囮
私用により投稿が遅くなりました
前進を開始してから数分後、小沢は唐突に命じた。
「空母及び駆逐艦は当海域にて待機、巡洋艦は敵艦隊に肉薄、水雷戦を敢行する。空母は航空機にて巡洋艦を援護せよ」
参謀の間に一瞬、動揺が走ったが、それは即座に安堵に変わった。少なくともこの長官は、空母をもって砲撃戦を行うつもりではないと分かったのだ。
だがそれでも疑問は残った。
「しかし、敵空母に対して水雷戦を仕掛けるといっても、効果は望めません」
参謀の1人が具申する。
「分かっている」
小沢は静かに答えた。
「我々は囮だ。巡洋艦といえども前進の構えを取られれば敵さんは攻撃せざるをえない。その間に空母艦隊は第2艦隊と合流する」
そう言うと小沢は悲痛な笑みを浮かべた。
「われわれの戦術目標はマリアナ諸島の攻略だ。マリアナの飛行場は最優先で叩かねばならん」
そう言い切るともう一つの命令を下した。
直後、第1潜水艦隊へと1通の暗号電が発せられた・・・
「戦闘機隊、発進!」
空母「信濃」の甲板上に飛行長志賀淑雄少佐の声が響き渡った。そして志賀自身も烈風に乗り込んだ。
エンジン出力を上げる。エンジン音が激しさを増し、プロペラの回転数が上がる。
志賀機はそのままするすると滑り出し、発艦した。多数の烈風が志賀に続く。
空中に敵機の姿はほとんど無い。巡洋艦隊は確実に攻撃を引き付けているようだ。
その努力を無駄にするわけにはいかない。
「全機、我に続け!」
前進する志賀に100機近い烈風、紫電改が続く。
5分と飛ばないうちに巡洋艦隊とその上空に群がる米軍機が見えてきた。複雑に絡まる回避運動の航跡を見ても、苦戦している様子が伺える。
「上方から攻撃する。全機、高度を上げろ」
戦闘機隊が一瞬、雲に隠れる。
「かかれ!」
戦闘機隊が上空から逆落としに急降下し、米軍機に襲い掛かった。
空中に次々と爆炎と煙が湧き出した。
突然の攻撃に米攻撃隊は慌てた様に後退に転じた。
そこに日本軍戦闘機が襲い掛かる。たちまちにして4機のヘルダイバーが撃墜された。
それでもなお攻撃を続ける勇敢な米軍機も居たが、彼らにはその数倍の戦闘機に襲われる運命が待っていた。
空中から米軍機が駆逐されると同時に、艦隊が前進を始めた。
「何をやっているんだ!」
逃げ帰ってきた攻撃隊を見てミッチャーは激昂した。普段めったに感情を表に出さないミッチャーとしては珍しいことであった。
「直ちに第2次攻撃隊を発進させろ」
「はっ」
攻撃隊が各艦の甲板上に上げられた。
搭乗員達は発艦の命令を今や遅しと待ちわびている。
だが、
「敵機来襲!」
「機種は?」
「戦闘機です。Sam(烈風のコードネーム)とGeorge(紫電改のコードネーム)が多数です」
「対空戦闘!戦闘機を発進させろ、急げ」
「間に合いません。敵編隊、接近します」
「駆逐艦は何をやっている」
「駆逐艦、敵巡洋艦の攻撃を受けている模様」
「くそっ」
飛行甲板に次々と機銃掃射が浴びせられ、待機中の機体が穴だらけにされる。
こうしていればいずれ爆発する機体もあるだろう。
「まだ攻撃を受けていない艦は?」
「『F・D・ルーズベルト』が戦闘機を発進中です」
ミッドウェイ級空母「F・D・ルーズベルト」は艦隊の中で日本軍機から比較的離れていたために攻撃が遅れたのだ。
「直掩機に命令、『F・D・ルーズベルト』に敵機を近づけるな」
「ん?」
志賀はあることに気づいた。
艦隊の反対側のミッドウェイ級空母が戦闘機を発艦させているのだ。
「1小隊、続け!」
志賀が空中電話に吹き込みと同時に志賀の小隊が翼を翻す。
志賀小隊の接近に気付いたグラマンが襲い掛かる。
「増槽を落とさないのですか?」
部下の声が空中電話を通じて聞こえる
「その必要は無い。敵機に構うな。低空から接近しろ」
志賀小隊の4機が高度を落とす。
空母まであと少し、操縦桿を引き付け高度を上げる。
空母の上空に達したとき、志賀はにやりと笑った。甲板上では今まさにグラマンが発艦しようとしている。
「よし増槽を落とすぞ」
続いて
「撃ーッ」
増槽が放物線を描いて空母の甲板に落下する。
「F・D・ルーズベルト」の甲板上は混乱に包まれた。
「爆弾だ!」
「待避!」
搭乗員が機体から脱出する。
そして「爆弾」が甲板に着弾した。
「伏せろ!」
金属音が響いたが、爆風は起こらない。
「不発か?」
整備員が呟く。
そこにまた1機のレップウが接近してきた。
4番機が機銃掃射を仕掛ける。
20mm機銃弾をまともに食らったグラマンはエンジン付近から煙を噴き出し、火災が発生した。
「よし、もう一度仕掛けるぞ」
烈風が旋回しさらにもう一度機銃掃射を行う。
今度は後方に居たヘルダイバーが火を噴いた。うまくいけば誘爆するかもしれない。
見れば、残弾計は零を示している。
志賀は空中集合空域を目指し、機体を翻した。
巡洋艦隊は敵駆逐艦を突破し、空母に接近していた。




