3.職探し
しばしの沈黙が部屋を支配する。やがて、ぎこちない動きでおっさんが口を開く。
「お、お前、勇者の末裔かなんかか?」
そんなわけないでしょう。
「違います違います、ただの平民です」
ここは転移して来たことは伏せておこう。それを教えたらもしかしたら納得してれるかもしれないが、それこそ勇者か何かと勘違いされかねない。俺としては是非とも避けたい事態だ。
「だよなぁ…こんなステータス初めて見たぞ。格闘特化のステータス自体はよくあるんだが、このレベルとなるとなぁ……」
やはり破格のステータスのようだ。一つあれば一流とされるBランク以上のステータスが二項目もあるのだ。異常と言わざるを得ない。こっちに来た影響で俺の身体が可笑しいのか、それともこっちの世界が俺の世界に比べてヤワなのか。分からん。
「仕事だから、俺はこのステータスを上に報告せにゃならん。あらゆる登録者のステータスは、本部のデータベースに保存されるんだ。そうなれば、お前さんには一気に難題な依頼が次々舞い込むことになるかもしれん」
「それは困ります!平穏に過ごしたいので」
「しかし、ここに登録しないのなら、俺にその義務は無い。この意味分かるな?」
なるほど、つまり冒険者にならなければ秘密にしておけると言いたいわけだな?むむむ、また仕事が貰えない……
「町のなんでも屋とかならいつでも人手は大歓迎だと思うから、日銭が稼ぎたかったら行ってみるといい」
「なんでも屋ですか」
「ああ。知り合いのとこに紹介状と、ついでに地図を描いてやる、ちょっと待ってな」
「ありがとうございます」
サラサラと羊皮紙っぽいもの(実物は見たことはない)に何かを書き込んでいく。5分ほどフラフラと部屋中に視線を彷徨わせていると、ヘイリーさんが立ち上がった。
「こっちが紹介状、こっちは簡単な地図だ。店で俺の紹介だと言えばなんとかなるだろう」
「こんなことまで、すいません」
「良いってことよ。その代わり、もし困った時は非公式に仕事を依頼するかもしれんから、その時はよろしく」
しまった、上手く嵌められたようだ。だがヘイリーさんが居なかったらこの後の方針も定まらなかっただろうし、ここは感謝しておこう。
「分かりました、ありがとうございます。そのような依頼をしなければならないような事が起きないよう祈ります」
「はは、確かにな。そいじゃまたな」
ヒラヒラと手を振るヘイリーさんにお辞儀をして去ろうとしたら、少しキョトンとされた。いかんいかん、これは日本の風習だったな。
外に出た後紹介状をよく見てみるが、やはり全く知らない文字で書かれている。これは文字を勉強するか、自動で翻訳してくれるような魔法が要るな。
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手渡された地図を元になんとか路地を進んでいくと、目的の店に辿り着いた。周りよりもなんだか少しだけ綺麗な造りだ。新しく出来たのだろうか?ドアを開けると、カランコロン、と来客を告げるベルが鳴った。
「いらっしゃい!なんでも屋ピーカへようこそ!」
そこには元気ハツラツな同い年くらいの女の子が受付にいるだけで、他には誰も居ないようだった。あの子ちょっとかわいいな。
「すいません、ヘイリーさんの紹介でここで仕事を貰えないかと…」
あんまりまどろっこしいのも面倒なので、単刀直入に話を切り出しながら紹介状を見せる。
「あら、ギルド長さんの紹介で?珍しいね、男の人をここに寄越すなんて」
「ギルド長!?」
「知らなかったの?あの人はあんな感じだけど、この街で市長の次に偉い人よ。もしかしてあなた、その格好といい他所から来たの?」
コクコクと頷くと、彼女は納得がいったと言わんばかりの笑みを見せ「ちょっと待っててね」と言い残して店の奥に行ってしまった。
受付の椅子に座って待っていると、「どれどれ」とドスの効いた声で呟きながらゴリラが出てきた。…あ、や、失礼、女の人が出てきた。
「あんたかい?ヘイリーが寄越したってのは」
「は、はい!日向光流と申しますです!」
おばさん、怖すぎるよその眼光。ケモノの目だよそれ。
「ふーん……訳ありかい?」
「あっ、あの……まぁそんなとこです」
「ここで働くってんなら、そいつを話して貰おうか。でないと仕事を割り振れねぇ。」
たしかに、もっともだ。
「…口外しないと約束して頂けますか?」
「ふん、任せな。お前も外で喋るんじゃないよ!」
「分かってるわよママ」
待て、ママっつったか今。どうやったらこの霊長類から可愛い女の子が生まれて来るんだ。これぞ生命の神秘。
「あのですね、僕のステータスに問題があるんです」
「なんだい?冒険者やるには低すぎてウチへ来たのかい?」
「いえ、その逆です。平穏に冒険者をやるには少し高過ぎたようで…」
そう言いながら、さっきの健康診断の結果をヘイリーさんにメモして貰った紙を見せる。「あまり人に見せないように」と言われているが、これは仕方ないだろう。紙を見るなり二人の目が丸くなる。
「あんた、これ本当なのかい?伝説の勇者様並みじゃないか」
「どうやらそのようで…」
娘さんの方は、なんだか口を半開きにしてこっちを見ている。嘘じゃないよ?
「となると、あんたには害獣や魔獣の退治をお願いしたいんだがねぇ。剣氣も使えるのなら相当の手練れなんだろう?」
「いえ、実戦経験は全くなくて…型の修行ばかりしていたので」
「それで剣氣を身に付けるたぁ……」
そこで何か哀しそうな眼をするおばさん。いや別に星飛◯馬みたいな特訓とかしてないです。はい。
「しかしここにも討伐の依頼なんて来るんですね。なんでも屋って言うから、てっきり雑用系かと」
「ああ、それはお金の無い人達がギルドに依頼出来ずになんでも屋を頼るからだよ。仕方ないとはいえ、こっちじゃ何もしてあげられないこともたまにあるよ」
途中で我にかえった娘さんが説明してくれる。そういうことか。となると、ギルドと同じ仕事をしておきながら貰えるお金は少ないことになる。お店の方はそれで大丈夫なのだろうか?
尋ねてみると、豪快に笑いながら「いつでもウチらは貧乏さ!」と答えてくれた。元気な人だな、そこは娘さんも似ている。
「とりあえずは、簡単な討伐系の依頼と雑用をやって貰うよ。まぁ少しずつ慣れな」
「はい、よろしくお願いします」
「私はカノン。カノン・コーライルだ。こっちは娘のニーナ」
「ニーナ・コーライルです。よろしくね」
よし、まずは仕事ゲットだ。