2話
彼の部屋にある漫画を読んでいたら、今の私と同じ状態のやつがあった。 漫画の方では妊娠後、旦那さんがエッチしてくれないことを淡々と描いてあった。 奥さんが大学時代の友達に相談したら『旦那の前でオナニーしてくだい』と言っていた。
女が本気で誘惑して落ちない男はいない、とのこと。 そうすれば抱いてくれる、と。
できねぇ、私にはできねぇ。 エロすぎ! いくら欲求不満だからといって、それはできない!!
まだ読んでる途中だけど、恥ずかしくなって漫画を本棚に戻したところで彼が買い出しから帰ってきた。
今日は午後からの講義がないから、昼からゴロゴロできる。 大学生になるまでこんな日がくると思ってなかったから、大学入った頃は素直にうれしかった。
今となっては、彼の部屋を漫画喫茶代わりに一日中ゴロゴロしている。
「ねぇ、これの新刊は?」
冷蔵庫に食材をしまい込んでいる彼に呼びかけると「来月。 次巻はおまえが買う番だからな」と答えた。
彼の部屋を漫画喫茶扱いする代わりにと彼が決めた約束事。 それは、お互いにお気に入りの漫画の新刊は交代で買うこと。
「うへぇ」とうなり声をあげてベットにゴロンと寝転がる。
「金ならあるだろ?」
「昼控えてるからあるけど、これ愛蔵版じゃん」
どうせなら普通のコミックを買ってほしかったけど、彼曰く『こっちの方がカラーページとかあって豪華』とのこと。
普通の漫画と比べると大きいし、表紙も和紙を使って凝っている。 そのため普通の漫画の二倍の値段はする。 それをお得と思えるかどうかが、またちょっとした問題として私の頭の中にある。
「それはそうとさぁ、ラッキースケベに出会いたい?」
「いきなり何言ってるの?」
「いやだって、どの漫画にもそれらしいのあるじゃん? 例えば……これとか」
テキトーに漫画を取ってそれらしいページを開いて見せた。 彼は困ったような顔をして「リアルじゃあ、ありえないからねぇ」とやんわり出会いたいことを言った。
ほほぉ、と見せたページを改めてじっくり見てポンと閉じた。
「じゃあ、私が出合わせてあげよっか?」
「五分したら入ってきて」と言って彼を部屋から追い出した。
部屋の中で一人になると、素っ裸になってシャワーを浴びた。 汗もかいてないし臭くもないけど、ラッキースケベといったら風呂だなと思った。
未来から来たネコ型ロボットのアニメだってこういうシーンあるし、裸になる機会なんてこれぐらいしかない。
これで彼が部屋に入って来たときに風呂から出れば、ラッキースケベが発生する算段。
自分から言い出してなんだけど、裸を見られるのはすごい恥ずかしい。 いくら付き合ってるからといっても、恥ずかしいもんは恥ずかしい。
でもこれも彼とエッチするため。 私の裸を見れば勃つだろ? そのときになんやかんやしたら襲ってくれると思うし、最悪おっぱい揉ませれば襲ってくれそう。
そんなことを考えているとドアを開ける音が聞こえた。 慌ててシャワーを止めて、ベタベタなまま浴室から出た。
さぁ、顔を赤くして、おっ勃てろ!
しかし彼は「シャワー浴びるなら身体ぐらい拭け!!」と開口一番に言われ、乱暴にバスタオルをぶん投げてきた。
「ごめん……」と咄嗟に謝ってしまった。
「床拭いとくから、ささっと着替えてこい」
「ねぇ……」
「なんだよ」
「あぁ……やっぱいい、なんでもない」
身体をしっかり拭いて布団の中でもぞもぞと着替えた。
なんでもない。 本当になんでもない……。