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抜刀術と異世界生活  作者: タルタルチキン南蛮
1章…生活基盤編
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8.実験

「なんでも屋ピーカですー、納品に来ましたー」


 おっとりした口調の大男が店に入ってくる。巨大な体躯に似合わない、穏やかそうな人だ。腰には沢山のポーチが付いていて、様々な道具が入っていた。


「ああ、ダンさん。いつもありがとうございます」

「いいえー、仕事ですんで」


 そう言いながら、ダンさんと呼ばれた大男は派手な音を立てながら荷物を下ろす。どんだけ重いんだあのリュック。

 どうやら納品のための荷運びをしている人らしく、リュックからは大量の布や革、鉱石が出てくる。おっと、そうだ大事なことを聞き流していた。


「あの、すいません」

「んお?おいらかい?」

「はい、さっき『なんでも屋ピーカ』っておっしゃいましたか?」

「おー、言ったな。それがどうかしたかい?」

「僕もつい先日そこで働き始めた、日向光流と言います。初めまして」

「そうかそうか!新しい人か!おいらはダンだ。いやー、よろしくねー」

「こちらこそ」


 のんびりした人だなぁ、なんだかとっても良い人そうだ。


「ダンさんはいつもどんな仕事を?」

「街から街へ荷物を運ぶことが多いなー。馬を使う程でもない小さな荷物をまとめて運んだり、時には引越しのお手伝いをしたりもするぞ」


 どうやら力仕事担当の人らしい。そういえば、ダンさんってかなり筋肉ありそうだけど、ステータスってどんな感じなんだろう。


「ダンさんって、筋力はどのくらいなんですか?」

「おう!C+もあるんだぜ!おいらの唯一の自慢さ」


 ふむ、C+でも自慢に出来るほどなのか。俺がとち狂ったステータスなのは隠しておいた方が良さそうだ。ダンさんのプライドのためにも。


「へぇ!凄いですね。魔物と戦ったりもするんですか?」

「いんやそんな事は出来ねー。怖くて怖くて」

「そうなんですか?」

「力があっても、戦えるのとは全く別の話だな。おいらは敏捷が低いから攻撃を避けられねーしな」


 確かに、ある程度の経験が無いといきなり戦闘は無理だろう。俺自身、対人戦の経験がなかったらルビーベアからも逃げていただろうし。

 ダンさんとしばらく話していると、リュックから商品を取り出し終わったのか店員が書類にサインするようダンさんに求めてきた。ダンさんは慣れた手つきでサインを済ませると、


「ほいじゃあおいらは次の仕事に向かうわ。またなー」


 と、ゆっくりした足取りで出て行った。あんなスピードなのに、納品に遅れたりしないのだろうか。と思ったが、店員さんによるとダンさんはこの街一番の運び屋なのだとか。見かけによらないものである。


 その後、暫くの間商品を見て回ってから店を出る。まだまだ日は高いが、やることもないのでピーカに行って仕事をもらおう。

 運搬系の仕事なんてものもあるならそっちの方が良いが、今日行って帰ってこれる依頼となると、街から街へ移動する事を考えればあまり無さそうだ。ステータスにものを言わせて全力で走ればなんとかなるかもしれないが、商品が壊れそうなのでやめておこう。

 そういえば、こっちへ来てから自分の身体能力の限界と言うものを確認していない。なんとなく痛覚などはそのままのようだが、筋力B+と敏捷Aという化け物じみたステータスがどんなものなのかを討伐依頼を受ける前に確認するべきだな。防具にも慣れたいしこのまま行こう。


 そう思い、一旦宿に戻ってからゴードンさんの所で買った剣も腰に差し、防具を付けたまま再び山の麓へと向かう。あの平地は人も来ないし、暴れるのには丁度いいだろう。また魔物に遭遇するかもしれないが、山に入らなければなんとかなるだろう。


 ============================================


 山の麓の平地まで来た俺は、山の木の陰に服などの入った麻袋を置いて防具を装着した。戦闘するときの状態で確認しないと意味ないからね。


 まずは筋力の確認からだな、どうやって確認するか。

 周囲を見渡すと、ちょうどいいところに数本の倒木が転がっていた。昨日の戦闘で倒してしまったのだろうか。まぁなんでもいいか、あれを使おう。

 抜刀術によって剣氣を纏った刀を使い、倒木を一本輪切りにする。普通に振っても剣氣は出ないのだ。直径1mほどもある倒木を、少しずつ厚みを増やしながら斬っていく。


「よっ、と」


 10cmほどの厚みのものは軽々持つことが出来た。刀も軽々振り回せていることだし、このくらいは予想の範囲だった。

 しかし、実験を続けても底が見えない。一番厚く切った(というか2mほどもあるためほぼ丸太の)ものでさえ、すんなりと持ち上がってしまったのである。ものは試しと思い倒木を一本丸々持ち上げようとしたところ、頑張れば持ち上がってしまった。筋力B+、恐ろしい。


 まだ上限は見えないが、ある程度筋力がどれ程デタラメか分かったので敏捷の実験に移る。刀と剣は邪魔になるため、服と一緒に木の陰に隠しておく。

 草むらに立ち、クラウチングスタートの体勢をとる。風に揺れる草原を見ながら呼吸を整え、遠くに見える岩に目標を定める。


「よーい……」


 グッ、と足に力を込める。特殊技能:集中により、感覚が鋭敏になるのを感じる。


「ドンッ!!」


 あまりに強い筋力によって一瞬でトップスピードに乗り、Aランクの敏捷が足を回す。スタートと同時に乾いた音が背後からしたのは、一瞬にして音速を超えたため起きたソニックブームのせいだろう。

 超音速で走る物体にとって空気は十分に抵抗となりうるのだが、それすらも難なく切り裂いて進んでいく。敏捷には知覚能力の早さも含まれるのか、その速度の中でも一歩一歩を確かに感じることができる。


 およそ1キロ程ある道のりを約2秒で走り抜いた俺は、身体を確かめる。超音速で、しかもそこそこの距離を走ったにも関わらず、疲れは全く感じず、衝撃波による傷なども無かった。

 何故か服や防具にもダメージは無かった。超音速で走ったのに、不思議なことだ。


 と、そこでふとある事に気付いた。超音速で走ったのに、走った道のりになんの影響も無いわけがない。

 恐る恐る後ろを振り返ると…


「あっちゃー……」


 とんでもない速度で走ったことにより、草原には一部だけ草がはげて道が出来てしまっていた。……まぁ、放って置くしかないか…。俺、悪いことしてないよね?

 その後、防具を付けた状態に慣れるために買った剣で抜刀術を使う。ギリギリ剣氣は飛んで行かなかったので安心して修行できた。


 宿に戻り美味しく夕飯のチキンステーキのようなものを食べていると、隣の人達の会話が聞こえてきた。


「おい、聞いたか。西の草原にデケエ魔物が出たってよ」

「ああ、身体を引きずったもんで道が出来ちまってるって話だろ?」

「それだけじゃねえ、木をぶっ倒して爪を研ぐ為にその木を輪切りにしたってよ」

「とんでもねぇなそいつは」


 なんだかとっても心当たりのある話に冷や汗を大量に流しながら、食事もそこそこに眠りにつく。ほとぼりが冷めるまで、あそこでの修行は控えた方が良さそうだ…。


 防具も買ったことだし、明日は何か仕事を貰って初の討伐依頼に挑戦してみよう。

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