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帝国陸海軍、最終決戦開始ス  作者: かめ
マリアナ諸島攻略作戦
36/39

激戦

 福田車の射弾はM4中戦車上部の傾斜装甲によって弾かれた。続く各車の砲撃も、命中弾を得ない。

「外した。次弾装填急げ!」

 3式中戦車の欠点は装填に時間がかかることだ。小型の車体に75mmの主砲を積んだ代償として狭い砲塔内で大型の砲弾を装填することになり、結果として他の戦車よりも装填に時間がかかってしまう。M4中戦車も反撃し、至近弾が福田車を揺さぶる。夜の闇の中を、砲弾の輝きが飛び交う姿は一種幻想的でもあった。

 その間にも4号車の1式中戦車が2発を発射し、1発の命中弾を得たが弾かれた。

「装填よし!」

ーッ!」

 次の射弾はM4戦車の砲塔基部に命中した。直後に被弾箇所から炎と煙を吹き出す。

「命中、1両撃破!」

 福田の声に乗員が歓喜の声を上げる。

「次、1時方向敵2号車」

「照準よし」

 直後、右翼側に展開していた小隊2号車が被弾した。日本戦車は他国の戦車と違いディーゼルエンジンを搭載しているためにすぐには出火しなかったが、乗員は死傷し、戦闘は不可能であった。聞いている者が居るかどうかは別として福田は無線に吹き込む。

「2号車の乗員は脱出、歩兵部隊に合流しろ!」

 続いて、砲撃を命じた。轟音と共に75mm砲が火を噴く。

 今度は最初から命中弾を得た。福田車の射弾が履帯を吹き飛ばし、3号車の放った砲弾は敵戦車の砲塔を半壊させた。

 僚車が撃破されたのを見た敵3号車は後退に転じた。通常、砲塔だけでも敵に正面を指向して後退するのがセオリーであるが、この戦車の場合は砲塔ごと背を向けてしまった。慌てていたのか、あるいは指揮官の経験が浅かったのか。元来、太平洋戦線の米軍戦車兵は欧州戦線経験者に比べ、本格的な対戦車戦闘の経験が少ない。

 完全に晒していた背面という弱点に1式中戦車が砲撃を集中した。結局のところ、エンジンを貫通した1発が決定打となり、最後の戦車も動きを止めた。

 自軍戦車の撃破に呆然としていた米兵たちの耳に、この場で最も聞きたくなかったであろう音―高らかな突撃ラッパの音が響いた。

 敵に攻撃意図を知らせてしまうとして日露戦争以降、戦闘では使用されていなかったのだが誰かが命じて吹かせたらしい。戦意高揚のため、あるいは敵への心理攻撃を目的としたのであろう。どちらにせよ、命令者は相当の策士だろう。

 暗闇の中から鬨の声を上げて突撃してくる日本兵を見た彼らの恐怖は限界を超えた。1人の兵士が小銃を置いて塹壕から駆け出すと、そこから連鎖的に壊走が始まった。混乱の勢いは凄まじく、将校ですら食い止めることは困難だった。


 サイパン島では有利に戦いを進めていた日本軍であったが、その他の方面ではそう上手くはいっていなかった。

 日没後にテニアン島に上陸した部隊は予想外に激しい抵抗を受け、上陸当初の橋頭堡を奪還されていた。結果として、残存部隊は座礁した「伊勢」を最後の砦として増援を待つという状況に追い込まれていた。

 さらに日本側を恐怖させたのは、米機動部隊の接近だった。空母接近を許しては一時的に奪った制空権を敵に奪還されかねない。そうなれば上陸した部隊、輸送船団、そして展開中の艦隊までもが壊滅しかねないのだ。それこそ国家存亡の危機である。日本側は全力で解決策を探していたが、解決の兆しは無かった。


 同日午後11時、マリアナ諸島まで270海里、航空攻撃に無理の無い距離まで近づいた空母「ミッドウェイ」の艦橋で、ミッチャーは夜明けを待ちわびていた。

 日本軍機動部隊との戦闘後に突如現れた日本軍の新型水上攻撃機と多数の潜水艦の度重なる襲撃によってミッチャーは多くの空母を失っていた。損害の多くは護衛空母であったが、健在なのはミッドウェイ級2隻とエセックス級1隻、その他6隻であり、当初の威容は失われていた。

 だがミッチャーにはまだ勝てるという自信があった。これまでの戦闘で、日本軍も多くの機体を損失している。実質的な戦力は最大でも空母10隻程度と考えられた。ならばまだ、勝ち目はある。

 マリアナ方面を見据えるミッチャーの目に、迷いは無かった。

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