前兆
初の小説投稿です。ミス等があったらじゃんじゃん指摘してください。
1945年8月17日15時、パナマ 日本時間午前5時
米国籍の輸送艦が今まさに運河を通過しようとしている。
「発射管、1番から4番装填。目標深度5m、魚雷推進速度50ノット、進路直進」
「1番から4番、装填完了。発射用意よろし」
大日本帝国海軍第一潜水隊旗艦、伊四〇〇では着々と攻撃の準備が整えられていた。恐らく同隊の伊四〇一、伊四〇二、伊一四も同じように攻撃準備を行っているであろう。当初は伊一三潜水艦も同行していたが撃沈された。
「伊一四、発射管開きました。続いて伊四〇一、四〇二発射管開きました」
聴音から報告が入る。日下敏夫中佐は潜望鏡を覗き込んだ。水雷長が艦内電話を取った。回線は発射管室に通じている。
輸送艦は運河を通過しかけている。機会は今しかない。
「発射管1番から4番開け、発射用意。1番から4番、発射っ」
水雷長が復唱し、指示が飛んだ。
発射管から4本の魚雷が発射される。それに習い他の3艦も魚雷を発射する。計16本の魚雷がパナマ運河の入り口に突進する。
輸送艦が運河を通過しきる直前、無数の水柱が立ち上った。何本かは輸送艦の正面に、何本かは運河の岸壁やさらに後方の閘門の周辺に直立した。元来、防御力の低い輸送艦は即座に大破着底し、火災が発生した。閘門を破壊された上に着底した艦が入り口を閉塞した状況では運河は最低でも数週間は使い物にならないだろう。
連合国の輸送の大動脈から立ち上る黒煙は、今後の戦争の行方の不吉さを象徴するかのように、止む気配はなかった。