進撃
11月1日未明、厚木海軍飛行場
「全機、発進用意完了しました!」
基地司令小園安名大佐の下に一人の搭乗員が駆けて来て報告した。攻撃隊を指揮する長倉と言う大尉だ。
既に優秀な搭乗員を失っていた日本軍としては、大尉クラスの軍人に攻撃隊の指揮を委ねる外なかったのだ。
厚木には全国から硫黄島爆撃隊の中攻、陸軍の軽爆が集合していた。周辺の調布飛行場などにも多数の航空機が集結しているはずだ。
うむ、と頷くと小園は言った。
「私から言うことは何もない、戦果を期待する」
長倉は小園に敬礼すると、乗機に向かって駆け出した。
「全機、発進はじめ!」
最初に陸軍の九九式双発軽爆撃機が滑走を始めた。
「帽振れェッ」
続いて長倉の乗る新鋭機「銀河」が滑走を始め、4機の銀河が後に続く。
その後次々と一式陸攻が離陸する。小園は無表情に帽触れを続けていたが、九六陸攻が離陸して行った時にはさすがに表情を歪めた。
九六陸攻は日中戦争の頃から使用されている旧式機だ。
開戦初頭ではマレー沖で英極東艦隊を撃滅すると言う戦果も挙げたが、今となってはただの骨董品に過ぎない。
胴体下面に6発の六番(60kg)爆弾をむき出しで搭載した最後の九六陸攻が、どこか悲しげな爆音を残して飛び去ると、それまでとは一転して基地は静寂に包まれた。誰もが攻撃の成功を神仏に願っていた。
房総半島を超え、外海に出ると、後方から多数の航空機が接近してきた。関東各地に集結していた爆撃隊だった。
「後方より友軍機、陸軍機です」
「編隊長機に信号、『誘導する、我に続け』送れ」
陸軍の搭乗員は洋上航法の訓練を受けていない、誘導は海軍機が行うことになっていた。
空中では次々に中攻、重爆、中爆、軽爆が集合していた。その数、約600機。
「下方に友軍艦隊」
その声に下を見ると、薄闇の中に白い航跡と朧げな艦影が覗えた。その中の1隻の艦上に小さな光がチカ、チカと点灯した。
「艦隊より信号、『武運ヲ祈ル』」
「艦隊に信号、『謝ス』」
長倉機から発光信号が送られた。
攻撃隊は、硫黄島への進撃を続けている。
長倉大尉は架空の人物です。(適当な人物が居なかったので)




