追撃
投稿遅くなりました
第2艦隊「長門」艦橋
「旗艦より旗旒信号」
「何と言って来た」
艦長、杉野修一大佐は見張り員に尋ねた。
「『大和』は航行能力を失い、作戦指揮が困難。指揮権を宇垣中将に移譲するとのことです」
後ろで一連の会話を聞いていた宇垣纏中将は一言、
「分かった」
と言うと、立ち上がった。ちなみに宇垣は元々、第5航空艦隊長官であったが、連合艦隊の再編成に伴って所属機が第1艦隊に移動したため第5航空艦隊が解体され呉鎮守府配属となっていた。名ばかりの職であり、閑職と言ってもよかった。菊水作戦が決行されることを知った宇垣は、かつての乗艦「長門」に座乗することを強く希望し、GF(連合艦隊司令部)との連絡係として「長門」に座乗していた。個人の願望で配置を得たことは後に問題になるが、この状況では日本側にとって大きな幸運だった。連絡係として宇垣が作戦の詳細を知らされていたことも日本側にとって都合がよかった。
ともかく、宇垣は伊藤に代わり指揮を執ることになった。宇垣は命令を下した。
「艦隊はこれより、敵空母を追撃する。事前攻撃を行う可能性を鑑み、『伊勢』『日向』に彗星艦爆の発艦準備をさせろ」
「『大和』を置き去りにするのですか」
副長が反駁するが、宇垣は伊藤の考えを理解していた。
「長官は我々の盾となられる積もりだ。『大和』が戦っている間に、我々は米艦隊を突破し敵空母を叩く」
「しかし、『大和』は我が海軍の誇りです。むざむざ敵に沈めさせる訳にはいきませんん」
「そう簡単に沈むなら我が海軍の誇りにはならん。『大和』は沈まない、必ずや生き残って我々と合流する」
宇垣自身は「大和」建造には反対であったが、その防御力は評価に値すると考えていた。そう簡単に沈むはずは無いと踏んだのであった。
「長門」以下の各艦は前進を続けたが、沈み行く「アイオワ」と未だ砲撃を続ける「大和」が障害となり、米艦隊の妨害は過少だった。
「アイオワ」の正面を通過した際、舷側からボートが降ろされ、高級仕官が脱出するのが見て取れた。尚も微速で前進する「大和」に数人の仕官が敬礼を送る。
幸いにも米戦艦は指揮官が漂流する身になった上に「大和」からの砲撃が激しく逃げ腰になっており、各艦が回頭を始めていた。
「敵空母、増速します!」
見張り員から報告が入った。
「逃げるつもりか、艦爆隊を発進させろ。足止めするんだ」
「伊勢」「日向」の後部飛行甲板から計44機の彗星艦上爆撃機が発艦していく。上空で編隊を組む時間は無いため、発艦した機体から順次、米空母への攻撃を開始した。
攻撃の成果はすぐに現れた。既に火災によって浮かぶだけの存在であった空母は、艦爆隊からすればただの標的に過ぎず、50番(500kg)爆弾の直撃を受けて次々と速度を落としていった。艦爆隊にとっては空母よりも駆逐艦が厄介であり、7機が対空砲火によって撃墜された。
「伊勢」「日向」への着艦は不可能であるため、艦爆隊は第1艦隊へと帰還することになる。そして漂流する米空母には、日本艦隊が接近していた。