雷撃
11月1日13時頃、硫黄島南方海域
海は、荒れている。
先程の米軍機による攻撃直後、第2艦隊は急速に発達した低気圧に突入した。
「航海長、あとどのくらいでこの嵐を抜けられるかね」
第2艦隊司令長官伊藤整一中将が尋ねた。
「はっ、出撃前の気象予報によれば、あと17時間ほどとなっております。マリアナまで最大戦速で13時間ほどの海域です。」
「よし」
伊藤は満足げに頷いた。低気圧の中に居る間、日本艦隊が敵艦隊に発見される可能性は低い。よしんば発見されたとしても航空攻撃は不可能であり、攻撃は戦艦群による砲撃戦に限定される。戦艦同士の砲撃戦こそ日本側の得意とする戦闘であり、米軍が積極的な攻撃に出ることは無いと思われた。
だがその予想が間違いであったことを、伊藤は直後に知ることになる。
「後方に雷跡!『日向』に向います!」
見張り員の声が響いた。
直後、「日向」の周囲に3本の水柱が連続して立ち上った。潜水艦による雷撃だった。
「日向」は右舷側に急速に傾斜し、既に上甲板の一部は波に洗われている。
「『雪風』『浜風』を救助に向わせろ。この天候ではすぐ波に飲まれるぞ。他の駆逐艦は敵潜を捜索、撃破しろ」
日向の船体は既に大半が見えない。敵潜が艦底起爆魚雷を使用したことが「日向」にとっての不幸だった。
被雷と同時に「日向」の竜骨は粉砕され、艦体が半分に折れるようにして沈没したのだった。
攻撃を受けてから「日向」が沈没するまでにかかった時間は約1分、轟沈であった。
「敵潜、反応ありません。逃走した模様です」
信号員から報告が入る。
「分かった。『雪風』『浜風』は溺者救助を1時間継続、他艦はマリアナに向け、前進する」
伊藤は苦痛を押し殺した声で指示した。
艦隊は、再び前進を開始した。




