征服だぁ!
「パッパ! あたちだんじょんけいえいするの! いろいろおちえてね!」
「おお! お勉強かな? いいとも! 立派な家庭教師をつけてあげよう!」
こうしてダンジョンマスターとして、立派に世界征服をする為にお勉強することにしたリズレル。
道徳、倫理、賢さを母の胎内に置いてきた、ぐう畜生によるダンジョン経営sugeeeが始まるのであった。