大艦巨砲主義
投稿遅くなりました。
「酒匂」を「矢矧」に訂正しました。
「観測機を出せ、このまま観測射撃に移行する」
宇垣は指示した。コルクを抜くような音と共に零式水上観測機が射出される。
速度を落とした米空母であったが、「長門」「伊勢」「日向」は決して快速とは言えない艦であり、追いつく間に夜になる可能性があった。夜間では大量の空母を相手に混乱をきたす可能性があった。そうすれば、数に劣る日本艦隊は、米戦艦のレーダー射撃によって壊滅するであろう。
既に陽は、西に傾いている。
間もなくして、
「観測機より入電、敵空母発見。速力27ノット、針路、変わらず」
観測機の報告に基づき、射撃諸元が入力される
「主砲、交互撃ち方。よーい、…撃ッ」
「長門」の41cm砲が火を噴いた。僚艦も次々と砲撃を開始する。見た目こそ勇壮であったが、実際の効果については疑問が残った。
航行中の艦の尻から砲弾を撃ちかけたとしても精度は大きく落ちる。こちらも全速航行中となれば尚更であった。
案の定、
「観測機より入電。着弾、近」
初弾は敵艦隊から後落したようであった。
「高性能な電探があれば・・・」
宇垣の口から呻くような声が出た。この気持ちを持つのは宇垣だけではない、各艦長をはじめとする第2艦隊の誰もがこの瞬間、同じことを思ったであろう。
「念の為、4戦隊を接近させて置け。水雷戦を行うかもしれん」
猛烈な砲撃が繰り返される。しかし、有効弾は得られない。
「主砲、斉射に移行、4戦隊は前進、命令があり次第、攻撃を開始する」
第4戦隊に所属する軽巡洋艦「矢矧」重巡洋艦「青葉」「利根」、駆逐艦「雪風」「浜風」「磯風」「朝霜」「初霜」「霞」が白波を蹴立てて前進を開始した。
同時に主砲が斉射を開始する。前方に指向できる砲のみであり、各艦4門ずつではあるが、艦体が激しく振動するのが艦橋でも感じられた。
「全艦、最大戦速。魚雷戦用意」
「矢矧」艦上の古村啓蔵少将は命じた。体が後ろに引っ張られるような感覚に包まれる。艦が増速している証拠だ。
本来、第4戦隊は第1艦隊の護衛に就き、駆逐艦主体の第5戦隊が第2艦隊の護衛に就く予定であったが、敵艦隊との砲撃による決戦には水雷戦が不可欠であり空母はあくまで補助的な役であるとの、一見すると前時代的な主張によって急遽配置が変更となったのだ。こういった事例を生んだのは、異常なまでに発達した艦隊の対空戦闘能力なのであるが、航空戦の発達によって大艦巨砲主義を復活させたというのだから皮肉なものだ。
「敵駆逐艦、接近します!」
勇敢にも米軍の防空あるいは対潜水艦用の駆逐艦隊は、この前時代的な水雷戦隊に水雷戦を挑むようだった。
だが、
「構わん、蹴散らせ!」
古村の咆哮が報告の声を打ち消した。
一際大きな波が、「矢矧」の前甲板を洗った・・・




