【海編2】鈴と美弥と二渡と園山 『水着購入』
水着の件で鈴がまず泣きついたのは、KISSME専属のメイク担当、二渡だった。
「はあ? なんで断らなかったのよ。仕事に水着持参で行く気なん?」
「うう、断ったんだよー」
「ならなんで断れてないのよー。ん?」
「みんな聞いてくれなくて……自分からテンション下げちゃうのもなって思ったから強く言えなかった」
「石川のことだからはっきり言えてないんだべ?」
「はいその通りです」
「自業自得って知ってる?」
「……知ってます」
しおしおと萎びれた鈴に、二渡は「仕方がないなあ」と肩をすくめてこう言った。
「わかった。いつにするよ?」
「えっ?」
「買い物、ついていってあげる」
「いいの! 二渡、ありがとう~愛してるー」
「よしよし、抱きつかない抱きつかない。そんなに嬉しいかー。めんこいなぁ」
そんなこんなで、一緒に行く予定の鈴の後輩・美弥と、宗佐と美有貴のマネージャー・園山を誘って女四人でのショッピングに行くことになったのだった。
「鈴先輩! これがかわいいですよー。肌白くて小柄だから、こういう、フェミニンタイプのレースが似合うと思います」
「やだあ、それ露出多すぎるよ。わたしこっちのワイヤーの入ったタンキニがいいな」
「ええー、嫌ですう。鈴先輩の水着は絶対ビキニがいいです! これならスカートみたいでいいじゃないですか」
「いやあ、でもホントにこれは……」
特設の水着売り場につくなり、まるでハンターのように素早くオススメを持って来た美弥に、鈴は顔を引きつらせる。
美弥が勧めてきたのは真っ白なレースがポイントのビキニだ。下はビキニタイプのショーツを隠すようにスカートふうのデザインになっている。
ホルターネックタイプで、胸元はレース地で見えないがサポート地はズレてしまいそうなほど小さい。鈴は背の低さに対し胸の膨らみがやや大きいから、レース地でボリュームを出すとより強調されて下品になってしまうような気がした。
ざっくりと背中が見えてしまうのも頻繁にズレを気にしなければいけないデザインなのもなんとなく不安だ。
「ダメですかー? じゃあちょっと待っててください。バストの布地が大きいのならいいんですね」
「あ、ミヤちゃん……!」
却下にも堪えず、美弥は次の厳選に入ってしまった。憂鬱な顔をする鈴に、「あのう」と鈴よりも暗い声が掛かる。園山である。
「私この場に必要でしょうか? 衣装担当の方が二人もいて、メイク担当の方がいて、私だけなんというか流行のことも全然知りませんし門外漢というか、いや漢ではないんですけど、場違いではないかと。確かに水着はもっていませんが私は海に入るつもりは……」
「大丈夫です。園山さんに似合うもの、わたしが責任もってお選びしますから」
マシンガンのように話しだした園山の言葉を遮って、鈴は園山の水着を選びだした。既に自分の水着のことは頭から消去してしまった。
「園山さんはスタイルがいいですし、今メーカーさんが推してるチューブトップビキニがいいですね。モノキニっていう昨年推していたデザインも面白いですよ。上下柄を変えるのもおすすめです。大花柄ですとかペイズリー柄で大人色を選ばれるといいかなーって」
「はあ。個人的にはパレオや短パンつきのが好ましいかなと思うのですが」
「パレオですか……あまり今年らしさはないですね。ビキニタイプにスカートが付属しているのがありますよ。一体化している感じです。とにかく園山さんには女性らしくて、またシンプルなものがいいかなーと」
「石川は自分の水着のことじゃなければ流暢に話すんだよねえ。ところどころ自分にブーメランなとこあるよ?」
二渡のツッコミが突き刺さり、鈴は園山に選んだ水着を掲げたまま「うっ」と言葉に詰まった。そこへ籠に山ほど入れてきた美弥も横入りする。
「ホントですよ! せっかく男性たくさんいるんですから、フリーの先輩はアピールしとかないと。義務です義務!」
「ぎ、義務なの……?」
「デザイナーのくせに自分の水着は……とか言われたくないべ?」
美弥の勢いと二渡の意見に、鈴は「た、確かにそうなのかな」と思い直す。
「ま、まあまあ、いちおう仕事の延長線上にあるものですから、あまりレジャーに着ていくのと同じ感覚で選ばれても困るんですが。懇親会の意味もあるんですから、気負わず楽しみましょうね。私もせっかく石川さんに選んで頂いたので何か買おうと思います。石川さんも一緒に選びましょう。そのために来たんですから」
極めつけに園山の情に訴えるこの言葉である。これを否定できる鈴ではない。二渡はこれを狙っていたのかもしれないと思ったが、今気づいたところで後の祭りだ。
「さあ! 決まったらさっそく試着しましょう。これとーこれとぉ、それから」
「わ、ワンピースタイプだけはだめなの! 子どもっぽくなりすぎちゃうから」
「えー、それもまたかわいいですよお。わかりました、じゃあこれはやめましょう。じゃあ次にこのネオンカラーのー」
「うんうん、楽しそうでいいわあ」
「二渡さんは選ばれないんですか?」
「いやいや、私はカレシいますから、着る気ないんですよ。今日は石川の付き添いなんです」
「いいじゃないですか。今度彼氏さんと来る時の為に新調しちゃいましょう。こんな機会ないですよ。石川さんと内田さんっていう本職の方にアドバイスしていただけるんですから」
「ま、確かにそーですね。どうしようかなー? 買っちゃおうかなー?」
「み、ミヤちゃん、これ小さかった」
「ちょっとキツいくらいで大丈夫ですよ……あれ? 鈴先輩って着痩せするタイプなんです? けっこうおっきいんですねー」
はしゃぐ女子たちの買い物が終わるのは三時間後だった。




