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帝国陸海軍、最終決戦開始ス  作者: かめ
房総沖海戦
11/39

肉薄

 「アイオワ」と「大和」の距離は既に100mを切っている。上空から見れば単一の艦隊に見えたかもしれない。

 そして、その艦首が触れ合いそうなまでに接近した。その距離およそ50m。「アイオワ」が主砲を発射すれば「大和」といえども致命傷を免れなかったであろう。しかし、斉射の直後であったため再装填が間に合わず、「アイオワ」は決定的なチャンスを逃した。後続する米艦隊の各艦も「アイオワ」及び漂流する「ニュージャージ」が障害となり、発砲は散発的なものとなった。

 

 「大和」艦上の有賀は、今までに経験したことのない緊張を感じていた。近代海軍において、戦闘中にここまで敵艦隊に接近した艦隊はない。おそらく敵将ハルゼーらも同じ緊張を味わっているだろう。

 「アイオワ」の艦首と「大和」の第1砲塔の中心線が一直線に並んだ。今だ!

ーッ!」

 瞬間、「大和」の主砲3基9門が一斉に火を噴いた。戦艦同士の撃ち合いにおいて50mとは、砲口を突き付けて発砲することと変わらない。発砲の爆風が「アイオワ」の甲板要員を襲う。爆風の直撃を受けた者は跡形もなく消し飛び、海の藻屑となった。しかし、爆風を浴びなかった者も結局は同じようなものだった。至近距離で放たれた91式徹甲弾は「アイオワ」の装甲を紙のように貫き、中甲板、下甲板に飛び込んだ。遅発信管によって砲弾は各々が3トンの炸薬を起爆させた。爆風は隔壁を引き裂き、上下の階層も関係なく焼き尽くした。

 「アイオワ」の上甲板がめくれ上がった、と見えたと同時に舷側から火焔が噴出した。そう時間を置かずに弾薬庫の誘爆を引き起こすだろう。それまでに離脱しなければ「大和」も無傷では済むまい。有賀が転進するべく面舵を命じようとした瞬間、

 眼前で閃光が閃いた。


「猿共にやられたままで居られるか」

 煤にまみれたハルゼーはそう呟いた。

 死に体の「アイオワ」であったが、前部主砲の内、1門が発射可能であるとの報告を受けたハルゼーは砲撃を命じたのだ。

 艦長は戦死していた。通常の指揮官なら全てを諦め、部下に指揮権の移譲等を指示した後に静かに艦と運命を共にしたであろう。しかしハルゼーにはまだ戦いをやめる気はなかった。


 至近距離からの砲弾は「大和」の弱点とされていた副砲を直撃した。大規模な火災が発生し、機関室にも被害が及び、「大和」もまた航行能力を大きく減じた。


 有賀は煙の中で起き上がり、辺りを見回した。ガラスは全て割れ、1枚も残っていない。見張り員は投げ出されたらしく姿が見えない。何人かの参謀が倒れたまま動かない。生きている者は皆、有賀と同じように何が起こったのか理解できない様子だ。

 外を覗き込んで有賀はようやく事態を呑み込んだ。あわてて伝声管に怒鳴る

「被害報告!」

 返事はない。伝声管が切断されたようだ。

 その時伝令が駆け込んできた。

「副砲弾薬庫にて火災発生。誘爆の危険があります」

「直ちに弾薬庫に注水!生存者を退避させろ」

 その時伊藤が起き上がった。額からは血が流れている。

「長官、御無事でしたか」

 ああ、と応じた伊藤は「アイオワ」を見据えた。

「酷いものだな」

 何がとは言わない。おそらく「大和」、「アイオワ」両艦の惨状だろう。

「指揮権を『長門』に座乗する宇垣に移譲する。本艦にはもう敵空母を追うだけの速力はない」

「はっ、では総員離艦を命じますか」

 伊藤がにやりと笑った。戦場での伊藤にはありえない表情だろう。

「このまま引き下がると思うのか。『大和』はこれより、第2艦隊の囮となる」

 

 伊藤もまた、戦いを終わらせる気はないようだった。

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