美有貴×鈴 『箸』
「はあ……ぼくもうだめ……」
美有貴は途方に暮れた。何度繰り返しても成長が見られない自分が嫌になったのだ。
「美有貴くん、諦めちゃだめですよ。頑張ってください」
「ううー、鈴ちー。ありがとね。でももう飽きちゃったよ」
美有貴は箸を放りだし、ぐてーっと机の上に突っ伏した。衣装で使った小物類を箱詰め作業をしていた鈴は、飽きちゃいましたかーと言ってくすくすと笑った。
「腕も疲れたしさー。ほら、力入んないよ? ほら」
美有貴は鈴に向かって腕を上げ、ぷるぷると震わせてみせた。なんとなく、アピールしたいことは伝わるだろう。
「ううーん。変なところに力が入っているってことでしょうか? たしか、お箸の持ち方補助具っていうのってありましたよね」
「うー、持ち方は分かったんだって。あとは慣れるだけなんだよ。でも一粒できないとイライラしてワケわかんなくなっちゃう」
今、美有貴は仕事終わりに、居残りで箸使いの練習をしている。
というのも、レギュラー番組に、美有貴が正しい箸の持ち方をしていない、との投書があり、小コーナーとして『お箸の正しい持ち方』コーナーが立ちあがってしまったのだ。
小豆を1分以内に20粒別の皿に移すのが、今日収録した回で出されたお題だ。
この課題をクリアしなければ、番組内で試食できないという罰ゲームが待っている。
「もうぼく、テレビでご飯食べれないんだ……」
「大丈夫ですよ。美有貴くん、本番に強いじゃないですか。もう一度だけ、落ち着いてやってみましょう。ね?」
「鈴ちーも一緒にやって。ぼくだけだから飽きちゃうんだ」
「あはは……分かりました。一緒にやりましょう」
甘え上手の美有貴に掛かれば、鈴を動かすことなどたやすい。
鈴は美有貴の隣に座り、予備の箸を取った。
「ね、持ち方、こうであってるでしょ? それで、並行に開いてー、こう挟むじゃん」
「あ、ちょっと……。手、失礼しますね」
美有貴の右手指が不自然にぷるぷると震えるのを見て、鈴はそっと両手を添えた。
「もっと、手前に置いた方が……はい。いい感じです。じゃあ、動かします。こうして……」
手を取られて緊張した美有貴は、神経の全てを手に集中させて、鈴の言うとおりに指を動かした。喋っている暇などない。
いつの間にやら、小豆をもう10粒もミスすることなく挟んでいた。
「はい、どうでしょう」
鈴の補助はその10粒までだったが、美有貴はその感覚を掴んで、真剣に残り半分の小豆を挟んでいく。不思議なくらい、うまくいった。
魔法みたいだ、と美有貴は思った。
「あっ、ありがとう。やったー!」
「その調子です! いいじゃないですか。集中すればできるんですよ。正しい持ち方も出来ていましたし」
「うん! あー、鈴ちーが本番ん時も同じのやってくれたらなー。できるのにー」
「あはは。関係ないですよー」
「関係あるもん。じゃあ、じゃあ、次の収録ん時さぁ、衣装着替えたらさー、同じ手ーぎゅってやつやってね。したらできるもん」
「ええー? おまじないみたいなものですか? 感覚を思い出すための」
「うん。そうそう。それも、ちょー強力な、だよ」
「ハンドパワー的なことですか? じゃあ、出るように頑張りますね」
頑張らなくったって、キミの手だからそうなのに、と美有貴は思った。




